聞こえない、見えない状態で“対話”して得られるものは? 「ダイアログプロジェクト」の魅力

見えない体験「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」、聞こえない体験「ダイアログ・イン・サイレンス」、そして歳を重ねる体験「ダイアログ・ウィズ・タイム」。この3つの対話を通して、未来から今をデザインしていくソーシャルエンターテイメント「ダイアログプロジェクト」に注目した番組を、J-WAVEでオンエアしました。

見えない。聞こえない。歳を重ねる。ネガティブに受けとられがちなこの3つの体験を通して得られる豊かな生き方を、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表の志村真介さんと一緒に考えました。

【7月28日(日)『J-WAVE SELECTION SHIMIZU KENSETSU DIALOGUE PROJECT BEYOND 2020』(ナビゲーター:別所哲也)】


■「今ここを大切にする」感覚が生まれる体験

志村さんが「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を知ったのは、1993年の新聞でした。自然史博物館を真っ暗にして、その中に森や都市など日常生活ができる空間を作り、数名で入って、案内するアテンドは視覚障害者......そんなイベントが、オーストリア・ウィーンで行われているという記事でした。志村さんは、「ヨーロッパでは目に見えない付加価値や人のつながりに市民がお金を費やし、時間を消費しているんだ」と衝撃を受けました。

志村:それでこの新聞社に連絡を取り、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の発案者、ドイツ人のアンドレアス・ハイネッケに手紙を書き、今に至っています。

普段、私たちは視覚を中心にコミュニケーションをしていますが、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」で用意された空間は照度ゼロの暗闇です。1日いても目が慣れることのない暗闇の中にグループで入っていきます。視覚以外のあらゆる感覚を開いて、まわりの人と協力しながら対等な対話をしていきます。その案内役は普段から目を使っていない視覚障害者です。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は世界42カ国以上で開催され、延べ800万人を超える人が体験をしています。日本の参加者からはどのような声が届いているのでしょうか。

志村:普段私たちはスマホの視覚情報でやりとりをして、SNSでつながっているという感覚があると思いますが、まずスマホを置いてリアルに人と人が出会うことがすごく重要であることがわかったと、みなさんおっしゃいます。視覚障害者の疑似体験ではなく、もっと自由で豊かな体験ができるんです。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」で得られるものは、イベントが終われば消えてしまう刹那的なものではなく、生きていく上で重要な"感覚"です。

志村:私たちは今ここにいても、明日のことや来週のことなど、先のことを見てしまい、なかなか今のことを見られない自分がいます。でも暗闇の中に入ると、まさに今ここの目の前に人がいて、隣には誰かがいる。そんな今を感じることができます。この体験をすると日常生活でも「今ここを大切にする」ことができるので、これが実は人間の豊かさに繋がるのではないかと思っています。


■「ダイアログ・イン・サイレンス」は感覚の拡張性

「ダイアログ・イン・サイレンス」は、参加者は音を遮断するヘッドセットを着用し、「話してはいけない」というルールのもとコミュニケーションを図る体験です。2017年に日本で初開催されました。

志村:音のない静寂空間で、表情やジェスチャーなどを使って、いかにして新しいコミュニケーションを生みだしていくかというプログラムです。
別所:参加者は静寂の中でどのようなコミュニケーションを取るのでしょうか?
志村:人と人が出会ってコミュニケーションをする一番の前提として、目を合わすことがあります。日常ではなかなか目を合わすことってないですよね。そこからコミュニケーションをするには例えば、手で表現できることを学んでいきます。そこから表情と感情を合わせていくようにトレーニングしていきます。そういった手や表情が普段からものすごく豊かな人って、実は聴覚障害者なんです。

「ダイアログ・イン・サイレンス」のアテンドは聴覚障害者が務め、参加者は手話など直接的なコミュニケーションを取るのではなく、ボディーランゲージに近いコミュニケーションで対話を試みます。

志村:「ダイアログ・イン・サイレンス」は感覚の拡張性になると思います。これからインバウンドで海外から外国人の方がどんどん日本に来ると思うんですけど、言語の違いによって少し壁ができてしまいます。でも、このプログラムでは、多言語の人たちが同じグループに入っても通訳はいりません。つまり言語が違っても仲良くなれます。この経験は今いろんな社会で争いが起きているひとつの解決策としての新しいモデルになると思います。


■高齢者が知恵を次世代に対話によって伝達していく

最後に志村さんは「ダイアログ・ウィズ・タイム」を紹介しました。70歳以上の高齢者がアテンドを務め、命や時間、生き方について対話をするプログラムです。

日本では2017年3月に1日限定で特別に実施した「ダイアログ・ウィズ・タイム」。非常に好評だったことから今年再び開催されます。

志村:日本は世界でもまれにみる超高齢社会です。寿命が100年時代に入り、長寿の「寿」は幸いなことのはずなんですけど、今ニュースでは高齢者の車の事故などネガティブな情報ばかりです。でもその高齢者がレジェンドとして、知恵を次世代に対話によって伝達していくことが必要だと思いました。

今年開催する「ダイアログ・ウィズ・タイム」のアテンドは、企業で活躍し引退した人、小学校の校長先生を務めた人、60年以上主婦を続ける人、元芸者、80歳の現役大学生など多様な高齢者が務めています。番組では、「ダイアログ・ウィズ・タイム」のアテンドとして参加する原田 泉さんのインタビューもお送りしました。


■お互いが対話によって変化していく

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」、「ダイアログ・イン・サイレンス」、そして「ダイアログ・ウィズ・タイム」。志村さんがこの3つの体験を通して考える対話とは一体何なのでしょうか?

志村:なかなか自分のことはわかりません。でも、違う文化の人と遭遇し、直接出会うことによって、対話しているうちに自分がわかってくる。そして、違う価値観と出会うことによって、相手の考えや行動に影響されて、(その人と)出会う前より自分が少し変化している。お互いが少し対話によって変化していると思うんです。歳を取ると弱っていく、目が見えないとどうしようもない、耳が聴こえないと不幸だ。そう考える一般的なステレオタイプが、これらのプログラムによって、「見えないからこそ見えてくる」、「聴こえないからこそ聞こえてくる」、「歳を重ねるからこそ理解が深まる」という、「だからこそ」に気づいていくと思います。

2020年、この3つのプログラムが体験できるダイバーシティのミュージアム「対話の森®」が東京・浜松町の複合施設「ウォーターズ竹芝」にオープンします。3つの体験を通して得られる豊かな生き方をぜひ考えてみてください。

この日のオンエアは「サイレントラジオ」と題して、手話による同時放送も実施しました。番組ホームページをご覧ください。

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【番組情報】
番組名:『J-WAVE SELECTION SHIMIZU KENSETSU DIALOGUE PROJECT BEYOND 2020』
放送日時:7月28日(日)22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/holiday/20190728/

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