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独特な解釈で演奏されるジャズスタンダード。Sam Gendel『Satin Doll』

独特な解釈で演奏されるジャズスタンダード Sam Gendel『Satin Doll』

独特な解釈で演奏されるジャズスタンダード。Sam Gendel『Satin Doll』

J-WAVEの番組作りに携わるスタッフたち。日々、ジャンルを問わず音楽を聴き続けているラジオ番組制作者たちの、おすすめの楽曲やアーティストを紹介します。(J-WAVE NEWS編集部)

■『Satin Doll』 / Sam Gendel (2020年3月リリース)



Ry Cooderのツアーに参加したり、最近ではBlake MillsやPerfume Geniusの作品にも参加したりしている、ロサンゼルス在住のマルチ奏者/プロデューサーSam Gendel。彼の最新作『Satin Doll』はタイトル曲にもなっているDuke Ellingtonの「Satin Doll」を始め、Charles Mingusの「Goodbye Pork Pie Hat」やMiles Davisの「Freddie Freeloader」などジャズのスタンダードナンバーのカヴァーといくつかのオリジナル曲で構成されている。演奏メンバーはSam Gendel(サックス)、Gabe Noel(エレクトリックベース)、Philippe Melanson(エレクトリックパーカッション)の3名で、フレーズから元の曲を感じさせることはあるが、どのカヴァー曲も独特な解釈で演奏されており、オリジナリティに溢れている。Sam Gendelのサックスもほとんどの曲でエフェクトを通して鳴らされており、アコースティックな要素がほとんど聞こえてこない奇妙なアレンジになっている。

レトロフューチャー的というか、昔の発明家が家に篭って、ジャズを演奏するロボットを作り出し、再生ボタンを押して、安定しない演奏を制御しながら、1人未来の音楽を楽しんでいるような光景を思い浮かべる。スクリュードされているようなグニャグニャと溶けていくサウンドに懐かしさと勝手な物悲しさを覚える。「Goodbye Pork Pie Hat」はJoni Mitchellが歌詞を付けたバージョンがカヴァーされているが、本作では歌もコンピューターで作られたものが使われている。人間からは出てこない感情の暖かさのようなものがある。オリジナル曲の「Saxofone Funeral」、「The Theem」、そして「Glide Mode」ではエクスペリメンタルなヒップホップを感じさせ、Flying Lotusの『1983』やPrefuse 73の『Sacrifices』などを思い出した。



Robert GlasperもカヴァーしているMongo Santamariaの「Afro Blue」が収録されているが、音楽メディアTURNに掲載されているインタビューでは、Robert Glasperとは無関係だときっぱり言っているし、Mikikiのインタビューでもロサンゼルスのジャズシーンとも自分は関係無いと語っている。本当のところはどうか分からないが、この『Satin Doll』は確かにそういったシーンとは少し違った位置にあるように聞こえる。Sam Gendelの自由な解釈で繰り広げられるジャズの名曲を、原曲や他のミュージシャンのカヴァーと聴き比べるのも楽しいだろう。

■執筆者プロフィール

・盛口薫(もりぐちかおる)

担当番組
『SAPPORO BEER OTOAJITO』
『TAKRAM RADIO』

ラジオ番組制作者。初めて生で見た有名人はカイヤ。この春、大阪にある実家が諸事情のため消滅したので、行き場を失ったCDがダンボールに入って、現在住んでいるワンルームのド狭い部屋に積み重なっている。

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