J-WAVEがいま注目するさまざまなトピックをお届けする日曜夜の番組『J-WAVE SELECTION』。毎月第3日曜は、震災復興プログラム『Hitachi Systems HEART TO HEART』(ナビゲーター:重松 清)をお届けしています。2月17日(日)のオンエアでは、福島県郡山市出身の映画監督の廣木隆一さんを迎え、「人、それぞれの再生」について考えました。
■被災地に行ったときのショックが作品にも影響
廣木さんは、重松の小説『きみの友だち』(新潮社)を2008年に映画化しています。その作品から10年あまり。廣木さんの故郷・福島県は東日本大震災に見舞われました。
その後、廣木さんは震災で家族や家など大事なものをなくし、大きな喪失感のなかで生きるひとりの女性を主人公にした小説『彼女の人生は間違いじゃない』(河出書房新社)を発表。自らメガホンを取り映画化もしました。
重松:震災後に廣木さんのものづくりの姿勢は大きく変わりましたか?
廣木:そうですね。はじめて被災地に行ったときのショックが非常に大きくて、それをどう表していいかわかからない感情が残っちゃって、それをメモにしていたら小説になり、映画にしたいと思いました。
■帰れないと思っていた場所が、少しずつ帰れる場所に
今回、重松が福島県南相馬市で取材したひとりに、紙芝居で故郷・浪江町の昔話や東日本大震災のこと、原発事故の後の生活などを語り継ぐ活動をしている「浪江まち物語つたえ隊」の岡 洋子さんがいます。
野生動物に荒らされてしまった自宅はもう住めません。そのため浪江町に戻らないという決断をした岡さんですが、昨年、一時帰宅をするときのくつろぎの場として、自宅に隣接する倉庫を改築し、カフェスペースを作りました。
岡:自宅で普通の暮らしができるかというと、今はできません。だから、帰りたいけど帰れない。ときどき帰る場所だけど、ずっと住む場所ではないんじゃないかと、今も複雑な思いがあります。
重松:岡さんが自宅に隣接した倉庫にカフェを作ったのは、どんな理由からですか?
岡:やっぱり浪江町に帰りたいんでしょうね。家族が帰る場所を作りたい、それがこの場所でした。カフェと言っても、商売ではないのでままごとのようなものですけど、みんなが集える場所としてカフェを作ったら、家族みんなが元気になったんです。このカフェへは今の自宅から1時間半もかかるけど、娘が「浪江町に行ってみようかな」と言ったりして、帰れないと思っていた場所が、少しずつ帰れる場所になってきたかなと思います。
さまざまな人がこのカフェに気付き、立ち寄ってくれるので、「みんながこの場所で元気になってもらえたらうれしい」と岡さんはその喜びとともに希望を語りました。
岡さんのコメントを聞いた廣木さんは、その考えに共感しつつ「カフェでもなんでもいいと思うけど、みんなが帰れて、時間を共有できて、誰かと話せてコミュニケーションが取れる場所が絶対に必要だと思う」と考えを述べました。
■被災地の風景を撮ったときの感情を映像に込める
映像はそのときしか撮影できない風景があるという点で、記録としても大きな存在です。その一方で廣木さんは、映像を「感情の記録」と表現します。それはどういった意味なのでしょうか。
廣木:東日本大震災が起きて間もない頃に、福島県、宮城県、岩手県の道に立って風景を眺めたときの説明できない感情が、自分でもわからなくて。決して虚無感や喪失感ではなくて、「なんだろう、この感覚」っていう気持ちのまま、映像を撮りました。のちにその映像を観たら「俺はここで何を考えていたんだ」ということが、やっぱりわからなくて。そこで感じたことしか撮れてないんですよ。変な説明とか映画の文法的なことは撮ってないんだけど、興味があることでもなく、ただぼうっと風景を撮って残すことも映画の役割かなと思いました。
重松:今後、映画監督としてどうこの震災と向き合おうと考えますか?
廣木:きっと、その被災地の風景を撮ったときの感情を、いろんな映画のなかに込めていくような気がします。
■人が集まる場所をちゃんと見つけられたら
最後に廣木さんは、同郷・福島の人に向けて「あまり福島にこだわらなくていい」と、その思いを語りました。
廣木:ちゃんと自分たちが見つけられるのであれば、違う場所でもあとあとは故郷になるだろうと思う一方で、逆に帰る場所として福島の整備は早く進めてほしいですし、そこに帰りたいと思う人が早く帰れたらいいなと思います。
重松:「帰る」という言葉がいちばん切実に重く響いているのは福島のみなさんだと思います。
廣木:そうですね。人が集まる場所をちゃんと見つけられたらいいなと僕自身も思います。
重松は今回の取材を通して、集まる場所、帰る場所など「場の力」「場の尊さ」を実感したと語りました。普段暮らしている場所の尊さを、改めて考えるオンエアとなりました。
【番組情報】
番組名:『Hitachi Systems HEART TO HEART』
放送日時:毎月第3日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/special/hearttoheart/
■被災地に行ったときのショックが作品にも影響
廣木さんは、重松の小説『きみの友だち』(新潮社)を2008年に映画化しています。その作品から10年あまり。廣木さんの故郷・福島県は東日本大震災に見舞われました。
その後、廣木さんは震災で家族や家など大事なものをなくし、大きな喪失感のなかで生きるひとりの女性を主人公にした小説『彼女の人生は間違いじゃない』(河出書房新社)を発表。自らメガホンを取り映画化もしました。
重松:震災後に廣木さんのものづくりの姿勢は大きく変わりましたか?
廣木:そうですね。はじめて被災地に行ったときのショックが非常に大きくて、それをどう表していいかわかからない感情が残っちゃって、それをメモにしていたら小説になり、映画にしたいと思いました。
■帰れないと思っていた場所が、少しずつ帰れる場所に
今回、重松が福島県南相馬市で取材したひとりに、紙芝居で故郷・浪江町の昔話や東日本大震災のこと、原発事故の後の生活などを語り継ぐ活動をしている「浪江まち物語つたえ隊」の岡 洋子さんがいます。
野生動物に荒らされてしまった自宅はもう住めません。そのため浪江町に戻らないという決断をした岡さんですが、昨年、一時帰宅をするときのくつろぎの場として、自宅に隣接する倉庫を改築し、カフェスペースを作りました。
岡:自宅で普通の暮らしができるかというと、今はできません。だから、帰りたいけど帰れない。ときどき帰る場所だけど、ずっと住む場所ではないんじゃないかと、今も複雑な思いがあります。
重松:岡さんが自宅に隣接した倉庫にカフェを作ったのは、どんな理由からですか?
岡:やっぱり浪江町に帰りたいんでしょうね。家族が帰る場所を作りたい、それがこの場所でした。カフェと言っても、商売ではないのでままごとのようなものですけど、みんなが集える場所としてカフェを作ったら、家族みんなが元気になったんです。このカフェへは今の自宅から1時間半もかかるけど、娘が「浪江町に行ってみようかな」と言ったりして、帰れないと思っていた場所が、少しずつ帰れる場所になってきたかなと思います。
さまざまな人がこのカフェに気付き、立ち寄ってくれるので、「みんながこの場所で元気になってもらえたらうれしい」と岡さんはその喜びとともに希望を語りました。
岡さんのコメントを聞いた廣木さんは、その考えに共感しつつ「カフェでもなんでもいいと思うけど、みんなが帰れて、時間を共有できて、誰かと話せてコミュニケーションが取れる場所が絶対に必要だと思う」と考えを述べました。
■被災地の風景を撮ったときの感情を映像に込める
映像はそのときしか撮影できない風景があるという点で、記録としても大きな存在です。その一方で廣木さんは、映像を「感情の記録」と表現します。それはどういった意味なのでしょうか。
廣木:東日本大震災が起きて間もない頃に、福島県、宮城県、岩手県の道に立って風景を眺めたときの説明できない感情が、自分でもわからなくて。決して虚無感や喪失感ではなくて、「なんだろう、この感覚」っていう気持ちのまま、映像を撮りました。のちにその映像を観たら「俺はここで何を考えていたんだ」ということが、やっぱりわからなくて。そこで感じたことしか撮れてないんですよ。変な説明とか映画の文法的なことは撮ってないんだけど、興味があることでもなく、ただぼうっと風景を撮って残すことも映画の役割かなと思いました。
重松:今後、映画監督としてどうこの震災と向き合おうと考えますか?
廣木:きっと、その被災地の風景を撮ったときの感情を、いろんな映画のなかに込めていくような気がします。
■人が集まる場所をちゃんと見つけられたら
最後に廣木さんは、同郷・福島の人に向けて「あまり福島にこだわらなくていい」と、その思いを語りました。
廣木:ちゃんと自分たちが見つけられるのであれば、違う場所でもあとあとは故郷になるだろうと思う一方で、逆に帰る場所として福島の整備は早く進めてほしいですし、そこに帰りたいと思う人が早く帰れたらいいなと思います。
重松:「帰る」という言葉がいちばん切実に重く響いているのは福島のみなさんだと思います。
廣木:そうですね。人が集まる場所をちゃんと見つけられたらいいなと僕自身も思います。
重松は今回の取材を通して、集まる場所、帰る場所など「場の力」「場の尊さ」を実感したと語りました。普段暮らしている場所の尊さを、改めて考えるオンエアとなりました。
【番組情報】
番組名:『Hitachi Systems HEART TO HEART』
放送日時:毎月第3日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/special/hearttoheart/