大学の授業料が高くてバイト漬け、昼食をまともに食べられない…学費の「私費負担」は限界だ

給付型ではない、返済義務のある貸与型の奨学金を利用している大学生・短大生は37パーセントにのぼり、約2.7人に1人の割合だ。多くの若者、そして世帯が授業料の支払いに苦労するなか、追い打ちをかけるように国立大学で授業料を値上げする動きが相次いでいる。大学をはじめ、高等教育にかかる教育費の負担はどうあるべきなのか? 奨学金制度や教育問題にくわしい、弁護士の岩重佳治さんに話を訊いた。

【12月4日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】


■国立大学の授業料の値上げの原因は?

一橋大学は今年の9月に、2020年の4月の入学者から学部生の授業料を53万5800円から2割増しの64万2960円に引き上げると発表した。

安田:支払う側としては、かなり大きな値上げだと思います。2割上げるというのは規定のなかにはギリギリ収まっているということでしょうか。
岩重:文部科学省が基準を定めていて、大学が法人化されたときから経営に柔軟性を持たせるということで2割まで増減が認められています。今回の値上げはその規定からすると、目いっぱい2割の値上げをしたということになります。
安田:支払う学生さんたちにはかなり大きい値上げだと思いますが、なぜ国立大学でこういった授業料の値上げが相次いでいるのでしょうか。
岩重:国立大学は支援金として国から「運営交付金」というのをもらっています。これが削減されてきていて、経営が苦しくなったというのがいちばん大きな理由だとされています。
安田:どれぐらい削減されているのでしょうか。
岩重:具体的な数字は存じ上げていませんが、法人化をして以降、前年比で毎年1パーセントずつ減らされてきたと伺っています。
安田:じわじわと下がってきている。
岩重:そういうことです。
安田:一橋大学が「指定国立大学法人」に指定されたことが関係していると指摘されていますが、指定国立大学法人というのはどういう制度なんでしょうか。
岩重:指定されると資産運用などの規制が緩和されます。たとえば大学の研究成果で、ビジネスをするような株式会社を作って「攻めの経営」をすることができる。それに認定されるための体制の整備のために授業料を上げたのでは、と考える方もいます。
安田:「自分たちは改革をしている」という姿勢を示していかなければならない。その改革の1つに授業料が含まれていたのではないかと。


■大学無償化法は「看板に偽りあり」

来年の4月から始まるのが「大学等修学支援法」、いわゆる大学無償化法だが、岩重さんはこれを「看板に偽りあり」と切り捨てた。

岩重:無償化というのはタダにすることですけど、これは一部の所得の低い家庭の学生さんに限って、たとえば授業料や入学金を減免したりだとか、生活のための給付型奨学金を支給するものであって、段階的に収入が増えていくと支援が減らされます。4人家族の典型的な例で言うと、最高でも年収380万円ぐらいで止まりますので、一部の学生を救済するというのが実際のところです。
安田:もう少し細かく見ていくと、「進学する学校」「自宅から通学するのかそうではないのか」によっても支援の額が変わってきます。また、成績という条件はもちろんあると思いますが、たとえば外部からの講師の割合といった条件が課されていることに疑問を抱いています。
岩重:そこは大きな問題です。例えば「実務経験のある教員の授業数が一定割合なければならない」という条件がつけられています。しかし、大学は必ずしもすぐに社会で実用的に役立つものだけではなくて、基礎研究や、教養といったものが大学ではとても大事だと思うんです。ところが即戦力になるような教育をしているところを支援の対象に優先するということになってくると、大学のやりたいことに対して国が口を出す危険が出てきます。
安田:条件を見てみると、まるで「経済の生産性のために奨学金を与えますよ」というメッセージにもなりかねません。
岩重:進学したあとの成績にも厳しい要件が課されていて、それを満たさないと支援が打ち切られ、場合によっては給付したものの返還を求められるということになってくる。「一部の産業などに役に立つ学生を養成するための制度ではないか」という批判が実際に出ています。


■今の大学は「ワーキングプアランド」


岩重さんは学生が生活のためにアルバイトをして体や心の調子を崩してしまい、成績が維持できなくなる可能性もあると指摘する。

岩重:この制度設計を見て考えるのは、私たちが学生だった時代と、今の学生の時代は全く違うということなんです。私たちの時代は、なかなか勉強をしないということで「大学はレジャーランド」なんていう悪口を言った人がいました。今の大学は「ワーキングプアランド」ですね。生活が厳しい、奨学金をなるべく借りたくないということで、ほとんどの学生がかなりの時間、アルバイトをしています。したがって、授業を休むことも多いし、取れる授業も限られてくる。教科書代が出せないので、教科書がない授業を選んだりといったことが起こってます。昼食をまともに食べられない学生もかなり増えてきていますので、そういう若い人の置かれた状況を考えると、なかなか勉強ができない。「成績が悪くなり場合によっては支援の対象から切られる」といった恐怖感を持っていれば、学生はのびのびと勉強ができないですよね。そうすると、何のための制度か?ということになります。


■奨学金制度の返済に関する問題点



岩重さんは奨学金の返済の制度は、通常の住宅ローンなどと異なり「将来の仕事や収入がわからない状態で借りること」に問題があると指摘。救済支援についても「返還猶予」という制度があるが、利用できる期間が限られているうえに、延滞がある場合は延滞の解消をしないと利用できないルールになっており、事前の説明については「まったくなされないと言ってもいい」と明言。

岩重さんは「FREE(高等教育無償化プロジェクト)」という、学生の声を集める学生たちの団体が出てきたと話し、「さすがに声をあげざるをえなくなってきた証拠だと思う」と語った。

岩重:今、僕たちがやらなければならないのは、インターネット上でもそういった声が出てきているので、それをちゃんと見て、その声に耳を傾けるということですね。私たちとは全く違う時代に今の若い人たちが生きてるという認識からスタートしないとこの問題は先に進まない。
安田:抜本的な解決が不可欠だと思いますが、大学や高等教育の費用の負担というものをどう改革、設計していくのが望ましいでしょうか。
岩重:「私費負担」が限界に達しているということを認識することと、そのなかでできる改革をやっていく。たとえば授業料を少しずつでいいから確実に下げていくとか、多くの人が利用して影響が多い貸与型奨学金について、救済制度を充実させていくというのは多くの人に影響があると思います。そういう風にちょっとずつできることをやって、私費負担からみんなで負担するほうに舵を切っていかないと、「もうそろそろ手遅れになるのではないか」という風に私自身は考えています。

経済協力開発機構(OECD)の発表によると、GDPのうち、小学校から大学までの教育機関に対する公的支出の割合は、日本が34か国中最下位だという。岩重さんは「お金がないということではなく、普通にお金を出せば無償化というのはある程度実現できる」と語って、教育にかけるお金は「返ってくるもの」という発想でこの問題を考えるべきだと提言した。

J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2019年12月11日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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