燃え殻が「アイデアの出し惜しみをしない」理由とは? 創作の姿勢を、いきものがかり・水野良樹が聞く

作家の燃え殻と、いきものがかり・水野良樹がJ-WAVEで対談。燃え殻が、作家になったきっかけや、制作で意識していることなどを語った。

燃え殻が登場したのは、5月17日(土)放送のJ-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』(ナビゲーター:水野良樹)。“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、ものづくりの原点を探求する番組だ。なお、番組は、Spotifyなどで、ポッドキャストでも聴くことができる。

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「文章を書くきっかけ」はTwitter

作家の燃え殻は、小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』や、エッセイ『すべて忘れてしまうから』などで知られ、その独特な視点と繊細な言葉で多くの読者を魅了し続けている。4月25日(金)には、自身初の長編エッセイ集『この味もまたいつか恋しくなる』(主婦と生活社)が発売された。また、J-WAVEで毎週金曜深夜に放送中の『BEFORE DAWN』のナビゲーターも務めている。

まず、水野は燃え殻に、現在のクリエイティブの原点となる「文章を書くきっかけ」について訊いた。

燃え殻:X(当時はTwitter)です。いまみたいにいろんな人が毎日ケンカする前の牧歌的なときに、僕はテレビの美術制作の仕事をしてたんです。そのときに、お客さんが「Twitterというのがあって、それで会議の場所とかをアナウンスするから」みたいな話をしたんですよ。たぶん、新しいもの好きのお客さんで。「会議室Aを取りました」とかをつぶやいて。

水野:Twitterを連絡で使っていた時代ですね(笑)。

燃え殻:そこでなんとなくラジオのメッセージ投稿みたいな感じで、何気ない、もう宛先がない感じのものをつぶやき始めて。お客さんとかも見てるので、あんまり変なことも言えないぞと。でも、まあ、お客さんが喜んでくれたらこれも営業活動のひとつなのではないか、ぐらいの。

水野:いちおう意識する気持ちはあったんですね。

燃え殻:もちろんです(笑)。誰かがたまにいろいろと投稿について言ってくれたりして、それがすごく楽しかったんですね。そこからだんだん始まって「小説書いてみないか」って言われたんです。

燃え殻の投稿が、他と違って心をつかんだのは、なぜだったのだろうか。

燃え殻:僕は、今日あったことを140字でどうやって起承転結つけようかなって思ったんですよ。他の人はひと言一発ネタみたいなの書いてあって。そういういろんな人たちがいるなかで、僕はなんとなく文章っぽいものが好きだったんです。深夜ラジオとかで投稿するのが好きだったりもしたので、その気分を久しぶりに思い出しちゃって、「そういうの楽しいかもしれない」って。

水野:その(ラジオの)フォーマットみたいなものが、ご自身のなかですごく自然だったんですか。

燃え殻:まったく同じ感覚でした。海に向かって瓶を投げるみたいな。誰に届くかわからないんですよ。それを読んでくれた人が「おもしろい」って言ってくれることが、うれしくてたまらなかったんですよね。そのあと、新潮社の編集の人が突然メッセージくれて、「書きませんか?」って言われたんです。でも、当時、僕はあんまり本読みでもなかったので「いやいや……」みたいなことを言って2年ぐらい置いてしまったんですけど。そのあとに『cakes』というメディアで縁あって連載をすることになり、「これを1冊の本にしましょう」って話になったときに「どこがいいですか?」って言われて。「じゃあ、2年前に僕に声をかけてくれた人がいたな」と思って。で、僕のほうから連絡したんです。

水野:すごい。

燃え殻:その人は、もう文芸じゃないところに異動していたんですけど、「すみません。僕の本だけ作ってもらえませんか」って言って実現しました。

全部出し切った人間だけに、次のチャンスが来る

水野は、燃え殻の作品を通じて、たとえ多少の虚構を交えたとしても、自身の過去や経験をもとに物事を書くという行為そのものに強い関心があると語る。

水野:新刊の『この味もまたいつか恋しくなる』もそうだと感じていて。燃え殻さんって、常にご自身の過去だったり体験というものが昇華されていく。ずっと他者の視点を受け続けながら、でも、僕からするとどこかひょうひょうと「まあ、しょうがないしな」って言いながら、ずっと書き続けている印象があるんです。どうしてそれができるんだろうって。

燃え殻:僕、いま、渋谷あたりに住んでいて。小説を書き始めたんですけど、主人公が渋谷に住んでるんです。自分のことからしかジャンプできなくて、それでいいような気がしてるんですよね。でも「これを書いて全部アイデア使っちゃったらどうしよう」とかも思うんです。そのときに、昔なんかの雑誌で読んだんですけど、「いま思っているアイデアを全部書いた人間しか次のチャンスはない」って書いてあったんですよ。

水野:すごい格言。

燃え殻:「わっ」って思って。仕事しているとき「こういうふうに言おうかな。でも、これいま言ったらもったいないな」って思ってたときに、「いやいや、これが最後かもしれないし、この人と出会うのが最後かもしれないし、自分として仕事のオファーがあるのも最後かもしれないから。これ全力でアクセル踏み込んでいこう」って。そうしたら「じゃあ、このあいだのあれ、おもしろかったね。でさ、次は何やってくれるの?」っていうかたちで、また来るかもしれない。全力で出して、こっちもカラカラになったら、僕も思ってもいなかったものが入ったり、入れることができたり、思いついたり、なんか見つけられたりとか。汚い部屋だったのに、何もなくなったら「お、なんかまだある」みたいな──そういうことなんだなって思って、出し惜しみするのはナシにしようと思って。いまあること全部書いちゃおうっていうのを、ここ8、9年ぐらいしていますね。

書く対象は「居酒屋で出会う知人」くらいの距離感

水野は、燃え殻が常に他者に心を開いているように見えるようで「なぜ、そこまで開けるのか」と問いかける。

水野:他者に隠してる部分ってあるんですか?

燃え殻:もちろん、あると思うんですけど、自分のなかで決めてるところがあって。前、日比谷線の満員電車で会社員っぽい女性が「絶対言わないでね」ってLINEを打って、そのまま恵比寿で降りて行ったんですよ。「えっ、なに? どうした?」って思うじゃないですか。僕は、夏目漱石とかの新しい原稿が見つかったっていうよりも、その女性の「絶対言わないでね」っていうほうが、僕は尊いと思っていて。

水野:なるほど。

燃え殻:で、僕は居酒屋の知人ぐらい、これが親友だと何でも言いすぎちゃうし、他人だと何も言えなくなっちゃうから、知人、まあクライアントとか、1回話をして合うなみたいな人と居酒屋で飲んでいて、「絶対言わないでくださいよ」って言って話せることを書こうと思ってるんですよ。ちょっと距離はあるけど、社会的な自分のこともわかってくれてる人だから、「じゃあ、なんて言おうかな?」ってちょっと考えません?

水野:絶妙な(距離感というか)。

燃え殻:「じゃあ、今日はいつもより少し砕けてもいいかな」って。それで「あまり言ってなかった昔の恋愛の話なんですけど……」とか。でも、あんまり下品にならないように言うみたいな。

水野:その距離の取り方、僕できないんですよ、苦手なんです。今日みたいにマイクがあって、僕に司会という役割が与えられていて、それで燃え殻さんと向き合えて話ができているんですよ。だけど、これが飲み屋ってなると、とたんにしゃべれなくなるんです。逆に、その飲み屋でご飯食べて「知人だな」っていうレベルの距離感で、「あ、これちょっと言わないでくださいね」っていう距離感に、誰とでもなれるなっていうふうに思えるのが羨ましくてしょうがないっていう。燃え殻さんは、どの対談を読んでも、どの人ともその距離感に近づいていくじゃないですか。それが僕にはできないから、すごくまぶしく見える(笑)。

燃え殻:いや、逆にめちゃめちゃまぶしい人ですよ。

自分をいちばんのお客さんだと思う

水野は、燃え殻のエッセイ集『この味もまたいつか恋しくなる』について触れながら、「エッセイにはいろんなテーマがありますが、連載していくなかで、それらをどんなふうに見つけていくのでしょうか?」と問いかける。

燃え殻:この本は、編集の方が「料理を真ん中に置いたエッセイをやりませんか?」と言ってくれたんですけど、他にも『週刊新潮』で連載を4、5年くらいやっていて。それは、ふと思ったこととかを朝にちょっと書いて。「その感情と同じようなことが、人生で何かなかったかな?」と探りに行くみたいな。韻を踏むように、あのときと同じ冷たさとか、悲しみとか、おいしさとか、楽しさとか、近いものはなかったかな、そのふたつをどうにかして合わせたいな、って思うような感じでエッセイは書いてるかもしれないですね。

水野:記憶と結びつけるっていうのは、いつもテーマにしていることなんですか?

燃え殻:そうですね。僕自身が、本を途中までしか読めないことが多くて。最後まで読めるのはどんなときだったんだろうと、いつも思いながら読んでいたんです。それは、手触りとか味がするとか、音楽が聴こえてきたとか、その人がまるで自分の友人かのように生きているように感じたとか、そういう実感を持ったときだと思って。どんな人がどうやって読んでくれるかわからないって思ったときに、僕は凡庸な人生を生きてきたので、きっと読者が「おまえのそれ、自分もあったよ」って言ってくれるはずだと信じて。自分の記憶からたどっていけば、いろんな人たちが喜んでくれるはずだと信じきってやっている感じですかね。

最後に燃え殻は、これからクリエイターを目指す人たちへのメッセージを送った。

燃え殻:僕は自分自身を見て、「自分がわかるんだったら、ほとんどの人たちが笑ってくれるんじゃないかな」とか「びっくりしてくれるんじゃないかな」と思って、いま自分がどう思ってるかなとか、「これ、おもしろいって言うかな?」と思って読んだものとかできたものを、1日くらい置いて音読したりとかするんですよ。ものを作るときって、自分を信頼して、自分のことをいちばんのお客さんだと思って、誰かを想定するよりも、自分がなんて言うかなって思って作るといいものができると僕は信じてます。

このほか、「作品の感想を聞いたときに“仲間”だと感じるかどうか」について、音楽と文学の特徴の違いを語り合う場面などもあった。

燃え殻の最新情報は、公式サイトまで。

ものづくりの原点を語る番組

“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、ものづくりの原点を探求する番組『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』は、毎週土曜21時から放送。ポッドキャストで過去のエピソードが公開中だ。

・『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』などを手がけた漫画編集者の林士平さん



・自費出版から口コミでブレイク! 作家の小原晩さん



・映画『万引き家族』『ミッドサマー』など、名作の空気をポスターから届けるアートディレクターの大島依提亜さん

radikoで聴く
2025年5月24日28時59分まで

PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

番組情報
Samsung SSD CREATOR'S NOTE
毎週土曜
21:00-21:54

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