鉄道のロマンチックな魅力とは? 鉄道車両をデザインした鈴木啓太×鉄オタの市川紗椰が語る

J-WAVEで放送中の番組『TRUME TIME AND TIDE』(ナビゲーター:市川紗椰)。5月30日(土)のオンエアでは、プロダクトデザイナーの鈴木啓太さんがリモートで出演。醤油さしから鉄道車両まで、幅広いモノのデザインを手がけ、最近では小さな工房の職人たちと花瓶を作るプロジェクトもスタートさせた。

今回は、アフターコロナ/ウィズコロナの時代にどんなデザインが求められるか話を訊くとともに、鉄オタである市川と「鉄道のロマンチックな魅力」を語った。




■幅広い仕事内容

プロダクトデザイナーとは、モノをデザインする仕事だ。「お皿やグラスといった日用品から、スマートフォンやカメラといった電化製品、ペンやハサミといった文房具、照明器具や家具……」と、鈴木さんの手がけたモノのジャンルは多岐にわたる。

鈴木:最近では神戸市の中学校の給食の容器もデザインしました。
市川:えー! 給食の容器にこだわっている学校が神戸にあるんですね。
鈴木:神戸市の公立中学校で誰もが使う給食の容器です。この春から使われています。
市川:どのような特徴があるのでしょうか。
鈴木:簡単に言うと、子どもたちが好きな色を選べる食器にしました。
市川:それはどういった意図があるんですか?
鈴木:これまでの給食の食器は全部同じ色でした。同じ素材や色で事務的な印象を受けるものでしたが、食べることって非常に楽しいことなんです。子どもたちの好みはさまざまなので、自分で好きな色の給食の容器が選べるというのは面白いかなと。公共の世界でもローカリティというか、独自性が求められる時代になってきています。僕がデザインした給食の容器も、容器のフタに神戸のいろいろなモチーフをデザインしています。給食の容器を使うことによって、地域のことを知ったり、楽しんだりするということも、新しい在り方かなと思います。


■作り手と使い手をつなぐ新プロジェクト

新型コロナウイルスの影響を受け、鈴木さんは新たなプロジェクト、「ワン フラワーウェア」を始動させた。

市川:どのようなプロジェクトなんでしょうか。
鈴木:モノづくりをしている全国の小さな工房や職人の方たちと、一緒に花瓶を作るというプロジェクトです。僕も3月ぐらいに新型コロナウイルスの影響を受けて仕事に変化がありました。先が見えない不安な気持ちで過ごしていました。1週間に1回、会社にお花をいけてもらっているんですけど、リモートになって打ち合わせがなくなったりして、オフィスを一時閉鎖しようと思い、最後の日に先生にお花をいけてもらったんです。それがすごく立派な桜の枝で本当に美しくて、それを見たときに「植物から元気をもらうことがある」と思いました。ちょうど今回の新型コロナウイルスは春に起きたことなので、日本人だとみんな桜が見られなくて、すごく寂しい気持ちになっていたと思うんですよね。室内で過ごすことが多くなってくると思うんですけれども、そんななかで季節を感じて楽しんで暮らすことができたらすごくいいなと思い、「花瓶を作ろう」と思いつきました。

鈴木さんは、室内に花を飾ることで空間が華やぎ、自然とつながっているという気持ちよさも得られると話す。また、SNS上で「花瓶がほしい」「花をいけはじめた」といった投稿を目にするようになったそうだ。

鈴木:植物に関わる投稿が増えたと同時に、全国のモノづくりをする人たちが苦境に立たされているという声が聞こえてきました。普段はゴールデンウィークに、全国の職人さんたちがそれぞれの地域で祭りを開いています。今年はそれがなかったこともあり、いろいろと苦しいところがあったんだろうなと。だから職人さんたちにお願いして一緒に花瓶を作ったら、花瓶がほしい人と花瓶を作りたい人、作り手と使い手の両方が支え合うことができるなと思いました。それぞれの職人がいろいろな素材で花瓶を作っています。陶器のようなものもありますし、磁器やガラス、木もあります。素材の魅力も同時に味わってほしいなと思い、花瓶の形はすべて同じ球体にしました。



■新型コロナウイルスの影響でデザインに変化?

市川は、東日本大震災を例に出して「災害後は機能的なものが増えた」と指摘。新型コロナウイルスの影響により、デザインがどのように変化するのかを尋ねた。

鈴木:僕も毎日いろいろなことを考えていて「全部が変わっていく」ということだろうなと思います。今までとは全く違う暮らし方、働き方をしなければいけない状態になっているので、全てのものを更新する必要があると思います。
市川:みんなはデザインに何を求めてくると思いますか?
鈴木:今回の新型コロナウイルスの影響下で、デザイナーは2つの方向に動いています。まずは医療現場など社会的に必要なものを発明しようという動きです。プロダクトデザインの場合は形や色など情緒的な要素もありますが、構造や流通の部分にまで影響されて作っていく場合が多いのでデザイナーの知見を活かしたものも考えられるかなと。そしてもう一つは情緒的なケアで、単純にそのものがあって「ああ、きれいだな」「気持ちいいな」と思うことが大事だと思います。
市川:確かに。それこそ東日本大震災後に見た目より機能が重視されました。でも、もちろん使いやすさもあるけど「これがあるとうれしい」というものが、より求められてくるという感じなんですね。
鈴木:東日本大震災のあとは「信頼」という言葉がテーマだったのかなと。だけど今は「快適」や「心地がいい」ということが、これからどんどん求められてくるだろうと思います。


■鉄道トークで市川も大興奮

市川は『鉄道について話した。』(集英社)という著書を持つほど“鉄道オタク”としても有名だ。そこで、鈴木さんが「鉄道車両のデザインを手がけた」という点から、鉄道に関する話題で盛り上がった。

市川:2017年から相鉄グループ100周年に合わせたリニューアルプロジェクト「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」にプロダクトデザイナーとして参加されていました。


鈴木:この話になって、すごく緊張してきました(笑)。
市川:なんでですか(笑)。
鈴木:市川さんのガチ鉄オタっぷりに恐縮しながら話します(笑)。間違いがあったら指摘してください。
市川:私もそんなにわからないですよ。
鈴木:このプロジェクトは、先ほどご説明いただきましたが、相模鉄道が創立100周年を迎えるということで、ブランドアップをしていこうと「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」が始まりました。クリエイティブディレクターに水野 学さんと丹青社の洪 恒夫さんの2名が立たれて、相模鉄道の駅や車両、制服のデザインをよくしていこうと始まったプロジェクトです。そのなかにある車両のパートで僕がプロダクトデザイナーとして参加しました。
市川:まずはどこから取り組みましたか?
鈴木:これは自分の活動のなかでもっとも難しい、もっとも面白いプロジェクトでした。鉄道をずっと追いかけているわけではなかったので、まずは「電車を知る」というところから始めました。
市川:そういうときは何を見るんですか?
鈴木:「鉄道」そのもののリサーチをしようと考えて、イギリスのヨークにある「イギリス国立鉄道博物館」に行きました。行かれたことはありますか?
市川:はい、ありますよ! すごいじゃないですか!
鈴木:相模鉄道のみなさんと行きました。
市川: 0系の新幹線が唯一見られるところですね。
鈴木:そうなんです。「イギリス国立鉄道博物館」には今まで人類が作ってきた鉄道車両がいろいろと展示されています。それを見ていると、その時代の人の考え方や美しさ、そういった人類の歴史がものすごく反映されている感じがしました。時代が反映されているというか。それがすごくロマンチックなんですよね。
市川:わかります! 時代と走っている場所と乗る人。「ローカリティ」というキーワードを鈴木さんが出してくださいましたが、まさに鉄道にローカリティが詰まってますからね。
鈴木:今だと、いろいろなものがプラスチックで生産されると思いますが、昔の電車はプラスチックで生産されているものは1つもないんです。たとえば、つり革も金属でできていたり、いろいろと面白いですよね。時代を映す鏡として、情緒的でロマンチックな魅力がありました。


『TRUME TIME AND TIDE』では、革新的な活動によって各界をけん引している人物をゲストに迎えて、現在の活動はもちろん、これから先どのようなビジョンに向かって進んでいくのかをじっくりと伺っていく。放送は毎週土曜日の21時から。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年6月6日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『TRUME TIME AND TIDE』
放送日時:毎週土曜 21時-22時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/timeandtide/

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