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疾走感と街の理に適ったライディングを求め続ける。BMXライダーMASAが次世代に伝えたい「守破離」

疾走感と街の理に適ったライディングを求め続ける。BMXライダーMASAが次世代に伝えたい「守破離」

J-WAVEが共同プロデュースするオンラインマガジン「守破離 -SHUHARI-」。“守破離”とは剣道や茶道などの修業における段階を示したもの。「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。(※1)

そんな“守破離”と“音”を切り口に人物のスタイルをリアルに掘り下げ、オリジナルインタビューをInstagramとJ-WAVE NEWSで配信していく。
(※1)引用:デジタル大辞泉「守破離」より

今回は、BMXライダーのMASAにインタビュー。東京を拠点に、ストリートで乗りながら多岐に渡って活動するMASAに、ライディングへのこだわりやこれからの次世代に伝えたい、BMXの枠を超えた考え方や生き方について話を訊いた。

【過去の「守破離 -SHUHARI-」インタビュー】

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Photo by 船生光

──自己紹介お願いします。

BMXライダーのMASAです。東京のストリートで乗りながら、BMX輸入代理店のJYKK JAPAN(※2)で働いています。ライダーとして食っていくというよりは、自分の持ってる知識や経験、感覚を元にBMX業界を盛り上げるため、シーンの中で思うように活動しています。

(※2)JYKK JAPAN…BMXの輸入代理店。BMXブランドの製品を中心に、自転車や自転車パーツの販売を手掛けるほか、BMXの魅力を伝えるためにさまざまな発信を行っている。
https://vimeo.com/user1245697

「守」

──MASAさんがBMXにおいて影響を受けた人はいますか?

僕のライディングにおける「守」は英国マンチェスター拠点のクルー、Strangeways(※4)です。無限に続くコンボトリックやスキルで圧倒させるんじゃなくて、観ていて気持いいスピード感で街の中を颯爽と駆け抜ける、BMXという自転車そのもののカッコよさを教えてくれた僕にとってのライディングの教科書です。

(※4)Strangeways…マンチェスターを拠点に活動するBMXクルー。フルレングスビデオを中心にアパレルなども製作しながらシーンを発信し続けている。
https://vimeo.com/user1245697


──イギリスへは何度か行かれていますよね。

イギリスは昔から好きで、19歳の頃リバプールへ留学したのと、最近だと昨年の春〜夏にも行きました。ちょうどそのタイミングに、マンチェスターでStrangewaysがDVDのVol.5をプレミア上映すると知って、留学時代の友達が出演してたのもあって一緒にプレミアに参加しました。 憧れだった人たちとついに対面したときは胸が熱くなって、誰かに斜め上からずっと頬肉を引っ張られているような少し気味の悪い笑顔を抑えられませんでした。 ジャニオタが山Pとソーシャルディスタンス以下でビール片手に会話できるような感じ。そして僕のこともInstagramで知ってくれていたので、やっと会えたねなんていってお互い盛り上がって仲良くなり、本当に楽しかったです。他にもブリストルで開催されたJAMに参加したり、ヘイスティングスのSource BMX(※5)やグラスゴーにあるBSD(※6)の倉庫に行ったり、各地を回ってよい滞在になりました。

(※5)Source BMX…イギリス・ヘイスティングスにあるBMXやパーツを扱うショップ
https://www.sourcebmx.com/
(※6)BSD…スコットランド・グラスゴーにある幅広いパーツラインナップとバリエーションを兼ね備えたBMXブランド。
https://bsdforever.com


──日本と海外のストリートやライダーの違いは?

BMXストリートと呼ばれる類はその街にある構造物を使うものだから、世界各地でそれぞれ味や色が異なってくる。場所にもよるけど、東京はビルや車、人が多くて警備も厳しい。縁石を削ったりするだけで当然怒られるし、できる場所はかなり限られてる。でもその中でずっと映像を残してきた人たちは、それらの障害を掻い潜って環境に適応していったんですよね。だから東京のライダーは、大体が東京のライダーっぽくなってるはず。逆にアメリカはもっと開放的で、乗りやすいセクションやスポットが沢山あって、スキルを上げるには最適な場所だし実際に上手い人も多い。一方で天気最悪、路面最悪、だけどレールやバンクの多いイギリスではその環境に適応してそれらの乗りこなしが上手く、そしてどこか陰キャで頑固なライダーが多い気がする。いろんな場所に行くと、この人のライディングはどこっぽいなっていうのが見ていてなんとなく分かるようになります。

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Photo by 船生光

「破」

──ご自身のライディングの写真や映像もたくさん残していますよね。 映像へのこだわりや、MASAさんのスタイルはありますか?

トリックがすべてじゃないんだと悟った瞬間から、疾走感や勢いを大切にしはじめました。でもただ速く漕げばよいという訳じゃなくて、見ていて気持ちいいテンポ感で漕ぐ、距離感、それに応じて手前でいかにスピードつけるかってところで、スムーズに流れるような身体の動かし方を意識してます。あとこれは勝手な理想なんですけど、“理に適った”街の抜け方も意識してます。例えば上り坂に向かってレッジを攻めるっていうのは何だか見ていて不自然だし、乗ってる側も疲れる。これは僕自身も気持いいから仕方なくやるけど、本当は建物の入口からスタートする映像も嫌。それが自分の住んでる建物で、さて乗りにいくか〜の感じでさらっとダウンレッジやレールをカマして消え去るならある意味自然かも。けどそれをカメラで撮影しちゃってたらどうも不自然ですよね。

究極は、風になって街を流れるように、入口と出口がクリアな状態で終わりたい。そして撮影もなし。じゃあ何の為にやるのって感じだけど、究極の話だから、実際は僕にも分からないです。簡単に訳すなら、A点からB点に近道をするために目の前の縁石を乗り越えたり、紺色の制服と金のバッジを着けた怖い人達に追いかけられてるときに階段を飛び越えて逃げ切るみたいな、生活のごく一部の自然な領域の話。 そこにいくつか無駄な技を足して映像に収めました、というのが僕の現時点での活動です。

例を挙げるとしたら、Alive Industry(※7)が昨年公開した映像の中にある、階段を上ってグラインドしながらビルの中を突き抜けるカット。A通りからB通りへ、ビルを介してトランスファーする疾走感、風が抜けるように乗りたいっていう自分のこだわりが表現できたなと思って、人生でトップ5に入る好きな映像です。技数もなるべく削ぎ落として、街の理に適うように乗ることが自分のライディングのベースになってます。

(※7)Alive Industry…日本のBMXシーンを長年に渡り牽引してきた3人、村田怜人、伊藤悠吾、眞謝大輔によって2012年に立ち上げられた、日本が誇るドメスティックBMXフレーム/パーツのブランド。日本にとどまらず世界各国のチームライダー達と世界へ向けてジャパニーズブランドを発信している。
https://zendistro.com/alive-industry

ALIVE INDUSTRY 2022 - WELCOME TO THE TEAM | JAPAN BMX

「離」

──今後やっていきたいことはありますか?

次世代のライダー達に僕が学んできたことを伝えたいです。自己満足してるだけじゃなくてもっとほかの人に伝えていけたら、やってきた意味があるし、周りから受け取ったことを自分なりに解釈して発信して終わり、じゃなくてもう一歩先まで、ちゃんと向き合って教えたい。僕の「破」の部分だけを見るんじゃなくて、「守破離」全体を通した大切さを自分なりに感じとって実践してくれたら嬉しいです。そうしたらきっと、徐々に身体と頭に浸透して自分なりの動きが思うようにできるから。

──伝えるという点では、MASAさんはライターのお仕事もされていますよね。

しゃべるよりも書く方が頭の中を整理できるし、自分の言いたかった本当のことに気づけるから書くことも好きで続けてます。下の世代に教えるためにも書き残すことに意味を持ってやってます。それに、こうやって話していても正直明日になったら忘れちゃう。でも書き残せたら何十年も残るし読み返せる。きっと今も読まれてる昔の本を書いた著者たちは、周りの人や景色からいろいろ吸収して、自分なりに解釈して、次の誰かに伝えたくて本に記してきた。それを今、僕もやろうとしてます。

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Photo by 船生光

「音」

──ご自身を表す一曲を教えてください。

Permanent Midnight / ‎Dirty Dike



人生初の自分のパートで使った曲で、スピード感が当時の自分のライディングに合っていたので選びました。それと、Dirty Dikeの書く歌詞は意味不明だけど、どこかカッコいい。ありがちな人生の話とかドラッグやお金の話を並べるだけじゃなく、意味不明なことをカッコよく歌う。それはBMXにも通ずるところがあって、例えばバースピンやテールウィップと呼ばれる定番だけどちょっと難しいそれらのトリックができなくても、乗るのが好きという気持ちだけで自分を表現するのと同じだと勝手に思ってます。そういう人ってこの時代にウケるかどうかじゃなくて、本当に自分が好きな表現だけを続けてる。自分という人物から湧き出るスープで表現を続けていると、それは独自のスタイルになる。そんなことを‎Dirty Dikeから感じます。

選曲にはもう一つ理由があって、BMXライダーであり写真家の船生光さんとの撮影時、真冬の真夜中でガチガチになっちゃってどうしようもなく、わざわざ来てもらってるし今更引き返せないっていう状況下で自分を奮い立たせようとして爆音で聴いてたのもこの曲。写真をよく見るとイヤホンが僕の両耳に繋がれていて、そこからこの曲が流れてるんだって思って見るとさらに、この写真(トップの写真)に命みたいなものを感じてもらえると思います。 ちなみにその耳の裏には僕の大好きな煙草も挟まっていて、しっかりメイクした直後に吸いました。最高の一服でした。

Photo: 船生光
Interview:Gaku Jungnickel
Text:Kana Shionoya

PROFILE

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MASA
1996年生まれ、千葉県出身。
BMXライダー。
東京、渋谷を拠点に、BMX輸入代理店であるJYKK JAPANで働きながらALIVE INDUSTRYのチームライダーとして映像を残したり、不定期で自らJAMを開催したりする活動家。イギリスを主に、海外のローカルライダー達とのコネクションがあり、彼らと日本を繋ぐ架け橋でもある。最近はライターとしても活動中。
飲酒、散歩、睡眠が趣味にならないのであれば特に趣味はなし。
好きなものは煙草とクリームシチュー。
WEBInstagram

「守破離 -SHUHARI-」
─師から学び、型を破り、確立する─
“守破離”を切り口に「人」のスタイルをリアルに掘り下げるオンラインマガジン
https://www.instagram.com/shuhari_official/

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