後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)がラッパーのBASIと、共作した楽曲『The Age』の制作秘話から、ラップの表現力や可能性について語り合った。
後藤とBASIがトークを展開したのは、12月13日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。後藤は同番組の第2週目のマンスリーナビゲーターを務める。
後藤:たしか僕がツイッターでBASIさんに参加をお願いしたんですよね。
BASI:ある日突然、ツイッターでメッセージを送っていただきました。
後藤:いつか、BASIさんと一緒にやりたいなという気持ちがあったんですよ。
BASI:それがめちゃくちゃ、うれしくて。確かメッセージがきたのは夜中だったか、夜だったか、めちゃくちゃテンションが上がりましたね。
後藤:失礼ながら、僕はBASIさんの熱心なリスナーではなかったんですが、ここ何年かで「カッコいいな」と思う瞬間がどんどん増えていって。「あれ、BASIさんって韻シストのメンバー(だったんだ)。めちゃくちゃカッコいいな」みたいなかたちで。いろんな人たちとのコラボの動画や曲が耳に入ってきて、すごく印象に残っているのはillmore の『Drunk feat. BASI』のミュージックビデオ。曲もめちゃくちゃよかったです。
後藤:自分が感じている、社会や仲間に対するフィーリングや音楽に対する愛とか、たぶん近い感じでやっているのかなって感じがしたんですよね。
BASI:ありがとうございます。シンパシーを感じていただいたんですね。
後藤:一緒にやったら、かなり素敵なものができるんじゃないかなと思って。BASIさんはリリックの幅が広いと思ったんですよね。ちょっと難しいテーマでもBASIさんだったら書いてくれるなっていう認識でした。
BASI:歌詞を書くのがすごく好きで、あの時期はコロナもあっていろいろ腰が重かった時期でした。そのときにGotchさんに「こういうことを歌いたい」というのもいただいて、むしろ背中を押してもらったというか、立たせてくれたタイミングだったんですよね。
後藤:この曲は最初、バースを2つとも自分でやってたんですけど、全然ダメだなって思っていて。あの文字数とビートでの体力がないから、2ついくとやっぱり視点が広がらないって悩みがありました。ちょうどBASIさんに「ヒップなのやりたい」って言っていただいて、そのトラックのことを思い出して送ったら、想像を超えるラップが返ってきて、めちゃくちゃアガりましたね。
BASI:僕も失礼かなと思いながら、Gotchさんに「一緒にラップをやりませんか」って言いました。あそこは気持ちを抑えるべきではなくて、人様の作品ではあるんですけど、僕の中ではそういう気分だったんですよね。
後藤:そのやりとりがあって、すごいところに着地できたのでよかったなと。
今作で3人のラッパーと作品を作り上げた後藤は、それぞれに「僕はこうしたい」という意志を感じたという。
BASI:自我を出してきましたか(笑)。
後藤:バンドの人の方が、若干空気を読みにいくわけじゃないけど、そうやって点を取りにいくようなことはしないので。ラッパーって感覚的にはストライカーみたいな、ちゃんとゴールを入れますよみたいな感じがするんです。BASIさんの音楽的欲求を出していただいたからこそ、『The Age』がすごくいい曲になりました。
BASI:ありがとうございます。
後藤:ちょっと僕が持ち前の皮肉屋っぽいムードでバースやったら、それを口に合わないビーフみたいに入れてくるところが、僕のことを言ってないかもだけどいい意味での切り返しみたいで、そのセンスが面白いなと思いました。
BASI:ラップで重きを置いているのは一小節目に何を言うかとか、一小節目にどんな入りをするか、全てそこがキーなのかなと思っています。そこを感じてもらったのはすごくうれしかったですね。
後藤:そこから、どんどんポジティブなほうにラップを切っていくというか。しかも音楽を交えながら、そっち側にいくんだって。
BASI:事前にGotchさんに資料じゃないけど、こういうことを思っているという文章をいただいたじゃないですか。あれがすごく助かったというか。インスピレーションが湧きやすい要素の大きなひとつだったんですよね。ミュージシャン寄りの話じゃないですけど、忠実になるべくそのイメージに合うもの、寄せるものをイメージして、でも点を取るのはそういうフロウとかライミングで見せれたらなと、そういう二軸で書きましたね。1回目でGotchさんにいい反応をもらえたので、よかったなと思いました。
後藤:ラップミュージックは、文化的な構造上で「俺とは何か」「私とは何か」みたいなところから、自分のシグネチャーみたいな、フロウ含め言葉選びから、生い立ちから、そういうのを打ち立てたり知らしめたりするために言葉が使われることが多いなと思ったりするんですけど、それだけではやっていけないというか。ロックでも初期衝動みたいなものだけではずっとはできないこともあって、やっぱり言葉ってテーマを持って書いていかないとなかなか書き続けることが難しいんじゃないかと思うんです。ヒップホップを見ていると、ともすれば誰一瞬、一番輝けたかを競い合うゲームみたいになってしまうかもしれない。バッと光って、みんな消費されていくみたいな。でも、BASIさんは1998年からサバイブし続けて、またカッコいい音楽を作っているから、どういう風に取り組んでいるのかなって。
BASI:20代、30代は何かを批判したり、鋭い言葉で罵倒したり、「やっぱり俺が一番だ」みたいなものが、若いときに感化され、ラップがカッコいいなと思った根源で。でも、2017年に『LOVEBUM』ってアルバムを出したんですけど。そのときからスピーカーからすごい鋭い言葉とか誰かをけなすような言葉が耳に入ったときに、パッと行動が止まってしまうというか。耳がそっちに持っていかれて、「なんてことを言っているんだろう」ってリスナーの立場に立ってそういう風に感じたことがあって。それをきっかけに、自分はそういうことは歌いたくないなって思いました。マイナスになるような単語とか言葉を排除したいなと思って作ったのが『LOVEBUM』でした。
BASIはCharaとの交流からも、意識が変わったという。
BASI:Charaさんによくライブサポートのラッパーとして呼んでもらうこともあって。Charaさんって毎年キャリアを重ねていくごとに、どんどん若い世代と音楽を交流し合っているんです。それを隣で見させてもらってたり、いまだにその根源にある愛っていう解けそうで解けない最大のテーマをずっと何年も続けている姿勢を見たりして、こっちもどんどんそっちに影響を受けていったというか。
後藤:BASIさんとCharaさんとの活動って外から見ていても印象的です。
BASI:毎回、そうそうたるメンバーのなかで、自分はラップしかやってきてないけど、なぜかCharaさんは隣に置いてくれるということは、これは何かあるんだろうなって。リリックなんかもCharaさんは人に書いてもらうことはしなかったみたいだけど「BASIなら書いていいよ」ってあるときに言ってくれて。何作かCharaさんの楽曲で書かせてもらったんですけど、そこからCharaさんが自分のことをそう思ってくれているのであれば、それは自分の長所だと思って伸ばしていこう、そういう勇気をいただいた人ですね。
後藤:それはすごくいい出会いですね。
BASI:ありがたい出会いです。
後藤:僕はBASIさんの『かさぶた』を聴いていて、最後に今を生きてというように歌うじゃないですか。
後藤:あそこで温かくなってくるんですよね。
BASI:うれしいです。あそこは『The Age』のビーフのところくらい思いを込めた部分なので、反応してくれてすごくうれしいです。
BASIは2月10日(水)から「<振替公演> BASI ONEMAN LIVE 2020 “THE SHOW”」を大阪、東京開催する。詳細やBASIの最新情報は、公式サイトまたは、オフィシャルTwitterまで。
番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。
・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/
『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
後藤とBASIがトークを展開したのは、12月13日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。後藤は同番組の第2週目のマンスリーナビゲーターを務める。
「一緒にやったら、かなり素敵なものができるんじゃないか」
後藤(Gotch)は、自身の誕生日である12月2日にニューソロアルバム『Lives By The Sea』をリリース。BASIはこのアルバムの収録曲『The Age (feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka)』に参加している。Gotch『The Age』 (feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka) Music Video
BASI:ある日突然、ツイッターでメッセージを送っていただきました。
後藤:いつか、BASIさんと一緒にやりたいなという気持ちがあったんですよ。
BASI:それがめちゃくちゃ、うれしくて。確かメッセージがきたのは夜中だったか、夜だったか、めちゃくちゃテンションが上がりましたね。
後藤:失礼ながら、僕はBASIさんの熱心なリスナーではなかったんですが、ここ何年かで「カッコいいな」と思う瞬間がどんどん増えていって。「あれ、BASIさんって韻シストのメンバー(だったんだ)。めちゃくちゃカッコいいな」みたいなかたちで。いろんな人たちとのコラボの動画や曲が耳に入ってきて、すごく印象に残っているのはillmore の『Drunk feat. BASI』のミュージックビデオ。曲もめちゃくちゃよかったです。
illmore『Drunk feat. BASI』
BASI:ありがとうございます。シンパシーを感じていただいたんですね。
後藤:一緒にやったら、かなり素敵なものができるんじゃないかなと思って。BASIさんはリリックの幅が広いと思ったんですよね。ちょっと難しいテーマでもBASIさんだったら書いてくれるなっていう認識でした。
BASI:歌詞を書くのがすごく好きで、あの時期はコロナもあっていろいろ腰が重かった時期でした。そのときにGotchさんに「こういうことを歌いたい」というのもいただいて、むしろ背中を押してもらったというか、立たせてくれたタイミングだったんですよね。
ラッパーは、ゴールを決める“ストライカー”
後藤は試行錯誤した『The Age』の制作を振り返る。後藤:この曲は最初、バースを2つとも自分でやってたんですけど、全然ダメだなって思っていて。あの文字数とビートでの体力がないから、2ついくとやっぱり視点が広がらないって悩みがありました。ちょうどBASIさんに「ヒップなのやりたい」って言っていただいて、そのトラックのことを思い出して送ったら、想像を超えるラップが返ってきて、めちゃくちゃアガりましたね。
BASI:僕も失礼かなと思いながら、Gotchさんに「一緒にラップをやりませんか」って言いました。あそこは気持ちを抑えるべきではなくて、人様の作品ではあるんですけど、僕の中ではそういう気分だったんですよね。
後藤:そのやりとりがあって、すごいところに着地できたのでよかったなと。
今作で3人のラッパーと作品を作り上げた後藤は、それぞれに「僕はこうしたい」という意志を感じたという。
BASI:自我を出してきましたか(笑)。
後藤:バンドの人の方が、若干空気を読みにいくわけじゃないけど、そうやって点を取りにいくようなことはしないので。ラッパーって感覚的にはストライカーみたいな、ちゃんとゴールを入れますよみたいな感じがするんです。BASIさんの音楽的欲求を出していただいたからこそ、『The Age』がすごくいい曲になりました。
BASI:ありがとうございます。
後藤:ちょっと僕が持ち前の皮肉屋っぽいムードでバースやったら、それを口に合わないビーフみたいに入れてくるところが、僕のことを言ってないかもだけどいい意味での切り返しみたいで、そのセンスが面白いなと思いました。
BASI:ラップで重きを置いているのは一小節目に何を言うかとか、一小節目にどんな入りをするか、全てそこがキーなのかなと思っています。そこを感じてもらったのはすごくうれしかったですね。
後藤:そこから、どんどんポジティブなほうにラップを切っていくというか。しかも音楽を交えながら、そっち側にいくんだって。
BASI:事前にGotchさんに資料じゃないけど、こういうことを思っているという文章をいただいたじゃないですか。あれがすごく助かったというか。インスピレーションが湧きやすい要素の大きなひとつだったんですよね。ミュージシャン寄りの話じゃないですけど、忠実になるべくそのイメージに合うもの、寄せるものをイメージして、でも点を取るのはそういうフロウとかライミングで見せれたらなと、そういう二軸で書きましたね。1回目でGotchさんにいい反応をもらえたので、よかったなと思いました。
Charaとの交流で意識に変化
後藤はBASIに「言葉を書き続ける秘訣」について質問する。後藤:ラップミュージックは、文化的な構造上で「俺とは何か」「私とは何か」みたいなところから、自分のシグネチャーみたいな、フロウ含め言葉選びから、生い立ちから、そういうのを打ち立てたり知らしめたりするために言葉が使われることが多いなと思ったりするんですけど、それだけではやっていけないというか。ロックでも初期衝動みたいなものだけではずっとはできないこともあって、やっぱり言葉ってテーマを持って書いていかないとなかなか書き続けることが難しいんじゃないかと思うんです。ヒップホップを見ていると、ともすれば誰一瞬、一番輝けたかを競い合うゲームみたいになってしまうかもしれない。バッと光って、みんな消費されていくみたいな。でも、BASIさんは1998年からサバイブし続けて、またカッコいい音楽を作っているから、どういう風に取り組んでいるのかなって。
BASI:20代、30代は何かを批判したり、鋭い言葉で罵倒したり、「やっぱり俺が一番だ」みたいなものが、若いときに感化され、ラップがカッコいいなと思った根源で。でも、2017年に『LOVEBUM』ってアルバムを出したんですけど。そのときからスピーカーからすごい鋭い言葉とか誰かをけなすような言葉が耳に入ったときに、パッと行動が止まってしまうというか。耳がそっちに持っていかれて、「なんてことを言っているんだろう」ってリスナーの立場に立ってそういう風に感じたことがあって。それをきっかけに、自分はそういうことは歌いたくないなって思いました。マイナスになるような単語とか言葉を排除したいなと思って作ったのが『LOVEBUM』でした。
BASIはCharaとの交流からも、意識が変わったという。
BASI:Charaさんによくライブサポートのラッパーとして呼んでもらうこともあって。Charaさんって毎年キャリアを重ねていくごとに、どんどん若い世代と音楽を交流し合っているんです。それを隣で見させてもらってたり、いまだにその根源にある愛っていう解けそうで解けない最大のテーマをずっと何年も続けている姿勢を見たりして、こっちもどんどんそっちに影響を受けていったというか。
後藤:BASIさんとCharaさんとの活動って外から見ていても印象的です。
BASI:毎回、そうそうたるメンバーのなかで、自分はラップしかやってきてないけど、なぜかCharaさんは隣に置いてくれるということは、これは何かあるんだろうなって。リリックなんかもCharaさんは人に書いてもらうことはしなかったみたいだけど「BASIなら書いていいよ」ってあるときに言ってくれて。何作かCharaさんの楽曲で書かせてもらったんですけど、そこからCharaさんが自分のことをそう思ってくれているのであれば、それは自分の長所だと思って伸ばしていこう、そういう勇気をいただいた人ですね。
後藤:それはすごくいい出会いですね。
BASI:ありがたい出会いです。
後藤:僕はBASIさんの『かさぶた』を聴いていて、最後に今を生きてというように歌うじゃないですか。
BASI『かさぶた』(Official Video)
BASI:うれしいです。あそこは『The Age』のビーフのところくらい思いを込めた部分なので、反応してくれてすごくうれしいです。
BASIは2月10日(水)から「<振替公演> BASI ONEMAN LIVE 2020 “THE SHOW”」を大阪、東京開催する。詳細やBASIの最新情報は、公式サイトまたは、オフィシャルTwitterまで。
番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。
・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/
『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
radikoで聴く
2020年12月20日28時59分まで
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
番組情報
- INNOVATION WORLD ERA
-
毎週日曜23:00-23:54/SPINEAR、Spotify、YouTubeでも配信