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アメリカのラッパーは「社会のうねり」を即座に音楽に落とし込む。米HIP HOPの変遷を年代ごとに解説

アメリカのラッパーは「社会のうねり」を即座に音楽に落とし込む。米HIP HOPの変遷を年代ごとに解説

【J-WAVE『SONAR MUSIC』から最新音楽情報をお届け】

J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。10月より「音楽を愛する全ての人と作り上げる「(超)進化型音楽番組」として大幅リニューアルを遂げた。

番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。10月7日(水)のオンエアでは、アメリカのHIP HOPを深堀り。音楽ライターの渡辺志保、ラッパー/トラックメーカーのRyohuをゲストに迎え、時代とともにアメリカのヒップホップが歌ってきた内容を紹介した。

本国アメリカでも物議を醸した楽曲『WAP』

グラミー賞受賞経験もある女性ラッパーのカーディ・Bが、8月7日に1年ぶりの新曲『WAP feat. Megan Thee Stallion』を発表した。同曲は全米チャートで初登場1位を獲得したが、歌詞の内容が非常に過激で、本国アメリカでも物議を醸した楽曲だ。

Cardi B - WAP feat. Megan Thee Stallion

カーディ・Bの『WAP』の歌詞論争を、渡辺とRyohuはどう見ているのか。

渡辺:聴いたときは過激だなって思いましたけど、単純に「もっとやれ~」って個人的には思います(笑)。でも、それにはボーダーラインがあって然るべきだから、どっちが正しいとか、そういう問題ではないとは思います。ただ、こういった曲が全米1位を獲得して、ストリーミング再生も塗り替えて(リリース初週のストリーミング回数が歴代最高記録を更新)、めちゃくちゃ聴かれているというのは、一つに女性の表現の自由おいて、すごく担保されていることなのかな、と思いました。
あっこゴリラ:確かに。正解、不正解じゃなくて、“これもあり”ってことを増やしていくことだと思うから、個人的にはすごく良いと思います。Ryohuくんはどう?
Ryohu:引いてるとかはないけど、個人的には遠いところから見ていました。
渡辺:あはははは。そうだよね。当事者ではないもんね。
あっこゴリラ:要するに、こういうエンターテインメントの仕方もあるってことだよね。
渡辺:女性二人が集まって、「私たち二人が、どれだけヤバいか見てろよ」みたいなことを歌って、ぶっちぎりの1位になるっていうのは単純にかっこいいなと思いますね。

現代のHIP HOPの「礎」となるような曲が80年代に誕生

ここからは「アメリカのHIP HOPは時代とともに何をラップしてきたのか」というテーマを、年代別に掘り下げていった。

渡辺:80年代は、現代のHIP HOPの「礎」となるような曲が多いです。たとえば、Kurtis Blowの『The Breaks』にも、「Clap your hands everybody if you got what it takes」など、お決まりのフレーズが登場します。HIP HOP、ラップミュージックが出てきた瞬間というのは、パーティーを盛り上げる煽り的な内容が多かったと思います。

Kurtis Blow - The Breaks (Live)

■Slick Rick『Children’s Story』

渡辺:80年代のラップの多様性が広がっていった1989年にリリースされた曲です。当時Slick Rickが新しかったのは、この曲もそうなんですけど、ラップにストーリーテリングという手法を持ち込んだことです。紙芝居のようなラップというか、自分が第三者になって、お話を作るようなラップで、それを最初にやったのがSlick Rickなんですね。

渡辺:ファッションにおいても、この時期の影響力ってすごくて。Slick Rickも、眼帯に金ピカのアクセサリー、レザーのローファーに毛皮のコートっていう、ファッショニスタ的な魅力もあったりしました。

あっこゴリラ:ちなみに、この曲はどういうことを歌ってるんですか?
渡辺:ストリートで、転落人生って言ったら変かもしれないけど、「ちょっと不幸な運命を辿った男の子がいるから、お前ら、こいつらの真似するなよ。じゃ、おやすみ~」みたいな曲ですね(笑)。私は「紙芝居ラップ」って呼んでるんですけど、その基礎となる、お手本とするロールモデル的な曲でもあります。

90年代はHIP HOPの黄金期。歌詞もサウンドも多様化

渡辺によると、90年代は「HIP HOPの黄金期」とも呼ばれている時期だという。大きな特徴としては、歌詞の内容やサウンドがどんどん多様化したことが挙げられる。そして、HIP HOPには欠かせないサンプリングビートの手法が、さまざまな角度から広がっていいたのも90年代の特徴だ。

■Lauryn Hill『To Zion』

あっこゴリラ:最高!
渡辺:この曲は、もともとThe Fugeesのメンバーだったローリンが、ソロキャリアを始めるというタイミングで妊娠し、周りに反対されるも長子・ザイオンを産むに至った経緯が語られています。そういう胸の内を女性がラップにするっていうのが新しかったし、1998年にリリースしたソロデビュー・アルバム『ミスエデュケーション(The Miseducation of Lauryn Hill)』は、グラミー賞で11部門にノミネートされるなど、大きな成果を上げました。ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム 500枚」の第10位にもなっています。

さらに、2000年代にHIP HOPはどう変化していったのだろうか。

渡辺:2000年代は、多くのラップ技法が生み出された年代だと思います。80年代にニューヨークで生まれたHIP HOPは、80年代後半には西海岸まで届きました。2000年代になると、アトランタやマイアミなどローカルな場所でもHIP HOPシーンが広がり、そこからラップスターが生まれる図式が決定的になった時代かなと思います。

アメリカのTikTokは、ヒット曲を作る起爆剤

最近のアメリカのHIP HOPでは、どんなことを歌われているのだろうか。渡辺は、近年の社会情勢を絡めて語った。

渡辺:今年のアメリカでは、特に「Black Lives Matter」ムーヴメントの盛り上がりもあり、BLMに対して自らの見解を発表するリリックを盛り込んだ、力強い楽曲のリリースが相次ぎました。例えば、Lil Baby『The Bigger Picture』やMeek Mill『Otherside of America』などです。また、アメリカでは11月に大統領選挙が控えているので、その結果を踏まえた楽曲がリリースされるのは必至です。

Lil Baby『The Bigger Picture』

Meek Mill『Otherside of America』

日本では社会問題を即時にラップミュージックとして発表する、ヒップホップアーティストはまだ少ない印象がある。一方のアメリカでは、若いラッパーも「社会のうねり」を即座に音楽に落とし込んで発表している。同時にSoundCloudやTikTokなど、オンラインやソーシャル上でどんどんと自由で若い才能が生み出されている。

昨年大ヒットしたLil Nas X 『Old Town Road』もTikTokで人気となり、19週連続ビルボード・シングルチャート1位を記録。このチャートが始まった1958年以来の大記録となり、グラミー賞でも2部門(最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンス賞&最優秀短編ミュージックビデオ賞)を受賞した。

Lil Nas X 『Old Town Road』

他にも、ストリーミング世代から圧倒的に支持されているアーティストといえば、Roddy Ricchだ。

Roddy Ricch『The Box』

渡辺:Roddy Ricchは西海岸出身のラッパーです。この曲にも簡単な振り付けがあって、“それをみんなで踊ってみた”みたいな感じでアップロードされました。この曲自体は、もともとアルバムに入っていた一曲だったんですけど、シングルカットされる予定もなくて、しかも30分くらいで作った曲らしいんです。それなのに、TikTok上でいい意味でそこだけ切り取られて爆発的ヒットしました。
あっこゴリラ:もう何が当たるかわからないですね。
渡辺:アメリカのTikTokって、ヒット曲を作る起爆剤になってる感じはしますね。
あっこゴリラ:あと女性ラッパーのあり方の多様化もおもしろいところだなって思うんですよね。
渡辺:そうですね。冒頭で取り上げたカーディ・Bとメーガンらに牽引される女性ラッパーたちの言葉にも耳を傾けていきたいですね。今後ますます多様化が進むんじゃないかなって思います。

『SONAR MUSIC』は月曜~木曜の21時から24時までオンエア。

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2020年10月14日28時59分まで

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番組情報
SONAR MUSIC
月・火・水・木曜
21:00-24:00

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