新型コロナでハリウッドは「パンドラの箱」を開けてしまった 大作ほど厳しい現状

ビジネスからライフスタイルまで、さまざまなアプローチから世界の“今”を紐解く「KONICA MINOLTA GLOBAL SCALE」。『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナーだ。3月24日(火)のオンエアでは、アメリカで進む“新作映画”のデジタル配信について紹介した。


■異例の対応を実施

新型コロナウイルスの感染拡大により、全米ではほぼすべて映画館が閉鎖に追い込まれる事態となった。それを受け、米ユニバーサル・ピクチャーズや米ワーナー・ブラザーズなどが、新作映画をデジタル配信することを発表。対応はさまざまで、公開中の作品の配信前倒しや、公開と同時配信といった形をとっている。料金は48時間レンタルで20ドル(約2200円)が多い。「新作映画のデジタル配信」の背景について、映画評論家の松崎健夫さんに伺った。

松崎:特に世界のマーケットを相手にするハリウッドの映画にとって深刻な問題です。ハリウッドでは「シアトリカル・ウィンドウ」というルールがあります。作品を二次使用する場合、劇場公開から90日間開けなくてはいけない、というものです。二次使用というのは、今回のデジタル配信に加えて、DVD/Blu-rayの販売、有料チャンネルでの放送などを意味しています。ハリウッドではこのルールが非常に重要となります。過去にはNetflix作品をアカデミー賞の選考対象から外すといった意見や、カンヌ国際映画祭ではNetflix作品はコンペティション部門の対象外とするといった出来事がありました。ここ何年かでずっと議論されてきたものであり、実はここにポイントがあると思います。とはいえ、今回のように映画館が閉鎖されるということになった場合、もうこれは背に腹は代えられない、ということで、今回は暫定的な処置として一応配信をしているのではないかと考えられます。


■ハリウッドビジネス、鑑賞スタイルに及ぼす影響は?

「シアトリカル・ウィンドウ」というルールにより守られてきたハリウッド。しかし、今回の新型コロナウイルスの世界的大流行によって、その状況は一変した。松崎さんによると、今回は自宅待機をする映画ファンへのサービス的側面もあるというが、公開延期を避けることで、これまでの宣伝を無駄にせずに済むというメリットもあるという。今回の対応がハリウッドのビジネススタイル、そして、私たちの映画鑑賞のスタイルにどんな影響を与えることになるのだろうか。

松崎:この手の配信というのは、実は小規模から中規模のハリウッド作品には効果があると思います。ただし、公開延期が決まった『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(4月から11月に延期)や『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(2021年4月に延期)のように、200億円近い、または、それ以上の制作費をかけているような大作の場合、20ドル程度の配信だと回収が難しいということが考えられます。一人で映画館に行くお客さんもいると思いますが、大作になればなるほど、家族や友だち、恋人たちと行く人が多く、複数の人間が同時に観ることによって、おそらく一人当たり20ドル以上の単価が発生することになります。しかし、これが配信になると、おそらく一家庭で20ドルということになるので、大作になればなるほど回収するのが難しくなってくるということが起こるわけです。映画会社というのは、劇場公開を基本とすることがしばらくは変わらないと思いますが、今回のコロナウイルスの騒動で暫定的ではあれ、(新作映画のデジタル配信という)パンドラの箱を開けてしまった感じがあるので、今後10年後20年後は映画の観方が変わっていく可能性があるのは否めないのではないか、と考えます。

映画館という“館”で観る体験と、このデジタル配信のなかで楽しむ方法。この2つが、この先どんな形で進化していくことになるのだろうか。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年3月28日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』
放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/tmr/

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