J-WAVE(81.3FM)×「MUSIC FUN !」連動企画である、深夜の音楽座談プログラム『WOW MUSIC』。“すごい”音楽をつくるクリエイターが“WOW”と思ういい音楽とは? 毎月1人のクリエイターがマンスリープレゼンターとして登場し、ゲストとトークを繰り広げる。
4月のマンスリープレゼンターは、音楽プロデューサーの蔦谷好位置。初回となる4月3日(金)のオンエアでは、「今年ブレイクしてほしい注目のアーティスト」をテーマに、蔦谷がさとうもかとNF Zesshoを紹介した。
■さとうもか×NF Zessho『empty dream』は「非常に良質なポップス」
シンガーソングライターのさとうもかは、繊細だけど大胆、ユーモラスだけど甘くない、アート心をくすぐる良質なポップネスを持つ。その才能は、登場するや「新世代のユーミン」と称され、2018年にリリースしたファーストフルアルバム『Lukewarm』で注目を集めた。
NF Zessho、ラッパーでトラックメイカー/ビートメイカー。2013年にファーストアルバム『Natural Freaks』、2015年にセカンドアルバム『Beyond the MoonShine』、2018年にサードアルバム『CURE』をリリースした。アルバム作品以外にも、多数の自主制作EPやビートテープなどをハイペースで発表。ミックスやマスタリングも自身で行っている。
蔦谷は、3月に配信リリースされた2人のコラボ楽曲『empty dream』がとても素晴らしかったと絶賛。
蔦谷:僕は『empty dream』を聴いたときに、非常に良質なポップスになっていると感じました。もともと僕はNF Zesshoくんが好きでよく聴いていました。彼は、どちらかというとジャジーなトラックを作ることが多いですね。タイプとしてはSweet Williamとかも近いと思います。昔、J Dillaっていうトラックメイカーがいて、彼の、次の次の世代のサウンドって感じかな。今はローファイ・ヒップホップがけっこう流行ってたりするけど、それをもっと洗練させたサウンドでやっていて。おそらくサンプリングで作っていると思うんですけど、そのセンスや汚し具合、ここ10年くらいのジャズシーンとも呼応するようなビートのズラし具合。今はトラップが席巻しているけど、サンプリングでブーンバップの流れを汲んだサウンドを作っている。非常に美しいトラックを作るアーティストなんですよね。
■NF Zesshoは「センスが素晴らしい」
今回のコラボ曲『empty dream』について、蔦谷は「NF Zesshoくんの、おそらくサンプリングのピアノや美しいコード進行、音色、ミックス具合、コンプレッションなど含めて、センスが素晴らしい」と、以下のように解説する。
蔦谷:ビートのズラし具合も絶妙で、基本は4拍子なんだけど3拍子のシャッフルともとれる。これは間違いなく彼のセンスだし、本当に素晴らしいビートメイカーだと思います。
このコラボ曲でNF Zesshoはラップを披露していないが、ラップに関してもトラックメイカーが生み出すラップなので、非常にリズムが気持ちいいと蔦谷は言う。
蔦谷:彼のインタビューを読むと、歌詞の内容というより「僕が作っているのは音楽で、文章ではない」みたいなことを言っていて、おそらく音にのる言葉として何が正解なのかを選んでいる人だと思うんです。絶対音楽と標題音楽というクラッシック用語があるんだけど、絶対音楽は並びそのものが美しく、標題音楽はたとえば何かテーマがあって、それに対して音楽を作る。ポップミュージックは基本的に歌詞があるから全て標題音楽ではあるんだけど、NF Zesshoくんの音楽の作り方や聴き方は、きっと絶対音楽的な作り方だと思うんです。そこがこういう美しい音楽を作れる魅力のひとつなんじゃないかなと思います。
■さとうもかはメロディーの起伏に合わせた歌い方が聴きどころ
蔦谷は「さとうはメロディーセンスとメロディーの起伏が素晴らしい」と評価する。
蔦谷:このシンプルなコードにメロディーをつけると、ワンパターン、ツーパターンくらいのメロディーしか思い浮かばないと思うけど、彼女はメロディーラップのようなところで、シンプルになりがちな部分でもしっかりと起伏をつけてポップスとして消化させています。単にJ-POP的なメロディーの作り方ではなく、非常に和風なものにはなっているけど、歌はじまりの1拍目に休符を使うことでヒップホップ的な響きやリズムの出し方を作り出している。そしてメロディーの中で、もちろん歌は上手なんだけど、「ド」と「レ」の間だったり半音のさらに間だったりのメロディーの使い方によって耳に残る歌い方をしている。非常にボーカリストの才能が光っている曲になっていると思います。
■毒があって独特! ブレイクに期待するTempalay
蔦谷が「今年ブレイクしてほしい注目のアーティスト」として、新世代バンド・Tempalayを紹介する場面もあった。「FUJI ROCK FESTIVAL'19」に出演し、アメリカの大型フェス「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」を含む全米ツアーや中国・台湾・韓国でアジアツアーを行うなど、自由奔放にシーンを行き来している。すでにチケットがなかなか取れない人気ぶりで、蔦谷も毎回、新作を楽しみにしているそう。蔦谷が今年、最も衝撃を受けた曲もTempalay『大東京万博』だという。
蔦谷:以前、某番組で『どうしよう』という曲を紹介したんですが、メロディ、リズム、コード感、アレンジメント、どれをとっても独特な上に、毒があって非常にクセになる。リズムのズラし方も、先ほどお話ししたNF Zesshoくんに通ずるところがありますね、この10年くらいのジャズシーンのリズムのズラし方に共通するところがあると思います。
蔦谷が彼らのインタビューを読んでいると、リズムのズラし方やコードワークを言葉で説明するのが難しく、そこが課題であると話しているという。その客観視できるところと、創造性を兼ね備えているところが強みだと蔦谷は考えている。トラックメイカー・Flying Lotusが、周囲の凄腕ジャズミュージシャンからのアドバイスをもとに音楽理論を学んだところ、作曲の幅が大きく広がったというエピーソードを語り、「音楽理論を勉強することによって、楽曲が小さくなってしまうアーティストもいるけれど、Tempalayは絶対そういうタイプではない」と感じていることを話した。
蔦谷:新しい“武器”を手に入れれば、より自分の羽を伸ばせる気がする。どんどん吸収して、毒を持ったまま大きくなっていってほしいと思っています。
『大東京万博』はイントロからTempalayらしさが全開で、サビのメロディの美しさも聴きどころだ。
蔦谷:坂本龍一さんや、久石 譲さんの楽曲にも出てきそうな、いわゆる日本的なメロディ。こういうメロディって、5音で構成される「ペンタトニックスケール」で作られがちなんです。でも、この楽曲は5音でなく6音で作っていて、6音目に半音を入れるところが、非常にクセになる。覚えやすいサビのメロディがあるなかで、そこに行き着くまでは、ぴったり四拍子のリズムでいけない“くずし”がある。最後のサビで転調して下がったり……こういう発想はいったいどこからくるのか。インタビューを読んでみると、美的センスがアバンギャルドですね。例えば、久石 譲、北野 武監督作品、岡本太郎、作曲家のルイス・ヒューレイ、三上 寛などを挙げています。彼らの音楽は、そのどれとも似ていないんだけど、どの影響も受けていて、すべてが彼らのフィルターを通してでてきている。そんな独自性のある音楽じゃないかなと思います。
『大東京万博』は、J-WAVEがプッシュする楽曲「SONAR TRAX」にも選出された。
【関連記事】Tempalay『大東京万博』のテーマは花火! 2つの意味合いをもつ死生観を表現
蔦谷が紹介したアーティストを、ぜひチェックしてみてほしい。次回、4月10日(金)も蔦谷がナビゲーターを担当。ゲストに、YouTubeチャンネル「みのミュージック」で活動するみのさんを迎え、音楽談義を繰り広げる。放送は24時30分から。また、動画も配信中だ。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年4月10日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『WOW MUSIC』
放送日時:金曜24時30分-25時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/wowmusic/
4月のマンスリープレゼンターは、音楽プロデューサーの蔦谷好位置。初回となる4月3日(金)のオンエアでは、「今年ブレイクしてほしい注目のアーティスト」をテーマに、蔦谷がさとうもかとNF Zesshoを紹介した。
■さとうもか×NF Zessho『empty dream』は「非常に良質なポップス」
シンガーソングライターのさとうもかは、繊細だけど大胆、ユーモラスだけど甘くない、アート心をくすぐる良質なポップネスを持つ。その才能は、登場するや「新世代のユーミン」と称され、2018年にリリースしたファーストフルアルバム『Lukewarm』で注目を集めた。
NF Zessho、ラッパーでトラックメイカー/ビートメイカー。2013年にファーストアルバム『Natural Freaks』、2015年にセカンドアルバム『Beyond the MoonShine』、2018年にサードアルバム『CURE』をリリースした。アルバム作品以外にも、多数の自主制作EPやビートテープなどをハイペースで発表。ミックスやマスタリングも自身で行っている。
蔦谷は、3月に配信リリースされた2人のコラボ楽曲『empty dream』がとても素晴らしかったと絶賛。
蔦谷:僕は『empty dream』を聴いたときに、非常に良質なポップスになっていると感じました。もともと僕はNF Zesshoくんが好きでよく聴いていました。彼は、どちらかというとジャジーなトラックを作ることが多いですね。タイプとしてはSweet Williamとかも近いと思います。昔、J Dillaっていうトラックメイカーがいて、彼の、次の次の世代のサウンドって感じかな。今はローファイ・ヒップホップがけっこう流行ってたりするけど、それをもっと洗練させたサウンドでやっていて。おそらくサンプリングで作っていると思うんですけど、そのセンスや汚し具合、ここ10年くらいのジャズシーンとも呼応するようなビートのズラし具合。今はトラップが席巻しているけど、サンプリングでブーンバップの流れを汲んだサウンドを作っている。非常に美しいトラックを作るアーティストなんですよね。
■NF Zesshoは「センスが素晴らしい」
今回のコラボ曲『empty dream』について、蔦谷は「NF Zesshoくんの、おそらくサンプリングのピアノや美しいコード進行、音色、ミックス具合、コンプレッションなど含めて、センスが素晴らしい」と、以下のように解説する。
蔦谷:ビートのズラし具合も絶妙で、基本は4拍子なんだけど3拍子のシャッフルともとれる。これは間違いなく彼のセンスだし、本当に素晴らしいビートメイカーだと思います。
このコラボ曲でNF Zesshoはラップを披露していないが、ラップに関してもトラックメイカーが生み出すラップなので、非常にリズムが気持ちいいと蔦谷は言う。
蔦谷:彼のインタビューを読むと、歌詞の内容というより「僕が作っているのは音楽で、文章ではない」みたいなことを言っていて、おそらく音にのる言葉として何が正解なのかを選んでいる人だと思うんです。絶対音楽と標題音楽というクラッシック用語があるんだけど、絶対音楽は並びそのものが美しく、標題音楽はたとえば何かテーマがあって、それに対して音楽を作る。ポップミュージックは基本的に歌詞があるから全て標題音楽ではあるんだけど、NF Zesshoくんの音楽の作り方や聴き方は、きっと絶対音楽的な作り方だと思うんです。そこがこういう美しい音楽を作れる魅力のひとつなんじゃないかなと思います。
■さとうもかはメロディーの起伏に合わせた歌い方が聴きどころ
蔦谷は「さとうはメロディーセンスとメロディーの起伏が素晴らしい」と評価する。
蔦谷:このシンプルなコードにメロディーをつけると、ワンパターン、ツーパターンくらいのメロディーしか思い浮かばないと思うけど、彼女はメロディーラップのようなところで、シンプルになりがちな部分でもしっかりと起伏をつけてポップスとして消化させています。単にJ-POP的なメロディーの作り方ではなく、非常に和風なものにはなっているけど、歌はじまりの1拍目に休符を使うことでヒップホップ的な響きやリズムの出し方を作り出している。そしてメロディーの中で、もちろん歌は上手なんだけど、「ド」と「レ」の間だったり半音のさらに間だったりのメロディーの使い方によって耳に残る歌い方をしている。非常にボーカリストの才能が光っている曲になっていると思います。
■毒があって独特! ブレイクに期待するTempalay
蔦谷が「今年ブレイクしてほしい注目のアーティスト」として、新世代バンド・Tempalayを紹介する場面もあった。「FUJI ROCK FESTIVAL'19」に出演し、アメリカの大型フェス「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」を含む全米ツアーや中国・台湾・韓国でアジアツアーを行うなど、自由奔放にシーンを行き来している。すでにチケットがなかなか取れない人気ぶりで、蔦谷も毎回、新作を楽しみにしているそう。蔦谷が今年、最も衝撃を受けた曲もTempalay『大東京万博』だという。
蔦谷:以前、某番組で『どうしよう』という曲を紹介したんですが、メロディ、リズム、コード感、アレンジメント、どれをとっても独特な上に、毒があって非常にクセになる。リズムのズラし方も、先ほどお話ししたNF Zesshoくんに通ずるところがありますね、この10年くらいのジャズシーンのリズムのズラし方に共通するところがあると思います。
蔦谷が彼らのインタビューを読んでいると、リズムのズラし方やコードワークを言葉で説明するのが難しく、そこが課題であると話しているという。その客観視できるところと、創造性を兼ね備えているところが強みだと蔦谷は考えている。トラックメイカー・Flying Lotusが、周囲の凄腕ジャズミュージシャンからのアドバイスをもとに音楽理論を学んだところ、作曲の幅が大きく広がったというエピーソードを語り、「音楽理論を勉強することによって、楽曲が小さくなってしまうアーティストもいるけれど、Tempalayは絶対そういうタイプではない」と感じていることを話した。
蔦谷:新しい“武器”を手に入れれば、より自分の羽を伸ばせる気がする。どんどん吸収して、毒を持ったまま大きくなっていってほしいと思っています。
『大東京万博』はイントロからTempalayらしさが全開で、サビのメロディの美しさも聴きどころだ。
蔦谷:坂本龍一さんや、久石 譲さんの楽曲にも出てきそうな、いわゆる日本的なメロディ。こういうメロディって、5音で構成される「ペンタトニックスケール」で作られがちなんです。でも、この楽曲は5音でなく6音で作っていて、6音目に半音を入れるところが、非常にクセになる。覚えやすいサビのメロディがあるなかで、そこに行き着くまでは、ぴったり四拍子のリズムでいけない“くずし”がある。最後のサビで転調して下がったり……こういう発想はいったいどこからくるのか。インタビューを読んでみると、美的センスがアバンギャルドですね。例えば、久石 譲、北野 武監督作品、岡本太郎、作曲家のルイス・ヒューレイ、三上 寛などを挙げています。彼らの音楽は、そのどれとも似ていないんだけど、どの影響も受けていて、すべてが彼らのフィルターを通してでてきている。そんな独自性のある音楽じゃないかなと思います。
『大東京万博』は、J-WAVEがプッシュする楽曲「SONAR TRAX」にも選出された。
【関連記事】Tempalay『大東京万博』のテーマは花火! 2つの意味合いをもつ死生観を表現
蔦谷が紹介したアーティストを、ぜひチェックしてみてほしい。次回、4月10日(金)も蔦谷がナビゲーターを担当。ゲストに、YouTubeチャンネル「みのミュージック」で活動するみのさんを迎え、音楽談義を繰り広げる。放送は24時30分から。また、動画も配信中だ。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年4月10日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『WOW MUSIC』
放送日時:金曜24時30分-25時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/wowmusic/