松任谷由実、『守ってあげたい』での再ブレイクの恩人・角川春樹に感謝。新たな名曲が誕生

時代を創った男・角川春樹が、ベストセラー小説を原作に生涯最後のメガホンをとった映画『みをつくし料理帖』(10月16日公開)。10月12日には有楽町朝日ホールで公開記念スペシャルイベントが行われ、主題歌『散りてなお』を作詞・作曲した松任谷由実と角川春樹監督が対談した。

時代は享和二年の大坂。暮らし向きは違えども8歳の澪と野江は、まるで姉妹のように仲の良い幼なじみ。そんな二人が大坂を襲った大洪水で生き別れてしまう。舞台は江戸の神田に移り、別々の人生を歩む2人が強い絆で引き寄せられるまでを描く。

『みをつくし料理帖』予告編

【関連記事】松任谷由実、子ども時代の“マセていた”思い出とは?

映画『ねらわれた学園』、『時をかける少女』の主題曲を歌い、『Wの悲劇』では薬師丸ひろ子に呉田軽穂の名義で主題歌『Woman "W の悲劇"』を提供するなど角川映画とはゆかりの深い松任谷。今回は手嶌葵に主題曲『散りてなお』を提供している。

松任谷は角川監督との初タッグとなった『ねらわれた学園』での主題歌オファーを「大仕事が舞い込んだなと思った」と振り返り「薬師丸ひろ子さんは目力もあってパワーがある印象で、すぐに曲ができそうな気がした」と明かした。松任谷の歌う主題曲『守ってあげたい』は大ヒットとなったが「1976年に松任谷由実になって商業的に低迷していた時期。それが『守ってあげたい』で再ブレイク。再ブレイクは本当にエネルギーのいることですが、角川さんが声をかけてくれたからこそ。今があるのもそのときのおかげです」と感謝していた。

今回の楽曲制作オファーについて松任谷は「角川さんから『春よ、来い』を超える歌を作ってくれと……。大変難しいお題でした」というも「作品全体の世界観を5分間にギュッと凝縮して、聴いたことがあるけれどまだどこにもないメロディを意識。それができたと思うし、必ずやたくさんの人に聴いてもらってカバーをしてもらいたい。私自身も早々とセルフカバーをしています」と会心の作に。

角川監督には「この曲で泣かせます!と宣言をした」そうで、その角川監督は「泣きました!」と断言し「これまでのユーミンの曲とは違う、異質な楽曲。歌詞も古典的。それに驚いた」と名曲誕生を確信していた。

イベント後半には楽曲を歌う手嶌葵が福岡からリモート参加。楽曲の感想を聞かれた手嶌は「懐かしい感じがして、小さいときの思い出が蘇った」と答えると、松任谷は「それを届けたくて作りました。手嶌さんの優しい歌声が名もなき川の景色を連れてきてくれた。草が音をたてるような懐かしい感じを手嶌さんの歌声から感じました」と嬉しそうだった。

手嶌葵の歌声が夢の中に現れたことから手嶌を抜擢したという角川監督。松任谷が「手嶌葵さんのお名前が挙がったときは、モチベーションが上がりました。歌ってほしいと思っていましたから」と思いを伝えると、あまりの言葉に手嶌は顔を覆って「嬉しい」と感激していた。

(文・写真=石井隼人)

関連記事