文科省前事務次官・前川喜平が夜間中学でボランティアをする理由

J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。7月31日(火)のオンエアでは、火曜日のニュース・スーパーバイザーを務める青木 理が登場。文部科学省(以下「文科省」)前事務次官の前川喜平さんをゲストに迎え、前川さんの著書『面従腹背』について、また夜間中学でボランティアをする理由について伺いました。


■面従腹背な行動を取らざるを得なかった役人人生

前川さんは6月に著書『面従腹背』(毎日新聞出版)を出版されました。「面従腹背」とは、「表面だけは服従するように見せかけて、内心では反対すること」です。

青木:前川さんがこのタイトルにした理由は、官僚としての生き方として面従腹背が大切だったからですか。
前川:大切というよりも、面従腹背な行動パターンを取らざるを得なかった役人人生だったということです。政治主導自体は正しいと思っていますが、政治家が命じることが常に正しく妥当性があるとは言えない、公正公平だとも言えないわけです。その場合、できる限りの是正をそれぞれの役人の立場でできますが、それができない時には従ったふりをするしかない場合もあるわけです。

これを受け、青木は「選挙で選ばれている人たち(政治家)に対して面従腹背するのはおかしい。面従服従すべきなのでは」と思う人も多いのではないかと質問します。

前川:その通りだと思います。ただ、代議制と多数決原理は万能ではないとも思います。それだけによりかかると、誤った方向に社会全体が進んでしまうことが起こり得ることも。それを規制するのが立憲主義であり、憲法や法に則って仕事をする仕組みができているかが大事だと思います。選挙で選ばれた人が多数を占めていれば何でもできるかと言えば、そんなことはありません。そこに、それぞれ行政分野ごとのあり方がある。その行政のあり方を実際にいちばんよく知っているのが官僚だと思います。ですので、政治家と官僚の間には一種の緊張関係がなくてはいけないと思っています。


■夜間中学でボランティアする理由

現在、前川さんはボランティアとして夜間中学で教えています。

前川:夜間中学に関しては、旧文部省、文科省を通じて非常に冷淡な態度をとり続けてきました。あえて潰そうとはしないまでも、何の支援もしない状況でした。
青木:一時は本当に潰れる寸前までいきましたよね。
前川:はい。1966年に当時の行政管理庁が夜間中学の早期廃止勧告を出し、当時の文部省も本気で潰そうとしたことがありました。しかし、潰れなかった。「夜間中学で学びたい」という人たちが声をあげたんです。そこで、1970年頃を境にまた増えたことがありました。

前川さんは、本流である制度のなかで、うまく保障されなかった“学ぶ権利”を保障するセーフティーネットのような役割を果たしてきた夜間中学を、文科省はほったらかしにしてきたと指摘します。

前川:そもそも文科省は、人権を保障する意識が希薄なんですよね。戦前の「国のために勉強させるんだ」という考え方がまだ残っています。本来、各人が持っている学ぶ権利を保障するのが文科省なり教育行政の使命のはずが、そういう考え方にはっきり転換しきれていない気がします。

現在、夜間中学には、差別や偏見、貧困のために学校に行けなかった人や、在日コリアン、中国からの引き上げ者やその家族、それ以外の「ニューカマー」と呼ばれる、新たに日本にやってきた中国、韓国、ベトナム、タイ、フィリピン、ネパールなどの外国人たちが通っています。

「公立の夜間中学は全国に31校あり、1800人ほどの生徒がいます。そのうちの7割が本国で十分な基礎教育を受けないまま日本に来たニューカマーで、彼らは夜間中学でまず日本語を学んだ後、各教科の勉強をしています」と前川さんは説明します。

前川:これから増えていくのは、不登校を経験した人たちです。3年前まで文科省は「不登校のまま卒業してしまった人は、卒業証書をもらっているので夜間中学に入れない」というスタンスでした。しかし、これは法律的な根拠があるわけではないんですよね。
青木:前川さんが、文科省を辞めたあとに夜間中学でボランティアをすることは、罪滅ぼしのようなことがあるということですか?
前川:文科省が今まで夜間中学に冷淡で、私は文科省の事務方トップでした。これから夜間中学を全国に作っていくという動きを文科省が進めようとしています。それを私も一緒に後押ししたいと思っています。

関東だと、埼玉県では県内初の公立夜間中学が来年4月に開校されます。千葉県でも同月、松戸市に2校目が開校予定。今後どのような広がりを見せていくか、注目してみてください。

【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld

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