慰安婦問題を取り上げた話題のドキュメンタリー映画『主戦場』が公開中です。慰安婦の強制性などを否定する保守系と呼ばれる論客から、強制はあったとする歴史学者などへのインタビューまで、さまざまな観点からの検証を重ねた監督を務める同作。監督のミキ・デザキさんはこの問題にどう向き合い、何が必要だと感じているのか。堀 潤がインタビューした模様をお届けしました。
【4月25日(木)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/木曜担当ニュースアドバイザー:堀 潤)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190425201803
■慰安婦問題をフラットに見るために
先日、国連安全保障理事会で、女性と平和をテーマにした討論会が開催されました。そこで韓国側の代表者が「慰安婦問題に対する日本の対応は不十分」と語り、これに対して日本側の代表者が「2015年の日韓合意で解決済み」と反論する場面がありました。慰安婦問題については、日本と韓国が何十年もかけて検証していますが、未だに溝は埋まっていません。
『主戦場』では、どんなことを意識して取材を行ったのでしょうか。
堀:僕がこの映画でいちばん感銘を受けたのは、ファクトのチェックをしっかりと行いながら、それを左右の陣営に伝えていったということ。決してどちらかを擁護することではなく、事実を持って検証されていました。
ミキ:慰安婦問題はセンシティブで意見の対立がある歴史問題です。公文書で裏付けられがちな歴史についても鵜呑みにせず、「公文書を残せるのは、ある種の特権階級にいる人ができること」ということを念頭に置いて取材を重ねていきました。単に「公文書に書かれているから絶対なのだ」ではなく、そこに書かれた事実を両陣営にぶつけることで、正しい文脈で文章を解釈・検証していくために、この映画を作りました。
映画のタイトル『主戦場』。ここにはどんな意味や想いが隠されているのでしょうか。
ミキ:映画の中で日本の歴史修正主義者が「アメリカこそが慰安婦問題の主戦場だ」と語っていた言葉から引用しました。また、メタファーとして主戦場は私たちの中にこそあるというメッセージも込めています。
続けて堀はこう補足します。
堀:両陣営が私たちの頭の中で「こっちが正しい」「あっちは間違っている」と訴えかけて主張をぶつけ合っている状況こそ主戦場であると。その主戦場は物理的に日本や朝鮮半島、そしてアメリカを舞台にしているものの、「それはあなたたち自身の心の中にある葛藤やせめぎ合いなのではないか」という話をミキさんはしていました。
■「正しさを証明するため」の検証ではなく、事実と向き合うために
ミキさんは日系アメリカ人で日本語も話すことができます。日韓両国、そして日本国内での右派・左派の対立をミキさんはどう見てきたのでしょうか。
ミキ:右派・左派と両陣営の対立が深まる原因は、ネットメディアにあると見ています。ネットメディアでは聞きたいことだけを聞くようになったことで、溝がますます深まってしまう。そこで、映画『主戦場』では両陣営のどちらにも肩入れせずに、常にフラットであろうと心がけました。たとえば、マイケル・ムーア監督の作品は左派的なメッセージが色濃い作品ですよね。一方で『主戦場』はどちらにも偏らない作品として観てほしい、その姿勢の表れとして、両陣営にとっていちばん強い言葉や主張を盛り込むようにしました。
ところがミキさんは、両陣営から「あなたは結局、どういう結論になったの?」と制作過程で訊かれたそうです。
堀:自らの正しさを証明するために検証しようとする姿勢ではなく、本来、私たちはどうあるべきなのかという事実と誠実に向き合い、自分自身の考えを柔軟に修正できる場が必要なのだと思います。しかし、その考えのぶつかり合いがSNS上にあり、双方の正しさの証明の場として相容れない状況が続いてきた、ということなのかもしれません。
■人は間違えることがあるし、国も間違えることがある
慰安婦問題に限らず、日本や世界ではさまざまな歴史問題が争いの種になっています。そこでミキさんに「フラットに歴史を見るためにはどうしたらよいか」と質問しました。そこには慰安婦問題を読み解くうえで大切な視点がありました。
ミキ:歴史を解釈するとき、自分のアイデンティティが関わってくると感情的になってしまい、フラットに見ることが非常に難しくなります。たとえば、歴史修正主義者が慰安婦問題について書いた本の中には「日本は決して間違えない完璧な国だ」という考えが土台になっているものが多いと感じます。そこで大切なのは、人は間違えることがあるし、国も間違えることがあるという事実。そうした視点を持つことで、歴史をフラットに見ることができる。
「私の中に完璧はない、常に検証が続くのだ」とミキさんはイメージしたのではないかと堀。
堀:左派・右派の双方で「私の主張はこうである」と対話を重ねても、自分の主張が揺らいでいかない点が非常に興味深く感じました。この映画では、ある人物が自身の誤りついて悔恨の念を示すシーンがあります。ミキさんは今回のインタビューで「とはいっても、その人物の軸は変わらない」と話しながらも、事実関係に対して自分と向き合う様子には触手が動いたようで、映画では重要なシーンとしてこの人物のことを描いています。
■日本人は、理想を持たず我慢している
インタビューの終盤、ミキさんは日本人に対して、ある指摘をしました。
ミキ:私たちは有権者としての力を持っていて、自分たちの国をどちらに向かわせるのかの決定権を持っています。そのことを忘れないでほしい。権力者は、国民が決定権という力を持っていることに気づかないでほしいと思っています。権力者の思うつぼにならないように、自分たちがほしい未来を得られるように、自分たちを教育していくことが大事だと思う。でも、日本人はビジョンを持たずに現状がどんなに苦しくても、現実以上に理想を持たず我慢しているように見える。我慢することはすごいことだと思うけれど、ワークライフバランスを上手に保っている国や、政治をよりよい方向に持っていけている国があることをぜひ知ってほしい。
自らのルーツに対しての熱くて優しい眼差しを、メッセージとして最後に伝えてくれました。そんなミキさんが監督を務めた映画『主戦場』、ぜひご覧ください。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
【4月25日(木)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/木曜担当ニュースアドバイザー:堀 潤)】
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■慰安婦問題をフラットに見るために
先日、国連安全保障理事会で、女性と平和をテーマにした討論会が開催されました。そこで韓国側の代表者が「慰安婦問題に対する日本の対応は不十分」と語り、これに対して日本側の代表者が「2015年の日韓合意で解決済み」と反論する場面がありました。慰安婦問題については、日本と韓国が何十年もかけて検証していますが、未だに溝は埋まっていません。
『主戦場』では、どんなことを意識して取材を行ったのでしょうか。
堀:僕がこの映画でいちばん感銘を受けたのは、ファクトのチェックをしっかりと行いながら、それを左右の陣営に伝えていったということ。決してどちらかを擁護することではなく、事実を持って検証されていました。
ミキ:慰安婦問題はセンシティブで意見の対立がある歴史問題です。公文書で裏付けられがちな歴史についても鵜呑みにせず、「公文書を残せるのは、ある種の特権階級にいる人ができること」ということを念頭に置いて取材を重ねていきました。単に「公文書に書かれているから絶対なのだ」ではなく、そこに書かれた事実を両陣営にぶつけることで、正しい文脈で文章を解釈・検証していくために、この映画を作りました。
映画のタイトル『主戦場』。ここにはどんな意味や想いが隠されているのでしょうか。
ミキ:映画の中で日本の歴史修正主義者が「アメリカこそが慰安婦問題の主戦場だ」と語っていた言葉から引用しました。また、メタファーとして主戦場は私たちの中にこそあるというメッセージも込めています。
続けて堀はこう補足します。
堀:両陣営が私たちの頭の中で「こっちが正しい」「あっちは間違っている」と訴えかけて主張をぶつけ合っている状況こそ主戦場であると。その主戦場は物理的に日本や朝鮮半島、そしてアメリカを舞台にしているものの、「それはあなたたち自身の心の中にある葛藤やせめぎ合いなのではないか」という話をミキさんはしていました。
■「正しさを証明するため」の検証ではなく、事実と向き合うために
ミキさんは日系アメリカ人で日本語も話すことができます。日韓両国、そして日本国内での右派・左派の対立をミキさんはどう見てきたのでしょうか。
ミキ:右派・左派と両陣営の対立が深まる原因は、ネットメディアにあると見ています。ネットメディアでは聞きたいことだけを聞くようになったことで、溝がますます深まってしまう。そこで、映画『主戦場』では両陣営のどちらにも肩入れせずに、常にフラットであろうと心がけました。たとえば、マイケル・ムーア監督の作品は左派的なメッセージが色濃い作品ですよね。一方で『主戦場』はどちらにも偏らない作品として観てほしい、その姿勢の表れとして、両陣営にとっていちばん強い言葉や主張を盛り込むようにしました。
ところがミキさんは、両陣営から「あなたは結局、どういう結論になったの?」と制作過程で訊かれたそうです。
堀:自らの正しさを証明するために検証しようとする姿勢ではなく、本来、私たちはどうあるべきなのかという事実と誠実に向き合い、自分自身の考えを柔軟に修正できる場が必要なのだと思います。しかし、その考えのぶつかり合いがSNS上にあり、双方の正しさの証明の場として相容れない状況が続いてきた、ということなのかもしれません。
■人は間違えることがあるし、国も間違えることがある
慰安婦問題に限らず、日本や世界ではさまざまな歴史問題が争いの種になっています。そこでミキさんに「フラットに歴史を見るためにはどうしたらよいか」と質問しました。そこには慰安婦問題を読み解くうえで大切な視点がありました。
ミキ:歴史を解釈するとき、自分のアイデンティティが関わってくると感情的になってしまい、フラットに見ることが非常に難しくなります。たとえば、歴史修正主義者が慰安婦問題について書いた本の中には「日本は決して間違えない完璧な国だ」という考えが土台になっているものが多いと感じます。そこで大切なのは、人は間違えることがあるし、国も間違えることがあるという事実。そうした視点を持つことで、歴史をフラットに見ることができる。
「私の中に完璧はない、常に検証が続くのだ」とミキさんはイメージしたのではないかと堀。
堀:左派・右派の双方で「私の主張はこうである」と対話を重ねても、自分の主張が揺らいでいかない点が非常に興味深く感じました。この映画では、ある人物が自身の誤りついて悔恨の念を示すシーンがあります。ミキさんは今回のインタビューで「とはいっても、その人物の軸は変わらない」と話しながらも、事実関係に対して自分と向き合う様子には触手が動いたようで、映画では重要なシーンとしてこの人物のことを描いています。
■日本人は、理想を持たず我慢している
インタビューの終盤、ミキさんは日本人に対して、ある指摘をしました。
ミキ:私たちは有権者としての力を持っていて、自分たちの国をどちらに向かわせるのかの決定権を持っています。そのことを忘れないでほしい。権力者は、国民が決定権という力を持っていることに気づかないでほしいと思っています。権力者の思うつぼにならないように、自分たちがほしい未来を得られるように、自分たちを教育していくことが大事だと思う。でも、日本人はビジョンを持たずに現状がどんなに苦しくても、現実以上に理想を持たず我慢しているように見える。我慢することはすごいことだと思うけれど、ワークライフバランスを上手に保っている国や、政治をよりよい方向に持っていけている国があることをぜひ知ってほしい。
自らのルーツに対しての熱くて優しい眼差しを、メッセージとして最後に伝えてくれました。そんなミキさんが監督を務めた映画『主戦場』、ぜひご覧ください。
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番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/