スウェーデンの16歳の環境活動家であるグレタ・トゥンベリさんが行った、国連気候行動サミットでの演説。「彼女がノーベル平和賞にふさわしい」という称賛される一方で、ロシアのプーチン大統領のように「共感しない」という否定的な意見の人も少なくない。
グレタさんの行動と演説をきっかけに関心が高まっている地球温暖化の問題。グレタさんが指摘したように、待ったなしの状況なのか? 環境・開発・エネルギー問題をテーマに取材している共同通信編集委員の井田徹治さんと一緒に考えた。
【10月9日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
■『私の声ではなく科学者の声を聞きなさい』と言っている
井田さんはグレタさんの演説について、「メディアではグレタさんの感情的なところばかり取り上げているが、よく聞くと『私の声ではなく科学者の声を聞きなさい』ということを言っている」と話す。
井田:グレタさんは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書や科学のメッセージを、すごくよく勉強していると感じます。その上で「科学に基づいて行動しろ」と言うのは、すごくちゃんとしたメッセージだなと思いました。
安田:グレタさんに向けたバッシングについて、どう捉えていますか?
井田:彼女は痛いところを突いているんです。地球温暖化の問題は、世代間の不公平が多い問題です。温暖化が深刻になるのは2050年とか、今の若い世代が大人になった頃です。そういった不公平な被害を受ける世代から、私たちの世代が面と向かって刃物を突きつけられると、厳しいものはありますよね。そこの感情的な反発もあって、グレタさんへの人格否定など、バッシングが起こったのではないでしょうか。
グレタさんが「私たちは大量絶滅の始まりにいる」と訴えるなか、実際に地球温暖化はどこまで深刻なのか。井田さんは「将来のことなので何とも言えない」という意見もあるとしながら、こう解説する。
井田:とにかく気温上昇のペースが非常に速いので、多くの生物はそれに着いて行くことができないだろうと。過去にも温度が上がったことはありますが、それは人間活動によって引き起こされていないため、ゆっくりとした上昇でした。ただ、今の調子で気温が上がっていくと多くの生物が絶滅してしまうというのは、かなり確度の高い予測だと言われていますし、そういった科学的な論文もあります。だから、グレタさんの「大量絶滅の始まり」という言葉は驚きではありません。
「生き物が絶滅すると、人間の食糧や安全保障にも関わるので、大量絶滅のなかに人間が含まれると考えても間違いではない」と、井田さんは補足した。
■環境保全をしなければ経済成長もない
地球温暖化問題に対処するため、国際社会では1992年に国連気候変動枠組条約が、1997年に京都議定書が採択された。
井田:これらは、二酸化炭素の削減義務を先進国に課したという意味では、画期的な取り組みでした。しかし、ここからアメリカが抜けてしまったり、当時は思いもよらなかった、新興国と呼ばれるインドや中国による二酸化炭素の排出量が急激に多くなったりしたので、京都議定書は地球温暖化の防止効果を持たなかった。そこで、各国が同意したのが2015年のパリ協定。アメリカは拒否しましたが、それ以外の国は支持して、二酸化炭素の排出削減や地球温暖化防止に取り組みます、という約束を提出しました。重要な一歩でしたが、各国がパリ協定で約束している排出削減が実現されたとしても、地球の気温上昇を2度未満に抑える目標は達成できないだろうと言われています。そのため、私たちはパリ協定に基づいて、二酸化炭素の排出削減の試みをもっと強化していかなければなりません。
産業革命以降、何百年もかけて、二酸化炭素を排出して経済成長を遂げるというシステムが定着してきた。根本から変革しないと、地球温暖化を防止するための目標を達成することはできないと言われている。
井田:大企業や富裕層を中心に、今のシステムから利益を得て豊かになる人たちがたくさんいますよね。そういう人に限って政治的な影響力は強く、政治家は将来より近くにある選挙を考えてしまう。だから、なかなか思い切ったことはできません。
安田:グレタさんの演説の冒頭で「お金のことばかり考えて」と怒りを込めたのは、まさにそこの点なんですね?
井田:「経済と環境の好循環」とか「経済成長も環境保全も」など聞こえのいい言葉を使うけど、今まで環境をこれだけダメにしてきたから、この状況になってしまった。これからは「環境保全をしなければ経済成長もないんだ」と思わない限り、世の中はうまくいきません。ただ、それに反発する既得権益にしがみつく人たちはたくさんいるので、その抵抗力をいかに排除するかがカギだと思います。
■これからは「チョイス」と「ボイス」が必要
今以上に地球温暖化が進むと、私たちにどのような影響が出てくるのか。
井田:産業革命以降の気温上昇は1度なんです。1度上昇しただけで、熱中症で多くの人が亡くなり、巨大な台風も発生する。これは、昔はなかったことなんです。大洪水や大雨、高潮なども頻繁にある。世界に目を向けると、大干ばつや雨期と乾期のサイクルがめちゃくちゃになるなどの問題も起こっている。これより気温上昇が進むと非常に大変なことになることは想像に難くない。食糧生産も低下し、干ばつになると移民や難民なども増えて、政治的にも不安定になります。これは誰もが言っていることですけど、地球温暖化問題は人間の安全保障、人間の生存自体に関わる問題なんです。
では、私たちはこの地球温暖化問題をどう受け止めて生きていけばいいのか。井田さんは「チョイス」と「ボイス」をポイントに挙げた。
井田:私たちが声をあげて政治家や地方自治体を動かすことは重要なことです。それ以外にも、食べるもの、着るもの、移動手段など、地球温暖化の防止に向けて正しい選択=「チョイス」をすることができます。また、企業などに「きちんとした行動をとってほしい」という「ボイス」をあげていくこともできる。私たちができることがたくさんあるし、やるべきこともたくさんあると思います。
安田:まずは、私たちにどんな「チョイス」があるのかを知ることが必要ですよね?
井田:「そういう選択肢を作ってほしい」と声をあげることや、それを実現できる政治家を「チョイス」することも重要です。
安田は、「グレタさんを始めとする若者だけに地球温暖化の解決を求めることなく、地球に生きる全員が取り組むべき問題だ」と締めくくった。
J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
グレタさんの行動と演説をきっかけに関心が高まっている地球温暖化の問題。グレタさんが指摘したように、待ったなしの状況なのか? 環境・開発・エネルギー問題をテーマに取材している共同通信編集委員の井田徹治さんと一緒に考えた。
【10月9日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
■『私の声ではなく科学者の声を聞きなさい』と言っている
井田さんはグレタさんの演説について、「メディアではグレタさんの感情的なところばかり取り上げているが、よく聞くと『私の声ではなく科学者の声を聞きなさい』ということを言っている」と話す。
井田:グレタさんは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書や科学のメッセージを、すごくよく勉強していると感じます。その上で「科学に基づいて行動しろ」と言うのは、すごくちゃんとしたメッセージだなと思いました。
安田:グレタさんに向けたバッシングについて、どう捉えていますか?
井田:彼女は痛いところを突いているんです。地球温暖化の問題は、世代間の不公平が多い問題です。温暖化が深刻になるのは2050年とか、今の若い世代が大人になった頃です。そういった不公平な被害を受ける世代から、私たちの世代が面と向かって刃物を突きつけられると、厳しいものはありますよね。そこの感情的な反発もあって、グレタさんへの人格否定など、バッシングが起こったのではないでしょうか。
グレタさんが「私たちは大量絶滅の始まりにいる」と訴えるなか、実際に地球温暖化はどこまで深刻なのか。井田さんは「将来のことなので何とも言えない」という意見もあるとしながら、こう解説する。
井田:とにかく気温上昇のペースが非常に速いので、多くの生物はそれに着いて行くことができないだろうと。過去にも温度が上がったことはありますが、それは人間活動によって引き起こされていないため、ゆっくりとした上昇でした。ただ、今の調子で気温が上がっていくと多くの生物が絶滅してしまうというのは、かなり確度の高い予測だと言われていますし、そういった科学的な論文もあります。だから、グレタさんの「大量絶滅の始まり」という言葉は驚きではありません。
「生き物が絶滅すると、人間の食糧や安全保障にも関わるので、大量絶滅のなかに人間が含まれると考えても間違いではない」と、井田さんは補足した。
■環境保全をしなければ経済成長もない
地球温暖化問題に対処するため、国際社会では1992年に国連気候変動枠組条約が、1997年に京都議定書が採択された。
井田:これらは、二酸化炭素の削減義務を先進国に課したという意味では、画期的な取り組みでした。しかし、ここからアメリカが抜けてしまったり、当時は思いもよらなかった、新興国と呼ばれるインドや中国による二酸化炭素の排出量が急激に多くなったりしたので、京都議定書は地球温暖化の防止効果を持たなかった。そこで、各国が同意したのが2015年のパリ協定。アメリカは拒否しましたが、それ以外の国は支持して、二酸化炭素の排出削減や地球温暖化防止に取り組みます、という約束を提出しました。重要な一歩でしたが、各国がパリ協定で約束している排出削減が実現されたとしても、地球の気温上昇を2度未満に抑える目標は達成できないだろうと言われています。そのため、私たちはパリ協定に基づいて、二酸化炭素の排出削減の試みをもっと強化していかなければなりません。
産業革命以降、何百年もかけて、二酸化炭素を排出して経済成長を遂げるというシステムが定着してきた。根本から変革しないと、地球温暖化を防止するための目標を達成することはできないと言われている。
井田:大企業や富裕層を中心に、今のシステムから利益を得て豊かになる人たちがたくさんいますよね。そういう人に限って政治的な影響力は強く、政治家は将来より近くにある選挙を考えてしまう。だから、なかなか思い切ったことはできません。
安田:グレタさんの演説の冒頭で「お金のことばかり考えて」と怒りを込めたのは、まさにそこの点なんですね?
井田:「経済と環境の好循環」とか「経済成長も環境保全も」など聞こえのいい言葉を使うけど、今まで環境をこれだけダメにしてきたから、この状況になってしまった。これからは「環境保全をしなければ経済成長もないんだ」と思わない限り、世の中はうまくいきません。ただ、それに反発する既得権益にしがみつく人たちはたくさんいるので、その抵抗力をいかに排除するかがカギだと思います。
■これからは「チョイス」と「ボイス」が必要
今以上に地球温暖化が進むと、私たちにどのような影響が出てくるのか。
井田:産業革命以降の気温上昇は1度なんです。1度上昇しただけで、熱中症で多くの人が亡くなり、巨大な台風も発生する。これは、昔はなかったことなんです。大洪水や大雨、高潮なども頻繁にある。世界に目を向けると、大干ばつや雨期と乾期のサイクルがめちゃくちゃになるなどの問題も起こっている。これより気温上昇が進むと非常に大変なことになることは想像に難くない。食糧生産も低下し、干ばつになると移民や難民なども増えて、政治的にも不安定になります。これは誰もが言っていることですけど、地球温暖化問題は人間の安全保障、人間の生存自体に関わる問題なんです。
では、私たちはこの地球温暖化問題をどう受け止めて生きていけばいいのか。井田さんは「チョイス」と「ボイス」をポイントに挙げた。
井田:私たちが声をあげて政治家や地方自治体を動かすことは重要なことです。それ以外にも、食べるもの、着るもの、移動手段など、地球温暖化の防止に向けて正しい選択=「チョイス」をすることができます。また、企業などに「きちんとした行動をとってほしい」という「ボイス」をあげていくこともできる。私たちができることがたくさんあるし、やるべきこともたくさんあると思います。
安田:まずは、私たちにどんな「チョイス」があるのかを知ることが必要ですよね?
井田:「そういう選択肢を作ってほしい」と声をあげることや、それを実現できる政治家を「チョイス」することも重要です。
安田は、「グレタさんを始めとする若者だけに地球温暖化の解決を求めることなく、地球に生きる全員が取り組むべき問題だ」と締めくくった。
J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。
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番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
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