「政治家は損得でやるものじゃない」石破茂元幹事長、総裁選を振り返る

J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。12月11日(火)のオンエアでは、火曜日のニュース・スーパーバイザーを務める青木 理が登場。ゲストに、自民党の石破茂元幹事長を迎え、自身が出馬した総裁選や、12月10日に終えた臨時国会について伺い、今年の政治を振り返りました。


■「出ない方がお利口」…総裁選を振り返る

今年の政界での大きなニュースの1つといえば、自民党の総裁選です。安倍総理の唯一の対立候補として出馬した石破さんは、国会議員票で大きく差がついたものの、当員票では善戦。「事実上、勝利に等しい善戦だった」という評価もあるほどでした。石破さんご自身は、この総裁選をどう振り返るのでしょうか。

石破:現職の総理大臣と1対1というのは48年ぶりで、佐藤栄作さん対三木武夫さん以来です。いわゆる締め付けと言うのかな、ものすごかったですからね。その中で、党員の方々があれだけ支持してくださったのは、本当にありがたいことでした。国会議員票もあれほど出るとは思ってなかったと思います。でも、それは石破派だけでなく、参議院竹下派や同期の人たちなど、「やらなきゃ」という人たちのおかげです。

世論調査では、安倍政権の支持率は4割程度。高支持率で推移している一方で、アンチと言われる人たちも4割程度いる、という調査もあります。

青木:そう考えると、あの総裁選は、当たり前ですが党員票の方が一般世論に近い。ということは、党員の人たちと比べて、国会議員は世論を読み切れていないのかなと思いました。
石破:「それでもいいんだ」という割り切りはあるのかもしれません。やはり私は、国民世論と国会議員は乖離しちゃいけないと思っています。国会審議も、一生懸命説明するための審議だと思っています。防衛庁長官をやっていたときに、「有事法制」という、かなりすごい法律をやりましたが、最終的に反対したのは、共産党と社民党だけでしたから。やはり、どれだけ多くの人に賛同してもらえるのかが、大事だと思います。「乖離してもいいんだ」と思っているとすれば、それは私の考え方とはズレがあるんでしょう。

青木は、石破さんが「締め付け」という言葉を使ったことを引き合いに出し、「自民党が、かつてのように百家争鳴ではなくなった」という意見に対して疑問を投げかけます。

青木:僕が一定程度納得したのは、「締め付けるのは当たり前じゃないか。これは権力闘争なんだ」と。「勝つためには、ありとあらゆる手段を取るのが権力闘争なんだ。石破は何を甘いことを言ってるんだ」という声もあったと思うのですが、それはどうお考えですか?
石破:「締め付けがけしからん」とか、そんなことを言ったことは一度もないです。確かに権力闘争なんだから、あらゆる手を使うでしょう。それで(党員票が)45%も出たので、「なるほどね」と言っているだけです。権力闘争で締め付けをするのは、ある意味当然。命を取られないだけいい、と思います。

「次も出馬するんですか?」という質問には、「そのとき何がどうなっているか、わからないです」と答えた石破さん。さらに「損得だけで言えば、今回だって出ない方がお利口さん」と続けます。

石破:この仕事って損とか得でやるものじゃないんで。政治家として、「やらなきゃいけない」と決断しなきゃいけない状況であれば、損得を考えちゃいかんという話だと思います。


■総選挙はどういう意味を持つものなのか?

「やらなきゃいけない」と、総裁選に出馬した思いを明かした石破さん。そう思わせた理由は何だったのでしょうか。続けて青木は、「日本政治の今の問題点」を訊きました。

石破:それは国民世論と政治が乖離するのはよくないということです。少なくとも選挙をやってみないとわからない。世論調査は正確ではあるかもしれませんが、バイアスがかかるなど、さまざまなことが言えます。設問の仕方によって、答えが振れるわけです。しかし、選挙はそうではありません。選挙をおこなうことによって、国民・自民党はどう考えているのかを問うていくことは、民主主義にとって大事なことだと思っています。3年前もなかったわけですから、6年間も聞いていなかったことになるわけです。衆議院選挙や参議院選挙とは違った意味合いを持つのが、自民党総選挙だと思います。

当初、「正直、公正」をキャッチフレーズとして掲げていた石破さんですが、人格攻撃では、と批判の声も挙がりました。また、安倍政権を批判する人たちにとってはビッグ・イシューだった森友学園や加計学園問題について、石破さんは総裁選後半でトーンを落としてきたと青木は振り返ります。これは自民党内の個人攻撃に配慮した結果なのでしょうか。

石破:なかったとは言えません。旗幟鮮明にして石破を応援するといった声があるなかで、政治姿勢も大事ですが、より政策的なもの、憲法や経済政策にウェイトを置くべきではないかとの声もありました。私を応援してくれる方の中から出てきた声というわけです。それでなくとも、あの状況で私を応援することは大変なことですから。その人たちの「もっと政策に絞ったほうがいいのではないか」との意見は、私に大きな影響を与えましたね。


■ものを言う政治家が少ない

今国会では、国民世論を二分する、日本の将来の社会像を大きく変えうるような法案、入管難民法の改正案や水道法・漁業法などが、ほかに重要な法案があるにもかかわらず成立しました。これに批判の目もありますが、今国会に出席してきた石破さんはどう考えているのでしょうか。

石破:それは、急がなくてはいけない理由はそれぞれあるのだと思います。入管法にしても、このままいけば働く人がどんどんいなくなる。地方ではそれが深刻です。深刻であればあるほど、多くの国民に支持される。法案さえ通ればいいのではなく、「そうだよね」と納得してもらえる人をどれだけ増やすのかが大事だと思います。そのためには極めて時間が厳しいため、山下法務大臣でも与えられたミッションをこなすために精一杯やっているわけですね。だとすると、法案が成立しても、問題はそこから先で、「法案は通っちゃったからもういいや」というわけにはならないわけです。通ったら、世の中の関心はあっという間に下がってしまい、次の関心に移ってしまう。我々として政府与党として、通ったからこれでいいわけではない。具体決議をつくわけですが、つけてみただけではなく、どのように実行されたか、その発信は我々の責任だと思います。
青木:この国会で、時間がない、急ぐ政策なんだという前提を認めたとしても、この国会できちんと議論できたのではないか。例えば、参議院できちんと議論されはじめたときに、自民党の委員会で自民党の議員が質問時間を1時間も残してやめてしまう。通すという前提だとしても、この1時間を使って、もっと丁寧に質問をして、きちんと政府側からいろいろな答えを引き出すことは、最低限の務めだと思いますが、それすらしなかった。この国会は一体何なのかと思ってしまいます。
石破:与党質問というのは、野党が訊くであろうことを先取りして、そこを政府に説明させる。メリットはもちろんですが、賛成する人とっては、問題点や懸念点として指摘されていることはあまり関心のないことです。(入管難民法の改正案は)今の実習生制度とどういう関係なのか。ドイツや韓国がやっているように、きちんとした語学教育は行われるのか、悪質ブローカーは排除されるのか。多くの人が思う懸念事項を、我々は政府与党であるから「こうすべきじゃないか」ということをやっていく。それを受けて野党がやっていく。与党質問のあり方は、むしろそうあるべきではないかと思っています。
青木:国会は国権の最高機関であり、唯一の立法機関です。そして、三権分立で行政府をチェックする役割を持つわけで、今回の入管難民法のもう一つの問題点は、奨励という形で行政府に丸投げするようなことがある。日本語教育や社会統合、悪質ブローカーの排除などはこれからやれることではありますが、丸投げをしてしまうという立法府の有り様、まるで政権の下請け機関という状況をどんな風にご覧になっていますか?
石破:与党内でさまざまな議論があるのは大事なことだと思っています。私は大臣を降りた時、総務会のメンバーだったことがありますが、自民党のいろんな会議があるなかで、私や村上誠一郎さんなど何人かは発言し、あとは沈黙してしまう。ものを言うと損だというところがあるとすれば、それはまずいと思います。憲法の議論でもそうですが、私が意見を述べたあとに「そうだ!」という方はいません。
青木:最近、OBの政治家と話す機会があるのですが、皆さん嘆いていらっしゃいます。かつては閣議でも自民党のなかでも喧々諤々の議論があったが、今はないと。明らかに議論が減ったということで、選挙制度の問題は大きいと思います。選挙制度を改めて見直すべきではないかとの議論もありますが、石破さんはどうお考えですか。
石破:私は小選挙区制導入に体を張ったほうで、そのときに「こんなことをすればものを言わない議員ばかりになる」との指摘は、小泉純一郎さんはしていました。我々は「そんなことはない。間違っていることは間違っているんだと、自分の有権者に対して説明できればいい」と反論しましたが、なかなか理想通りにいっていません。では、中選挙区制のように、どれだけ地元に帰り、地元の利益を実現したかで当落が決まるのもいかがなものかと思います。ですので、国会議員たちが、自分たちは有権者に対してきちんと責任を負うんだ、有権者にたいして誠実であるんだというのが原点だと思います。党の公認がなければ絶対に落選する。そうではないと思います。


■今回の臨時国会は「もったいなかった」

12月10日に会期を終えた、第197回臨時国会。片山さつき地方創生大臣の政治資金収支報告書の相次ぐ訂正や、著書の宣伝看板を巡る公職選挙法違反の疑い、桜田義孝サイバーセキュリティ・五輪担当大臣の失言などが話題になりました。

石破:もったいなかったですよね。
青木:もったいない?
石破:予算委員会があの話題で終わってしまった、というのは、ものすごくもったいなかった。北朝鮮の問題、米中貿易摩擦の問題、人口急減、地方創生、予算委員会ってそういう議論をすべき場所だと思うんです。それが、看板がどうした、パソコンがどうしたのこうしたの(桜田大臣の失言に関わる話題)。そのための委員会じゃないでしょと。そういう意味でもったいなかったと思います。

さらに、「あの手の話は別の委員会でやってよ」とも話します。

石破:やっぱり予算委員会なんだから、予算の執行状況について議論するのであって。予算と関係のないものなんか無いんだけど。国の基本方針、そのための予算配分はどうなんだという話を、国民に関心を持って見てもらう。大臣のそういう話が出るたびに、嫌気が差している人が多かったように思います。

青木は「『野党も野党で、大臣の資質みたいなところばかり突いてくる』という意見には、一部同意する」としながらも、「こういう方を大臣につけてしまうという任命責任もそうですし、果たして片山さん、桜田さんは適材適所だったのか」と、与党に対して指摘します。

石破:与党の中で意見が出ないとおかしいと思います。我々は、与党の一員であるだけに、「おかしいんじゃないの?」って言う義務があると思う。「言っちゃうと災いがある。そうすると選挙区に申し訳がない」みたいな心理があって、そこは割り切りだと思うんです。干されるとか色んなことがあったとしても「それがどうした」という気概が必要かもしれないです。
青木:それが本来、政治家が守らなくちゃいけない教示であるはずですけどね。

万が一、干されたような状況になったとしても「人がどんな人なのか、あるいは自分に足りないものは何なのか、っていうのをきちんと見極める。そういうときだと思わないとやってられないです」と政治家としての姿勢を語りました。

明日12日(水)の放送では、パレスチナを訪問し難民キャンプを含めた3箇所でライブを行ったヴァイオリニストのSUGIZOさんをゲストに迎えます。社会的な問題に積極的に関わる理由について伺います。お聴き逃しなく!

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld

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