8月に開始を予定している「Go Toキャンペーン」。新型コロナウイルスの影響で経済的に大打撃を受けた観光業、飲食業、イベント・エンターテインメント事業などを支援し、需要を喚起するために行われる取り組みだ。旅行の際に旅費の半額相当のクーポンや飲食店で利用できる食事券が発行されるなど魅力的な面もある一方で、予算や委託先などで問題も挙がっている。
J-WAVEの番組『JAM THE WORLD』のワンコーナー「CASE FILE」では6月29日(月)と30日(火)、「Go Toキャンペーン」について一橋大学経済学研究科教授の佐藤主光が解説した。
■「Go Toキャンペーン」は観光の需要喚起になるか?
「Go Toキャンペーン」は、令和2年度の補正予算で始まった事業。新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだ観光産業、イベント産業、外食産業を、1兆7000億円もの予算規模で底上げすることが狙いだ。
佐藤:たとえば、旅行代理店を通して支払った飛行機代の半分(1人あたり最大で2万円まで)が助成されたり、外食の代金やイベントのチケット代などの2割が補助金の対象になります。
これらは新型コロナウイルスが一旦落ち着いた際に、経済のV字回復を狙う政府の方針の一環となる。
佐藤:「Go Toキャンペーン」は、消費者に対する補助金という形をとります。政府は消費者に直接お金を配ることができないため、民間事業者に委託をして仕事を請け負うことになります。困っている旅行代理店や飲食業関係者を支援するというよりは、消費者により多く旅行に行ってもらい、飲食店を使う機会を作ってもらおうと、需要喚起を促す事業です。
消費者は旅行や外食がしやすくなる一方で、「3密は大丈夫なのか?」「感染症対策はしているのか?」など、感染の不安が懸念される。
佐藤:もちろん、各事業者は3密対策を講じているとは思いますが、単に「旅行の代金が半分になった」とか「外食が2割引になった」と言われても、安心感がないとなかなか行く気にはなれないかもしれません。
需要喚起を促すのであれば、政府や事業者が消費者に向けて「感染対策は万全だ」というメッセージを強く発信することが必要になる。
佐藤:消費者にとって大事なことは、値段はもちろんですが、一番は安全です。「安ければ買いますか?」と言われれば、そうではありません。消費者は質や安全性を考えるため、安心や安全を消費者に見せることができるかどうか。それを示すことができなければ、単にお金で釣るだけでは需要喚起に繋がらないと思います。
■キャンペーンの開始時期がずれ込んだ理由
「Go Toキャンペーン」はもともと7月に開始予定だったが、委託費の問題が発生し、時期がずれ込んでいる。
佐藤:政府は旅行代理店でもイベント会社でもないため、民間の事業者に委託して事業を行います。このような委託は政府ではよくあることです。しかし、委託の金額が高すぎるのではないか、という指摘がありました。
「Go Toキャンペーン」の1兆7000億円の予算のうち、3000億円が委託費に計上されていた。
佐藤:つまり、みなさんのために使われる予算は1兆4000億円にとどまることになります。もちろん、政府が民間に事業を委託することはよくあり、それに伴い民間事業者に委託費は払われます。しかし、さすがに3000億円という金額は高すぎないかという指摘がありました。それにより、政府は委託先の公募のやり直しを行い、委託費の上限を最大でも2200億円に抑えると方針を打ち出しました。そういった紆余曲折を経たため、「Go Toキャンペーン」の開始が7月から8月にずれ込むことになったと考えています。
「Go Toキャンペーン」を委託された民間事業者はホームページの開設や、申し込みの実施、旅行会社とのコンタクトなど、さまざまな業務が発生する。そのため、佐藤は民間事業者にとって濡れ手に粟とは言い切れない、と指摘する。一方で、3000億円、もしくは2200億円の委託費がどのように使われたのか説明責任を果たさなければ、「これはおかしな使い方をしているのではないか」と言われることになる、と付け加えた。
佐藤:新型コロナウイルスの問題で収入が落ち込んだ事業者への支援として持続化給付金があり、経済産業省からそれを請け負った事業者は、その事業費の9割以上を再委託していました。最初に委託を受けた事業者も一部お金はもらっているので、「仕事もしていないのにお金をもらってもいいの?」という疑問も出てきました。
委託先がしっかり仕事をしているかどうか、国や国民、もちろん政治家も監視をしないと、今後も同じような丸投げが起きることになる。
佐藤:「Go Toキャンペーン」に限りませんが、補正予算において「国が民間事業者に支払う委託費を盛って計上しているのではないか?」などの疑いの目から、不透明性が指摘され、それによって政府は「Go Toキャンペーン」の委託費における上限の変更を打ち出したのだと思います。
一般的に国の予算は、8月に概算要求を行い、そこから12月にかけて精査をするなかで財務省が査定をする。佐藤は、今回の補正予算はコロナ禍の影響から、国が慌てて大規模な予算を出すことがひとつの大きな目的となってしまい、事業の作り方、仕込み方、経費の計上などが甘くなってしまったのではないかと指摘した。
今後国はこれまで以上にしっかりと精査を行いながら、国民も納得する取り組みを進めていくことが必要になるだろう。
『JAM THE WORLD』のワンコーナー「CASE FILE」では、時代を映すニュースなキーワードを、リスナーの記憶にファイリングする。放送は月曜~木曜の19時25分頃から。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月6日28時59分まで)
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月7日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
J-WAVEの番組『JAM THE WORLD』のワンコーナー「CASE FILE」では6月29日(月)と30日(火)、「Go Toキャンペーン」について一橋大学経済学研究科教授の佐藤主光が解説した。
■「Go Toキャンペーン」は観光の需要喚起になるか?
「Go Toキャンペーン」は、令和2年度の補正予算で始まった事業。新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだ観光産業、イベント産業、外食産業を、1兆7000億円もの予算規模で底上げすることが狙いだ。
佐藤:たとえば、旅行代理店を通して支払った飛行機代の半分(1人あたり最大で2万円まで)が助成されたり、外食の代金やイベントのチケット代などの2割が補助金の対象になります。
これらは新型コロナウイルスが一旦落ち着いた際に、経済のV字回復を狙う政府の方針の一環となる。
佐藤:「Go Toキャンペーン」は、消費者に対する補助金という形をとります。政府は消費者に直接お金を配ることができないため、民間事業者に委託をして仕事を請け負うことになります。困っている旅行代理店や飲食業関係者を支援するというよりは、消費者により多く旅行に行ってもらい、飲食店を使う機会を作ってもらおうと、需要喚起を促す事業です。
消費者は旅行や外食がしやすくなる一方で、「3密は大丈夫なのか?」「感染症対策はしているのか?」など、感染の不安が懸念される。
佐藤:もちろん、各事業者は3密対策を講じているとは思いますが、単に「旅行の代金が半分になった」とか「外食が2割引になった」と言われても、安心感がないとなかなか行く気にはなれないかもしれません。
需要喚起を促すのであれば、政府や事業者が消費者に向けて「感染対策は万全だ」というメッセージを強く発信することが必要になる。
佐藤:消費者にとって大事なことは、値段はもちろんですが、一番は安全です。「安ければ買いますか?」と言われれば、そうではありません。消費者は質や安全性を考えるため、安心や安全を消費者に見せることができるかどうか。それを示すことができなければ、単にお金で釣るだけでは需要喚起に繋がらないと思います。
■キャンペーンの開始時期がずれ込んだ理由
「Go Toキャンペーン」はもともと7月に開始予定だったが、委託費の問題が発生し、時期がずれ込んでいる。
佐藤:政府は旅行代理店でもイベント会社でもないため、民間の事業者に委託して事業を行います。このような委託は政府ではよくあることです。しかし、委託の金額が高すぎるのではないか、という指摘がありました。
「Go Toキャンペーン」の1兆7000億円の予算のうち、3000億円が委託費に計上されていた。
佐藤:つまり、みなさんのために使われる予算は1兆4000億円にとどまることになります。もちろん、政府が民間に事業を委託することはよくあり、それに伴い民間事業者に委託費は払われます。しかし、さすがに3000億円という金額は高すぎないかという指摘がありました。それにより、政府は委託先の公募のやり直しを行い、委託費の上限を最大でも2200億円に抑えると方針を打ち出しました。そういった紆余曲折を経たため、「Go Toキャンペーン」の開始が7月から8月にずれ込むことになったと考えています。
「Go Toキャンペーン」を委託された民間事業者はホームページの開設や、申し込みの実施、旅行会社とのコンタクトなど、さまざまな業務が発生する。そのため、佐藤は民間事業者にとって濡れ手に粟とは言い切れない、と指摘する。一方で、3000億円、もしくは2200億円の委託費がどのように使われたのか説明責任を果たさなければ、「これはおかしな使い方をしているのではないか」と言われることになる、と付け加えた。
佐藤:新型コロナウイルスの問題で収入が落ち込んだ事業者への支援として持続化給付金があり、経済産業省からそれを請け負った事業者は、その事業費の9割以上を再委託していました。最初に委託を受けた事業者も一部お金はもらっているので、「仕事もしていないのにお金をもらってもいいの?」という疑問も出てきました。
委託先がしっかり仕事をしているかどうか、国や国民、もちろん政治家も監視をしないと、今後も同じような丸投げが起きることになる。
佐藤:「Go Toキャンペーン」に限りませんが、補正予算において「国が民間事業者に支払う委託費を盛って計上しているのではないか?」などの疑いの目から、不透明性が指摘され、それによって政府は「Go Toキャンペーン」の委託費における上限の変更を打ち出したのだと思います。
一般的に国の予算は、8月に概算要求を行い、そこから12月にかけて精査をするなかで財務省が査定をする。佐藤は、今回の補正予算はコロナ禍の影響から、国が慌てて大規模な予算を出すことがひとつの大きな目的となってしまい、事業の作り方、仕込み方、経費の計上などが甘くなってしまったのではないかと指摘した。
今後国はこれまで以上にしっかりと精査を行いながら、国民も納得する取り組みを進めていくことが必要になるだろう。
『JAM THE WORLD』のワンコーナー「CASE FILE」では、時代を映すニュースなキーワードを、リスナーの記憶にファイリングする。放送は月曜~木曜の19時25分頃から。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月6日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
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