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交通事故の遺族が「死刑廃止」を目指す理由…更生の可能性をどう捉えるか

人の命をもって罪を償わせる「死刑制度」。賛成か反対か、さまざまな議論が交わされている。よく見られる意見として、"遺族は厳罰を望むはずだ"というものがある。しかし実際には、遺族の立場であっても、制度廃止に向けて活動する人がいる。

「死刑をなくそう市民会議」の共同代表世話人の片山徒有さんは、息子を交通事故で亡くした遺族だ。その後、矯正教育に関わるようになり、重大な罪を犯した受刑者たちと対話を重ねた結果、制度に反対するようになったという。その考えを訊いた。

【9月25日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】


■「死刑制度は必要ない」と思うようになった理由

1997年、東京都世田谷区で当時8歳だった片山さんの息子・隼さんが、ダンプカーにひき逃げされて亡くなった。この事件をきっかけに、容疑者の処分や公判の期日を被害者の家族に連絡する「被害者等通知制度」が生まれ、被害者の権利を保護するための犯罪被害者保護法が始まった。

片山さんは現在、被害者支援や刑務所、少年院での講演を続けている。「死刑制度は、命を奪う極めて悲しい制度」だと話す。

片山:私は大切な息子を交通事故で亡くしました。でも、交通事故には死刑制度がないから、距離を置いて死刑制度を眺めていました。ところが、さまざまな機会をいただいて矯正教育に関わるようになり、極めて重大な罪を犯した人と直接話す機会を得ることができました。隣で彼らの立ち直りを見て「人は変われるんだ」と実感しました。そこから死刑制度を調べていくうちに、今の日本に死刑制度は必要ないと思うようになりました。

殺人事件などの非常に痛ましい事件によって家族を亡くした遺族からは、加害者を厳罰に処してほしいという声も多いのではないか、と安田は質問する。

片山:その気持ちはよくわかります。ただ、刑事罰は国が定めたルールに従い、国が処罰をすることであり、被害者遺族が求めるものではありません。被害者遺族が処罰を求め、加害者の命と引き替えに被害者が返ってくるなら、それもわかります。しかし、社会全体としてあまりに行き過ぎた厳罰の結果、またひとつの別の命が失われることになると、悲しみしか残らないのではないかと思います。

遺族の被害感情がピークに達するのは刑事裁判のときだという。検察官と一緒になり、正義を実行するために目の前にいる被告人に対して「重罰に処してほしい」と訴えるのは自然な考えだと、片山さんは述べる。しかし、その結果に別の命が失われてもいいのかは、また別の議論だ。

片山:刑事裁判が終わると、たいていの遺族は力が抜けたようになります。体調を崩す人や「あのとき、自分が発した言葉が正しかったのか」と自問自答する人も多いです。
安田:でも、遺族の心境の変化によって、一度確定した判決は変えられないですよね。
片山:その通りです。死刑執行は新たな命を奪う大変重要な手続きですので、私は刑の執行前に改めて遺族から話を聞いて、刑事裁判の時から意見が変わったのかどうかを、法務省に問い直してほしいという要望を出しています。


■被害者等通知制度において死刑事件は対象外

2019年8月、片山さんは「被害者と司法を考える会」の代表として、法務省に死刑制度を考える要望書を提出した。

片山:情報公開請求を使い、死刑執行命令について法務省がどのような考え方を持っているのか調べていました。ところが、ほぼ黒塗りになったページが数千ページも出てきてしまい、死刑制度のように極めて重大な手続きにもかかわらず、社会に何も公開していないことがおかしいと感じました。

加えて、被害者等通知制度において死刑事件は対象外とわかり、死刑囚の刑を軽減する要望も提出した。

片山:刑事裁判後に死刑判決を受けた加害者について、被害者遺族は何の情報も得られません、ある日突然、死刑執行の報道で「自分の事件の加害者が亡くなったんだ」と知るわけです。これがいいことなのかどうなのかわからない。だから、前もって刑事裁判後に定期的に被害者に聞き取りをして、意見が変わった人がひとりでもいるならば、矯正教育の対象にしてもらい、死刑囚の減刑をする。そういう仕組みを作ってほしいという要望を提出しました。


■人は心を入れ替え、立ち直る可能性がある

ある調査では、日本の8割以上の人が死刑制度に賛成しているという報告がある。片山さんもそのような状況を理解しながらも、こう意見を述べる。

片山:明らかに犯罪件数は減り、ここ10年は矯正教育が深く浸透してきました。そう考えると、重罰を重ねるような人は、今後減っていくのではないかと考えます。
安田:遺族への支援は、どのようにお考えですか?
片山:私は事件直近からの被害者支援が重要だと考えています。たとえば全ての事件の被害者に、日常生活やさまざまな事情聴取に付き添う支援者がついてほしいと思います。その中で、社会に対する不安感や加害者に対する要望が言語化されて、ある程度それが聞き入れられる環境ができれば、必要以上に応報感情を持たなくなるのではないかと思います。

今後、死刑制度がどのように議論されていくべきなのか。片山さんは、そこにはみっつのポイントがあると説明する。

片山:ひとつは死刑制度があることで。人権的に先進国の仲間入りを果たさないのではないかということ。ふたつめは、冤罪の可能性があることです。科学捜査の技術が進むことで、"複数の事件に関与されていると思われたが、ひとつの事件にしか関わっておらず、その結果、死刑相当ではない事件"が出てくるかもしれません。もうひとつ、特に重要なのは、人は心を入れ替えて立ち直る可能性があること。そのような仕組みを、国を挙げて作っていくならば、死刑制度はいらないという考え方になります。

片山さんは、日本は裁判員制度があるので、法廷の上限が死刑だとしても、裁判員が死刑を選択しないという方法もあると付け加えた。

安田は「死刑制度は誰しもが当事者になる可能性がある」としながら「だからこそ、片山さんの話す人間の更生の可能性をどう捉えるかを考えることはもちろん、死刑制度にどのような人が関わり、どのような状況で行われているのか、事実をしっかり積み重ねた上で判断する必要がある」と感想を述べた。

人は更生教育によって変わることができる。片山さんの意見を踏まえながら、みなさんも死刑制度を改めて考えてみてほしい。

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放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
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