「ハリー・ポッター マホウドコロ」、期間限定でポップアップストアをソラマチⓇ にて開催中/ベネリック株式会社のプレスリリースより

『ハリー・ポッター』は、子ども向けの言葉を使わない。その理由を翻訳者が明かす

『ハリー・ポッター』シリーズの日本語訳を手掛けた松岡佑子さんが、翻訳に至った経緯と作品の魅力について語った。

松岡さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『KURASEEDS』(ナビゲーター:山中タイキ)。番組パートナーは小学館のWebマガジン『kufura(クフラ)』の編集長・佐藤明美が務める。ここでは、10月28日(木)のオンエアをテキストで紹介。

「私が翻訳したい」作品への熱量が伝わった

イギリスの作家J・K・ローリングによって執筆された、世界中から絶大な人気を集めるファンタジー小説『ハリー・ポッター』シリーズ。この日の放送では、翻訳を手掛けた松岡佑子さんから、作品にまつわるエピソードや魅力について訊いた。

もともと翻訳家ではなく、同時通訳の仕事をしていた松岡さん。パートナーである松岡幸雄さんが亡くなったことがきっかけで彼の仕事を引き継ぎ、出版社・静山社の社長に就任。民衆史や闘病記など社会派の書籍を中心に取り扱っていた静山社が、なぜ『ハリー・ポッター』シリーズの翻訳を手掛けることになったのだろうか。

松岡:「何の本を出そうか」と模索中、イギリスに通訳の仕事に行くことになったんです。その際に古くからの友人とその伴侶のところへ遊びに行ったのですが、「出版を考えているのだけど何かいい本はないか?」と尋ねたんです。

そのとき友人から手渡された本は、発売からおよそ2年ほど経った『ハリー・ポッターと賢者の石』だったという。
松岡:「この本の版権が取れたらビルが建つ」と言われました。それでその本を借りて、ホテルに帰ってから読みだしたんですね。そうしたら、とても面白くって。「この本は私が翻訳して出したい。絶対にこの本の出版権を取りたい」と思ったんです。

一晩で『ハリー・ポッターと賢者の石』を読破した松岡さんは、すっかりその面白さの虜に。翌朝には出版社に電話をかけたが、その時点では3社から日本語翻訳のオファーが届いていたという。そこで松岡さんはどうしても翻訳を手掛けたいという思いを綴った手紙を出版社宛に送ったそう。2ヵ月後には、松岡さんが『ハリー・ポッターと賢者の石』の日本語版翻訳を担当することが決定した。

松岡:「あなたが一番情熱的だった」ということで版権は取れたわけですが、たった一人だけの出版社なんですよ。当初は「どうしよう」と思いました。そこから物語が始まりました。

『ハリー・ポッター』の魅力を5つ紹介

松岡さんは『ハリー・ポッター』の魅力を5つにわけて解説した。

1:壮大な世界観

松岡:7巻まで続く物語が非常に大きな世界を構成していますし、筋書きもしっかりしています。作者のJ・K・ローリングは汽車のなかで作品のストーリーを思いついたそうですが、そのときに話全体の構想ができあがっていたみたいです。

2:魔法の存在

松岡:伝統的な魔法じゃなくて、新しいさまざまな魔法が登場します。そして、魔法は学校で学ばないとできないんですよね。魔法は、作品の中心的なテーマではありません。私はよく「魔法の粉を振りかける」という言い回しを使うんですけど、魔法が作品の“味付け”に使われているんです。そしてその味付けが、とってもおいしいんですね。
3:個性的なキャラクターたち

松岡:それぞれの人物が身近に感じられて魅力的です。キャラクターたちは作品内で非常に生き生きと描かれています。

4:ユーモア

松岡:クスっと笑えるポイントがたくさんあります。下品な笑いではなく、いかにもイギリス的な笑いが特徴的です。

5:読後感

松岡:7巻すべてを読み終えたとき、「ああ、よかった」と納得できるんですね。非常に幸福な読後感が魅力的だと思います。

自分が納得できる言葉でハリー・ポッターの世界を表現した

松岡さんは『ハリー・ポッター』シリーズの翻訳で大切にしていた点を語った。

松岡:私の場合、原文を何度も読んでいると「この人はこういう口調で話しているに違いない」と、日本語の口調が自然と浮かんでくるんです。『ハリー・ポッター』はそのイメージが出てくることにあまり苦労はしませんでした。なぜなら、原文の文章力がそれだけあったからなんです。最後まで面白く読むことができました。

当初は子どもが読みやすい形で翻訳を試みたが、まったく筆が進まなかったと松岡さんは振り返る。

松岡:子ども向けに書くと、内容が伝わらないんですね。結局、自分が納得できる言葉で翻訳していきました。子ども向きに言葉を砕いて書いていませんが、それがかえってよかったという批評をお母さん方からいただきましたね。



松岡さんの話を聞いた山中と佐藤は、一巻が発売された当時を振り返った。

山中:日本語版の『ハリー・ポッターと賢者の石』が発売された当初、「こんな長編作品、日本では売れない」と慰めの言葉をもらっていたそうです。結果は違いましたね。
佐藤:大ブームになりました。
山中:松岡さんは1年の歳月をかけ、何度も見直しをして、丁寧に翻訳することを心掛けたそうです。どこを読んでも大人としてのめり込む部分があったので、子どものために砕いた表現はしなかったそうです。

『ハリー・ポッター』シリーズは映画化もされ、1作目の公開から今年で20周年を迎えた。今もなお世界中で大勢を魅了し続ける物語を改めて楽しんでみては?

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