ラジオと脳の関係について脳科学の視点から考える特別番組『J-WAVE SELECTION IN MY BRAIN』が8月30日(日)、脳科学者の中野信子によるナビゲートでオンエアされた。
ゲストは、J-WAVEナビゲーターのクリス・ペプラーと、ラジオコラムニストのやきそばかおる。視覚と聴覚の違いや、声の特徴などからラジオの魅力を紐解いた。
中野:ラジオにはどんな魅力があると思いますか?
クリス:僕としてはラジオ=マイライフみたいなところがあるので、いいところがちょっとわからないというか。でも、月並みな表現だけど、数ある媒体の中でもラジオはパーソナルな媒体なのかなと思います。テレビだと一対一という感じではない気がするので、そういった意味でもパーソナル感は高いのかな。
中野:確かに聴覚情報は、そういう性質がありますよね。目は閉じられるけど、耳は(手を使わないと)ふさげないですよね。耳は私たちが人間に進化する以前、哺乳類として暗い夜の森を徘徊していた頃から研ぎ澄まされてきた感覚なので、親密になろうとするときにすごく使うんです。クリスさんが話されたように、ラジオはより近しいとか、より個人的な情報を伝えるために、すごくいいモダリティの感覚情報なんですよね。
聴覚情報は視覚情報と違い、うそをつくとすぐにバレてしまう性質があるという。
中野:聴覚情報と視覚情報で「うそを見抜いてください」という実験をすると、聴覚情報のほうが見抜かれやすいんです。
クリス:それは声がうわずったりするからですか?
中野:そういうこともあるだろうし、いつもと違う波長の声が入っていたり、おそらく口ごもったり、間の取り方とか、否定しようと思ってかぶりぎみで答えてしまうとか、そういうことも含めて「この人は本当のことを言ってるのかな?」と違和感を覚えて、「信用できるかな」と思うみたいなんです。
クリス:なるほど。ラジオで話している人はフリートークをするときと、台本を読むときがあるけど、台本を読んでいるときは「こいつはそんなこと思ってないな」とか伝わってるのは、なんとなくわかるような気がする。僕もよく言われるんですよ。
中野:(笑)。
クリス:たまに番組をしていて、「『この曲、最高ですね』とか言っているけど全然思ってないでしょ」ってコメントがくるみたいなことですよね(笑)。見透かされてるのかなって。
中野:(音楽って)なんとなく言語情報よりも心象風景と結びついて、そのときの気分とか、たとえば夏の暑いもあっとした空気とその曲を一緒に思い出すことがありますよね。
クリス:音楽ってトリガーですもんね。
中野:構造を見ればわかるけど、実は目より耳の方が脳に近いんです。目から脳にある視覚野ってけっこう遠くて、目から入った情報が脳で処理されるには800ミリ秒くらいかかるんですけど、耳って100ミリ秒くらいで脳に伝わるからすごく早いんです。
クリス:それは物理的な距離が影響しているから?
中野:そうですね。耳の方が近い感じがするっていうのは、脳に近いっていう意味では確かにその通りだと思いますね。
耳情報は記憶に近いという特徴もあるという。
中野:脳にある海馬って実は聴覚野と近い場所にあるので、海馬付近で記憶が作られて、その記憶と感情って結びつきやすいんですよね。感情が記憶を呼び起こすことがあるので、音楽によって感情を呼び起こされると記憶も一緒にひも付いて思い出されてしまうことがあります。軽度の認知症の人は20代によく聴いていた音楽を聴くことによって、ある程度の症状が軽くなるという研究もあるんです。
クリス:感受性が高い時期の音楽を聴いて、また感受性を刺激するわけだ。
中野:そうそう。不思議ですよね。その人の思い出の曲ってなかなか調べないとわからないかもしれないけれど。その当時に流行っていた曲を聴かせるとちょっと元気がなかったおじいちゃんが、ハッと元気になるときがあるかもしれません。
中野:やきそばさんが最近、新しいとか脳にいいと感じたラジオ番組ってありますか?
やきそば:ラジオの王道って悩み相談だと思うんです。大阪のラジオに、リスナーの悩みをリスナーが解決する番組があるんです。たとえば45歳でなかなか相手ができない男性と、27歳の最近結婚した女性を電話でつないで、2人で解決してもらう企画なんです。
中野:リスナーに解決させるのが新しいですよね。
やきそば:ですよね。ナビゲーターは仲介役をしている感じなんですけど、ここからが新しいなと思うのは、SNSの番組タイトルのハッシュタグを使って、そのラジオを聴いている他のリスナーがその悩みにアドバイスをすることなんです。そこで、いろんな世代のリスナーが「自分はこうやって相手ができましたよ」とかSNSに投稿するので、みんなで悩みを解決している感じです。今っぽいですよね。
クリス:みんなで協力しあっている感じがいいですよね。
中野:すごくインタラクティブですよね。SNS時代にラジオが食い込んでいる感じがしますね。
やきそばは「人間は人の悩みに関して、何か言いたいものだ」と続け、リスナー同士で悩みを解決するこの番組は、それも満たされていると話し、中野もこれに同調する。
中野:人と人は、絆を感じたり、人から頼られていると感じたりするとオキシトシンという物質が出るんです。この番組はすごくオキシトシンが出そうな感じがしますね。
やきそば:たとえばアドバイスをするとき、悩みに対してツイートやメールを送ったりすると「自分は役にたったんじゃないか」という思いが生まれますよね。
中野:災害や新型コロナウイルスなど予期しない事態が起こると、その都度ラジオが注目されますよね。
クリス:ラジオは手短ってことがありますよね。携帯ラジオだと電池さえあれば聴けるし、番組の前半でも言ったけど、ラジオはパーソナルな部分があるので、特に震災のときは被災地にいて孤独を感じている人たちが、ラジオから聴こえる応援やアドバイスに癒やされたり元気づけられたりする部分もあると思います。
中野:テキストで読むメッセージと音声ってちょっと違うんですよね。テキストのメッセージよりも、「あのとき聴いたこの曲に勇気づけられた」とかね。クリスさんの声も私をはじめ、これまで多くの人たちを救ったり癒やしてきたりしてきたと思います。心が弱るときは人の体温が感じられる声が冷え切った心を温める役割をすると感じます。ラジオは地味なメディアかもしれないけど、すごく大事な役割をしていて、ちょっと人間の文化を下支えしているのかなと思います。災害が起きるとそういう部分に目が向くのかもしれないですね。
中野は、今若者は電話で会話をしなくなるなど、あまり音声のコミュニケーションを取りにくい世の中になったと話す。
中野:クリスさんは、こういう人たちにメッセージを送りたいときに、気を付けることって何だと思いますか?
クリス:インターネットがない時代は口頭で情報を伝えていたけど、今の時代、僕はインフォメーションよりエモーションだと思っています。
中野:わかりやすい。
クリス:インフォメーションは検索できるじゃないですか。だから「検索してよ」って。みんな興味があれば絶対検索するだろうと見込んで放送をしてるから、情報過多にならないし。聴覚で伝わる情報ってどの程度なのかという疑問もあって、たとえば原稿で「〇〇歳の××が△△で……」とある場合に、活字だったらわかるけど、言ってもわからないだろうって思いもあるから、そういうものは割愛したりしています。今ラジオにのせるべき情報なのか、そうではない情報なのかはすごくこだわりますね。
中野:やっぱりエモーションはのせると。
クリス:そう。インフォメーションは調べたければすぐ調べられるけど、そこからエモーションは伝わらないので。
中野:それは素敵ですね。エモーションは人間がいる限りなくならないですからね。将来的にもラジオを聴く人が求めていくものなのかもしれないですね。
スマホをよく見る人は情報過多になりがちであり、「調べたことを全部伝えたい」と思う傾向にあるという。
中野:得た情報を全部伝えてこようとされると、私は「すごいね」と思う以前に「バカにされているのかな」という気持ちになっちゃうんです。
クリス:「それも知らないの?」みたいにね。
中野:せっかく人を結ぶ知識なのに、それで殴り合いをするような感じになるので逆効果だと思うんですよね。そんなときもエモーションでつながりたいなと思いますよね。
クリス:そうですよね。今はそれが一番大事なのかなと思います。
中野:それが音声メディアのいいところかもしれないですね。エモーションはうそがつけないから。
番組では他にも、中野が不安感情を打ち消すメタルの効果について話す場面や、やきそばがラジオで聴いてみたい企画を話す場面もあった。
中野は8月に、漫画家・文筆家のヤマザキマリの対談本『パンデミックの文明論』を刊行した。こちらもぜひ手にとってみてほしい。
ゲストは、J-WAVEナビゲーターのクリス・ペプラーと、ラジオコラムニストのやきそばかおる。視覚と聴覚の違いや、声の特徴などからラジオの魅力を紐解いた。
聴覚は視覚より「親密」に感じやすい
番組前半は、J-WAVEナビゲーターのクリス・ペプラーが登場。クリスはJ-WAVE開局から担当する『SAISON CARD TOKIO HOT 100』をはじめ、32年にわたり数々の番組を担当している。中野:ラジオにはどんな魅力があると思いますか?
クリス:僕としてはラジオ=マイライフみたいなところがあるので、いいところがちょっとわからないというか。でも、月並みな表現だけど、数ある媒体の中でもラジオはパーソナルな媒体なのかなと思います。テレビだと一対一という感じではない気がするので、そういった意味でもパーソナル感は高いのかな。
中野:確かに聴覚情報は、そういう性質がありますよね。目は閉じられるけど、耳は(手を使わないと)ふさげないですよね。耳は私たちが人間に進化する以前、哺乳類として暗い夜の森を徘徊していた頃から研ぎ澄まされてきた感覚なので、親密になろうとするときにすごく使うんです。クリスさんが話されたように、ラジオはより近しいとか、より個人的な情報を伝えるために、すごくいいモダリティの感覚情報なんですよね。
聴覚情報は視覚情報と違い、うそをつくとすぐにバレてしまう性質があるという。
中野:聴覚情報と視覚情報で「うそを見抜いてください」という実験をすると、聴覚情報のほうが見抜かれやすいんです。
クリス:それは声がうわずったりするからですか?
中野:そういうこともあるだろうし、いつもと違う波長の声が入っていたり、おそらく口ごもったり、間の取り方とか、否定しようと思ってかぶりぎみで答えてしまうとか、そういうことも含めて「この人は本当のことを言ってるのかな?」と違和感を覚えて、「信用できるかな」と思うみたいなんです。
クリス:なるほど。ラジオで話している人はフリートークをするときと、台本を読むときがあるけど、台本を読んでいるときは「こいつはそんなこと思ってないな」とか伝わってるのは、なんとなくわかるような気がする。僕もよく言われるんですよ。
中野:(笑)。
クリス:たまに番組をしていて、「『この曲、最高ですね』とか言っているけど全然思ってないでしょ」ってコメントがくるみたいなことですよね(笑)。見透かされてるのかなって。
音楽は感情とともに記憶を思い出させる
中野は学生時代によく深夜ラジオを聴き、お気に入りの番組を録音したり、気になった曲のCDを買いに行ったりしていたと振り返る。曲のタイトルを聞き逃してしまっても、現在ならラジオ局のWEBサイトや、アプリ「Shazam」などで調べることができる。しかし当時は、調べる術がなかった。「曲名を教えて」とJ-WAVEに電話してもいいものなのか……と悩むこともあったと明かし、クリスは「それは全然よかったんですよ」と、ラジオトークに花を咲かせた。中野:(音楽って)なんとなく言語情報よりも心象風景と結びついて、そのときの気分とか、たとえば夏の暑いもあっとした空気とその曲を一緒に思い出すことがありますよね。
クリス:音楽ってトリガーですもんね。
中野:構造を見ればわかるけど、実は目より耳の方が脳に近いんです。目から脳にある視覚野ってけっこう遠くて、目から入った情報が脳で処理されるには800ミリ秒くらいかかるんですけど、耳って100ミリ秒くらいで脳に伝わるからすごく早いんです。
クリス:それは物理的な距離が影響しているから?
中野:そうですね。耳の方が近い感じがするっていうのは、脳に近いっていう意味では確かにその通りだと思いますね。
耳情報は記憶に近いという特徴もあるという。
中野:脳にある海馬って実は聴覚野と近い場所にあるので、海馬付近で記憶が作られて、その記憶と感情って結びつきやすいんですよね。感情が記憶を呼び起こすことがあるので、音楽によって感情を呼び起こされると記憶も一緒にひも付いて思い出されてしまうことがあります。軽度の認知症の人は20代によく聴いていた音楽を聴くことによって、ある程度の症状が軽くなるという研究もあるんです。
クリス:感受性が高い時期の音楽を聴いて、また感受性を刺激するわけだ。
中野:そうそう。不思議ですよね。その人の思い出の曲ってなかなか調べないとわからないかもしれないけれど。その当時に流行っていた曲を聴かせるとちょっと元気がなかったおじいちゃんが、ハッと元気になるときがあるかもしれません。
リスナーの悩みをリスナーが解決する番組とは
番組後半では、ラジオコラムニストのやきそばかおるも参加し、3人でトークを展開した。やきそばは、AM・FMを問わず全国各地のさまざまなラジオ番組を聴き、魅力をメディアで発信している。中野:やきそばさんが最近、新しいとか脳にいいと感じたラジオ番組ってありますか?
やきそば:ラジオの王道って悩み相談だと思うんです。大阪のラジオに、リスナーの悩みをリスナーが解決する番組があるんです。たとえば45歳でなかなか相手ができない男性と、27歳の最近結婚した女性を電話でつないで、2人で解決してもらう企画なんです。
中野:リスナーに解決させるのが新しいですよね。
やきそば:ですよね。ナビゲーターは仲介役をしている感じなんですけど、ここからが新しいなと思うのは、SNSの番組タイトルのハッシュタグを使って、そのラジオを聴いている他のリスナーがその悩みにアドバイスをすることなんです。そこで、いろんな世代のリスナーが「自分はこうやって相手ができましたよ」とかSNSに投稿するので、みんなで悩みを解決している感じです。今っぽいですよね。
クリス:みんなで協力しあっている感じがいいですよね。
中野:すごくインタラクティブですよね。SNS時代にラジオが食い込んでいる感じがしますね。
やきそばは「人間は人の悩みに関して、何か言いたいものだ」と続け、リスナー同士で悩みを解決するこの番組は、それも満たされていると話し、中野もこれに同調する。
中野:人と人は、絆を感じたり、人から頼られていると感じたりするとオキシトシンという物質が出るんです。この番組はすごくオキシトシンが出そうな感じがしますね。
やきそば:たとえばアドバイスをするとき、悩みに対してツイートやメールを送ったりすると「自分は役にたったんじゃないか」という思いが生まれますよね。
ラジオは「インフォメーションよりエモーション」を
最後は「ラジオの未来」をテーマに、中野とクリスが語り合った。中野:災害や新型コロナウイルスなど予期しない事態が起こると、その都度ラジオが注目されますよね。
クリス:ラジオは手短ってことがありますよね。携帯ラジオだと電池さえあれば聴けるし、番組の前半でも言ったけど、ラジオはパーソナルな部分があるので、特に震災のときは被災地にいて孤独を感じている人たちが、ラジオから聴こえる応援やアドバイスに癒やされたり元気づけられたりする部分もあると思います。
中野:テキストで読むメッセージと音声ってちょっと違うんですよね。テキストのメッセージよりも、「あのとき聴いたこの曲に勇気づけられた」とかね。クリスさんの声も私をはじめ、これまで多くの人たちを救ったり癒やしてきたりしてきたと思います。心が弱るときは人の体温が感じられる声が冷え切った心を温める役割をすると感じます。ラジオは地味なメディアかもしれないけど、すごく大事な役割をしていて、ちょっと人間の文化を下支えしているのかなと思います。災害が起きるとそういう部分に目が向くのかもしれないですね。
中野は、今若者は電話で会話をしなくなるなど、あまり音声のコミュニケーションを取りにくい世の中になったと話す。
中野:クリスさんは、こういう人たちにメッセージを送りたいときに、気を付けることって何だと思いますか?
クリス:インターネットがない時代は口頭で情報を伝えていたけど、今の時代、僕はインフォメーションよりエモーションだと思っています。
中野:わかりやすい。
クリス:インフォメーションは検索できるじゃないですか。だから「検索してよ」って。みんな興味があれば絶対検索するだろうと見込んで放送をしてるから、情報過多にならないし。聴覚で伝わる情報ってどの程度なのかという疑問もあって、たとえば原稿で「〇〇歳の××が△△で……」とある場合に、活字だったらわかるけど、言ってもわからないだろうって思いもあるから、そういうものは割愛したりしています。今ラジオにのせるべき情報なのか、そうではない情報なのかはすごくこだわりますね。
中野:やっぱりエモーションはのせると。
クリス:そう。インフォメーションは調べたければすぐ調べられるけど、そこからエモーションは伝わらないので。
中野:それは素敵ですね。エモーションは人間がいる限りなくならないですからね。将来的にもラジオを聴く人が求めていくものなのかもしれないですね。
スマホをよく見る人は情報過多になりがちであり、「調べたことを全部伝えたい」と思う傾向にあるという。
中野:得た情報を全部伝えてこようとされると、私は「すごいね」と思う以前に「バカにされているのかな」という気持ちになっちゃうんです。
クリス:「それも知らないの?」みたいにね。
中野:せっかく人を結ぶ知識なのに、それで殴り合いをするような感じになるので逆効果だと思うんですよね。そんなときもエモーションでつながりたいなと思いますよね。
クリス:そうですよね。今はそれが一番大事なのかなと思います。
中野:それが音声メディアのいいところかもしれないですね。エモーションはうそがつけないから。
番組では他にも、中野が不安感情を打ち消すメタルの効果について話す場面や、やきそばがラジオで聴いてみたい企画を話す場面もあった。
中野は8月に、漫画家・文筆家のヤマザキマリの対談本『パンデミックの文明論』を刊行した。こちらもぜひ手にとってみてほしい。
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2020年9月6日28時59分まで
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