今の日本のインストバンドシーンについて、音楽ライターの金子厚武さんが解説した。
金子さんが登場したのは、J-WAVEで放送された番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。オンエアは1月24日(水)。
【SONAR MUSICは番組公式LINEでも情報発信中】
金子:ざっくりではありますけど、2000年代の前半から中盤に一山あった印象があります。その前の90年代後半くらいからは、クラブジャズとかポストロックとかが少しずつ盛り上がっていたんです。2000年代に入ってからは、ジャズ系だとSOIL&”PIMP”SESSIONSとかPE'Z、ジャム系だとSPECIAL OTHERS、星野 源さんがいたSAKEROCK、ポストロックだとtoeとかLITE、残響recordが盛り上がるような流れがあって、すごくいっぱいいたイメージがあるんですね。
あっこゴリラ:そうですよね。今、名前出たの全部好きだもん(笑)。
金子:2000年代はジャンルごとに分かれていたイメージで、ロックフェスとかで一緒になることはあっても、けっこうバラバラに活動してたイメージがあります。2010年代になるとジャンルの壁がなくなってきて、そこにfox capture planとかH ZETTRIOとか、Ovallとかいろんなバンドが増えてきて、どんどん垣根がなくなってきた印象があって。それを1つ象徴することとして、2010年代半ばに「TOKYO INSTRUMENTAL FESTIVAL」が始まりました。
「TOKYO INSTRUMENTAL FESTIVAL」は、日本最大のインストバンドのみによるライブイベントだ。
金子:面白いのが、それを主催していたのがヴィレッジヴァンガードなんです。2000年代のインストが盛り上がったのは、もちろんCDの時代だからタワレコとかも大事だったんですけど、ヴィレヴァンでCDが売ってて、それが「何かちょっとオシャレ」みたいな、オシャレアイテムとしてのインストバンドみたいな盛り上がりがあったんですよね。そこから火が着いたアーティストとかけっこう多くて。
あっこゴリラ:それは知らなかったですね。
金子:さっき言ったインストフェスが、今年fox capture planが所属するレーベルとヴィレヴァンがやってたTOKYO INSTRUMENTAL FESTIVALの共催というかたちで、2月に「Instrumental Festival」として開催されます。fox capture planは、2010年代のインストを引っ張っていったポストロックとコンテンポラリージャズを融合させた現代版のジャズロックみたいなかたちで、音楽的にもカッコよくて。あと、劇伴の仕事を多くやってたっていうのがポイントかなと思っていて。彼らは『カルテット』や『コンフィデンスマンJP』、最近だと『ブラッシュアップライフ』などの劇伴をやっているんですね。それによって、いわゆる劇伴の作家じゃなくてインストバンドがドラマとか映画の劇伴を担当するっていう流れが生まれてきて。これは今までになかった動きなんですよね。
あっこゴリラ:そうなんだ。じゃあ、切り開いた方たちなんですね。
金子:それが行くところまで行ったのが、昨年末の『NHK紅白歌合戦』。彼らがグランドオープニングのテーマ曲と演奏を手掛けて、バンドのBGMも彼らが手掛けてるんですよね。だから日本の音楽のトップの場所まで行っちゃったっていう。これは日本のインストバンドのトップのひとつだと言っていいという気がします。
金子さんによると、日本のインストバンドは海外、とくにアジアでの人気もあるようだ。例としてあげたのは、インストメインのバンドである、台湾のElephant Gym。この1月に来日ツアーを開催した。
金子:彼女たちはLITEと前に北米ツアーを回ったことがあったりとか、去年出したアルバムには亀田誠治さんとTENDREが参加してたりとか、日本にゆかりがあるんです。日本のインストから影響を受けたアジアのバンドってすごくたくさんあるんですよね。そういうところが、またさらなる広がりをこれから生んでくれたらいいなって期待したいところですね。
金子さんは続いて、おすすめのインストバンドとしてIchikoroを紹介した。
金子:Ichikoroは川谷絵音さんがSNSでバズっていたギタリストのichikaさんに声をかけて、2018年に結成したバンドです。とにかくichikaさんが世界でバズっていて、YouTubeのチャンネル登録者数が260万人を越えて、(その視聴者のほとんどが)日本人以外だったりとか、単独でも海外に行きまくってるし、彼はSNSを通じて海外のバンド、2010年代以降で言うとPolyphiaってバンドとかCovetっていうアメリカのバンドとかも彼はつながりがあったりして、Ichikoroはバンドとして彼のプレイを生かした素晴らしい楽曲を生み出しています。
金子:彼らもキャリアは長くて、結成は2013年の8人組。中心人物の額田大志さんは藝大出身で、King Gnuの常田大希さんとかWONKの江﨑文武さんとかが同級生。音楽だけじゃなくて演劇のカンパニーを主宰してたり小説を書いたりとかめちゃくちゃ多才な方です。去年『Goodbye』ってアルバムを出していて、さっき台湾の話をしましたけど、台湾のインディー音楽アワードでアジア全体のミュージシャンから選出されるBest Asian Creative Artist賞にノミネートされています。インディー音楽アワードなのでけっこうカッティングエッジな表現をしている人たちが選ばれる賞です。東京塩麹も非常にカッティングエッジな音楽性をしてるので「納得だな」と思うし、こうやってアジアにも広がってるのが実例として現れたという意味でも、今注目してほしいなと思っています。
4組目は、2021年結成のLAGHEADSを紹介した。
金子:メンバーは小川 翔(Gt.)、山本 連(Ba.)、宮川 純(Key.)、伊吹文裕(Dr.)という4人で、本当にいろんなアーティストのライブやレコーディングに関わっている人たちです。関わっている人たちは、米津玄師、King Gnu、藤井 風、あいみょん、iri、中村佳穂、KIRINJI、WONKなどあげていくときりがないくらいいろんな現場に参加していて。この人たちがいなかったら今の音楽シーンが成り立たないんじゃないってくらいの人たちが4人集まって結成したバンドです。ゲストボーカルもけっこう招いて、kiki vivi lily、HIMI、マハラージャンとか。そういう曲ではポップス的なアプローチもしつつ、でもバリバリインストの曲もあって、もうセンスも技術もある人たちばかりなので、どの曲もカッコいいですね。
金子:ここまでわりとキャリアがあったり、知られてる人たちも紹介してきましたけど、MURABANKU。は結成は2018年とかなんでそれなりにキャリアはあるんですけど、まだそんなには知られてないバンドかなと思ってて。最強のローカルパーティー音楽集団と名乗ったりしてるんですけど、パッと聴いてエキゾ(エキゾチカ。音楽のジャンルの一つ)が浮かんで、SAKEROCKが2020年代に蘇ったらこうなるんじゃないかっていうバンドなんですよね。
あっこゴリラ:エキゾ的なインストバンドは本当に楽しい。
金子:現場が想像できますよね。さらに彼らはオンラインエキゾっていう言葉も使ってて、ゲームミュージック的な要素を入れていたり、ミュージックビデオもそういうゲームっぽい感じだったり、あと攻略本という名前のZINEを発行していたりとか、活動自体もユーモアがあってなかなか他にない存在感を持っているので、活動全般に注目してもらいたいバンドですね。
注目アーティストを紹介した金子さんに「今の若い世代はインストバンドをどう捉えてる?」とあっこゴリラが質問した。
金子:やっぱりTikTokとかで音楽を発見する人が増えてると思うんですけど、そのBGM的に使うっていう意味でもインストってそこから入ってくる可能性ってすごくある気がします。今はどうしても言葉のインパクトとかの方が強いかもしれないけど、自由に解釈していろんな想像力を広げられるのがインストの面白いところだから、より広がってほしいなと思います。
あっこゴリラ:今後インストバンドはどう進化していくと思います?
金子:すごいプレイヤーが、どんどん増えているんですよね。DTMで音楽を作ることが一般的になったことで、そういうツールを使いこなして楽器演奏の上達の方に向けてる人もたくさんいて、本当にすごいプレイヤーがたくさんいるし、AIが作曲することになるかもしれないけど、楽器のニュアンスまで再現するのはもう少し時間がかかると思うから、楽器の生演奏から新たな音楽が生まれる余地はまだまだあると思うので、どんどん進化していくのではないでしょうか。
今回、解説してくれた金子厚武さんの最新情報は公式Xまで。J-WAVE『SONAR MUSIC』は、月~木の22:00-24:00にオンエア。
金子さんが登場したのは、J-WAVEで放送された番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。オンエアは1月24日(水)。
【SONAR MUSICは番組公式LINEでも情報発信中】
日本のインストバンドの後押しをした存在
今回は日本のインストバンドに注目。まずは、近年のインストシーンを金子さんが解説する。金子:ざっくりではありますけど、2000年代の前半から中盤に一山あった印象があります。その前の90年代後半くらいからは、クラブジャズとかポストロックとかが少しずつ盛り上がっていたんです。2000年代に入ってからは、ジャズ系だとSOIL&”PIMP”SESSIONSとかPE'Z、ジャム系だとSPECIAL OTHERS、星野 源さんがいたSAKEROCK、ポストロックだとtoeとかLITE、残響recordが盛り上がるような流れがあって、すごくいっぱいいたイメージがあるんですね。
あっこゴリラ:そうですよね。今、名前出たの全部好きだもん(笑)。
金子:2000年代はジャンルごとに分かれていたイメージで、ロックフェスとかで一緒になることはあっても、けっこうバラバラに活動してたイメージがあります。2010年代になるとジャンルの壁がなくなってきて、そこにfox capture planとかH ZETTRIOとか、Ovallとかいろんなバンドが増えてきて、どんどん垣根がなくなってきた印象があって。それを1つ象徴することとして、2010年代半ばに「TOKYO INSTRUMENTAL FESTIVAL」が始まりました。
「TOKYO INSTRUMENTAL FESTIVAL」は、日本最大のインストバンドのみによるライブイベントだ。
金子:面白いのが、それを主催していたのがヴィレッジヴァンガードなんです。2000年代のインストが盛り上がったのは、もちろんCDの時代だからタワレコとかも大事だったんですけど、ヴィレヴァンでCDが売ってて、それが「何かちょっとオシャレ」みたいな、オシャレアイテムとしてのインストバンドみたいな盛り上がりがあったんですよね。そこから火が着いたアーティストとかけっこう多くて。
あっこゴリラ:それは知らなかったですね。
fox capture planの功績
ここからは金子さんが、注目する日本のインストバンドを紹介。1組目に取り上げたのは、fox capture planだ。「日本のインストバンドのトップのひとつだと言っていい」と語る金子さん。その理由とは?金子:さっき言ったインストフェスが、今年fox capture planが所属するレーベルとヴィレヴァンがやってたTOKYO INSTRUMENTAL FESTIVALの共催というかたちで、2月に「Instrumental Festival」として開催されます。fox capture planは、2010年代のインストを引っ張っていったポストロックとコンテンポラリージャズを融合させた現代版のジャズロックみたいなかたちで、音楽的にもカッコよくて。あと、劇伴の仕事を多くやってたっていうのがポイントかなと思っていて。彼らは『カルテット』や『コンフィデンスマンJP』、最近だと『ブラッシュアップライフ』などの劇伴をやっているんですね。それによって、いわゆる劇伴の作家じゃなくてインストバンドがドラマとか映画の劇伴を担当するっていう流れが生まれてきて。これは今までになかった動きなんですよね。
あっこゴリラ:そうなんだ。じゃあ、切り開いた方たちなんですね。
金子:それが行くところまで行ったのが、昨年末の『NHK紅白歌合戦』。彼らがグランドオープニングのテーマ曲と演奏を手掛けて、バンドのBGMも彼らが手掛けてるんですよね。だから日本の音楽のトップの場所まで行っちゃったっていう。これは日本のインストバンドのトップのひとつだと言っていいという気がします。
金子さんによると、日本のインストバンドは海外、とくにアジアでの人気もあるようだ。例としてあげたのは、インストメインのバンドである、台湾のElephant Gym。この1月に来日ツアーを開催した。
金子:彼女たちはLITEと前に北米ツアーを回ったことがあったりとか、去年出したアルバムには亀田誠治さんとTENDREが参加してたりとか、日本にゆかりがあるんです。日本のインストから影響を受けたアジアのバンドってすごくたくさんあるんですよね。そういうところが、またさらなる広がりをこれから生んでくれたらいいなって期待したいところですね。
金子さんは続いて、おすすめのインストバンドとしてIchikoroを紹介した。
金子:Ichikoroは川谷絵音さんがSNSでバズっていたギタリストのichikaさんに声をかけて、2018年に結成したバンドです。とにかくichikaさんが世界でバズっていて、YouTubeのチャンネル登録者数が260万人を越えて、(その視聴者のほとんどが)日本人以外だったりとか、単独でも海外に行きまくってるし、彼はSNSを通じて海外のバンド、2010年代以降で言うとPolyphiaってバンドとかCovetっていうアメリカのバンドとかも彼はつながりがあったりして、Ichikoroはバンドとして彼のプレイを生かした素晴らしい楽曲を生み出しています。
今の音楽シーンを支える4人がインストバンドを結成
金子さんは注目のインストバンドの3組目として、東京塩麹をセレクトした。金子:彼らもキャリアは長くて、結成は2013年の8人組。中心人物の額田大志さんは藝大出身で、King Gnuの常田大希さんとかWONKの江﨑文武さんとかが同級生。音楽だけじゃなくて演劇のカンパニーを主宰してたり小説を書いたりとかめちゃくちゃ多才な方です。去年『Goodbye』ってアルバムを出していて、さっき台湾の話をしましたけど、台湾のインディー音楽アワードでアジア全体のミュージシャンから選出されるBest Asian Creative Artist賞にノミネートされています。インディー音楽アワードなのでけっこうカッティングエッジな表現をしている人たちが選ばれる賞です。東京塩麹も非常にカッティングエッジな音楽性をしてるので「納得だな」と思うし、こうやってアジアにも広がってるのが実例として現れたという意味でも、今注目してほしいなと思っています。
4組目は、2021年結成のLAGHEADSを紹介した。
金子:メンバーは小川 翔(Gt.)、山本 連(Ba.)、宮川 純(Key.)、伊吹文裕(Dr.)という4人で、本当にいろんなアーティストのライブやレコーディングに関わっている人たちです。関わっている人たちは、米津玄師、King Gnu、藤井 風、あいみょん、iri、中村佳穂、KIRINJI、WONKなどあげていくときりがないくらいいろんな現場に参加していて。この人たちがいなかったら今の音楽シーンが成り立たないんじゃないってくらいの人たちが4人集まって結成したバンドです。ゲストボーカルもけっこう招いて、kiki vivi lily、HIMI、マハラージャンとか。そういう曲ではポップス的なアプローチもしつつ、でもバリバリインストの曲もあって、もうセンスも技術もある人たちばかりなので、どの曲もカッコいいですね。
インストシーンは「すごいプレイヤーが、どんどん増えている」
金子さんは最後に、MURABANKU。を紹介した。金子:ここまでわりとキャリアがあったり、知られてる人たちも紹介してきましたけど、MURABANKU。は結成は2018年とかなんでそれなりにキャリアはあるんですけど、まだそんなには知られてないバンドかなと思ってて。最強のローカルパーティー音楽集団と名乗ったりしてるんですけど、パッと聴いてエキゾ(エキゾチカ。音楽のジャンルの一つ)が浮かんで、SAKEROCKが2020年代に蘇ったらこうなるんじゃないかっていうバンドなんですよね。
あっこゴリラ:エキゾ的なインストバンドは本当に楽しい。
金子:現場が想像できますよね。さらに彼らはオンラインエキゾっていう言葉も使ってて、ゲームミュージック的な要素を入れていたり、ミュージックビデオもそういうゲームっぽい感じだったり、あと攻略本という名前のZINEを発行していたりとか、活動自体もユーモアがあってなかなか他にない存在感を持っているので、活動全般に注目してもらいたいバンドですね。
注目アーティストを紹介した金子さんに「今の若い世代はインストバンドをどう捉えてる?」とあっこゴリラが質問した。
金子:やっぱりTikTokとかで音楽を発見する人が増えてると思うんですけど、そのBGM的に使うっていう意味でもインストってそこから入ってくる可能性ってすごくある気がします。今はどうしても言葉のインパクトとかの方が強いかもしれないけど、自由に解釈していろんな想像力を広げられるのがインストの面白いところだから、より広がってほしいなと思います。
あっこゴリラ:今後インストバンドはどう進化していくと思います?
金子:すごいプレイヤーが、どんどん増えているんですよね。DTMで音楽を作ることが一般的になったことで、そういうツールを使いこなして楽器演奏の上達の方に向けてる人もたくさんいて、本当にすごいプレイヤーがたくさんいるし、AIが作曲することになるかもしれないけど、楽器のニュアンスまで再現するのはもう少し時間がかかると思うから、楽器の生演奏から新たな音楽が生まれる余地はまだまだあると思うので、どんどん進化していくのではないでしょうか。
今回、解説してくれた金子厚武さんの最新情報は公式Xまで。J-WAVE『SONAR MUSIC』は、月~木の22:00-24:00にオンエア。
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2024年1月31日28時59分まで
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番組情報
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月・火・水・木曜22:00-24:00