J-WAVE(81.3FM)×「MUSIC FUN !」連動企画である、深夜の音楽座談プログラム『WOW MUSIC』。“すごい"音楽をつくるクリエイターが“WOW"と思ういい音楽とは? 毎月1人のクリエイターがマンスリープレゼンターとして登場し、ゲストとトークを繰り広げる。
4月のマンスリープレゼンターはハナレグミの永積 崇。4月3日(土)のオンエアでは、レキシの池田貴史とクラムボンの原田郁子をゲストに迎えた。ここでは、3人の出会いから、それぞれの音楽ルーツ、そして池田と原田も参加したハナレグミの最新アルバム『発光帯』について語り合った模様を紹介しよう。
原田:これ、20何年前の君たち(笑)。
池田:うわー!
永積:すげー!
池田:この頃には俺はもうアフロだね。
原田:アフロ前の写真も見つけたんだけど、配慮した(笑)。
池田:ありがとう(笑)。
原田:たぶん、SUPER BUTTER DOGのライブを観に行って撮ったんだと思う。
永積:これ下北沢のライブハウスだよね。
原田はSUPER BUTTER DOGの元バンドメンバーと専門学校の同級生で、その学年の1つ上に永積がいた。
原田:バンドが生まれていくところをずっと横で見てた感じで。池田(貴史)くんとドラムの周ちゃん(沢田周一)も福井から来るっていってね。
池田:そうそう、ギターの竹ちゃん(竹内朋康)と俺らは同郷で、(永積)崇が誘いに来てね。
原田:それで2人が上京してバンドになったことを横で見てた。
永積:だから(原田)郁子が俺らをいちばん見てたよね。
池田:郁子は俺らのファーストライブから知ってるわけだよね。
原田:どれがファーストライブかがわからない。どれなんだろうって。
池田:俺らも覚えてないけど、SUPER BUTTER DOGはカバーをけっこうやってたよね。
永積:そうだね。当時はクール・アンド・ザ・ギャングとかファンカデリックとか、ファンク系の音楽をカバーしてたね。
原田:私の世界にないファンクっていうものはSUPER BUTTER DOGのみんなに教わった感じ。
池田:それまでは流行的に(音楽を)聴いてて。ラジカセにラジオでかかった曲を片っ端から録音する感じで、でもそれって音楽じゃないよね。ものを集める感覚っていうか。ちゃんと音楽だって感じたのはビートルズだったから、最初に意識したのはビートルズかな。
永積:池ちゃん(池田)のメロディーライティングとかはポール(マッカートニー)的なものを一瞬感じたりする。
池田:最初の衝撃がそれだったからかもしれない。ヘレン・ケラーじゃないけど「ウォーター」って思ったのは。
永積:そのたとえが一瞬わからなかったけど(笑)、「音楽ってこれだ!」ってなった瞬間ね。
池田:そうそう。忘れもしない、ベッドに入ってCDを聴くみたいなのが自分のなかで流行っていて、ベッドに入ってビートルズのCDをかけた瞬間に「うわー!」ってなった(笑)。
原田は池田の話から、ある音楽との出会いを思い出したという。
原田:最初は実家にある音楽を自発的に聴くようになって、そのうち貸しレコード屋に行って、そのお店の店長が「こういうの聴けば」とか「これ好きならこういうのあるよ」とか言っていろいろ教えてくれて。それでセロニアス・モンクとかドクター・ジョンとかを知って。「ピアノ好きならこういうピアノもあるよ」って『ソロ・モンク』を聴いて、カッコいいって(笑)。
永積:難しいじゃなくて、カッコいいってなったの?
原田:そう。鍵盤の上を踊ってるみたいって思って。その前からクラシックピアノをやってたけど、初めて聴いた感じのピアノだった。ちょっと突っかかるのも聴いたことがなくて「すごく自由だ」って。それが私の「ウォーター」って感じ(笑)。こういうのもあるんだって。崇ちゃんはどうなの?
永積:僕はやっぱりマイケル・ジャクソンは大きいかな。その前から親が聴いてたフォークソングとか、当時のニューミュージックはすごく好きで、もちろん今でも歌えるくらい体に入ってるんだけど、まさに「うわ、これ何だろう?」って体が先に気づいちゃう感じは、マイケルの『スリラー』のビデオを親戚のお兄ちゃんから見せてもらって、そこにモータウンの何十周年かの記念でステージ上でマイケルが『ビリー・ジーン』を歌ってムーンウォークを初めてするっていう有名なライブがあって。そのムーンウォークにぶったまげちゃって。それから畳の上でムーンウォークの練習が始まった(笑)。
池田:ザラザラの畳でね(笑)。
永積:全然足が滑らなくてね(笑)。
池田:2人ともそうだと思うけど、生活しているときに常に何かしら探ってない? 頭のなかのどっかで常に考えているんだろうなって。それこそよく言う「寝てるときすらも実は考えてて」みたいなこともあるのかも。そういうのもあるから、シャワー浴びたときにふっとなって、それをかたちにしようとして初めて楽器の前に行くみたいな感じかな。でも、それも全部じゃなくて。それがその曲だったりってするわけだから、ひとつのパターンというか。
一方、永積は近年、「めちゃくちゃ前の日にお酒を飲んで、ちょっと二日酔い気味の寝起きに曲がけっこう浮かぶ」と話す。
永積:やっぱりリミッターとかが本能的にかかってるっぽくて、ちょっと記憶が少し外れているっていうのかな。昼をまたぐと、そこまでの時間がどんどん頭に詰まってきて、だんだん思考力が重くなってくるんだけど、早朝とかちょっと二日酔い気味のときは本能に直結するっていうか。そういうときにメロディーを書くようにしていた時期が去年はすごくあった。
池田:それはメロディー?
永積:メロディーも詞も。夜中の手紙じゃないけど、日中に素になって詞を書くと本能でセーブしちゃうところがあって。
池田:照れくさいというかね。
永積:だけど、第一球っていちばん遠くに投げないとその先が続かないから。そういう意味でよかったのかもしれない。それで一気に全部書けてることはないんだけど、「このとき、変な言い回しをしてて面白いな」っていうのはあった気がします。
最後に原田が曲の浮かぶシチュエーションを語る。
原田:誰かのメロディーとかデモがあったら、まずそれを電車とかバスとかに乗りながら聴く。それでその曲の完成したところを想像して、たとえばつり革に自分がつかまってたら、目の前に座っている人がこれを聴くとしたらどういう曲だと面白いかなとか、そうやって当てはめていく。バスの中ってどんどん景色が変わるから、「これだとこういうふうに聴こえるんだな」とか、反対側になってみる。だからせーのでピアノでやるよりは、ある程度ぼんやり外と自分のなかのピントを合わせていく時間があるかも。
永積:『独自のLIFE』のメロディー自体は2010年とか2011年くらいにあったの。そのときのデモも郁子にピアノを弾いてもらってたんだよね。ただ、曲の雰囲気は違っていて、ちょっとフェアーグラウンド・アトラクションというか、フォーキーな感じだった。
原田:けっこうゆったりとした曲だったよね。
永積:それはそれでカッコいいと思ってたんだけど、そのときには完成までにはいかなくて。
一昨年の夏頃にハナレグミで1曲作ろうとなり、永積はmabanuaと一緒にメロディーの断片を聴いていたときに、『独自のLIFE』のデモのメロディーがよさそうだとなった。
永積:ざっくりmabanuaにアレンジをしてもらって、歌詞を郁子にお願いしたらやってくれることになったんだけど。前作の『SHINJITERU』がすごく静かなアルバムになって、それはそれでやりきったなと思って。今回出た『発光帯』に向けて、まず外に飛び出してフェスとかで響くような曲にしたいなっていうのがあって、いろいろとイメージをしてたんだけど。
原田:(mabanuaがアレンジしたメロディーは)ラップの前までメロディーがあったのかな。ビートもあって。それを聴いた瞬間にネアンデルタール人とかすごく昔の人が火のまわりでみんなで踊っているみたいなのが浮かんできて。「なんか面白い曲になるかも」って。現代の東京の人じゃなくて、もっとなんか……。
池田:血で踊ってるみたいな感じね。
原田:そういうのが感じられる曲になったらいいなって。だからビートが歌詞を引き出してくれたイメージ。あとSUPER BUTTER DOGの『かけひきのジャッヂメント』みたいな、あの瞬発力。崇くんの持ってる言葉とリズムの気持ちよさを、そろそろ聴きたいっていうか。ハナレグミのあの世界ではなかなか難しいかもしれないけど、このビートだったら爆発できるかもと思って。ワンコーラスを聴いてもらって、仮歌をはめてみて「なんか面白いなこの語感」ってなったところを見計らって「ラップしてみない?」って(笑)。
池田:そうだったんだ(笑)。
永積:だからほぼほぼ曲の打ち合わせに僕は参加せず、歌入れの少し前に楽曲をもらったから、自分としてはちょっと面白い試みだったなって思った。
池田:そこまで全くノータッチで進んだ楽曲ってなかったの?
永積:なかったね。もちろん別の人の楽曲を歌うとかはあるけどね。昔、松本 隆さんとお話させてもらったときに、昔のレコーディングで松田聖子さんにはあまり練習をしてもらわないときのテイクであえて臨んだってことを聞いたことがあって。いろんな声の表情ってきっとあるだろうなと思って、あまり体に入れすぎないほうがいい場合の曲があるんじゃないかと思って、こういうかたちにしたんだけど。やりにくかった?
池田:最初に崇がパッと歌ったときがすごくよかったから、逆にそう思ってたんだよね。新鮮さというか。
永積:誰ともこういうかたちでできるとは思ってなくて、2人だからこそだとは思ってたんだけど。
今回の楽曲制作に当たり池田は5曲くらい準備をしたという。
池田:俺は器用に狙って曲を作れないから、ほぼほぼ自分に抗わずに、思いついたものをバンバン録音していった。
永積:デモから大サビみたいなものはできていたの?
池田:大サビは後でくっつけたけど、大サビもわりと自然に作ったというか。流れで、こうきたらこう来るかなって感じで作ったかな。でも、今までほぼほぼ歌詞を後で付けてもらうってやったことがなかったから。
原田:えっ、そうなんだ。
池田:そっちのほうがどうなんだろうっていう気持ちがあって。ちょっと、未知なる部分だったから、どうとでも歌詞が付けれるような感じは意識したかも。
新型コロナウイルスの影響が出る直前、この曲を作る前段階のミーティングで「歳を取っていっても、しみじみと聴ける歌を作れたらいいよね」と話したそうだ。
永積:歌詞はメロディーを聴いたときにぼんやりでも浮かんできたの?
原田:池田くんに「メロディーは言葉によってどんなふうに変えてもらってもいいから、いろいろ相談して」って言ってくれたんだけど、ほぼ変えてないよね。
池田:そう。
原田:この曲はそのほうがきっとカッコいいと思って。でも、それから緊急事態宣言になって、予定していた打ち合わせもバラしになったりして。なんとなくこの曲のイメージは、明かり消えたお店の看板。スナック街とか飲み屋さんとかの繁華街がシーンと静まり返っているみたいなイメージがあって、そこに主人公が久しぶりに歩いているみたいな曲だったら合うかもしれないって。最初にデモを聴いたときになんか懐かしい感じがしたんだよね。「これ、前にあった曲なのかな」っていう感じ。歳を重ねてきた人が、ふっと何かを思い出したりどっかに立ち返るみたいな曲かなっていうイメージ。
原田はこの曲のサビの部分がまるまる出てきたと続ける。
原田:これってサビのセンテンスとしてすごく長いじゃん。メロディーを聴きながら何かのイメージが届くまでが長いけど、それがハナレグミらしさというか。時間をかけて伝える感じになるといいなって。あと、できるだけサビの歌詞を変えないこと。1曲のなかで(サビを)どう変化させていくかをクラムボンでずっとやってきたけど、この曲は弾いているうちになじんでくるというか。聴いてる人が懐かしいみたいになったら面白いかもなって。3つの全くサビが一緒なんだよね。
永積:でも、同じ言葉でも色味とか深みとかが変わってくるんだよね。
原田:池田くんがコーラスとかアレンジで少しずつ色彩を変えてくれたらいいなってイメージはなんとなくあったかな。
原田は永積に「これは自分の物語として歌うんじゃなくて、ストーリーテラーのように物語を語る熱量で歌ってほしい」と提案したという。
永積:この曲に制作から携わっていたら、もっと自分のことに置き換わっていく瞬間があったと思うんだけど、そういう意味でも歌入れの前に言葉とメロディーを聴いて、いい意味で楽曲との距離感ができて。何度かこれまでもライブとかテレビとかで歌ってきたけど、いい意味でずっとたどり着かない曲、ずっとゴールのテープが切れない楽曲だなと思って。それは自分で作ったら作れない。自分で作ると完成した時点でゴールになっちゃうから。でもこの曲は「これが正解なのかな?」って感じながら歌っていく1曲なんだろうなって思った。
ハナレグミは5月から「ツアー『発光帯』」がスタートする。ハナレグミの最新情報は、公式サイトまで。
『WOW MUSIC』はJ-WAVEで土曜24時-25時。また、『MUSIC FUN !』のYouTubeページには、同番組のトーク動画のほか、ミュージシャンやプロデューサーによる音楽の話が数多く配信されている。
・『MUSIC FUN !』のYouTubeページ
https://www.youtube.com/c/musicfun_jp
4月のマンスリープレゼンターはハナレグミの永積 崇。4月3日(土)のオンエアでは、レキシの池田貴史とクラムボンの原田郁子をゲストに迎えた。ここでは、3人の出会いから、それぞれの音楽ルーツ、そして池田と原田も参加したハナレグミの最新アルバム『発光帯』について語り合った模様を紹介しよう。
原田郁子「バンドが生まれるところをずっと横で見てた」
SUPER BUTTER DOGの盟友でもある池田と、クラムボンの原田郁子は、永積とはかれこれ20年以上の付き合いとなる。番組冒頭、原田は実家から送られてきた懐かしい写真をスタジオで広げた。原田:これ、20何年前の君たち(笑)。
池田:うわー!
永積:すげー!
池田:この頃には俺はもうアフロだね。
原田:アフロ前の写真も見つけたんだけど、配慮した(笑)。
池田:ありがとう(笑)。
原田:たぶん、SUPER BUTTER DOGのライブを観に行って撮ったんだと思う。
永積:これ下北沢のライブハウスだよね。
原田はSUPER BUTTER DOGの元バンドメンバーと専門学校の同級生で、その学年の1つ上に永積がいた。
原田:バンドが生まれていくところをずっと横で見てた感じで。池田(貴史)くんとドラムの周ちゃん(沢田周一)も福井から来るっていってね。
池田:そうそう、ギターの竹ちゃん(竹内朋康)と俺らは同郷で、(永積)崇が誘いに来てね。
原田:それで2人が上京してバンドになったことを横で見てた。
永積:だから(原田)郁子が俺らをいちばん見てたよね。
池田:郁子は俺らのファーストライブから知ってるわけだよね。
原田:どれがファーストライブかがわからない。どれなんだろうって。
池田:俺らも覚えてないけど、SUPER BUTTER DOGはカバーをけっこうやってたよね。
永積:そうだね。当時はクール・アンド・ザ・ギャングとかファンカデリックとか、ファンク系の音楽をカバーしてたね。
原田:私の世界にないファンクっていうものはSUPER BUTTER DOGのみんなに教わった感じ。
「音楽ってこれだ!」となった瞬間
続いて、3人の音楽ルーツの話題に。はじめに池田が「ザ・ビートルズに影響を受けた」と話す。池田:それまでは流行的に(音楽を)聴いてて。ラジカセにラジオでかかった曲を片っ端から録音する感じで、でもそれって音楽じゃないよね。ものを集める感覚っていうか。ちゃんと音楽だって感じたのはビートルズだったから、最初に意識したのはビートルズかな。
永積:池ちゃん(池田)のメロディーライティングとかはポール(マッカートニー)的なものを一瞬感じたりする。
池田:最初の衝撃がそれだったからかもしれない。ヘレン・ケラーじゃないけど「ウォーター」って思ったのは。
永積:そのたとえが一瞬わからなかったけど(笑)、「音楽ってこれだ!」ってなった瞬間ね。
池田:そうそう。忘れもしない、ベッドに入ってCDを聴くみたいなのが自分のなかで流行っていて、ベッドに入ってビートルズのCDをかけた瞬間に「うわー!」ってなった(笑)。
原田は池田の話から、ある音楽との出会いを思い出したという。
原田:最初は実家にある音楽を自発的に聴くようになって、そのうち貸しレコード屋に行って、そのお店の店長が「こういうの聴けば」とか「これ好きならこういうのあるよ」とか言っていろいろ教えてくれて。それでセロニアス・モンクとかドクター・ジョンとかを知って。「ピアノ好きならこういうピアノもあるよ」って『ソロ・モンク』を聴いて、カッコいいって(笑)。
永積:難しいじゃなくて、カッコいいってなったの?
原田:そう。鍵盤の上を踊ってるみたいって思って。その前からクラシックピアノをやってたけど、初めて聴いた感じのピアノだった。ちょっと突っかかるのも聴いたことがなくて「すごく自由だ」って。それが私の「ウォーター」って感じ(笑)。こういうのもあるんだって。崇ちゃんはどうなの?
永積:僕はやっぱりマイケル・ジャクソンは大きいかな。その前から親が聴いてたフォークソングとか、当時のニューミュージックはすごく好きで、もちろん今でも歌えるくらい体に入ってるんだけど、まさに「うわ、これ何だろう?」って体が先に気づいちゃう感じは、マイケルの『スリラー』のビデオを親戚のお兄ちゃんから見せてもらって、そこにモータウンの何十周年かの記念でステージ上でマイケルが『ビリー・ジーン』を歌ってムーンウォークを初めてするっていう有名なライブがあって。そのムーンウォークにぶったまげちゃって。それから畳の上でムーンウォークの練習が始まった(笑)。
池田:ザラザラの畳でね(笑)。
永積:全然足が滑らなくてね(笑)。
曲がひらめく瞬間
永積に「曲が最初にひらめくときっていつ?」と訊かれた池田は「もちろんピアノを弾いているときもあるけど、シャワーを浴びているときに浮かぶことが多い」と答え、それに永積が共感する。池田:2人ともそうだと思うけど、生活しているときに常に何かしら探ってない? 頭のなかのどっかで常に考えているんだろうなって。それこそよく言う「寝てるときすらも実は考えてて」みたいなこともあるのかも。そういうのもあるから、シャワー浴びたときにふっとなって、それをかたちにしようとして初めて楽器の前に行くみたいな感じかな。でも、それも全部じゃなくて。それがその曲だったりってするわけだから、ひとつのパターンというか。
一方、永積は近年、「めちゃくちゃ前の日にお酒を飲んで、ちょっと二日酔い気味の寝起きに曲がけっこう浮かぶ」と話す。
永積:やっぱりリミッターとかが本能的にかかってるっぽくて、ちょっと記憶が少し外れているっていうのかな。昼をまたぐと、そこまでの時間がどんどん頭に詰まってきて、だんだん思考力が重くなってくるんだけど、早朝とかちょっと二日酔い気味のときは本能に直結するっていうか。そういうときにメロディーを書くようにしていた時期が去年はすごくあった。
池田:それはメロディー?
永積:メロディーも詞も。夜中の手紙じゃないけど、日中に素になって詞を書くと本能でセーブしちゃうところがあって。
池田:照れくさいというかね。
永積:だけど、第一球っていちばん遠くに投げないとその先が続かないから。そういう意味でよかったのかもしれない。それで一気に全部書けてることはないんだけど、「このとき、変な言い回しをしてて面白いな」っていうのはあった気がします。
最後に原田が曲の浮かぶシチュエーションを語る。
原田:誰かのメロディーとかデモがあったら、まずそれを電車とかバスとかに乗りながら聴く。それでその曲の完成したところを想像して、たとえばつり革に自分がつかまってたら、目の前に座っている人がこれを聴くとしたらどういう曲だと面白いかなとか、そうやって当てはめていく。バスの中ってどんどん景色が変わるから、「これだとこういうふうに聴こえるんだな」とか、反対側になってみる。だからせーのでピアノでやるよりは、ある程度ぼんやり外と自分のなかのピントを合わせていく時間があるかも。
昔の人たちが火のまわりで歌っている姿が浮かんだ
ハナレグミは3月に3年半ぶりとなる8枚目のアルバム『発光帯』をリリースした。このアルバムの表題曲『発光帯』は池田が作曲、原田が作詞で参加。また『独自のLIFE』は原田が作詞を担当している。原田:けっこうゆったりとした曲だったよね。
永積:それはそれでカッコいいと思ってたんだけど、そのときには完成までにはいかなくて。
一昨年の夏頃にハナレグミで1曲作ろうとなり、永積はmabanuaと一緒にメロディーの断片を聴いていたときに、『独自のLIFE』のデモのメロディーがよさそうだとなった。
永積:ざっくりmabanuaにアレンジをしてもらって、歌詞を郁子にお願いしたらやってくれることになったんだけど。前作の『SHINJITERU』がすごく静かなアルバムになって、それはそれでやりきったなと思って。今回出た『発光帯』に向けて、まず外に飛び出してフェスとかで響くような曲にしたいなっていうのがあって、いろいろとイメージをしてたんだけど。
原田:(mabanuaがアレンジしたメロディーは)ラップの前までメロディーがあったのかな。ビートもあって。それを聴いた瞬間にネアンデルタール人とかすごく昔の人が火のまわりでみんなで踊っているみたいなのが浮かんできて。「なんか面白い曲になるかも」って。現代の東京の人じゃなくて、もっとなんか……。
池田:血で踊ってるみたいな感じね。
原田:そういうのが感じられる曲になったらいいなって。だからビートが歌詞を引き出してくれたイメージ。あとSUPER BUTTER DOGの『かけひきのジャッヂメント』みたいな、あの瞬発力。崇くんの持ってる言葉とリズムの気持ちよさを、そろそろ聴きたいっていうか。ハナレグミのあの世界ではなかなか難しいかもしれないけど、このビートだったら爆発できるかもと思って。ワンコーラスを聴いてもらって、仮歌をはめてみて「なんか面白いなこの語感」ってなったところを見計らって「ラップしてみない?」って(笑)。
池田:そうだったんだ(笑)。
ずっとゴールのテープが切れない楽曲
永積は表題曲『発光帯』の制作を振り返り、この曲はあえて池田と原田に「こういう曲にしてほしい」とか「こういう歌詞を書いてほしい」とは伝えず、2人が「こういう曲を歌ったらいいんじゃないか」という思うままのイメージで制作してほしかったと明かす。池田:そこまで全くノータッチで進んだ楽曲ってなかったの?
永積:なかったね。もちろん別の人の楽曲を歌うとかはあるけどね。昔、松本 隆さんとお話させてもらったときに、昔のレコーディングで松田聖子さんにはあまり練習をしてもらわないときのテイクであえて臨んだってことを聞いたことがあって。いろんな声の表情ってきっとあるだろうなと思って、あまり体に入れすぎないほうがいい場合の曲があるんじゃないかと思って、こういうかたちにしたんだけど。やりにくかった?
池田:最初に崇がパッと歌ったときがすごくよかったから、逆にそう思ってたんだよね。新鮮さというか。
永積:誰ともこういうかたちでできるとは思ってなくて、2人だからこそだとは思ってたんだけど。
今回の楽曲制作に当たり池田は5曲くらい準備をしたという。
池田:俺は器用に狙って曲を作れないから、ほぼほぼ自分に抗わずに、思いついたものをバンバン録音していった。
永積:デモから大サビみたいなものはできていたの?
池田:大サビは後でくっつけたけど、大サビもわりと自然に作ったというか。流れで、こうきたらこう来るかなって感じで作ったかな。でも、今までほぼほぼ歌詞を後で付けてもらうってやったことがなかったから。
原田:えっ、そうなんだ。
池田:そっちのほうがどうなんだろうっていう気持ちがあって。ちょっと、未知なる部分だったから、どうとでも歌詞が付けれるような感じは意識したかも。
新型コロナウイルスの影響が出る直前、この曲を作る前段階のミーティングで「歳を取っていっても、しみじみと聴ける歌を作れたらいいよね」と話したそうだ。
永積:歌詞はメロディーを聴いたときにぼんやりでも浮かんできたの?
原田:池田くんに「メロディーは言葉によってどんなふうに変えてもらってもいいから、いろいろ相談して」って言ってくれたんだけど、ほぼ変えてないよね。
池田:そう。
原田:この曲はそのほうがきっとカッコいいと思って。でも、それから緊急事態宣言になって、予定していた打ち合わせもバラしになったりして。なんとなくこの曲のイメージは、明かり消えたお店の看板。スナック街とか飲み屋さんとかの繁華街がシーンと静まり返っているみたいなイメージがあって、そこに主人公が久しぶりに歩いているみたいな曲だったら合うかもしれないって。最初にデモを聴いたときになんか懐かしい感じがしたんだよね。「これ、前にあった曲なのかな」っていう感じ。歳を重ねてきた人が、ふっと何かを思い出したりどっかに立ち返るみたいな曲かなっていうイメージ。
原田はこの曲のサビの部分がまるまる出てきたと続ける。
原田:これってサビのセンテンスとしてすごく長いじゃん。メロディーを聴きながら何かのイメージが届くまでが長いけど、それがハナレグミらしさというか。時間をかけて伝える感じになるといいなって。あと、できるだけサビの歌詞を変えないこと。1曲のなかで(サビを)どう変化させていくかをクラムボンでずっとやってきたけど、この曲は弾いているうちになじんでくるというか。聴いてる人が懐かしいみたいになったら面白いかもなって。3つの全くサビが一緒なんだよね。
永積:でも、同じ言葉でも色味とか深みとかが変わってくるんだよね。
原田:池田くんがコーラスとかアレンジで少しずつ色彩を変えてくれたらいいなってイメージはなんとなくあったかな。
原田は永積に「これは自分の物語として歌うんじゃなくて、ストーリーテラーのように物語を語る熱量で歌ってほしい」と提案したという。
永積:この曲に制作から携わっていたら、もっと自分のことに置き換わっていく瞬間があったと思うんだけど、そういう意味でも歌入れの前に言葉とメロディーを聴いて、いい意味で楽曲との距離感ができて。何度かこれまでもライブとかテレビとかで歌ってきたけど、いい意味でずっとたどり着かない曲、ずっとゴールのテープが切れない楽曲だなと思って。それは自分で作ったら作れない。自分で作ると完成した時点でゴールになっちゃうから。でもこの曲は「これが正解なのかな?」って感じながら歌っていく1曲なんだろうなって思った。
ハナレグミは5月から「ツアー『発光帯』」がスタートする。ハナレグミの最新情報は、公式サイトまで。
『WOW MUSIC』はJ-WAVEで土曜24時-25時。また、『MUSIC FUN !』のYouTubeページには、同番組のトーク動画のほか、ミュージシャンやプロデューサーによる音楽の話が数多く配信されている。
・『MUSIC FUN !』のYouTubeページ
https://www.youtube.com/c/musicfun_jp
番組情報
- WOW MUSIC
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毎週土曜24:00-25:00