千葉市長・熊谷俊人と堀 潤(取材は3月に行われたもの)

千葉市長・熊谷俊人に、堀 潤が訊く!「現場主義」の新型コロナ対策&経済発展する街づくり

新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、政府はもちろんのこと、各自治体のリーダーの手腕も問われている。東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事の動きは連日メディアでも大きく取り上げられている。そんななか、全国に先がけ、独自の対策を次々と打ち出しているのが千葉市の熊谷俊人市長。SNSで積極的に情報を発信し、市民と交流している姿にも注目が集まっている。

4月23日(木)にオンエアされた『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」では、3月27日(金)に行われた千葉市の熊谷俊人市長への単独インタビューの模様をお届け。話を訊いたのは、木曜日のニューススーパーバイザー・堀 潤。


■行政は「予測を伝え、市民に先のビジョンを持たせる」ことが大事

千葉市の新型コロナウイルス対策としては、テナント賃料を減免した一部オーナーに対し、1テナント当たり50万円を上限として減免分の一部を補填するテナント支援協力金制度や、クラスターが発生した施設の事業者が施設名の公表に応じた場合に100万円を支給する支援策の創設などがある。

インタビュー前日の3月26日(木)、その週末から、千葉市から都内への不要不急の外出を避けるよう要請し、都民に対しても千葉市への往来を控えるよう発表していた。堀はまず、この新型コロナウイルス対策において市民にメッセージを発信する際、行政として心掛けていることを訊いた。

熊谷:大事なことは先の予測をしっかり伝え、多くの市民のみなさんがこの先の景色を持てるようにすることだと思います。この間、行政からは唐突な発表があり、惑うことも多かったでしょう。しかし情報を持っている私たちは、あらゆる事態におけるビジョンがだいたい見えています。そのため、起きうる事態とそれに伴う対策を早めに出しながら、市民のみなさんには心の準備をしてもらい、静かにそのステージごとに最適な行動を取っていただく。これが、我々が一番意識していることです。
:不安な状況では、胸に響く強いメッセージや心が高揚するインパクトのある言葉を発信する強いリーダーを求めがちです。でも今、本当に求められているのは、より丁寧で具体的な未来の話だと思います。
熊谷:大切なことは落ち着いた対話です。強いメッセージでは、人の心は1週間や2週間しか持ちません。これから新型コロナウイルスとはおそらく長い向き合いになるので、困っている人にはそれぞれ考え方ややり方について提示し、「みんなでやっていきましょう」と呼びかけないと、どこかで心が折れてしまうと思います。

普段からSNSで政府の方針ややり方について自らの意見を述べることも多い熊谷市長。特に今回の新型コロナウイルスに関しては、小中高校の一斉休校が発表された際に政府に警鐘を鳴らしていた。

熊谷:一斉休校は明らかに唐突でしたし、学童保育の問題がなんら整備されていないことがすぐにわかりました。一斉休校をしても学童保育で子どもたちが密集したら感染リスクが上がってしまう。おそらくここまで現場の細かい景色が見えていないと思ったので、問題点は現場なりに指摘してみんなで改善していきたいという思いでした。批判したいわけではありません。これからも国は国でなんとかしようといろいろな対策を打ち出すと思いますが、現場のことを一番わかっている我々は、現場からフィードバックをする。日本全体が最適な形でこの難局を乗り切る、そのための努力をする責務が我々にもあるんだと思っています。


■感染リスクを徹底調査した上で「一部の施設を開ける」という判断も

千葉市では2月、全国で初めて学校教員の新型コロナウイルス感染者が出たために2週間の臨時休校措置を取った。政府から全国の小中高校の一斉休校が発表される前のことだ。

熊谷:そのときに台湾をはじめ世界中の状況を調べ、感染状況に応じた各学校、各地域、全市の休校判断についての細かい指針を作り、学校で子どもたちに配布しました。そしてその夜に発表されたのが一斉休校でした。ただ、低学年を預ける学童保育の問題をクリアするため、教育委員会の幹部と学童保育を所管する子ども未来局の幹部全員、さらに保健所の人間も集まって対策の議論をしました。その上でどの程度なら感染リスクを抑えて学童保育ができるのか、どの程度なら学校に任せられるかを短時間で指針を決めて発信した流れです。
:ジレンマや問題はありませんでしたか?
熊谷:たとえば公共施設も、リスクを抑えるためにはすべて閉めればいい。しかし、それでは活動する場所を失って心と体、学びなど人が生きる上で重要な問題が出てきます。そのため、すべての施設の状況を見て感染リスクを提言する方法を徹底的に考え、部分的に開けたり時期を見て閉めたりと細かく整備しました。別の自治体では施設をすべて閉めている状況でも、一部施設が開いているのは我々独自の対策だったのではないかと思います。
:徹底した調査、ファクト、データに基づくことできちんとした対応が取れるということですね。市長は、責任を自分自身が負うというお話もされるわけですよね。
熊谷:そうですね。結局、市長が責任を取らない限り職員も一歩踏み込むことはできません。この間も感染リスクをしっかり考えて徹底的に見極めたあと、開催するイベントや開ける施設もあります。「最後は私が政治的に責任をとるから勇気を出してやろうよ」というやり取りは常にしています。


■職員を変えた現場主義の街づくり

インタビュー後半では、新型コロナウイルスが落ち着いたあとの千葉市の未来について迫った。熊谷市長は2009年の就任以来、千葉市の財政再建にも力を入れてきた。

熊谷:2009年はリーマンショック直後。ある意味、今と経済状況は似ていました。あのときは千葉市の財政状況は政令指定都市のなかでも最悪で、地域の人たちや経済界を助ける財政出動もできませんでした。それが、11年間職員とともに血のにじむような努力をし、0に近かかった基金も一定程度は貯められ、今回のコロナ禍でも市民や経済界のために必要な財政出動ができるまでになりました。
:なぜ財政再建が叶ったのでしょうか。
熊谷:街の活性化のための開発や策を打つときに、すべて税金でやらないことに力を入れました。自分たちの税金を使えば楽ですが、借金が残る。そうではなくて民間の資本で行う工夫をしてきました。たとえば稲毛海浜公園が美しい人口の砂浜やシーサイドレストランで賑わっていますが、これらは民間が投資をして我々が公園の土地を貸して逆に収入を得ているというパターンです。ほかにも乳牛を酪農家のために育成する牧場も、民間資本で観光牧場として再スタートしようとしています。市内のあらゆる場所に民間とのコラボによって大規模な投資が行われる空間を作るという、そういう工夫の積み重ねが今の状況を作っていると思います。

全国トップクラスの企業立地補助制度を設けるなど、企業誘致も熊谷市長の実績の特徴だ。特に幕張新都心には多くの企業が立地している。そこには市役所経済部の職員の存在が大きい。

熊谷:企業誘致で来てくれた企業の方々からは「一番のポイントは千葉市の経済部のフットワークのよさだった」という話を聞きます。意思決定や社内を説得するために必要な情報や取り組みをすべてしてもらえ、場合によっては申請書類もフォローしてくれた、と。「この町なら進出したあともしっかりとサポートを受けられるし信頼できる行政パートナーになる」と思われたことが大きなポイントだったそうです。
:役所がコンサルや代理店のような機能を果たしていたというのは、おもしろいですね。
熊谷:補助制度も特徴的で、立地したあとに我々が投資を支援するメニューがあります。「共に成長する伴走型」となるのがポリシーなんです。

熊谷市長は民間出身。現場主義だからこそ、千葉市への進出を考えている企業の話があれば、経済部の職員を連れて現場の実態を見る。その流れを作り出したことで彼らの意識を少しずつ変えていったそうだ。成長の見込みがある企業と接点を持ち、彼らの要求も考慮した経済政策を打つことによって財政再建も好転したと語った。


■アフターコロナを見据えた「完結型都市」とは?

ここ5年ほどで、千葉市の商業中心地は千葉市中央公園付近から巨大な駅ビルができた千葉駅へと変化した。駅に人が集まり、商業の軸が動くことは多くの都市でも見られる変化だが、熊谷市長はさらに先を見据える。

熊谷:大事なことはノスタルジーに浸らないこと。もちろんあまりに急速なシフトは大きな負の側面があるので、できるだけシフトを遅らせるやり方はあります。でも時計の針は戻りません。千葉駅を広くとらえたときに全体のパイが増えているかどうかが大事。駅ビルができたことで千葉駅に降りる人が増え、結果的に千葉駅周辺の消費量は増えています。この増えたパイをいかに駅ビル以外に広げるか。これが周辺の経済界と行政の役割ですよね。
:広げるためには、何をどうしていこうとお考えですか?
熊谷:駅ビルやイオンモールにできないことをやることだと思います。中央公園の場所に、冬の時期に氷ではない特殊素材でできたスケートリンクができました。もともとやっている中心市街地のイルミネーションの先には、中央公園にライトアップされたリンクがある。すると、みんなそこでスケートをしてから一杯飲んだり周辺の飲食店に行ったりするんです。一過性のイベントではなく、街の景色に変化をつけることで人が誘われるように広がっていく都市空間は、駅ビルのみでは絶対に設計できません。この取り組みによって、中央公園周辺の人がぐっと増えるなど結果も出ました。

市長は今回の新型コロナウイルスによって、東京一極集中のリスクと千葉市のような都市の在り方を再確認している。任期満了を迎える2021年6月やアフターコロナに見据えるビジョンとは何なのか。

熊谷:今までは東京に集中して巨大なビルの中に都市生活までできる空間を作って上の方向にスマートシティを作る流れがありました。しかし、今回で人が集中することのリスクがわかってきた。新型コロナウイルスがたとえ終息しても、また新たな感染症のリスクは変わらないでしょう。世界がグローバルになることでさらにリスクは高まります。実は千葉市民の多くは千葉市内で働いており、意外と東京都にはそれほど通勤していません。首都圏にありながら、完結型都市なんです。さらに少し足を伸ばすと畑や緑、いちご狩りができる田舎もあります。都会的な生き方もしつつ、隠居しなくても田舎生活ができるハイブリッド都市は新たなライフスタイルです。新型コロナウイルスを契機にこの生き方は見直されていくと思いますね。自然に触れて自分の住んでいる地域と繋がって愛着をもって生きるスタイルを東京の人たちに伝えたい。こういう生き方もできるし、そんな街を僕らは作るんだという思いでやっていきたいと思います。

J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。

【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/ 

関連記事