「第95回アカデミー賞」で注目を集める映画の中から、2つの作品にフォーカス。作品の見どころについて、映画制作国の番組通信員の方に話を訊いた。
映画『西部戦線異状なし』と『RRR』について解説がされたのは、J-WAVEで放送中の番組『~JK RADIO~TOKYO UNITED』(ナビゲーター:ジョン・カビラ)のワンコーナー「TOKYO CROSSING」。オンエアは、アカデミー賞授賞式が直前にせまっていた3月10日(金)。結果として、『西部戦線異状なし』は国際映画賞、撮影賞、美術賞、作曲賞を、『RRR』は歌曲賞を受賞した。
アカデミー賞授賞式は、WOWWOWオンデマンドでアーカイブが配信中だ。3/19 20時~にはダイジェスト放送も。
・アカデミー賞授賞式の配信詳細はこちら https://www.wowow.co.jp/extra/academy/
ジョン:『西部戦線異状なし』は第一次世界大戦末期、ドイツ兵としてフランス北部の西部戦線に送られたエーリヒ・マリア・レマルクが自身の経験をもとに綴った長編小説が原作です。アカデミー賞で作品賞をとった1930年版、1979年のテレビ映画はアメリカ・イギリス合作でした。ですが今回は3度目の映像化にして、初めて当事国であるドイツの制作で映画化されました。これはドイツのみなさんはどう受け止めているんでしょうか?
柳原:ドイツではNetflixで公開される前に映画館で上映されました。これは不幸な偶然なのですが、多くのドイツの人々はロシア・ウクライナ戦争を思い起こしながら観たのかと思います。特に映画のなかでは男性が戦うわけです。ウクライナでは男性の出国が許されずに戦時体制が敷かれています。対してロシアも予備役の人たちも徴兵されて、いまもなお命がどんどん奪われていっているわけです。やはりそのあたりを強く思い起こしたのではないでしょうか。
ジョン:アカデミー賞では作品賞を含めてかなりの評価を得ています。この作品、柳原先生は原作の研究もされています。1930年のハリウッド版とか描き方が違うとも指摘されていますが、これはどう分析されていますか?
柳原:1930年版はすごくロマンチックに劇映画として描いている要素が強いんです。これはなぜそうなったかというと、1930年というのは第一次世界大戦が終わって10年ちょっとなんです。ですから当時すでに第一次世界大戦をむしろ美化する、そういうロマン化が起きていました。レマルクの作品と映画化はそれに対抗する悲劇としてのロマンだったんです。ですからとにかく1930年版のインパクトはすごく大きかった。ですが今作は2022年ですから第一次世界大戦、第二次世界大戦からかなり時間が経っています。ですからやはり今作は近代的な戦争、いまのウクライナの戦争もそうですが人の自由や権利、命が不条理に奪われていくさまを、世界大戦からはかなり時間が経ちましたが、なんとかそれを観ている方に想起してもらおうという意思をかなり強く感じる作品です。
ジョン:そういうところも高く評価されていると思います。作品賞を含めてオスカー9部門ノミネート。このノミネートに関してドイツのみなさんはどう反応されているんでしょうか?
柳原:これは新聞等のメディアをいろいろチェックしてみたんですが、やはり基本的にはかなりクールにとらえています。ただ、僕は研究者なので研究者仲間(の関心)はむしろ、受賞してからなんです。この作品の足りていないところや、同作はドイツではあまり批判されておらず、イギリスやフランスのほうが「ドイツを美化しているんじゃないか」と批判しています。受賞したら受賞したあとで、たぶんドイツではこの作品の是非について再度議論が沸き起こってくると考えられます。2007年には『善き人のためのソナタ』がアカデミー賞の作品になりました。
ジョン:外国語映画というカテゴリーの時代ですよね。
柳原:同作はアカデミー賞をとったあとにドイツでかなり大きな政治家を巻き込んでの議論が巻き起こりました。ですから「そのあと」を見るという感じですね。
ジョン:「歌曲賞」のノミネートはインド映画としては初めてです。『ナートゥ・ナートゥ』はテルグ語で自然や郷土、民族、ワイルドといった意味があります。『RRR』は盛り上がっているんじゃないですか?
ハリー:話題になってます! 盛り上がってます、すごいです。有名人が積極的に踊りまくってまして、財閥の代表やインドの韓国大使館のスタッフの映像がなんと首相官邸から世界に紹介されています。
ジョン:『ナートゥ・ナートゥ』をみんなが踊っていると。
ハリー:アメリカの劇場でも激しく踊る人やパキスタンの結婚式で俳優が踊っているのが連日報道されています。やはりインドの映画が日本など世界で評価されていることが、盛り上がりのムードに貢献しているんじゃないでしょうか。最近僕も『報道ステーション』(テレビ朝日系)に出演しました。インドが世界一の人口になったことで、ビッグな国のビッグなニュースが世界各国で増えている感じがします。
ジョン:インド国内のみなさんの反応はどうですか?
ハリー:特にインドの伝統的なコスチュームではなく西洋の服で新鮮な感じもあるので、TikTokでも複数の動画がアップされて、ハリウッド・リポーターも取材をして、なんとBBC、ニューヨークタイムズでも報道されています。
ジョン:『RRR』が歌曲賞を受賞したら、インドのみなさんは爆盛り上がりするんじゃないですか。
ハリー:踊りまくるんじゃないですかね。
ジョン:はははは(笑)!
ハリー:インドの音楽や映画が世界を制覇するのではないかという期待があります。
ジョン:ここまで『RRR』が盛り上がっているのに、なぜ国際長編賞じゃないのかな?と思っていたら、なんとインドの映画協会は『エンドロールのつづき』(原題:Last Film Show)をインド代表として送り込んでいたんですね。最後の15作品には残ったんですけれども、最終的な候補の5作品には『エンドロールのつづき』が採用されなかったと。ただ「歌曲賞」をとるとインド映画への注目が集まって、これは今後わかりませんよね。
ハリー:可能性は高いと思います。
ジョン:だって世界一映画の本数を作っている国ですもんね。
ハリー:日本でも興行収入が過去最高ぐらいだったので。今後はすごく期待できるんじゃないでしょうか。世界中にインドファンはいますので。
『~JK RADIO~TOKYO UNITED』のワンコーナー「TOKYO CROSSING」では、世界各地の番組通信とマルチにコネクト。時事問題から生活の実情まで世界中の視点を並列して探っていく。放送は毎週金曜6時40分ごろから。
映画『西部戦線異状なし』と『RRR』について解説がされたのは、J-WAVEで放送中の番組『~JK RADIO~TOKYO UNITED』(ナビゲーター:ジョン・カビラ)のワンコーナー「TOKYO CROSSING」。オンエアは、アカデミー賞授賞式が直前にせまっていた3月10日(金)。結果として、『西部戦線異状なし』は国際映画賞、撮影賞、美術賞、作曲賞を、『RRR』は歌曲賞を受賞した。
アカデミー賞授賞式は、WOWWOWオンデマンドでアーカイブが配信中だ。3/19 20時~にはダイジェスト放送も。
・アカデミー賞授賞式の配信詳細はこちら https://www.wowow.co.jp/extra/academy/
『西部戦線異状なし』は三度目の映画化、変化は?
まずは、作品賞と国際長編映画賞とほか7部門にノミネートされたドイツ発のNetflix映画『西部戦線異状なし』。日本とドイツを行き来する、東京女子大学准教授で、ドイツ・ヨーロッパ近現代史が専門の柳原伸洋さんに話を訊いた。ジョン:『西部戦線異状なし』は第一次世界大戦末期、ドイツ兵としてフランス北部の西部戦線に送られたエーリヒ・マリア・レマルクが自身の経験をもとに綴った長編小説が原作です。アカデミー賞で作品賞をとった1930年版、1979年のテレビ映画はアメリカ・イギリス合作でした。ですが今回は3度目の映像化にして、初めて当事国であるドイツの制作で映画化されました。これはドイツのみなさんはどう受け止めているんでしょうか?
柳原:ドイツではNetflixで公開される前に映画館で上映されました。これは不幸な偶然なのですが、多くのドイツの人々はロシア・ウクライナ戦争を思い起こしながら観たのかと思います。特に映画のなかでは男性が戦うわけです。ウクライナでは男性の出国が許されずに戦時体制が敷かれています。対してロシアも予備役の人たちも徴兵されて、いまもなお命がどんどん奪われていっているわけです。やはりそのあたりを強く思い起こしたのではないでしょうか。
ジョン:アカデミー賞では作品賞を含めてかなりの評価を得ています。この作品、柳原先生は原作の研究もされています。1930年のハリウッド版とか描き方が違うとも指摘されていますが、これはどう分析されていますか?
柳原:1930年版はすごくロマンチックに劇映画として描いている要素が強いんです。これはなぜそうなったかというと、1930年というのは第一次世界大戦が終わって10年ちょっとなんです。ですから当時すでに第一次世界大戦をむしろ美化する、そういうロマン化が起きていました。レマルクの作品と映画化はそれに対抗する悲劇としてのロマンだったんです。ですからとにかく1930年版のインパクトはすごく大きかった。ですが今作は2022年ですから第一次世界大戦、第二次世界大戦からかなり時間が経っています。ですからやはり今作は近代的な戦争、いまのウクライナの戦争もそうですが人の自由や権利、命が不条理に奪われていくさまを、世界大戦からはかなり時間が経ちましたが、なんとかそれを観ている方に想起してもらおうという意思をかなり強く感じる作品です。
ジョン:そういうところも高く評価されていると思います。作品賞を含めてオスカー9部門ノミネート。このノミネートに関してドイツのみなさんはどう反応されているんでしょうか?
柳原:これは新聞等のメディアをいろいろチェックしてみたんですが、やはり基本的にはかなりクールにとらえています。ただ、僕は研究者なので研究者仲間(の関心)はむしろ、受賞してからなんです。この作品の足りていないところや、同作はドイツではあまり批判されておらず、イギリスやフランスのほうが「ドイツを美化しているんじゃないか」と批判しています。受賞したら受賞したあとで、たぶんドイツではこの作品の是非について再度議論が沸き起こってくると考えられます。2007年には『善き人のためのソナタ』がアカデミー賞の作品になりました。
ジョン:外国語映画というカテゴリーの時代ですよね。
柳原:同作はアカデミー賞をとったあとにドイツでかなり大きな政治家を巻き込んでの議論が巻き起こりました。ですから「そのあと」を見るという感じですね。
インド映画としては初めて歌曲賞にノミネート
番組では劇中歌『ナートゥ・ナートゥ』が「歌曲賞」にノミネートしたインド映画『RRR』にも注目。インド・ムンバイのハリー・チェンさんに回線をつなぎ、話を訊いた。ジョン:「歌曲賞」のノミネートはインド映画としては初めてです。『ナートゥ・ナートゥ』はテルグ語で自然や郷土、民族、ワイルドといった意味があります。『RRR』は盛り上がっているんじゃないですか?
ハリー:話題になってます! 盛り上がってます、すごいです。有名人が積極的に踊りまくってまして、財閥の代表やインドの韓国大使館のスタッフの映像がなんと首相官邸から世界に紹介されています。
Lively and adorable team effort. https://t.co/K2YqN2obJ2
— Narendra Modi (@narendramodi) February 26, 2023
ジョン:『ナートゥ・ナートゥ』をみんなが踊っていると。
ハリー:アメリカの劇場でも激しく踊る人やパキスタンの結婚式で俳優が踊っているのが連日報道されています。やはりインドの映画が日本など世界で評価されていることが、盛り上がりのムードに貢献しているんじゃないでしょうか。最近僕も『報道ステーション』(テレビ朝日系)に出演しました。インドが世界一の人口になったことで、ビッグな国のビッグなニュースが世界各国で増えている感じがします。
ジョン:インド国内のみなさんの反応はどうですか?
ハリー:特にインドの伝統的なコスチュームではなく西洋の服で新鮮な感じもあるので、TikTokでも複数の動画がアップされて、ハリウッド・リポーターも取材をして、なんとBBC、ニューヨークタイムズでも報道されています。
ジョン:『RRR』が歌曲賞を受賞したら、インドのみなさんは爆盛り上がりするんじゃないですか。
ハリー:踊りまくるんじゃないですかね。
ジョン:はははは(笑)!
ハリー:インドの音楽や映画が世界を制覇するのではないかという期待があります。
ジョン:ここまで『RRR』が盛り上がっているのに、なぜ国際長編賞じゃないのかな?と思っていたら、なんとインドの映画協会は『エンドロールのつづき』(原題:Last Film Show)をインド代表として送り込んでいたんですね。最後の15作品には残ったんですけれども、最終的な候補の5作品には『エンドロールのつづき』が採用されなかったと。ただ「歌曲賞」をとるとインド映画への注目が集まって、これは今後わかりませんよね。
ハリー:可能性は高いと思います。
ジョン:だって世界一映画の本数を作っている国ですもんね。
ハリー:日本でも興行収入が過去最高ぐらいだったので。今後はすごく期待できるんじゃないでしょうか。世界中にインドファンはいますので。
『~JK RADIO~TOKYO UNITED』のワンコーナー「TOKYO CROSSING」では、世界各地の番組通信とマルチにコネクト。時事問題から生活の実情まで世界中の視点を並列して探っていく。放送は毎週金曜6時40分ごろから。
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2023年3月17日28時59分まで
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番組情報
- JK RADIO TOKYO UNITED
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毎週金曜6:00-11:30
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ジョン・カビラ