新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛要請が続く。さまざまな業界が経済的なダメージを受けているが、とくにフリーランスは影響が大きい。俳優・西田敏行が理事長を務める協同組合「日本俳優連合」のアンケートでは、およそ7割の俳優や声優が新たな仕事の依頼が全くない状況で生活が困窮していることがわかった。今、俳優や声優たちにどんな支援が必要なのか。
4月27日(月)にオンエアされたJ-WAVE『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」では、月曜日のニューススーパーバイザーであるジャーナリストの津田大介が、「日本俳優連合」国際事業部長で女優の森崎めぐみさんに、俳優たちの現状を電話で話を訊いた。
■「文化がこんなに認められていないとは」 俳優たちの叫び
「日本俳優連合」は、この業界で数少ない俳優の組合で、およそ2600人の俳優や声優が加盟している。俳優は一人ひとりが製作者と対等に出演契約を結ぶことは難しいので、協同組合法で認められている団体交渉権を生かして、NHK、民法、制作会社との間で年に1度以上、最低出演料などの出演条約や安全対策などの団体交渉をしています。
2月26日に公演・イベントなどの自粛要請を受けて、ライブパフォーマンスを仕事にしている俳優の仕事がほぼなくなったことをきっかけに、「日本俳優連合」は、まず3月31日から「新型コロナウイルス感染症拡大防止措置に伴う俳優・声優の活動の影響に関するアンケート」を実施しました。俳優にはキャンセル保証がないことが多く、仕事も収入もなくなった俳優の実態調査をする必要を感じたという。
次いで、4月14日から「俳優・声優の新型コロナウイルス感染症に係る公的支援・手続きに関する実態調査アンケート」を実施。これは契約書が完備されていないことで支援が受けにくい俳優の実態に沿った制度設計の参考資料を政府に提示する目的でおこなわれた。
計2回のアンケートとも、現在それぞれ1200近くの回答があり、2回目のアンケートは「日本俳優連合」の他団体で、音楽家やダンサー、落語家など合わせて10団体で共通のアンケートを実施し、5日間で2095人から声が集まった。
津田:アンケートの中で、森崎さんはどんな回答が印象に残っていますか?
森崎:「これから生きていける自信がない」とか「家賃が払えない」とか「心ない言葉に傷ついている」とか「文化がこんなに認められないとは思っていなかった」など、とにかく「つらい」という内容が多かったですね。
■30%近くが無収入に…仕事の見通しも立たない
4月のアンケートの収入に関する質問では、「無収入」が27.6パーセント、「収入が50パーセント以下になった」が34.4パーセントと7割以上の収入が減っていることがわかりました。
津田:急に収入が半分以下になった人が回答者の半数にもおよんだわけですね。しかも5月になっても仕事の目処は全く立たないと思いますので、厳しい状況ですよね。
今後の仕事の見通しについてのアンケートでは、「全くない」が69.1パーセント、「減っている」が29.1パーセント、「増えている」が1.9パーセントで、今後の見通しが立たない状況と言えます。
仕事のキャンセル料についての質問では、「本来は受け取る予定だった報酬をもらえていない」と回答した人は96.2パーセントにも上りました。また、31.8パーセントが「キャンセルの交渉をしたことがない」、13.8 パーセントが「そもそもキャンセルの連絡すらこない」と回答があった。
津田:この状況は俳優を続けられるかの瀬戸際とも言えますよね。
森崎:ご夫婦で俳優業やアーティスト活動をしている人が多く、その場合は共倒れの状況になっています。
■今の状況では俳優は1、2カ月も持たない
現在の状況を踏まえ、森崎さんは今回のアンケート結果を国に報告し、俳優たちの支援を求めたという。
森崎:たとえば家賃の心配をしている記述が多いことから、かつて住宅確保給付金が作られた当時に、厚生労働省の副大臣を務められた西村智奈美議員が、国会質問でこのアンケートを取り上げ、フリーランスのアーティストにはハローワークがそぐわないにもかかわらず、ハローワークで就職活動しないと住宅確保給付金がもらえない仕組みに疑問を呈してくださいました。ほかにも多くの議員が俳優たちの支援を働きかけてくださり、4月20 日からインターネットで仮登録さえすれば、給付金を申請できるようになりました。
津田:でも、逆に言うとその支援が俳優たちを想定していなかったことが問題ですよね。
森崎:ハローワークは会社に勤めることを前提しているので、俳優たちの支援には全くそぐわないですよね。
国会質問で加藤勝信厚生労働大臣は「すぐに結論が出る状況ではないが、今後の検討上参考にしていかなくてはならない」と話したほか、厚生労働省でフリーランスの「雇用類似の働き方に係る論点等に関する検討会」において、今回のアンケートがなかなか実態のつかみにくい俳優たちの働き方に焦点が当たるきっかけになっているのでは、と森崎さんは期待する。
津田:組合員からは国に対してどんな支援を求める声がありますか?
森崎:たとえば、社会保険加入者にしか支払われなかった傷病手当金が国民健康保険加入者にも新型コロナウイルスに感染した場合は支払われるという厚生労働省からの通達がありました。これに対して「我々、組合員もぜひ」という声が上がったので、「支払われる『被用者等』に私たちも該当するか」と質問したところ、「給料を基本にしないと支払えない」と返答がありました。しかし、そもそも所得税法上の給与は55年前に制定された古い法律で、フリーランスを想定してはいないんです。そのため、柔軟な解釈をしていただき、万が一新型コロナウイルスに感染したフリーランスや俳優、アーティスト全体が傷病手当金を受けられるように働きかけ、何名かの議員の方々にご理解をいただいたところです。
少しずつ議員などから理解を得る一方で、森崎さんは「今の状況では俳優は1、2カ月も持たない」と危機感を訴える。
森崎:新型コロナウイルスの影響は俳優が自力で復興できるほど生やさしいダメージではありません。公演・イベントがたった3週間キャンセルになっただけでも、チケット代の払い戻しなどの損失額は522億円にも及んだと調査がでています。現在、自粛要請が始まってからすでに8週間が経とうとしていますので、まず俳優が生き延びられるように生活の保障をしないと危険だと思っています。
最後に、森崎さんは俳優に向けてメッセージを送った。
森崎:みなさん、演じる上で、作品を作る上で、普段一番大事にしているものはチームワークだと思います。この先、リモートで仕事ができたとしても、お客さんの反応やスタッフとの呼吸が読めないのはとても苦しく、それ以上に経済的に苦しんでいる方が多いと思います。今、私は組合にいて、皆さんと連携できる立場です。今できることはアンケートなどからみなさんの声を国に届けて、;;少しでも文化・芸術の灯火を消さないように、みなさんが新型コロナウイルスの影響を持ちこたえるお手伝いをしたいと思っています。どうか声をください。一緒に乗り越えましょう
【関連記事】演劇界は「貧乏だから支援してほしい」のではない。芸術を失うことが社会的な損失になる理由<劇作家・平田オリザ>
新型コロナウイルス感染症の終息はまだまだ見通しがつかない状況ではあるが、未来へ文化・芸術を繋げていくために、表現者にも手厚い支援をおこなうことが必要だ。
J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
4月27日(月)にオンエアされたJ-WAVE『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」では、月曜日のニューススーパーバイザーであるジャーナリストの津田大介が、「日本俳優連合」国際事業部長で女優の森崎めぐみさんに、俳優たちの現状を電話で話を訊いた。
■「文化がこんなに認められていないとは」 俳優たちの叫び
「日本俳優連合」は、この業界で数少ない俳優の組合で、およそ2600人の俳優や声優が加盟している。俳優は一人ひとりが製作者と対等に出演契約を結ぶことは難しいので、協同組合法で認められている団体交渉権を生かして、NHK、民法、制作会社との間で年に1度以上、最低出演料などの出演条約や安全対策などの団体交渉をしています。
2月26日に公演・イベントなどの自粛要請を受けて、ライブパフォーマンスを仕事にしている俳優の仕事がほぼなくなったことをきっかけに、「日本俳優連合」は、まず3月31日から「新型コロナウイルス感染症拡大防止措置に伴う俳優・声優の活動の影響に関するアンケート」を実施しました。俳優にはキャンセル保証がないことが多く、仕事も収入もなくなった俳優の実態調査をする必要を感じたという。
次いで、4月14日から「俳優・声優の新型コロナウイルス感染症に係る公的支援・手続きに関する実態調査アンケート」を実施。これは契約書が完備されていないことで支援が受けにくい俳優の実態に沿った制度設計の参考資料を政府に提示する目的でおこなわれた。
計2回のアンケートとも、現在それぞれ1200近くの回答があり、2回目のアンケートは「日本俳優連合」の他団体で、音楽家やダンサー、落語家など合わせて10団体で共通のアンケートを実施し、5日間で2095人から声が集まった。
津田:アンケートの中で、森崎さんはどんな回答が印象に残っていますか?
森崎:「これから生きていける自信がない」とか「家賃が払えない」とか「心ない言葉に傷ついている」とか「文化がこんなに認められないとは思っていなかった」など、とにかく「つらい」という内容が多かったですね。
■30%近くが無収入に…仕事の見通しも立たない
4月のアンケートの収入に関する質問では、「無収入」が27.6パーセント、「収入が50パーセント以下になった」が34.4パーセントと7割以上の収入が減っていることがわかりました。
津田:急に収入が半分以下になった人が回答者の半数にもおよんだわけですね。しかも5月になっても仕事の目処は全く立たないと思いますので、厳しい状況ですよね。
今後の仕事の見通しについてのアンケートでは、「全くない」が69.1パーセント、「減っている」が29.1パーセント、「増えている」が1.9パーセントで、今後の見通しが立たない状況と言えます。
仕事のキャンセル料についての質問では、「本来は受け取る予定だった報酬をもらえていない」と回答した人は96.2パーセントにも上りました。また、31.8パーセントが「キャンセルの交渉をしたことがない」、13.8 パーセントが「そもそもキャンセルの連絡すらこない」と回答があった。
津田:この状況は俳優を続けられるかの瀬戸際とも言えますよね。
森崎:ご夫婦で俳優業やアーティスト活動をしている人が多く、その場合は共倒れの状況になっています。
■今の状況では俳優は1、2カ月も持たない
現在の状況を踏まえ、森崎さんは今回のアンケート結果を国に報告し、俳優たちの支援を求めたという。
森崎:たとえば家賃の心配をしている記述が多いことから、かつて住宅確保給付金が作られた当時に、厚生労働省の副大臣を務められた西村智奈美議員が、国会質問でこのアンケートを取り上げ、フリーランスのアーティストにはハローワークがそぐわないにもかかわらず、ハローワークで就職活動しないと住宅確保給付金がもらえない仕組みに疑問を呈してくださいました。ほかにも多くの議員が俳優たちの支援を働きかけてくださり、4月20 日からインターネットで仮登録さえすれば、給付金を申請できるようになりました。
津田:でも、逆に言うとその支援が俳優たちを想定していなかったことが問題ですよね。
森崎:ハローワークは会社に勤めることを前提しているので、俳優たちの支援には全くそぐわないですよね。
国会質問で加藤勝信厚生労働大臣は「すぐに結論が出る状況ではないが、今後の検討上参考にしていかなくてはならない」と話したほか、厚生労働省でフリーランスの「雇用類似の働き方に係る論点等に関する検討会」において、今回のアンケートがなかなか実態のつかみにくい俳優たちの働き方に焦点が当たるきっかけになっているのでは、と森崎さんは期待する。
津田:組合員からは国に対してどんな支援を求める声がありますか?
森崎:たとえば、社会保険加入者にしか支払われなかった傷病手当金が国民健康保険加入者にも新型コロナウイルスに感染した場合は支払われるという厚生労働省からの通達がありました。これに対して「我々、組合員もぜひ」という声が上がったので、「支払われる『被用者等』に私たちも該当するか」と質問したところ、「給料を基本にしないと支払えない」と返答がありました。しかし、そもそも所得税法上の給与は55年前に制定された古い法律で、フリーランスを想定してはいないんです。そのため、柔軟な解釈をしていただき、万が一新型コロナウイルスに感染したフリーランスや俳優、アーティスト全体が傷病手当金を受けられるように働きかけ、何名かの議員の方々にご理解をいただいたところです。
少しずつ議員などから理解を得る一方で、森崎さんは「今の状況では俳優は1、2カ月も持たない」と危機感を訴える。
森崎:新型コロナウイルスの影響は俳優が自力で復興できるほど生やさしいダメージではありません。公演・イベントがたった3週間キャンセルになっただけでも、チケット代の払い戻しなどの損失額は522億円にも及んだと調査がでています。現在、自粛要請が始まってからすでに8週間が経とうとしていますので、まず俳優が生き延びられるように生活の保障をしないと危険だと思っています。
最後に、森崎さんは俳優に向けてメッセージを送った。
森崎:みなさん、演じる上で、作品を作る上で、普段一番大事にしているものはチームワークだと思います。この先、リモートで仕事ができたとしても、お客さんの反応やスタッフとの呼吸が読めないのはとても苦しく、それ以上に経済的に苦しんでいる方が多いと思います。今、私は組合にいて、皆さんと連携できる立場です。今できることはアンケートなどからみなさんの声を国に届けて、;;少しでも文化・芸術の灯火を消さないように、みなさんが新型コロナウイルスの影響を持ちこたえるお手伝いをしたいと思っています。どうか声をください。一緒に乗り越えましょう
【関連記事】演劇界は「貧乏だから支援してほしい」のではない。芸術を失うことが社会的な損失になる理由<劇作家・平田オリザ>
新型コロナウイルス感染症の終息はまだまだ見通しがつかない状況ではあるが、未来へ文化・芸術を繋げていくために、表現者にも手厚い支援をおこなうことが必要だ。
J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/