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【池上 彰が解説】新型コロナ感染数が減っても安心してはいけない理由―第二波に悩まされた過去事例も

【池上 彰が解説】新型コロナ感染数が減っても安心してはいけない理由―第二波に悩まされた過去事例も

生活に大きな影響を与えている新型コロナウイルス。感染拡大を防ぐためとはいえ、緊急事態宣言の延長で経済的なダメージが大きくなり、厳しい状況におかれている人も多い。外出自粛が長くなり、「報じられる感染者数も減ってきたから」と気がゆるんでしまっている人もいるかもしれない。

それでも、今は我慢のときだ。また今後、緊急事態宣言が解除されても、しばらくは慎重に暮らす必要がある。ジャーナリストの池上 彰が、過去事例を交えて、その理由を解説する。

さらに、これまで通りの授業を受けられない子どもたちにとって質の高い教育とは何か、池上が大学でデジタル教材を用いて気づいた“いい点”なども紹介する。

池上が登場したのは、J-WAVEの特別番組『J-WAVE HOLIDAY SPECIAL FUTURE IS YOURS!』。2030年までの国際的な目標SDGsをテーマに、持続可能な生活について、さまざまなゲストがトークを繰り広げた。ナビゲーターはグローバーと堀口ミイナが務めた。オンエアは5月4日(月・祝)。


■規制は「スペインかぜ」の教訓を活かして考えられている

池上によると、政府や専門家は今回の対策で、「100年前の教訓を常に意識している」という。1918年から流行したスペインかぜだ。当時は電子顕微鏡が発明されておらず、ウイルスのような小さなものを発見できなかったため、インフルエンザという言葉が存在しなかった。スペイン“かぜ”と呼ばれるのは、それが理由だ。

スペインかぜの死者数は諸説あり、世界中で少なくとも4000万人が亡くなったとする向きもあれば、1億人が亡くなったという推測もある。当時の内務省の記録では、日本国内で38万人が亡くなっているとのことだが、最近の研究では48万人だったという説も出てきた。当時の日本の人口は5600万人だったので、今に換算すると100万人近くが亡くなったことになる。

池上:スペインかぜは感染が広がったあと、しばらくして収まりました。しかし、そのあとにウイルスが非常に強毒で致死率が高くなって流行するんです。第一波で収まり、みんなが安心したら、第二波が来たんですね。

わかりやすい例は、アメリカのフィラデルフィアとセントルイスの対策だ。当時は第一次世界大戦の真っ只中で、ヨーロッパ戦線で戦うアメリカ兵を激励するためにアメリカ各地でいろいろなパレードが予定されていた。フィラデルフィアはこのパレードを予定通り実施し、集まった人たちに感染が広がって爆発的に死者が増えた。一方でセントルイスは中止し、その結果、死者を非常に低く抑えられた。

「だから今は我慢をする必要がある」と池上は強調。しかし、その後、セントルイスでは思わぬ危機に直面した。

池上:セントルイスでは「なんとか感染が収まったよね」と安心してさまざまな規制を解除すると、途端に死者が増えてしまいました。
グローバー:だから世界中で規制の解除を慎重におこなっているわけですね。
池上:そうなんです。100年前を教訓にして、どうやって規制を解除すればいいのかと模索をしているところなんです。だから、もうちょっと我慢しなくてはいけません。


■国民を納得させるために、政府がすべきこと

仮に6月から緊急事態宣言が解除されたとしても、「これまで通りの生活が戻ってくるわけではないと考えてほしい」と池上は話す。アメリカの中央銀行・FRB(米連邦準備制度理事会)が100年前のデータを分析したところ、こんな結果がわかった。

当時、厳しい規制をしていた場所ほど、規制を解除したあとは経済が劇的に回復した。反対に、いち早く規制を解除して、再度感染が広がって……と、ダラダラと感染拡大が続いた場所は、経済の回復が遅れてしまった。

グローバー:100年前の教訓を活かして、今の日本には何か必要でしょうか?
池上:とにかくグッと我慢をしてステイホームを続けていくこと。そして、政府が「かつて100年前にこんなことがあった」と自粛要請を出すときにちゃんと言えばいいんですよ。そうするとみんな納得するわけですよね。でも、「みなさんとにかく家にいましょう」って言うだけだと、なかなか我慢しきれなくなると思います。

とにかく今は我慢が必要。そして、新型コロナウイルス感染症による経済負担の軽減を目的にした、1人当たり10万円が給付される特別定額給付金をぜひ有効に使ってほしいと池上は呼びかけた。

池上:たとえば、家のまわりで休業に追い込まれて困っている飲食店がたくさんありますよね。そういうお店の料理をテイクアウトするとか、自宅に届けてもらうとか。また非常に厳しいと言われているミニシアターが規制解除後に映画を観に行くことができる前売りチケットを買うとか。コンサートが中止になってしまった音楽家もそうですよね。そういった人たちを救おうという取り組みがおこなわれていますから、そういう場所に寄付をするやり方もある。文化の火を消さないようにすることも大切だと思います。


■これから求められる教育は、知識を活かす「考える力」

SDGsをひもときながら、持続可能な世の中を探った。

かつてテレビ番組『週刊こどもニュース』(NHK総合)で時事をわかりやすく解説し、現在は大学で教鞭をとる池上は、これから求められる質の高い教育について、こう語る。

池上:新型コロナウイルス感染症の影響で授業ができないのは、厳しい状況ではありますが、日本では基礎的に知識をきちんと伝えることができているので、国際水準の教育はできています。一方で、質の高い教育という視点になると、その与えられた知識をどのように自分のなかで運用していくのか、それをどう活かしていくのか、それは結局一人ひとりが自分の頭で考える力を身に付けるしかない、ということになります。

人から教わることがなかなかできない状況において、自分で本を読んだり、自分でじっくり考えてみたりする時間が大事だと語気を強める。

池上:つい、ネットでいろんなものを見てしまうけど、ネットには非常に極端な意見がいろいろと出ているんですよね。だからそればかりを見ていると、ついつい偏った考えになってしまうことがある。今はあえてネットを絶って、まずは本を読んでみる、自分の頭で考えてみる、そういう時間をぜひ持ってほしいなと思います。日本がさらに質の高い教育をおこなうためには、そういう生徒たちが必要になってくると思います。


■逆境のおかげで生まれた新しい教育のアイデア

池上は現在、名古屋の2つの大学で教鞭を執る。新型コロナウイルスの影響で、講義のスタイルも変わった。

池上:これまでは200人の教室で学生に向かって一方的に話をしていましたが、現在はデジタル教材を作り、学生は私の教材を読んで、意見や感想や疑問を必ず提出してもらい、それを出席の確認に使うことにしました。

そうしたことで、「学生がこんなに問題意識をもっているんだ」と驚いたという。

池上:これまでは授業をしていても質問が出なかったけど、「みんなちゃんと考えているじゃないか」と。それで、学生から質問が来ると私が全て返事を書くんです。200人からの質問の返答をするのは非常に大変なんですけど、結果的に1対1の指導になっているんですよね。
グローバー:その1対1の教育が生まれることが、先ほどお話しになった自分の頭で考える力を身に付けるには、とてもよいですよね。
池上:とってもいいと思います。今、外出自粛のなかで何ができるんだろうかとみなさんがいろんな工夫をされていると思います。その中で、こういったいろんなアイデアが生まれてくるんだなと感じています。


■のちの感染症を防ぐため…「清潔な飲料水」を世界に

SDGsには17の目標がある。池上はその全てが大事だとしながらも、すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する「安全な水とトイレを世界中に」という目標に注目した。

池上:アフリカなどに行くと、水道がない場所があります。近くにも川や泉がないとなると、片道1、2時間歩いてようやく水をくんでくるようなところがあるわけです。親は農作業の仕事があるので、水くみは子どもたちがやる。1日で2往復くらい水くみをしなくてはいけないと、子どもたちは学校なんて行けないですよね。結局、教育も与えられないことになり、そうやって衛生状態が悪いとさまざまな感染症が生まれます。

今、新型コロナウイルス感染症を収束させても、似たような感染症は10年〜20年ごとに発生している。今回のウイルスは中国からと見られているが、次はアフリカから広まる可能性はゼロではない。

池上:アフリカで清潔な飲み水が手に入る、あるいは衛生環境を改善させることが、いずれ世界的に広がる感染症を未然に防ぐことになっていくのだと思います。

新型コロナウイルスによって、私たちの生活、仕事、教育など、さまざまなことが変化した。「ここで終わり」と区切ることのできない闘いだ。持続可能な社会には何が必要か、それぞれ考えてみてほしい。


【番組情報】
番組名:『J-WAVE HOLIDAY SPECIAL FUTURE IS YOURS!』
放送日時:5月4日(月・祝)9時-17時55分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/holiday/20200504/

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