提供:株式会社INPEX
ウクライナでの戦争によって、エネルギー危機がメディアで取り沙汰されることが増えた。とくに欧州では、この冬をどう越えていくか、市民の生活にも影響が及んでいる。
一方で2020年以降は、環境への配慮で脱炭素の流れが加速。再生可能エネルギー(以下、再エネ)が推進されている。果たして、エネルギーは環境が優先か、安定供給が優先か? 再エネへのシフトは、どうなっていくのか?
エネルギー問題のヒントを得るべく、今回は石油・天然ガスをはじめ様々なエネルギーの開発・生産に携わる株式会社INPEXの大石祐輝さんとキム・ドンヒョンさんに話を聞いた。聞き手は、世界のニュースを扱うJ-WAVE『JAM THE PLANET』ナビゲーターであるグローバー。
グローバー:日々の暮らしの中でエネルギーの問題は、電気料金やガソリン価格の値上がりを通じて感じることが多いですよね。根っこにある大事な問題が、エネルギーを安定供給すること。同時に、限りある資源を守ること。専門企業として、現状をどのように見ていますか?
大石:近年、気候変動や環境への配慮からCO2(二酸化炭素)を減らそうという論調が大きくなり、CO2を排出する石油や石炭が悪者扱いされてしまっている状況でした。ただ現状、再エネだけで必要なエネルギーを安定供給をしていくのは、技術面や事業面からも難しいんです。私たちの暮らしだけではなく、企業の経済活動にも不可欠なエネルギー源として、今は石油や天然ガスに頼らざるを得ない部分があるのかなと思います。
キム:天然ガスも、一時期はCO2を排出するということで、「脱却すべき」という欧州中心の動きがあったんですよ。ところが、ウクライナでの戦争が始まったことで一転、天然ガスはクリーンなエネルギーとして再び認める方向に変わってきています。
グローバー:多角的に議論されていると。
キム:そうですね。生活が逼迫する、価格が高騰するという状況において、まずは足元の「エネルギーの確保」の動きが重要です。その上で、脱炭素や再生可能エネルギーも進めていく必要があります。
グローバー:自動車ひとつとっても、すべての車がいきなり電気自動車に変わるわけではないし、公共交通機関に切り替えようにも地方だと難しいこともある。エネルギーの問題も同じように、将来の方向性、切り替えのスピードやタイミングを見据えながら、バランスをとって進めていく必要があるということですね。
大石:エネルギーのポートフォリオ(選択肢)を増やさなければならない、という意識は我々も強く持っています。選択肢の一つとして、「水素」は利用時にCO2を排出しないので、環境の観点から大きな可能性を持っていますね。ただ大きな課題として、水素だけではなく再エネ全般は、石油・天然ガスに比べてエネルギー効率が悪いんです。また、多くの資金を投入して開発して設備を整えても、それに見合う採算性が保てないと、事業者は赤字になってしまいます。
キム:新しいエネルギーは、商業化するにはコストも高く、現時点では単価を下げるのが難しいという現状があります。
大石:「世の中に貢献していきたいけれど、継続できる価格で売れないと事業者としては厳しい」というジレンマがありますね。機材や設備への投資補填含め、経済性の担保は政府とも調整しながら進めているところです。
グローバー:新しい取り組み、技術はいかがでしょうか?
キム:いま排出されているCO2を、植林や森林管理などで吸収して相殺する「カーボンニュートラル」の取り組みが進んでいます。また、「CCUS」という、CO2を分離・回収して資源として有効利用する新しい技術にも力を入れてチャレンジしています。
グローバー:人々の暮らしを止めないために、安定供給と多様化を両輪で進めているんですね。
グローバー:エネルギーを生産するまでは、どのような流れになるんですか?
大石:ざっくりとしたフローでいうと、例えばある国の政府が「この地域での開発権利を解放します、誰か買いますか?」と公示します。様々な国や企業からその地域の権利を買いたい人たちが入札をして、金額や計画が優れていた事業者に、その土地を開発できる権利が渡ります。ただ、莫大な金額でその地域の開発の権利を買ったものの、掘ってみたら思っていたほどの資源量がないとか、品質がよくなかったということもあるんです。様々な情報を解析して、可能性を極限まで高めた上で、投資や事業の判断をしています。
キム:掘りあてた油田に生産設備をつくって、様々な契約を締結して、安定した生産を実行して、出荷するまでがINPEXの役割です。大きな事業だと1社では難しいので、海外の企業など何社かと組んでコンソーシアム(共同事業体)をつくって、一緒に進めていくこともあります。
大石:社員の目線で言うと、20代で「いま掘り始めました」という段階でも、生産されるのは40-50代になってから……ということもあり得ますね。
グローバー:スパンが長いですね! 「未来の子どものために」とか、「後世のために」っていう言葉がありますけど、文字通りそういうお仕事なんだ。会社の雰囲気はどうですか? 政府の資本も入った企業というと「真面目」「重厚」なんて印象も持ちますが。
キム:下っ端は何も喋れない、みたいな堅苦しい雰囲気が連想されますよね(笑)。実際は若手社員でも裁量を持たせてもらえますし、執行役員や経営陣に自分の意見を言える風通しのよさがあります。部署内でチームビルディング(研修やグループワーク)があったり、部署をまたいだチームで事業に臨んだりと、タテ・ヨコ・ナナメの交流が生まれるんです。それぞれの立場の相互理解が進んで、話しやすい雰囲気に繋がっているのかなと思います。仕事以外でも、コロナ前は飲み会や旅行がありましたし、野球部やフットサル部、サウナ部などの部活動も盛んなんですよ。
グローバー:どんなときにやりがいを感じますか?
大石:僕は企画部門として、ロマンのある仕事だなと思っています。INPEXが進む方向、とっていく方針は、日本のエネルギーの流れに大きく関わる部分なので、日々に追われて「この仕事はなんのためにやっているんだろう?」と迷うようなことが少ないというか。様々な事業の進捗や会社の将来を見ながら、未来を見据えて仕事ができる環境だと感じます。
グローバー:ロマン! いいですね。キムさんはいかがですか?
キム:私は日々追われている部分もあります(笑)。営業職の現場なので、在庫が積み重なって生産が止まってしまわないように……という問題がありまして。
グローバー:そうか、“回す”のが重要ですもんね!
キム:そうなんです。会社としても損失になりますが、やっぱり「エネルギーをしっかり届けないと、困る人たちが出てきてしまう」ということが緊張感に繋がります。船をタイムリーに持っていかなきゃいけないけれど台風で船が着かない、であれば次の船を押さえなきゃいけない……という「いかなる場合も生産は止めちゃいけない」という使命感がありますね。
グローバー:なるほど。企画部門は、先を見据えておおらかに。でも、営業は日々追われているぞと(笑)。
大石・キム:(笑)。
グローバー:最後に、エネルギーは今後どうなっていくのか、見解を伺えますか?
大石:私たちも石油・天然ガスの本業から、どれくらい環境を優先させて再エネにシフトしたらよいのか、経営陣も議論を続けていますが、それでも現状は明確な答えが出ない、悩ましい部分です。やはり、石油・ガスによる安定供給と環境に配慮したネットゼロへの取組との両方を「二刀流」でしっかりやってかなければいけないことに尽きると思います。INPEXの本業はあくまで石油・ガスなので、そこでしっかり資金を確保しながら、水素やCCUS・風力などの再エネにも再投資して、ネットゼロ(二酸化炭素の排出量を相殺してゼロにする取り組み)にも取り組んでいくのが今の方向性です。
キム:政府も国を挙げて2050年までにカーボンニュートラル政策を打ち出しているように、長期的に世界が向かうのは、脱炭素社会に転換していくことだと思います。しかし、世界情勢が不安定な中、短期的には、人々の生活を安定させる石油・ガスの安定供給が課題となるので、私たちとしてもクリーン・持続可能なエネルギーを志向しつつ、中核事業である石油・ガスの安定供給により精進していく方向性と考えております。 株式会社INPEXに関する詳細は公式サイトまで。
(取材・文=反中恵理香、写真=竹内洋平)
ウクライナでの戦争によって、エネルギー危機がメディアで取り沙汰されることが増えた。とくに欧州では、この冬をどう越えていくか、市民の生活にも影響が及んでいる。
一方で2020年以降は、環境への配慮で脱炭素の流れが加速。再生可能エネルギー(以下、再エネ)が推進されている。果たして、エネルギーは環境が優先か、安定供給が優先か? 再エネへのシフトは、どうなっていくのか?
エネルギー問題のヒントを得るべく、今回は石油・天然ガスをはじめ様々なエネルギーの開発・生産に携わる株式会社INPEXの大石祐輝さんとキム・ドンヒョンさんに話を聞いた。聞き手は、世界のニュースを扱うJ-WAVE『JAM THE PLANET』ナビゲーターであるグローバー。
石油や石炭は「悪者」ではない─エネルギー安定供給のために
INPEXはエネルギーの分野で長年、社会経済の基盤を支えてきた。海底などの掘削・開発から主に石油・天然ガスの生産、また水素や再エネにも取り組む、エネルギートランスフォーメーションのパイオニアだ。グローバー:日々の暮らしの中でエネルギーの問題は、電気料金やガソリン価格の値上がりを通じて感じることが多いですよね。根っこにある大事な問題が、エネルギーを安定供給すること。同時に、限りある資源を守ること。専門企業として、現状をどのように見ていますか?
J-WAVE『JAM THE PLANET』のナビゲーターであるグローバー
株式会社INPEX 経営企画本部 経営企画ユニット 企画グループ 大石祐輝さん。財務部を経て、現在は経営企画部に所属。会社の経営方針や戦略を実務に落とし込み、各部門の実行の舵取りを行う。
グローバー:多角的に議論されていると。
キム:そうですね。生活が逼迫する、価格が高騰するという状況において、まずは足元の「エネルギーの確保」の動きが重要です。その上で、脱炭素や再生可能エネルギーも進めていく必要があります。
株式会社INPEX グローバルエネルギー営業本部 原油営業ユニット LPG営業グループ キム ドンヒョンさん。海外営業として、LPガスのマーケティング・販売を担当する。
エネルギーの選択肢を増やす重要性
実際にINPEXでは、石油・天然ガスの安定供給を図りながら、2050年までに水素などの再エネ生産を加速させ、エネルギーの多様化・安定供給を目指す方針だ。 グローバー:再エネにどこまで頼れるかは不透明な中ですが、「技術がより洗練されてきたよ」とか「新しい研究の成果が出てきたよ」というニュースを聞くと、明るい道筋に感じられます。エネルギーシフトの今は、どのような状態ですか?大石:エネルギーのポートフォリオ(選択肢)を増やさなければならない、という意識は我々も強く持っています。選択肢の一つとして、「水素」は利用時にCO2を排出しないので、環境の観点から大きな可能性を持っていますね。ただ大きな課題として、水素だけではなく再エネ全般は、石油・天然ガスに比べてエネルギー効率が悪いんです。また、多くの資金を投入して開発して設備を整えても、それに見合う採算性が保てないと、事業者は赤字になってしまいます。
キム:新しいエネルギーは、商業化するにはコストも高く、現時点では単価を下げるのが難しいという現状があります。
大石:「世の中に貢献していきたいけれど、継続できる価格で売れないと事業者としては厳しい」というジレンマがありますね。機材や設備への投資補填含め、経済性の担保は政府とも調整しながら進めているところです。
グローバー:新しい取り組み、技術はいかがでしょうか?
キム:いま排出されているCO2を、植林や森林管理などで吸収して相殺する「カーボンニュートラル」の取り組みが進んでいます。また、「CCUS」という、CO2を分離・回収して資源として有効利用する新しい技術にも力を入れてチャレンジしています。
グローバー:人々の暮らしを止めないために、安定供給と多様化を両輪で進めているんですね。
20年がかりの仕事も…使命感やロマンを感じるとき
エネルギーの事業は、一朝一夕で結論を出すことができない。例えば西オーストラリアで運営する「イクシスLNGプロジェクト」は、海底を掘削する権利を得てから、石油・天然ガスを生産しはじめるまでに20年かかったのだとか。長期にわたる仕事の醍醐味や、社風について聞いた。大石:ざっくりとしたフローでいうと、例えばある国の政府が「この地域での開発権利を解放します、誰か買いますか?」と公示します。様々な国や企業からその地域の権利を買いたい人たちが入札をして、金額や計画が優れていた事業者に、その土地を開発できる権利が渡ります。ただ、莫大な金額でその地域の開発の権利を買ったものの、掘ってみたら思っていたほどの資源量がないとか、品質がよくなかったということもあるんです。様々な情報を解析して、可能性を極限まで高めた上で、投資や事業の判断をしています。
キム:掘りあてた油田に生産設備をつくって、様々な契約を締結して、安定した生産を実行して、出荷するまでがINPEXの役割です。大きな事業だと1社では難しいので、海外の企業など何社かと組んでコンソーシアム(共同事業体)をつくって、一緒に進めていくこともあります。
大石:社員の目線で言うと、20代で「いま掘り始めました」という段階でも、生産されるのは40-50代になってから……ということもあり得ますね。
グローバー:スパンが長いですね! 「未来の子どものために」とか、「後世のために」っていう言葉がありますけど、文字通りそういうお仕事なんだ。会社の雰囲気はどうですか? 政府の資本も入った企業というと「真面目」「重厚」なんて印象も持ちますが。
大石:僕は企画部門として、ロマンのある仕事だなと思っています。INPEXが進む方向、とっていく方針は、日本のエネルギーの流れに大きく関わる部分なので、日々に追われて「この仕事はなんのためにやっているんだろう?」と迷うようなことが少ないというか。様々な事業の進捗や会社の将来を見ながら、未来を見据えて仕事ができる環境だと感じます。
キム:私は日々追われている部分もあります(笑)。営業職の現場なので、在庫が積み重なって生産が止まってしまわないように……という問題がありまして。
グローバー:そうか、“回す”のが重要ですもんね!
キム:そうなんです。会社としても損失になりますが、やっぱり「エネルギーをしっかり届けないと、困る人たちが出てきてしまう」ということが緊張感に繋がります。船をタイムリーに持っていかなきゃいけないけれど台風で船が着かない、であれば次の船を押さえなきゃいけない……という「いかなる場合も生産は止めちゃいけない」という使命感がありますね。
グローバー:なるほど。企画部門は、先を見据えておおらかに。でも、営業は日々追われているぞと(笑)。
大石・キム:(笑)。
短期・中期・長期の未来を見据えた、エネルギーの今後
脱炭素社会への過渡期の真っただ中、企業はエネルギーの安定供給と環境配慮の難しい舵取りが求められる。INPEXが考えるエネルギーの今後とは。グローバー:最後に、エネルギーは今後どうなっていくのか、見解を伺えますか?
大石:私たちも石油・天然ガスの本業から、どれくらい環境を優先させて再エネにシフトしたらよいのか、経営陣も議論を続けていますが、それでも現状は明確な答えが出ない、悩ましい部分です。やはり、石油・ガスによる安定供給と環境に配慮したネットゼロへの取組との両方を「二刀流」でしっかりやってかなければいけないことに尽きると思います。INPEXの本業はあくまで石油・ガスなので、そこでしっかり資金を確保しながら、水素やCCUS・風力などの再エネにも再投資して、ネットゼロ(二酸化炭素の排出量を相殺してゼロにする取り組み)にも取り組んでいくのが今の方向性です。
キム:政府も国を挙げて2050年までにカーボンニュートラル政策を打ち出しているように、長期的に世界が向かうのは、脱炭素社会に転換していくことだと思います。しかし、世界情勢が不安定な中、短期的には、人々の生活を安定させる石油・ガスの安定供給が課題となるので、私たちとしてもクリーン・持続可能なエネルギーを志向しつつ、中核事業である石油・ガスの安定供給により精進していく方向性と考えております。 株式会社INPEXに関する詳細は公式サイトまで。
(取材・文=反中恵理香、写真=竹内洋平)
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