地震や台風など災害が相次ぎ、防災への意識が高まっている。食事や水、懐中電灯、情報を仕入れるためのラジオなどを備えている人は多いだろう。
忘れてはいけないのが、トイレの問題だ。「携帯トイレは1人35回分が必要」と話すのは、NPO法人日本トイレ研究所代表理事の加藤 篤さんだ。
3月12日(木)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」では加藤さんをゲストに招き、トイレの観点から防災について考えた。話を訊いたのは、木曜日のニューススーパーバイザー・堀 潤。
■災害後、水や食料より先にトイレが必要になる
加藤さんはこれまでの災害の経験を踏まえて、「必ず知っておいてほしいトイレに関する5つのこと」を提言する。
1つ目は、「災害が起きてから6時間以内に7割の人がトイレに行く」ということ。これは、日本トイレ研究所のデータからも判明している。
加藤:災害直後は、命を守ることや人命救助、安全な場所への避難などをおこないます。そのあとは水や食料、場所の確保が思いつくかもしれません。しかし、実はそれらよりも前にトイレが必要なんです。「6時間以内に7割」というのはアンケート結果なので、実際には(災害発生後)2時間くらいからでもかなりの人がトイレに行っていると思います。
そうした状況を踏まえて加藤さんは、「携帯トイレを災害グッズのマストアイテムとして揃えておくこと」を2つ目の提言とした。ビニール袋のような形状の携帯トイレは、便器に取り付けてそこに排泄することができる。ビニール袋の中に凝固剤もしくは吸収シートがあり、排泄物を固めてくれるという仕組みだ。市区町村にもよるが、多くは可燃ごみとして処分できる。
堀:僕も熊本地震の取材中にトイレに行きたくなりました。避難所のトイレは避難者の方々で混雑していて、取材先のご自宅は断水でトイレが使えなかった。「どうしたらいいんだ!」と、非常にしんどい思いをしました。
加藤:水が出たとしても、排水が流せない場合もけっこうあるんですよ。熊本もそうでした。携帯トイレは袋式で、水が出なくなった便器にかぶせる形で取り付けて使えます。携帯トイレのポイントは「室内のトイレが使える」ということです。
堀:これは本当に安心ですよね。外のトイレは非常にシビアで、治安の観点では、性犯罪の危険性もあります。避難中の、そうした外部から見えにくくなっているところで起きるさまざまなトラブルに対してケアしなければいけません。
被災地ではトイレを不安に思うあまり水分補給を控えて脱水症になるケースもあるそうだ。自身の被災地での経験から、災害グッズとしてこの携帯トイレを購入したという堀は「持っているだけで気持ちに余裕が出る」と語る。そして加藤さんは携帯トイレについて「いざというときのために日頃から練習しておくこと」も勧めた。
■携帯トイレはどのくらい備蓄しておくべきか
さらに加藤さんは3つ目の提言として「携帯トイレは1人35回分が必要」と語った。
加藤:日頃の自分のトイレの回数を数えてほしいんですが、目安としては1人1日5回くらいだと思います。せめて7日間はあったほうがいいと思うので、5×7=35回ですね。
堀:災害時は支援が行き渡るまで、けっこう時間がかかります。僕も「基本的には1週間は、自助などで自分の身は自分で守らないといけない。その分の備蓄を持っておきましょう」とよく伝えています。
加藤:心の安心をどう確保するかだと思います。トイレは人に借りられません。だから自分や家族も含めて安心できる量が必要です。もし余ったらお隣さんにあげるくらいの余裕があると嬉しいですね。
加藤さんは4つ目の提言を「照明やトイレットペーパー、消毒液も必要」とした。
加藤:窓がないトイレは、災害時には昼夜問わず真っ暗になります。
堀:停電になって初めて「そういえばうちのトイレは窓がなくて暗い」と気付くかもしれませんね。普段は何気なく電気をつけてますから。
加藤:個室なので本当に暗闇になってしまい、作業ができません。失敗したら大変なことになるので、室内を照らすランタンや両手が空くヘッドライトのような照明が必要です。
堀:そしてトイレットペーパーと消毒液ですね。携帯トイレでも拭く紙が必要ということですね。
加藤:トイレットペーパーも1回あたり自分がどのくらい使うのかを測ってみてほしいです。
最後の提言は「バケツで流すこともできる」。しかし、排水設備がちゃんとしていて下水道が機能して、さらに大量の水があることが前提だ。
堀:蛇口をひねって水が出なくても、排水設備等が大丈夫なら、お風呂に貯めた水を活用して流すこともできるということですね。被災地ではコンビニのトイレも流せないからあっという間にいっぱいになって、本当に死活問題だなと思います。でも、排水設備や下水道の確認はどうすればいいんですか?
加藤:私もメンバーの空気調和・衛生工学会で検討しています。もちろん完璧な検査は専門業者がやるしかないのですが、もうすぐ簡易的な自己点検方法は発表できるかと思います。
堀:それは知りたいですね。一か八かで流して逆流してしまうと、そのあとの衛生状況も含めてすごく心配ですもんね。
■「携帯トイレで用を足して」とメディアが伝える重要性
「トイレは命と尊厳に関わるライフライン」だと言う加藤さんは、放送メディアに発災直後のメッセージの中に、トイレのことも含んでほしいと訴える。
加藤:たとえば、「断水したり下水道が壊れていたりする可能性があります。災害直後は便器に携帯トイレを取り付けて用を足してください」と言ってほしいですね。
堀:災害が起きた直後は、マニュアルで決めている定例句があります。「倒れてくるものから身を守ってください」、「火は揺れが収まってから落ち着いて消してください」などですね。その後、次のニュースが入ってくるまで時間が空くともう一度そのアナウンスを言うんですが、メッセージのバリエーションによってアナウンサーの取材蓄積がわかるんですよ。
加藤:そうなんですか。
堀:被災地取材をしているアナウンサーは「おじいちゃん、おばあちゃんが周りにいるかもしれません。どうそ一言声をかけてあげてください。背中をさすってあげてください。人の温もりがあるだけでも安心できます。手も握れるようでしたら手を……」と、そういう具体的で細かなアナウンスをされる方もいます。そこにトイレが加わるといいですね。
加藤:すごくいいと思います。多くの人は気付かないんですね。でも言われるとハッとすぐに思いつくことができます。このアナウンスは、日本は過去一度もないと思います。
加藤さんは、携帯トイレを持っていない人にアドバイスを送った。
加藤:排泄物はウイルスや菌が入っているので、衛生的に丁寧に扱わなければいけません。どうしても携帯トイレがなければ、漏れないように吸収して固めることが大事です。たとえばオムツのようなものがあれば袋の中にオムツを入れて吸収させることができます。
堀:なるほど! コンビニのビニール袋にオムツを敷いてそこに用を足し、持ち手をくくれば……?
加藤:でも、便器にかぶさることが重要なので、大きめのビニール袋も重要です。
堀:じゃあ、僕がイメージしたコンビニのビニール袋じゃダメですね。どのくらいの大きさがいいですか?
加藤:45リットルくらいだとすっぽり便器にかぶさるはずです。
最後に加藤さんは、災害時に自分が行く避難所のトイレ環境を事前に確認しておくこともおすすめしていた。この機会に、ホームセンターやネットで手軽に購入できる携帯トイレを備蓄しよう。
また、加藤さんは『トイレマガジン』の記事で、災害時にトイレに行けないとどんな健康被害が起こるかなどもまとめている。こちらも併せてチェックしてほしい。
【加藤さんの記事】「突然、トイレが使えなくなる」
(加藤さん、堀 潤)
J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時15分頃から。 【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
忘れてはいけないのが、トイレの問題だ。「携帯トイレは1人35回分が必要」と話すのは、NPO法人日本トイレ研究所代表理事の加藤 篤さんだ。
3月12日(木)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」では加藤さんをゲストに招き、トイレの観点から防災について考えた。話を訊いたのは、木曜日のニューススーパーバイザー・堀 潤。
■災害後、水や食料より先にトイレが必要になる
加藤さんはこれまでの災害の経験を踏まえて、「必ず知っておいてほしいトイレに関する5つのこと」を提言する。
1つ目は、「災害が起きてから6時間以内に7割の人がトイレに行く」ということ。これは、日本トイレ研究所のデータからも判明している。
加藤:災害直後は、命を守ることや人命救助、安全な場所への避難などをおこないます。そのあとは水や食料、場所の確保が思いつくかもしれません。しかし、実はそれらよりも前にトイレが必要なんです。「6時間以内に7割」というのはアンケート結果なので、実際には(災害発生後)2時間くらいからでもかなりの人がトイレに行っていると思います。
そうした状況を踏まえて加藤さんは、「携帯トイレを災害グッズのマストアイテムとして揃えておくこと」を2つ目の提言とした。ビニール袋のような形状の携帯トイレは、便器に取り付けてそこに排泄することができる。ビニール袋の中に凝固剤もしくは吸収シートがあり、排泄物を固めてくれるという仕組みだ。市区町村にもよるが、多くは可燃ごみとして処分できる。
堀:僕も熊本地震の取材中にトイレに行きたくなりました。避難所のトイレは避難者の方々で混雑していて、取材先のご自宅は断水でトイレが使えなかった。「どうしたらいいんだ!」と、非常にしんどい思いをしました。
加藤:水が出たとしても、排水が流せない場合もけっこうあるんですよ。熊本もそうでした。携帯トイレは袋式で、水が出なくなった便器にかぶせる形で取り付けて使えます。携帯トイレのポイントは「室内のトイレが使える」ということです。
堀:これは本当に安心ですよね。外のトイレは非常にシビアで、治安の観点では、性犯罪の危険性もあります。避難中の、そうした外部から見えにくくなっているところで起きるさまざまなトラブルに対してケアしなければいけません。
被災地ではトイレを不安に思うあまり水分補給を控えて脱水症になるケースもあるそうだ。自身の被災地での経験から、災害グッズとしてこの携帯トイレを購入したという堀は「持っているだけで気持ちに余裕が出る」と語る。そして加藤さんは携帯トイレについて「いざというときのために日頃から練習しておくこと」も勧めた。
■携帯トイレはどのくらい備蓄しておくべきか
さらに加藤さんは3つ目の提言として「携帯トイレは1人35回分が必要」と語った。
加藤:日頃の自分のトイレの回数を数えてほしいんですが、目安としては1人1日5回くらいだと思います。せめて7日間はあったほうがいいと思うので、5×7=35回ですね。
堀:災害時は支援が行き渡るまで、けっこう時間がかかります。僕も「基本的には1週間は、自助などで自分の身は自分で守らないといけない。その分の備蓄を持っておきましょう」とよく伝えています。
加藤:心の安心をどう確保するかだと思います。トイレは人に借りられません。だから自分や家族も含めて安心できる量が必要です。もし余ったらお隣さんにあげるくらいの余裕があると嬉しいですね。
加藤さんは4つ目の提言を「照明やトイレットペーパー、消毒液も必要」とした。
加藤:窓がないトイレは、災害時には昼夜問わず真っ暗になります。
堀:停電になって初めて「そういえばうちのトイレは窓がなくて暗い」と気付くかもしれませんね。普段は何気なく電気をつけてますから。
加藤:個室なので本当に暗闇になってしまい、作業ができません。失敗したら大変なことになるので、室内を照らすランタンや両手が空くヘッドライトのような照明が必要です。
堀:そしてトイレットペーパーと消毒液ですね。携帯トイレでも拭く紙が必要ということですね。
加藤:トイレットペーパーも1回あたり自分がどのくらい使うのかを測ってみてほしいです。
最後の提言は「バケツで流すこともできる」。しかし、排水設備がちゃんとしていて下水道が機能して、さらに大量の水があることが前提だ。
堀:蛇口をひねって水が出なくても、排水設備等が大丈夫なら、お風呂に貯めた水を活用して流すこともできるということですね。被災地ではコンビニのトイレも流せないからあっという間にいっぱいになって、本当に死活問題だなと思います。でも、排水設備や下水道の確認はどうすればいいんですか?
加藤:私もメンバーの空気調和・衛生工学会で検討しています。もちろん完璧な検査は専門業者がやるしかないのですが、もうすぐ簡易的な自己点検方法は発表できるかと思います。
堀:それは知りたいですね。一か八かで流して逆流してしまうと、そのあとの衛生状況も含めてすごく心配ですもんね。
■「携帯トイレで用を足して」とメディアが伝える重要性
「トイレは命と尊厳に関わるライフライン」だと言う加藤さんは、放送メディアに発災直後のメッセージの中に、トイレのことも含んでほしいと訴える。
加藤:たとえば、「断水したり下水道が壊れていたりする可能性があります。災害直後は便器に携帯トイレを取り付けて用を足してください」と言ってほしいですね。
堀:災害が起きた直後は、マニュアルで決めている定例句があります。「倒れてくるものから身を守ってください」、「火は揺れが収まってから落ち着いて消してください」などですね。その後、次のニュースが入ってくるまで時間が空くともう一度そのアナウンスを言うんですが、メッセージのバリエーションによってアナウンサーの取材蓄積がわかるんですよ。
加藤:そうなんですか。
堀:被災地取材をしているアナウンサーは「おじいちゃん、おばあちゃんが周りにいるかもしれません。どうそ一言声をかけてあげてください。背中をさすってあげてください。人の温もりがあるだけでも安心できます。手も握れるようでしたら手を……」と、そういう具体的で細かなアナウンスをされる方もいます。そこにトイレが加わるといいですね。
加藤:すごくいいと思います。多くの人は気付かないんですね。でも言われるとハッとすぐに思いつくことができます。このアナウンスは、日本は過去一度もないと思います。
加藤さんは、携帯トイレを持っていない人にアドバイスを送った。
加藤:排泄物はウイルスや菌が入っているので、衛生的に丁寧に扱わなければいけません。どうしても携帯トイレがなければ、漏れないように吸収して固めることが大事です。たとえばオムツのようなものがあれば袋の中にオムツを入れて吸収させることができます。
堀:なるほど! コンビニのビニール袋にオムツを敷いてそこに用を足し、持ち手をくくれば……?
加藤:でも、便器にかぶさることが重要なので、大きめのビニール袋も重要です。
堀:じゃあ、僕がイメージしたコンビニのビニール袋じゃダメですね。どのくらいの大きさがいいですか?
加藤:45リットルくらいだとすっぽり便器にかぶさるはずです。
最後に加藤さんは、災害時に自分が行く避難所のトイレ環境を事前に確認しておくこともおすすめしていた。この機会に、ホームセンターやネットで手軽に購入できる携帯トイレを備蓄しよう。
また、加藤さんは『トイレマガジン』の記事で、災害時にトイレに行けないとどんな健康被害が起こるかなどもまとめている。こちらも併せてチェックしてほしい。
【加藤さんの記事】「突然、トイレが使えなくなる」
(加藤さん、堀 潤)
J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時15分頃から。 【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/