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「そのコンプレックスは、誰につくらされたものか」アイドル現場から見えた女性の健康問題【振付演出家・竹中夏海】

「そのコンプレックスは、誰につくらされたものか」アイドル現場から見えた女性の健康問題【振付演出家・竹中夏海】

振付演出家の竹中夏海が、アイドル業界の健康課題について語った。

竹中が登場したのは、2月27日(金)放送のJ-WAVE『START LINE』(ナビゲーター:長谷川ミラ)の「meiji FUTURE IS OURS」。次世代に残したいモノ、コトに関する話題をきっかけに、私たちのよりよい未来について考えるコーナーだ。

「アイドルの健康課題」をテーマにした著書を刊行

竹中夏海は日本女子体育大学ダンス学科を卒業後、2009年より振付師として活動。さまざまなアーティスト、タレント、アイドルなどの振付を担当するほか、2021年には著書『アイドル保健体育』(CDジャーナルムック)を発表。アイドルの労働環境や健康問題について発信している。さらに、2025年からはエンタメ産業カウンセラーとしても活躍中だ。

長谷川:振付演出家でありながら著書やコラムの執筆もされていますが、アイドル業界の健康問題について発信するようになったきっかけを教えてください。

竹中:12〜13年前のことなんですけど、当時、教え子たちから生理について相談を受けることがとても多くて。そのころは低用量ピルが今ほど浸透していなくて、月経が重い場合に服用するという知識も、まだあまり知られていなかったんですね。彼女たちの周りでは、それを服用しているのが私くらいだったこともあり、教え子だけでなく、その友だちの別のアイドルの子からも相談されるようになったんです。答える以上、適当なことは言えないと思いましたし、きちんとした知識が必要だと感じたんですね。それが最初のきっかけです。

長谷川:2010年代にすでに低用量ピルを服用されていたというのは、かなり早い段階だったと思います。差し支えなければ、ご自身はどういったきっかけで使い始めたのでしょうか。

竹中:私自身も、中学、高校、大学のころまでずっと月経が重くて。でも若いころって、婦人科に行こうという発想になかなかならないですよね。社会人になってから、仕事に支障が出始めて、「これはまずいな」と思って婦人科に行ったんです。そこで低用量ピルの存在を教えてもらって、試しに飲んでみようかなと。正直に言うと、経血の量も痛みもすごく減って、びっくりしました。逆に「これって大丈夫なんですか?」と先生に聞いたくらいです。でも、先生からは「今までが、つらすぎただけ」と説明してもらいました。一方で、当時は彼女たちのお母さんの世代はピルに対してかなり誤解や偏見もあって、そのことを相談しても反対されるケースがあったんですね。

竹中は専門家の話と、現場や周囲に広がる認識とのあいだには、大きなギャップがあると強く感じていたという。そうした状況のなかで、自身は専門家ではないにもかかわらず、「この子たちに本当に話してよいのだろうか」という迷いも抱えていた。生理の問題に限らず、さまざまな事柄について、きちんと専門家の意見を聞く必要があると考えるようになったことが、行動の転機となったと語る。

女性の健康課題を「自分ごと」として考える

竹中は、著書『アイドル保健体育』では現場レベルで感じてきた問題意識を出発点に、各分野の専門家に話を聞いていく構成を重視したという。

長谷川:『アイドル保健体育』では、月経困難症や摂食障害、性教育、体づくりなど、アイドルの健康課題を幅広く扱っています。セミナーで直接伝えることと、書籍として出版することでは、意味合いも違うと思います。その意図はどこにあったのでしょうか。

竹中:「自分ごととして捉えてほしい」という想いがありました。生理のない人や、周りにそういう話題がなくてピンとこない人でも、「推しの健康」だったら少し学んでみようと思えるきっかけになるんじゃないか、と思ったんですね。

長谷川:たしかに、月経についてカジュアルに話せる時代では、長いあいだなかったですよね。

竹中:本当に2020年代に入ってから、急激に健康課題が可視化されてきた印象があります。それまではタブー視されていて、「話さないこと」「見ないこと」がマナーのように扱われてきた部分もありました。

長谷川:私自身も、当時は月経が本当につらくて。風邪では学校を休まないけど、月経がつらすぎて早退はOK、みたいなタイプでした。たまたま学生時代に芸能活動をしていたことで、女優の先輩から「ピルって知ってる?」と教えてもらい、母からも婦人科を勧められて受診したんです。もし、学生同士だけで話していたら、答えにたどり着けなかったかもしれない状況だったのが、少し世界の違う“お姉さん”の話を聞けたことで解決につながったし、情報の幅の大切さを実感しました。女性の健康問題は、社会全体で少しずつ変わってきていますが、もっと認知されてほしいと思っています。

人は「ルール」より「ムード」に弱い?

竹中が『アイドル保健体育』を出版したのは2021年だが、企画や執筆を始めたのは2019年から2020年ごろだったという。当時を振り返り、女性の健康問題がカジュアルに話せる空気がようやく生まれ始めていたと話す。

竹中:私がいつも思っていることがあって、それは「人はルールよりもムードに弱い」ということ。それが自分のなかで大切にしている考え方です。いい面も悪い面もあるんですけど。主語が大きくなってしまいますが、日本人ってルールよりもムードに流されがち、という部分があって。じゃあ、ムードをつくっていけばいいんじゃないかって。ひとりで何か大きな何かを動かすことはできないけれど、ムードづくりの一端を担うことはできるんじゃないかと思っていて。そのムードづくりができ始めたのが、ここ数年かなと思います。

長谷川:(日本人には)ルールを守る国民性があるようにも思えますが、その点についてはどうでしょう。

竹中:世界的に見れば、たしかにルールを守る国民性ではあると思います。ただ、「興味を持つ」という部分は、ルールだけでは限界があるとも感じています。まずムードが生まれて、声が集まり、そのあとにルールが敷かれる、という順番もありますよね。

長谷川:今の若者はSNSが身近すぎるがゆえに、マイナスな情報も受け取りやすい状況にあると思います。著書のなかでも触れられている摂食障害を抱えるアイドルの問題もそうですし、たとえばK-POPの世界でも、ヘルニアの治療薬の影響で体重が増えたケースや、その逆もあります。それを見たファンのなかには、「アイドルだから」と切り分けられる人もいれば、「ああなりたい」と過度に影響を受けてしまう人もいる。この現状をどう感じていて、どんな警鐘を鳴らしたいと考えていますか。

竹中:今は、コンプレックスを解消するための手段が本当に増えましたよね。メイクやファッション、整形もそうですし、加工という手段もありますよね。「それについてどう思いますか」とざっくり聞かれることも多いんですが、コンプレックスを解消する手段がたくさんあること自体は、私は悪いことだとは思っていません。ただ同時に、「そのコンプレックスは、誰につくらされたものなのか」という視点も発信していきたいと思っています。痩せたいという気持ち自体が悪いわけではない。でも、「痩せなきゃダメ」と思わされているとしたら、それは誰によってなのか。社会がそういう設計になっている、ということもセットで伝えるようにしています。

選択を手助けするのは「正しい知識」

「ルッキズム」「エイジズム」「ボディポジティブ」「ボディニュートラル」といった言葉が語られ、さまざまな価値観が可視化されていること自体はとてもよいことだと捉えている、と竹中は語る。一方で、細さや特定の美の基準を満たした演者が、依然として多く目に触れる状況が続いているのも事実である。

竹中:人はどうしても、自分が受け取りたい情報だけを選んで受け取っちゃうじゃないですか。だからこそ、今は価値観が揺れ動く過渡期であり、状況は二極化しているなと感じます。最終的には、「何を選択するか」が大切かなと。そして、選択するうえで大切になってくるのは、読書や性教育、知識や教養だと思います。

長谷川:見る側のリテラシーも大切ですよね。「かわいいね」「細いね」「顔が小さいね」と、無意識に言ってしまう言葉。自分では褒め言葉のつもりでも、相手にとっては苦しさになることもあるし、それが積み重なって社会の声になっている現状もあると思います。それは一つひとつ、私たちが意識していきたいところですよね。

竹中:そうなんですよね。私はエンタメの力を信じているからこそ、「勉強しよう」と前に出すのではなく、エンタメにのせて、自然に学べる構造をつくっていきたいです。

竹中夏海の最新情報はホリプロの公式サイトまで。

J-WAVE『START LINE』のコーナー「meiji FUTURE IS OURS」では、次世代に残したいモノ、コトに関する話題をきっかけに、私たちのよりよい未来について考える。放送は毎週金曜の18時10分ごろから。

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