松居大悟「10年待ったかいがあった」 主演・見上愛と語る『不死身ラヴァーズ』とGO!GO!7188の“奇跡的偶然”

10年熟成された「好き!」というプリミティブな衝動。『ちょっと思い出しただけ』『手』の松居大悟監督が温めに温めてきた映画『不死身ラヴァーズ』が5月10日に公開される。『進撃の巨人』諫山創のアシスタントを経て漫画家デビューした高木ユーナによる同名コミックを原作に、運命の相手・甲野じゅん(佐藤寛太)を一途に想い続ける長谷部りの(見上 愛)の一方通行な恋を大胆な構成とテンションで描き出す。

構想10年の時を経て完成させた松居監督と、そんな監督のファンを公言する主演の見上愛にインタビュー。原作でもお馴染みの人力車秘話や、恋に落ちた瞬間に吹く風のマル秘撮影エピソードのほか、「ときめく」をテーマにおすすめの一曲を聞いた。

見上 愛の“生命力”が、映画の設定にも影響を与えた

──『不死身ラヴァーズ』は見上さんにとって憧れの松居監督作への初出演で、さらに映画単独初主演です。脚本を読んだ感想は?

見上:「原作と違って男女入れ替わっている!?」……それが最初に思ったことです。ただそれが私には松居監督らしいという印象も受けました。女の子を主人公にしたらどんな作品になるのか、いち観客として私自身も期待が膨らみました。

──「好き」という想いが届くと相手が消えてしまうという設定ですね。

松居:もともと主人公は原作通りの想定で、見上さんには“消える側の女の子”としてオーディションに来ていただきました。でも見上さんの芝居を見たときに、強い存在感と生命力を感じて「消えるのではなく、残るよな」と思ったんです。そこで原作者、製作陣含めていろいろなところに確認して許可を取って、男女を入れ替えさせていただきました。

見上:そんなことを言っていただいて、脚本まで変えていただくなんて今後ないと思うので、自慢していこうと思います(笑)。

松居:実は『ちょっと思い出しただけ』(2021年)もそうで、伊藤沙莉さんは当初、池松壮亮さんが演じた役をやる予定でした。ただあの作品は僕のオリジナルストーリーなので、原作があるものを変更するというのは……我ながらすごいことですよね(笑)。

──『不死身ラヴァーズ』は松居監督が10年前から温めてきた企画です。見上さんはそのことをご存じでしたか?

見上:はい、事前に聞いていました。率直に「プレッシャーがすごいよ~」と(笑)。

松居:(笑)。

見上:でも、それも含めて楽しんで頑張ろうと気持ちを切り替えました。

「昔の俺には負けていない」今の自分と向き合った作品

──原作もそうではあるのですが、本作も最初は、「SF!? ファンタジー!? シュール!?」と思わせる展開で進みます。松居監督作にはリアリズムの印象がありますが、本作ではどのような姿勢で臨まれたのでしょう?

松居:ここ5年くらいは確かにリアリズムな作風に寄っていましたが、最初に映画を志した若い頃は衝動的なものに突き動かされる自分がいました。若い頃に書いた脚本を読み返すと「これどうやってやるんだ!?」と苦笑しつつも「当時はワクワクしながら書いたよなあ……」と初心を突きつけられます。何をやりたくて今、自分は映画を作っているのか? 年齢と経験を重ねていく中で見失っているものはないのか? そう思うと、今の俺も頑張らなければダメだろうと。いや、今の俺だって昔の俺には負けていないぞと。今回の『不死身ラヴァーズ』を通して現在の自分を見つめ直したいという思いがありました。

──劇中で気になったショットがあります。それは、りのがクリーニング屋に行くまでの道のりシーンで、サラリーマンや老夫婦の姿を捉えたものです。本筋には影響を与えないショットですが、それがあることでりのたちが生きる世界と現実の世界が繋がっているかのような印象を受けました

松居:そこに気づいてもらって嬉しいです! あのショットにはりのたちが見ている世界と現実の僕らが見ている世界は決して遠くない地続きのものだという意味を込めています。『ちょっと思い出しただけ』でも、池松壮亮さんが夜の広場で佇んでいる場面でサラリーマンや老夫婦などを見つめるカットがあって。作品が完成したあとにそのシーンを観たときに、とても奥行きを感じたんです。『不死身ラヴァーズ』にもそのようなショットを意図的に入れたのは、この映画を観客の皆さんのお話にしたかったからです。

松居監督は「風吹かし」のプロ!? その理由

──見上さんにとっての初松居組はどのような現場でしたか?

見上:松居監督をはじめ、集まっているスタッフさん全員が穏やかで、気負わずに現場に入れました。忘れられない松居監督の姿としては、長谷部りのが恋に落ちる瞬間に吹く風です。監督が風の音を口で「ブワッ!」と言うのみならず、その風を起こす扇風機を自ら率先して操作していました。監督自ら風を吹かせるという姿を見たことがなかったので、ものすごくおもしろかったです。テイクを重ねていくうちに風を吹かせるのがうまくなって、カメラマンさんに褒められていました(笑)。

松居:自分の中での風の当たり方のこだわりがあって、最初はスタッフにやってもらっていたのですがなかなか思うような当たり方にならず。これじゃ恋に落ちた風には見えないなと思ったりして「ちょっと貸して」と……。気づいたら風を見上さんに当てることに夢中になっていました(笑)。見上さんのいいところは、それを楽しんでくれるところです。

見上:最初に公開されたビジュアル写真の前髪がフワッとなっている風も、松居監督によるものです。もはや風のプロ! そうやって監督が自分の手で一所懸命工夫して作っている姿を目の当たりにすると、演じる身としてもやる気がみなぎります。

美しく広がる見上の髪の毛は、松居監督のこだわりが詰まっている

──原作でも印象的な人力車を引くシーンもあります。実際に引くのは大変だと思うのですが、どのくらい練習されましたか?

見上:練習は……ありませんでした! 撮影当日、いや撮影直前に初めて触って、「とりあえずやる!」という感じでした(笑)。

松居:人力車って借りるのにお金がかかるんです。しかもロケ地・山梨まで持ってこなければならず。見上さんにはご迷惑をおかけしました。

見上:動かすにはコツが必要で大変でした。しかも人が乗っているときと乗っていないときが全く違うので、佐藤さんが乗った瞬間に「あれ? 動かないぞ!?」と焦りました。

松居:初動にコツがいりましたよね。動き出すとスムーズに進むけれど最初の一歩が大変。後ろからスタッフ数人で押したりして(笑)。

GO!GO!7188の奇跡的偶然

──学生時代の長谷部りのの生き生きとしたハイテンション感を維持するのは大変そうに感じました。演じてみていかがでしたか?

見上:私はむしろ元気になっていました(笑)。撮影中は自分の気持ちをりのの明るい気持ちが引っ張ってくれたという気がしていました。年齢的に、高校時代を演じることは過去にもありましたが、中学時代はなかなかなくて新鮮でした。ちなみにその学生時代のシーンで松居監督から熱血指導を受けた、とある仕草があります。

──それはどのような仕草ですか?

見上:片手をジャージの中に入れてお腹のあたりまで持っていき、中から突き出して服を動かし……という仕草です。

──子どもがよくやる遊びですね。

見上:その遊びを私は知らなくて、やってみたのは人生初。慣れるまで苦労しました(笑)。

松居:田中(青木柚)と廊下を歩きながらやるんですよね。学生時代の思い出の動きとしてやってもらいたかった仕草です。

──見上さんはギターの弾き語りも吹き替えなしで挑戦されています。

見上:自転車や人力車もそうですが、技術が必要な行為は芝居をしながらそれを失敗しないようにやらなければいけないので、通常のお芝居とは違う緊張感がありました。松居監督はそれをしっかり見抜いてくれたので、「ギターをうまく弾かなきゃ」という気持ちが先行し過ぎたときはNGを出してくれました。

松居:見上さんの心の中は当然読めませんが、でも自分の感覚的に見上さんの中で雑念がとれた瞬間をOKにしたと思います。

見上:松居監督から「言葉で伝えられなかったことを演奏と歌に全部込めてやってほしい」と言われたあとに撮ったカットがOKになりました。松居監督から言われたことに集中して演奏しようと思うと、ギターをうまく弾こうとする意識はどうでもよくなって、とにかく目の前にいる人に伝えようという気持ちが強くなりました。

──楽曲はGO!GO!7188『C7』。この曲になった理由は?

松居:見上さんにりのをお願いすることになって、見上さんの特技を聞いたら「学生時代にバンドをやっていた」と。しかもGO!GO!7188の『C7』をカバーしていたと。まさにその曲の歌詞がこの映画の世界を表していると思ったし、そもそも原作の高木ユーナ先生はGO!GO!7188の音楽をイメージして演奏場面を描いていたそうなんです。

見上:すごい!

松居:そんな奇跡的な偶然もあって、これは作品にとって重要なシークエンスになるぞと思って、そこでまた脚本を変更していきました。こんなリンクって普通はないですから、改めて10年待ったかいがあったと感じました。

ふたりが「ときめく一曲」は?

──J-WAVE NEWSは、松居監督のレギュラー番組『RICOH JUMP OVER』(毎週水曜深夜2時から放送中)もオンエアするラジオ局が母体のWEBメディアです。音楽ファンの方も多いため、ぜひおふたりのお好きな一曲を教えてください。『不死身ラヴァーズ』は、観ている人もときめきを感じる映画ということで、おふたりが「この曲を聴いたらときめく!」という楽曲は?

見上:松居監督も私も音楽を大切に思っているので、一曲と言うと迷ってしまいますね!

松居:悩みますね。この映画に寄せるならGO!GO!7188の『こいのうた』ですが、自分の思い出と言うのならば、大学で初めて付き合った彼女とカラオケに行ったときに彼女が歌ってくれたaikoの『桜の時』でしょうか。
見上:私はちょうど今ハマっている、リーガルリリーの『17』です。聴いていると、自分の高校生の頃を思い出してときめきます。恋の曲ではないですが、甘酸っぱく苦い青春を思い出すというか。17歳ってそんな感覚だったよなと。それを20代後半になって生み出せるってすごいことだなと思います。ボーカルのたかはしほのかちゃんと仲が良いので「17歳のときにこの曲に出会いたかった。自分の高校時代にこの曲がなくて悔しい」と伝えたら「私もそういう気持ちで書いた」と言ってくれて嬉しかったです。

リーガルリリー - 『17』Music Video

映画『不死身ラヴァーズ』の情報は公式サイトまで。

(取材・文=石井隼人、撮影=山口真由子)

関連記事