真鍋大度(左)、上田 誠(右)

「非同期テック部」真鍋大度×上田誠が対談。物語の“圧”を生み出す方法とは?

ライゾマティクスの真鍋大度と劇団「ヨーロッパ企画」の主宰・上田 誠が、演劇とテクノロジーの未来について語り合った。

真鍋と上田がトークを展開したのは、9月6日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。真鍋は同番組の第1週目のマンスリーナビゲーターを務める。

「非同期テック部」への加入が名刺代わりに

真鍋と上田は、映像制作ユニット「非同期テック部」で副部長を務めている。部長はムロツヨシだ。「非同期テック部」は、もともとムロと大学時代の同級生である真鍋が「なにかやろう」と思い立ったことから結成された。2人で話をするなかで、ムロが「紹介したい人がいる」とオンラインで上田を紹介したという。

真鍋:最初、ムロさんからはどんな感じの話だったんですか?
上田:僕が脚本を担当した『ドロステのはてで僕ら』という公開中の映画を、ムロさんに「観てください」って動画をお送りしたんです。それで「ありがとう、観るわ」って言いながらそこから特に反応がなくて、1週間後に『ドロステ』の感想とともにお誘いがあった、という感じでした。「『ドロステ』が面白かったし、そして紹介したい人がいるんだ」っていう(笑)。そんなテンポ感でしたね。
真鍋:確かに僕も、上田さんの話を聞いたときに「これを絶対に観てくれ」って『ドロステ』を観させていただいて、メチャクチャ面白いなと思いました。その映像を観て初めて「こういうことだったら作れそうだ」という実感が湧いたという感じです。
上田:ちょうどそれが、たまたまその時期の僕のいい名刺になったというか、それで出会えたという感覚が僕にはあったんです。

【あらすじ】
とある雑居ビルの2階。カトウがギターを弾こうとしていると、テレビの中から声がする。
見ると、画面には自分の顔。しかもこちらに向かって話しかけている。
「オレは、未来のオレ。2分後のオレ」。
どうやらカトウのいる2階の部屋と1階のカフェが、2分の時差で繋がっているらしい。
“タイムテレビ”の存在を知り、テレビとテレビを向かい合わせて、もっと先の未来を知ろうと躍起になるカフェの常連たち。さらに隣人の理容師メグミや5階に事務所を構えるヤミ金業者、カフェに訪れた謎の2人組も巻き込み、「時間的ハウリング」は加速度的に事態をややこしくしていく……。
襲いかかる未来、抗えない整合性。ドロステのはてで僕らは ――。
映画『ドロステのはてで僕ら』公式ホームページより。

テクノロジーと物語の相性

その後、週に2~3回ほどの頻度でオンライン飲みをしながらアイディアを出していったという2人は、テクノロジーを伴う物語の作り方について考えを口にした。

真鍋:普段だと、ダンスカンパニー・elevenplayのMIKIKOさんとか、Perfumeとか、そういう身体表現でノンバーバルな(非言語的な)表現に落とし込むことが多いんです。今まで、物語が必要なものは、けっこう広告の案件が多くて。面白いテクノロジーがあって、それに物語をつけて商品と絡めるみたいなもの。これがモロにお芝居を作るとなると、普通に考えてテクノロジーとかと相性はそんなによくないじゃないですか。MIKIKOさんはテクノロジーを身体表現に変える人だったんですけど、上田さんはそれをお芝居とか物語に変えられる。僕も15年とか20年やっていて初めて「おお、この人だ」っていう感じの才能に出会ったというのがありましたね。
上田:本当ですか? けっこうこういうのをやるときって、ストーリーを知っていながらテクノロジー的なことも少しは知らないとできない、考えられないと思うんですよ。
真鍋:そうだと思います。そのテクノロジーの面白さの本質みたいなところがわからないと。
上田:僕は本質をついていない使い方は気持ち悪いと思っちゃうので、なるべく本質優先で脚本を書きます。僕もどちらかというと仕掛けのほうが好きで。物語の人の感情の動きがどうとかということは、「いいように扱えばいい」という風に思っている立場なんです。それこそ真鍋さんもプログラマーでありながら音楽をやったり、他のジャンルのことをされるじゃないですか。
真鍋:はい、そうですね。
上田:やっぱりそこがないと、勘どころがつかめないということがあるんだろうなと思いますね。
真鍋:上田さんは、大学のときはプログラムも書いたりしていたということですよね。
上田:知識工学科で、BASICという簡単な言語を中学高校とやっていました。たぶん演劇と出会ってなければ、もしかしたらそういう理系のところに就職していた気もします。だから、わりと脚本家でありながら、脚本家であることを悪用できるというか。
真鍋:なるほど(笑)。
上田:「脚本はここが絶対に大事なんです」とか「展開的にはこのくらいの行数が必要なんです」というよりは、「できたら次の展開に飛ばしたほうがいいか」とか、そういうことをドライに考えられるかもしれないです。
真鍋:脚本はテクニックだと思ったんですよね。ここまでテクニカルに技術ネタとかを脚本にできるんだと思ってすごく感動したし、「これはちょっといろいろ教えてもらわないとな」とも思ったんです。

ヨーロッパ企画の生配信劇シリーズ『京都妖気保安協会』では、初回「嵐電トランスファー」は京福電鉄嵐山線の走る電車から、第二回「西陣ピクセルシャドー」は西陣にある銭湯の女湯男湯から、2画面で生配信劇を実施した(現在アーカイブ公開中)。真鍋は初回の脚本について、「どう書き始めていったのか?」と質問を投げかけた。

上田:「このご時世にできる演劇はないか」と考えたときに、他の劇団さんが劇場を使っての無人演劇をけっこうやっていたんです。でも、実は劇場から出て、風光明媚な景色のなかで何かをやったほうがいいんじゃないかと。電車の場合、物語をダイヤに合わせて運行するというのが勘どころだと思っているんです。あれ(「嵐電トランスファー」)の話は、表に夫婦の切ない物語が走っているんですけど、裏ではそういうダイヤに対してお客さんも実はハラハラしているし、このコロナ期に配信劇をやるというエモーショナルな部分もありました。物語って、何層にも及んでコントロールをして、それの総量で見せていかないと“圧”が作れないと思っているんです。そういう意味で、あらすじに書かれる表のストーリーも考えつつ、その裏のテクニカルなストーリーのワクワクするポイントも考えつつ、階層ごとに考えていく。銭湯からの配信のときは、銭湯の女湯と男湯から2画面に分かれてドラマを展開しました。左右から2画面に分かれて配信するほうが、時間が短くても一番面白いだろうと思ったので、それを優先で考えるという感じですね。
真鍋:どちらもすごく面白かったですね。みなさんもぜひYouTubeで観ていただきたいなと思います。

MVに負けないような作品を

「非同期テック部」として活動をしていくなかで、真鍋は上田の作品を作るスピード感に驚いたことを明かす。そこには、上田の作品作りのポイントがあるという。

真鍋:ムロさんと「非同期テック部」をやったときも、僕は1回目と2回目で最初のいわゆる本当の仕掛けというか、テクノロジー的なソフトを作ったりしました。1回目はリモートでムロさんの部屋にあるものをコントロールするためのツールを作って、そこまでは正解がはっきりしているので、職人芸でバッといけてしまうところなんです。だけど、じゃあこれで「なにができますか?」と上田さんに渡したようなものじゃないですか。
上田:そうですね。
真鍋:それで脚本が出てくるのがめちゃくちゃ早かったので、けっこうビビったんです。
上田:コンセプトで「これをやる」というのが決まると、それを狙いすまして書いていくという目標が見えるのでわりと早いです。それこそ真鍋さんがやられているMVとかそういうものは、圧というか密度、速度がやっぱりすごくて。テレビドラマとかそれが負けてるって思うことが多いんです。面白いPV、MVとかを観た感動になるべく近づけたいという想いがあって、わりと僕の脚本は密度が高いというか、展開の速度がゆったりに見えて矢継ぎ早だったり……というのが特徴かもしれないですね。やっぱり真鍋さんは作るフローというか、工業製品を作る過程のようにというか、工数とかをやっぱり見られるんだなと思ったんです。
真鍋:モロにエンジニアの考えになっちゃいます。もともとサラリーマンで防災システムを作っていたので、かなりコンサバな思考が残っているかもしれないです(笑)。

『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
radikoで聴く
2020年9月13日28時59分まで

PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

番組情報
INNOVATION WORLD ERA
毎週日曜
23:00-23:54(SPINEAR、Spotify、YouTubeでも配信中)

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