いとうせいこうと、精神科医でミュージシャンの星野概念。いとうが所属するヒップホップユニット「□□□(クチロロ)」で、星野はサポートギターを務めるなど音楽で繋がるふたりだが、実は「精神科の主治医と患者」という関係性でもある。対談をまとめた書籍『ラブという薬』なども発売中だ。
J-WAVEでは6月28日(日)、『J-WAVE SELECTION LOVE IS ASKING...』と題した番組をふたりがナビゲート。不思議な関係はどのように始まったのか? 人の話に「共感」ではなく「共有」する場の大切さや、SNSの誹謗中傷について語った。
■主治医と患者としてメディアに出る特殊な関係
星野は精神科医であり、ミュージシャンとしても活動している。いとうは「僕の主治医。マジに主治医だから!」とアピール。
いとう:そういう関係でラジオに出ている人っているかな?
星野:いないですし、本当に特殊な形で。ある意味、精神医療とか心理業界的には、タブーといえばタブーなんです、多重関係というので。だから特殊な関係だとは思います。
いとう:本当はいろいろな関係を作らないで、独自の関係のなかで治していかないといけないから。ただ僕の場合は「精神医療というのはどういうものなのか?」というのを説明したり、宣伝もしたりするので「まあ、いいだろう」みたいな感じで許されてる(笑)。つい1週間前ぐらいも星野くんの病院に行って、普通にカウンセリングを受けてました。
星野:電話再診で何度かさせてもらって、やっと病院にいらっしゃったという感じですよね。
いとう:コロナのことがあって、病院もすぐに対応して電話でやれるようになったから、すごくいろいろな人が助かったと思う。とはいえやっぱり、先生の顔を見て話すのとは全然違うからね。まず、そっちが違うよね。
星野:やっぱり精神科の診療で話をするだけとはいえ、対面だと言葉以外の情報もあるんですよね。雰囲気や表情、入ってきたときの感じからすでに始まっているというか。そういうのがないので、電話診療とかリモートのオンラインの診療も、考えられようとしていますけど、それだとやっぱりずっとは難しいかなと。
いとう:つまり、全体的に人間をとらえることができないんじゃないか? ということですよね。
星野:そうですね。
■「秘密を守ってもらえる空間が現代にはない」いとうが医者に相談した経緯
いとうは、うつ病やパニック障害を疑うような症状を抱えた際に、「人に弱音を言うのは嫌だなあ」と、病院にかかることに対して二の足を踏んでいたそう。そんなときに思い至ったのが星野の存在だった。
いとう:□□□のリハーサルで会ってるから「あれ? 星野くんに聞くというのはあり得るのかな?」という。自分の気持ちも助かりたい半分、興味も半分みたいな。それであるとき思い切って、入門みたいな気持ちで「星野くん、病院に行っていいかな?」って。それで僕も通うようになって、ちょっとしたときに話せる人がいて、しかも守秘義務がきちんとあって、自分の弱音やどういうことに巻き込まれているのか、どういうとき落ち込むんだということを人には言わないでもらえる、そのなかで言えるという自由な空間ができたような気がするんです。
星野:保証された空間というか、安全な空間というのが、実はなかなかないんですよね。そういう意味で診察室で話をするというのは、特殊ではあります。別の緊張感があったりとか、緊張感を与えちゃったりだとか(笑)、いろいろ事情はあると思いますけど、基本的に秘密は守られます。
いとう:ここはすごく重要な問題で、僕は秘密を守ってもらえる空間が現代にないと思うんです。信頼できる友だちでも、ついその友だちがSNSに書いちゃっうようなことが、すごく起こりやすい社会になっているじゃないですか。そうすると、誰にも自分の本当のことを話せないと、またもう一段、人が壁にぶち当たっているのが現代だと思う。
だからこそ、いとうは星野との関係を公にすることで、「自分もなにか困ったら精神科に行ってみようかな」と助けを求められる人が増えればいいと考えている。
星野:確かに「この話を誰にしたらいいんだろう?」という風に抱えている人は、たくさんいると思います。病院じゃなくてもいんです。「安心できる」という場所は必要だなと思います。
■説教せず、ゆったり話を聞くトークショーも
診察室で話をしているうちに「こういう対話はまとめた方がいいんじゃないか」という考えが、いとうの頭に生まれた。そうして出版されたのが、ふたりの共著『ラブという薬』(リトルモア)だ。好評だったため、第二弾『自由というサプリ』(リトルモア)も刊行。発売を記念するトークショーも開いた。
いとう:おかしな話だけど、出版の1年後くらいに(トークショーを開催した)。青山ブックセンターでやったので「青山多問多答」という名前にした。だいたい、悩み相談みたいなイベントって最終的に説教臭くなるのよ、あれは嫌じゃない?
星野:嫌ですね。
いとう:星野くんはとにかく「ゆったりしたスペースが作れれば、もうそれでいい」という風に。
星野:悩み相談みたいなことって、アドバイスで終わったりすることが多いと思うんです。僕は今までも悩み相談の連載というのをときどきやったときもあるんですが、アドバイスってそう簡単にできるものじゃないというか、なかなかおこがましいというところがある。その人がそれで悩んでいることを共有したりすることはできて、緩く共有して「大変そうですね」ぐらいの感じまではできるかなというのがあるんです。
いとう:そこなんだよね。
■「共感」は難しい…「共有」という考え方
星野はかねてより「共有できるスペースがほしかった」という思いがあり、「青山多問多答」ではそれが実現できたという。ふたりは、「いいね」や「共感」とは違う、「共有」の大切さについて話し合った。
いとう:僕も(「青山多問多答」を)やっていて思ったんだけど「私はこんな悩みがあります」って人前で読むじゃない。そうすると「だからこうしなさい」とか「こうしよう」という答えがなくても5、60人が、そのなかにいる誰かの悩みをみんなで「大変だな」と聞いていること自体に、俺は胸が震えたわけ。
星野:よく「共感」という言葉が聞かれると思います。その人と同じ体験は無理ですけど、ちょっとでも重なった感情で聞くというのが共感なんですね。たとえば「その話、わかります。同意します」という意味で「共感しました」と言うことって、実は距離があることなんです。でも「ちょっとあなたの体験が、少しわかったような気になった」みたいなことのほうが、実はその人に近いというか。だからそういう場を作りたい、できたらいいなと思っていたんです。
いとう:逆に言うと、そういう場があまりないということだよね。
星野:なかなか、なくないですか?
いとう:ないのよ。たとえばSNSって「いいね」がつくけど、「いいね」の意味はいろいろあるわけだし、対面している、相対しちゃっているわけ。でも星野くんが言った、みんなで「そうかもね」というのは、同じ方向を向いちゃってるんだよね、横にいちゃっているというか。
星野:まさにそういうことで、対面じゃなくて同じ側にいくということですね。そのほうが絶対に近いんですよ。「いいね」だと、もう対面しちゃっていますからね。だから……ジワジワくるみたいなほうが(笑)、同じ方向を向いている感じがするんです。
■「相手のことを決めつける」という暴力性
カウンセリングでは、「傾聴」という技法が活用される。普通に聞くのではなく、むやみに言葉を挟まず、じっくりと耳を傾けるという意味だ。いとうは「簡単に答えを出すことが“答え”じゃないことが、85%くらいある」と話す。いとうもこの言葉に影響され、福島に訪れて実施したインタビューの連載では、「なるべく自分の言葉を出さず、相手の言葉をモノローグにする」という手法をとった。
いとう:これは、星野くんから傾聴の態度を聞かなかったらできなかったこと。僕、(もともとは)解決しないと気がすまないんですよ。
星野:相手の話を編集したくなっちゃうんですよね。「要は」って。まとめちゃう。
いとう:失礼だよな。
星野:簡単にまとめられても「そんなものじゃないんだけどな」と相手に違和感が残るかもしれないし、まとめると一回そこで区切りがついちゃうじゃないですか。区切りを簡単につけないほうが僕はいいかなと思っていて。相手は自分とは別の人なので、わかりきることは絶対にできないんですよね。できるだけわかろうとすれば、終わりはない。
今、インターネットにおける誹謗中傷が問題になっている。共感とは反対の「非共感」だが、簡単に人を決めつけるという意味では共感と同じかもしれないと、いとうは持論を述べる。
いとう:暴力に類していると思うわけ。SNSで言うと、百何十文字で相手をわかった気持ちになって、「おまえは馬鹿だ」「弱虫」などと言えちゃう。この非共感的な社会と、攻撃的なことというのは、結びついているのかな。
星野:結びついていると思いますよ。「あなたはこういう人だ」と言えるのは、誰かのことをわかった気になっているということ。でも、それは表層のことで、言われた人は「それだけじゃないのに」「なんで簡単に決めつけるんだろう」と思いますよね。さらに、その人が言われると嫌なことを投げかけて誹謗中傷になるわけじゃないですか。かなりの暴力ですよね。
いとう:その人をたった一行で言い表してしまうということが暴力なんだということを、もっとわかったほうがいい。「いいね」以外に、「かもね」とか「もわっとしてきたわ」みたいな、たくさんボタンがないと本当はだめなんだよね。
星野:そうだと思います。また、誹謗中傷する側にも、反射的に人を攻撃してしまうような背景があるかもしれない。それが難しくて。SNSはインスタントなコミュニケーションだから、衝動的に「この投稿がしたい」と思ったときに簡単にできてしまう。その人の衝動性を煽っちゃうような仕組みになっている。とくに攻撃や暴力にふくらんでいってしまうとき、あまり考えずに、衝動のままに書いている気がするんです。一歩、止まって考えられる仕組みがあればいいのにと思います。
知名度が高い人への批判は「有名税」だという声もあるが、いとうは「何千、何万、何十万と言われるから、無視しようったって無理だし、自分を抑えきれないよね」と話す。
いとう:炎上してしまったら、どうすればいいんでしょう。
星野:本人は暴力を受けたら、「どうすればいいか」と考えられないだろうから、周りの人がそばにいるのが大事だと思うんですよね。誰かが炎上したら、その人にひとりぼっちになってほしくないですよね。
いとう:中には、理解してくれている人のメッセージもあるわけよ、いっぱい。そのことはすごく大事なのに、悪いことのほうが大きく見えるんだよね、ああいうとき。あれが問題。いいことを言っているやつのフォントが5倍になるようなシステムをTwitter社がやるべきだと思う。
星野:あはは、フォントで(笑)。たしかに。何をもっていいことかと判断するのは難しいですけど。
いとう:そうなんだよ。それAIがわかってくれたらなあ。
星野:たしかに、擁護するコメントのフォントが5倍になるシステムがあるといいですね。
共感は、“いいこと”とされている。しかし、ある種の暴力性も孕む。そう自覚し、相手をわかったつもりになっていないか、伝える言葉は適切なのか、顔の見えないコミュニケーションであっても、しっかりと考えた上で発言するようにしたいものだ。
『J-WAVE SELECTION』では、いま注目するさまざまなトピックをお届け。放送は毎週日曜日の22時から。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月5日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:J-WAVE SELECTION
放送日時:毎週日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jwaveplus/
J-WAVEでは6月28日(日)、『J-WAVE SELECTION LOVE IS ASKING...』と題した番組をふたりがナビゲート。不思議な関係はどのように始まったのか? 人の話に「共感」ではなく「共有」する場の大切さや、SNSの誹謗中傷について語った。
■主治医と患者としてメディアに出る特殊な関係
星野は精神科医であり、ミュージシャンとしても活動している。いとうは「僕の主治医。マジに主治医だから!」とアピール。
いとう:そういう関係でラジオに出ている人っているかな?
星野:いないですし、本当に特殊な形で。ある意味、精神医療とか心理業界的には、タブーといえばタブーなんです、多重関係というので。だから特殊な関係だとは思います。
いとう:本当はいろいろな関係を作らないで、独自の関係のなかで治していかないといけないから。ただ僕の場合は「精神医療というのはどういうものなのか?」というのを説明したり、宣伝もしたりするので「まあ、いいだろう」みたいな感じで許されてる(笑)。つい1週間前ぐらいも星野くんの病院に行って、普通にカウンセリングを受けてました。
星野:電話再診で何度かさせてもらって、やっと病院にいらっしゃったという感じですよね。
いとう:コロナのことがあって、病院もすぐに対応して電話でやれるようになったから、すごくいろいろな人が助かったと思う。とはいえやっぱり、先生の顔を見て話すのとは全然違うからね。まず、そっちが違うよね。
星野:やっぱり精神科の診療で話をするだけとはいえ、対面だと言葉以外の情報もあるんですよね。雰囲気や表情、入ってきたときの感じからすでに始まっているというか。そういうのがないので、電話診療とかリモートのオンラインの診療も、考えられようとしていますけど、それだとやっぱりずっとは難しいかなと。
いとう:つまり、全体的に人間をとらえることができないんじゃないか? ということですよね。
星野:そうですね。
■「秘密を守ってもらえる空間が現代にはない」いとうが医者に相談した経緯
いとうは、うつ病やパニック障害を疑うような症状を抱えた際に、「人に弱音を言うのは嫌だなあ」と、病院にかかることに対して二の足を踏んでいたそう。そんなときに思い至ったのが星野の存在だった。
いとう:□□□のリハーサルで会ってるから「あれ? 星野くんに聞くというのはあり得るのかな?」という。自分の気持ちも助かりたい半分、興味も半分みたいな。それであるとき思い切って、入門みたいな気持ちで「星野くん、病院に行っていいかな?」って。それで僕も通うようになって、ちょっとしたときに話せる人がいて、しかも守秘義務がきちんとあって、自分の弱音やどういうことに巻き込まれているのか、どういうとき落ち込むんだということを人には言わないでもらえる、そのなかで言えるという自由な空間ができたような気がするんです。
星野:保証された空間というか、安全な空間というのが、実はなかなかないんですよね。そういう意味で診察室で話をするというのは、特殊ではあります。別の緊張感があったりとか、緊張感を与えちゃったりだとか(笑)、いろいろ事情はあると思いますけど、基本的に秘密は守られます。
いとう:ここはすごく重要な問題で、僕は秘密を守ってもらえる空間が現代にないと思うんです。信頼できる友だちでも、ついその友だちがSNSに書いちゃっうようなことが、すごく起こりやすい社会になっているじゃないですか。そうすると、誰にも自分の本当のことを話せないと、またもう一段、人が壁にぶち当たっているのが現代だと思う。
だからこそ、いとうは星野との関係を公にすることで、「自分もなにか困ったら精神科に行ってみようかな」と助けを求められる人が増えればいいと考えている。
星野:確かに「この話を誰にしたらいいんだろう?」という風に抱えている人は、たくさんいると思います。病院じゃなくてもいんです。「安心できる」という場所は必要だなと思います。
■説教せず、ゆったり話を聞くトークショーも
診察室で話をしているうちに「こういう対話はまとめた方がいいんじゃないか」という考えが、いとうの頭に生まれた。そうして出版されたのが、ふたりの共著『ラブという薬』(リトルモア)だ。好評だったため、第二弾『自由というサプリ』(リトルモア)も刊行。発売を記念するトークショーも開いた。
いとう:おかしな話だけど、出版の1年後くらいに(トークショーを開催した)。青山ブックセンターでやったので「青山多問多答」という名前にした。だいたい、悩み相談みたいなイベントって最終的に説教臭くなるのよ、あれは嫌じゃない?
星野:嫌ですね。
いとう:星野くんはとにかく「ゆったりしたスペースが作れれば、もうそれでいい」という風に。
星野:悩み相談みたいなことって、アドバイスで終わったりすることが多いと思うんです。僕は今までも悩み相談の連載というのをときどきやったときもあるんですが、アドバイスってそう簡単にできるものじゃないというか、なかなかおこがましいというところがある。その人がそれで悩んでいることを共有したりすることはできて、緩く共有して「大変そうですね」ぐらいの感じまではできるかなというのがあるんです。
いとう:そこなんだよね。
■「共感」は難しい…「共有」という考え方
星野はかねてより「共有できるスペースがほしかった」という思いがあり、「青山多問多答」ではそれが実現できたという。ふたりは、「いいね」や「共感」とは違う、「共有」の大切さについて話し合った。
いとう:僕も(「青山多問多答」を)やっていて思ったんだけど「私はこんな悩みがあります」って人前で読むじゃない。そうすると「だからこうしなさい」とか「こうしよう」という答えがなくても5、60人が、そのなかにいる誰かの悩みをみんなで「大変だな」と聞いていること自体に、俺は胸が震えたわけ。
星野:よく「共感」という言葉が聞かれると思います。その人と同じ体験は無理ですけど、ちょっとでも重なった感情で聞くというのが共感なんですね。たとえば「その話、わかります。同意します」という意味で「共感しました」と言うことって、実は距離があることなんです。でも「ちょっとあなたの体験が、少しわかったような気になった」みたいなことのほうが、実はその人に近いというか。だからそういう場を作りたい、できたらいいなと思っていたんです。
いとう:逆に言うと、そういう場があまりないということだよね。
星野:なかなか、なくないですか?
いとう:ないのよ。たとえばSNSって「いいね」がつくけど、「いいね」の意味はいろいろあるわけだし、対面している、相対しちゃっているわけ。でも星野くんが言った、みんなで「そうかもね」というのは、同じ方向を向いちゃってるんだよね、横にいちゃっているというか。
星野:まさにそういうことで、対面じゃなくて同じ側にいくということですね。そのほうが絶対に近いんですよ。「いいね」だと、もう対面しちゃっていますからね。だから……ジワジワくるみたいなほうが(笑)、同じ方向を向いている感じがするんです。
■「相手のことを決めつける」という暴力性
カウンセリングでは、「傾聴」という技法が活用される。普通に聞くのではなく、むやみに言葉を挟まず、じっくりと耳を傾けるという意味だ。いとうは「簡単に答えを出すことが“答え”じゃないことが、85%くらいある」と話す。いとうもこの言葉に影響され、福島に訪れて実施したインタビューの連載では、「なるべく自分の言葉を出さず、相手の言葉をモノローグにする」という手法をとった。
いとう:これは、星野くんから傾聴の態度を聞かなかったらできなかったこと。僕、(もともとは)解決しないと気がすまないんですよ。
星野:相手の話を編集したくなっちゃうんですよね。「要は」って。まとめちゃう。
いとう:失礼だよな。
星野:簡単にまとめられても「そんなものじゃないんだけどな」と相手に違和感が残るかもしれないし、まとめると一回そこで区切りがついちゃうじゃないですか。区切りを簡単につけないほうが僕はいいかなと思っていて。相手は自分とは別の人なので、わかりきることは絶対にできないんですよね。できるだけわかろうとすれば、終わりはない。
今、インターネットにおける誹謗中傷が問題になっている。共感とは反対の「非共感」だが、簡単に人を決めつけるという意味では共感と同じかもしれないと、いとうは持論を述べる。
いとう:暴力に類していると思うわけ。SNSで言うと、百何十文字で相手をわかった気持ちになって、「おまえは馬鹿だ」「弱虫」などと言えちゃう。この非共感的な社会と、攻撃的なことというのは、結びついているのかな。
星野:結びついていると思いますよ。「あなたはこういう人だ」と言えるのは、誰かのことをわかった気になっているということ。でも、それは表層のことで、言われた人は「それだけじゃないのに」「なんで簡単に決めつけるんだろう」と思いますよね。さらに、その人が言われると嫌なことを投げかけて誹謗中傷になるわけじゃないですか。かなりの暴力ですよね。
いとう:その人をたった一行で言い表してしまうということが暴力なんだということを、もっとわかったほうがいい。「いいね」以外に、「かもね」とか「もわっとしてきたわ」みたいな、たくさんボタンがないと本当はだめなんだよね。
星野:そうだと思います。また、誹謗中傷する側にも、反射的に人を攻撃してしまうような背景があるかもしれない。それが難しくて。SNSはインスタントなコミュニケーションだから、衝動的に「この投稿がしたい」と思ったときに簡単にできてしまう。その人の衝動性を煽っちゃうような仕組みになっている。とくに攻撃や暴力にふくらんでいってしまうとき、あまり考えずに、衝動のままに書いている気がするんです。一歩、止まって考えられる仕組みがあればいいのにと思います。
知名度が高い人への批判は「有名税」だという声もあるが、いとうは「何千、何万、何十万と言われるから、無視しようったって無理だし、自分を抑えきれないよね」と話す。
いとう:炎上してしまったら、どうすればいいんでしょう。
星野:本人は暴力を受けたら、「どうすればいいか」と考えられないだろうから、周りの人がそばにいるのが大事だと思うんですよね。誰かが炎上したら、その人にひとりぼっちになってほしくないですよね。
いとう:中には、理解してくれている人のメッセージもあるわけよ、いっぱい。そのことはすごく大事なのに、悪いことのほうが大きく見えるんだよね、ああいうとき。あれが問題。いいことを言っているやつのフォントが5倍になるようなシステムをTwitter社がやるべきだと思う。
星野:あはは、フォントで(笑)。たしかに。何をもっていいことかと判断するのは難しいですけど。
いとう:そうなんだよ。それAIがわかってくれたらなあ。
星野:たしかに、擁護するコメントのフォントが5倍になるシステムがあるといいですね。
共感は、“いいこと”とされている。しかし、ある種の暴力性も孕む。そう自覚し、相手をわかったつもりになっていないか、伝える言葉は適切なのか、顔の見えないコミュニケーションであっても、しっかりと考えた上で発言するようにしたいものだ。
『J-WAVE SELECTION』では、いま注目するさまざまなトピックをお届け。放送は毎週日曜日の22時から。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月5日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:J-WAVE SELECTION
放送日時:毎週日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jwaveplus/
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