J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー『UP CLOSE』。4月16日(月)のオンエアでは、月曜日のニュース・スーパーバイザー、津田大介が登場。作家・思想家の東 浩紀さんをお迎えし、マンガや雑誌などを許可なくアップロードする「海賊版サイト」の政府によるブロッキング要請の是非について話しました。
先日、政府がマンガや雑誌の読める海賊版サイトによる著作権侵害を防ぐために、緊急対策を決めました。具体的には、マンガ、アニメが許可なくアップロードされている「漫画村」「AniTube」といったサイトを対象に、プロバイダーに対して、ユーザーがアクセスできないように要請をしたのです。海賊版サイトによる著作権侵害が深刻な問題である一方で、「通信の秘密や知る権利を侵害するのではないか」「議会承認や具体的な方策も示さず政府の一存で進めるのは危険だ」などの反対意見があり、議論になりました。
「漫画村」は17日ごろから接続できなくなり、運営側が自ら閉鎖したのではと報じられていますが、同様の問題は今後も起こるかもしれません。サイトブロッキングの是非や、漫画村がここまで広まってしまった原因を、東さんに伺いました。
東:僕は、サイトブロッキングは「条件付きで容認してもよい」と思っています。その条件というのは、海賊版サイトをブロッキングしたとして、出版社やコンテンツ企業が「将来、自分たちはどういう形でユーザーの要望に答えていくか」を考える、ということ。なぜ「漫画村」にアクセスが集中したのかという理由のひとつに、出版社を横断する定額課金システムのサービスを、日本の出版社が全く開発してこなかったことがあります。今から1年半前にAmazon Kindleの読み放題が出たときに、マンガばかりが読まれて、巨額の分配金を巡って一部出版社とアマゾンで係争が起きました。だから「定額課金モデルでマンガを読む」というニーズがあることは明らかだったんです。ところが日本の出版社はそちらに全く踏み出さなかった。結果、便利なサービスとして「漫画村」が広がったというのはあると思うんです。
津田:これは、かつて音楽業界で起きたことですよね。1999年にNapsterが登場したとき、定額の聴き放題の音楽サービスがほしいとみんなが思っていたにも関わらず、音楽業界がずっと止めていて、10年ぐらい経ってSpotifyが出て、音楽業界はそのモデルにしかならなかったという。
東:タダだから見る側面もあると思いますが、それ以上に利便性が高い。利便性の高いサービスを日本の出版社が開発してこず、そこを突かれてしまったので、改善プランやビジョンがないと緊急避難にはならないと思います。
津田:緊急避難であれば、ユーザーニーズを汲み取ったビジネスモデルを同時にやらないと認めにくいということですね。
東さんは、ブロッキングを導入するコンテンツ業界のロビイングのプロセスにも問題があるのではと指摘します。
東:ブロッキングについては、児童ポルノのときも導入について多くの議論がありました。一部業者の要望に応じてこのブロッキングの範囲が安易に拡大しないように、保証なり説明も必要だと思います。今回は一部の出版社、コンテンツ業界の方々がかなり強引なロビイングによって性急に導入しました。しかも情報公開も、知財本部での重要な議事録は非公開にされていて、水面下で進められていた。毎日新聞が報じていなければ、ほとんど抜き打ちのように決まっていたんです。
このコンテンツ業界の動きがよくなかったと東さんは考えます。
東:この動きで逆にサイトブロッキングが悪のシンボルになってしまい、突然サイトブロッキング反対世論がネットで高まったところがある。でも僕がここで思うのは、みんな「サイトブロッキングは悪だ」と言って急に情報を集めて議論するのであれば、マンガを作っている人たちが苦しんでいるときに、もっと調べれはよかったじゃないですか。そこはやらずに、「サイトブロッキングという巨悪が出てきた」と騒ぎ出す。議員さんも「調べてみたら慎重にならなければいけないことがわかりました」と手の平を返していて、これもどうかなと。問題の本質は、まず海賊版サイトはよくない。でもなんでこういうことが起きたかといえば、日本の出版業界にも、サービスを十分に開発していなかったという能力不足の部分はあったと思うんです。その部分を率直に認め、海賊版サイトを潰す代わりに合法で便利なサービスを読者に提供していく、それがコンテンツ業界の責務なのかなと思います。
津田:僕も「漫画村」は一刻も早く何らかの対処をするべきという立場です。一方で、なぜ議論もせず、拙速に一部で決めてしまったのか、そのプロセスが非公開だった問題もあると思います。財産権は大事ですけど、一部の業界の財産権を守るために、他の憲法で重要になるものとの比較考慮を考えたときに、それを侵す可能性があるやり方でやっていいのかと。(ブロッキングを)反対している人の多くも「漫画村」には賛成していないので、法整備をどうするのかが問われていると思うんですよね。
東:全くそのとおりで、今回の一部のコンテンツ業界でロビイングした方々は、性急にやろうとし、ネットに情報公開してもいろんな一般の市民が文句をつけてくるだけなので情報公開する必要がないという意見を書かれた方もいましたが、そういう発想で進めた結果、逆に反発を買って、彼らの目的は実現しなくなっているので、率直に「今回のやり方では人々はついてこない」と反省していただいて、次回からは丁寧な説明をしていただきたいと思いますね。
トーク後半では、「市民社会が海賊版サイトを許さない意思や、子どもに対して親の指導が必要」という意見や、「政府の対策が発表されてから急に海賊版サイト問題を報じるメディアの報道姿勢」などについても話が及びました。
さらに東さんはマンガというメディアが抱える根本的な問題について、「漫画の値段と消費のされ方の祖語ですよね。読むのに時間がかかる活字と、あっという間に何巻も読めるマンガは消費のされ方が違う。デジタルになりそれがさらに顕在化しましたが、これはブックオフやマンガ喫茶のときから続いている根が深い問題で、今の価格設定でよいのかということはもっと根本から考えなければならない」と指摘しました。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
先日、政府がマンガや雑誌の読める海賊版サイトによる著作権侵害を防ぐために、緊急対策を決めました。具体的には、マンガ、アニメが許可なくアップロードされている「漫画村」「AniTube」といったサイトを対象に、プロバイダーに対して、ユーザーがアクセスできないように要請をしたのです。海賊版サイトによる著作権侵害が深刻な問題である一方で、「通信の秘密や知る権利を侵害するのではないか」「議会承認や具体的な方策も示さず政府の一存で進めるのは危険だ」などの反対意見があり、議論になりました。
「漫画村」は17日ごろから接続できなくなり、運営側が自ら閉鎖したのではと報じられていますが、同様の問題は今後も起こるかもしれません。サイトブロッキングの是非や、漫画村がここまで広まってしまった原因を、東さんに伺いました。
東:僕は、サイトブロッキングは「条件付きで容認してもよい」と思っています。その条件というのは、海賊版サイトをブロッキングしたとして、出版社やコンテンツ企業が「将来、自分たちはどういう形でユーザーの要望に答えていくか」を考える、ということ。なぜ「漫画村」にアクセスが集中したのかという理由のひとつに、出版社を横断する定額課金システムのサービスを、日本の出版社が全く開発してこなかったことがあります。今から1年半前にAmazon Kindleの読み放題が出たときに、マンガばかりが読まれて、巨額の分配金を巡って一部出版社とアマゾンで係争が起きました。だから「定額課金モデルでマンガを読む」というニーズがあることは明らかだったんです。ところが日本の出版社はそちらに全く踏み出さなかった。結果、便利なサービスとして「漫画村」が広がったというのはあると思うんです。
津田:これは、かつて音楽業界で起きたことですよね。1999年にNapsterが登場したとき、定額の聴き放題の音楽サービスがほしいとみんなが思っていたにも関わらず、音楽業界がずっと止めていて、10年ぐらい経ってSpotifyが出て、音楽業界はそのモデルにしかならなかったという。
東:タダだから見る側面もあると思いますが、それ以上に利便性が高い。利便性の高いサービスを日本の出版社が開発してこず、そこを突かれてしまったので、改善プランやビジョンがないと緊急避難にはならないと思います。
津田:緊急避難であれば、ユーザーニーズを汲み取ったビジネスモデルを同時にやらないと認めにくいということですね。
東さんは、ブロッキングを導入するコンテンツ業界のロビイングのプロセスにも問題があるのではと指摘します。
東:ブロッキングについては、児童ポルノのときも導入について多くの議論がありました。一部業者の要望に応じてこのブロッキングの範囲が安易に拡大しないように、保証なり説明も必要だと思います。今回は一部の出版社、コンテンツ業界の方々がかなり強引なロビイングによって性急に導入しました。しかも情報公開も、知財本部での重要な議事録は非公開にされていて、水面下で進められていた。毎日新聞が報じていなければ、ほとんど抜き打ちのように決まっていたんです。
このコンテンツ業界の動きがよくなかったと東さんは考えます。
東:この動きで逆にサイトブロッキングが悪のシンボルになってしまい、突然サイトブロッキング反対世論がネットで高まったところがある。でも僕がここで思うのは、みんな「サイトブロッキングは悪だ」と言って急に情報を集めて議論するのであれば、マンガを作っている人たちが苦しんでいるときに、もっと調べれはよかったじゃないですか。そこはやらずに、「サイトブロッキングという巨悪が出てきた」と騒ぎ出す。議員さんも「調べてみたら慎重にならなければいけないことがわかりました」と手の平を返していて、これもどうかなと。問題の本質は、まず海賊版サイトはよくない。でもなんでこういうことが起きたかといえば、日本の出版業界にも、サービスを十分に開発していなかったという能力不足の部分はあったと思うんです。その部分を率直に認め、海賊版サイトを潰す代わりに合法で便利なサービスを読者に提供していく、それがコンテンツ業界の責務なのかなと思います。
津田:僕も「漫画村」は一刻も早く何らかの対処をするべきという立場です。一方で、なぜ議論もせず、拙速に一部で決めてしまったのか、そのプロセスが非公開だった問題もあると思います。財産権は大事ですけど、一部の業界の財産権を守るために、他の憲法で重要になるものとの比較考慮を考えたときに、それを侵す可能性があるやり方でやっていいのかと。(ブロッキングを)反対している人の多くも「漫画村」には賛成していないので、法整備をどうするのかが問われていると思うんですよね。
東:全くそのとおりで、今回の一部のコンテンツ業界でロビイングした方々は、性急にやろうとし、ネットに情報公開してもいろんな一般の市民が文句をつけてくるだけなので情報公開する必要がないという意見を書かれた方もいましたが、そういう発想で進めた結果、逆に反発を買って、彼らの目的は実現しなくなっているので、率直に「今回のやり方では人々はついてこない」と反省していただいて、次回からは丁寧な説明をしていただきたいと思いますね。
トーク後半では、「市民社会が海賊版サイトを許さない意思や、子どもに対して親の指導が必要」という意見や、「政府の対策が発表されてから急に海賊版サイト問題を報じるメディアの報道姿勢」などについても話が及びました。
さらに東さんはマンガというメディアが抱える根本的な問題について、「漫画の値段と消費のされ方の祖語ですよね。読むのに時間がかかる活字と、あっという間に何巻も読めるマンガは消費のされ方が違う。デジタルになりそれがさらに顕在化しましたが、これはブックオフやマンガ喫茶のときから続いている根が深い問題で、今の価格設定でよいのかということはもっと根本から考えなければならない」と指摘しました。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/