何の落ち度もない歩行者が犠牲になってしまう悲惨な交通事故が全国で相次いでいます。どうすれば歩行者の交通事故を防ぐことが出来るのか。日本大学理工学部交通システム工学科助教の稲垣具志さんと一緒に考えます。
【5月22日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190522202049
■交通事故による死者の約35パーセントが歩行者
先月19日、東京の池袋で暴走した車にはねられ、母と娘の親子が亡くなりました。先月21日には、神戸で市営バスが暴走し、巻き込まれた20代の男女が死亡。今月8日には、滋賀県大津市の交差点で車同士が衝突、その際、軽自動車が保育園児の列に突っ込み、2人の園児が亡くなるなど、痛ましい事故の報道が相次いでいます。このように、歩行者が命を落とすケースはどのくらいあるのでしょうか。
平成30年に起きた全国の交通事故による死者は3532人で、その内の約35パーセントが歩行者だそうです。一方で、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデンなどの先進国では、歩行者の交通事故死の割合は15、6パーセント程度と、日本に比べ半分以下の割合だそうです。
安田:日本とそれらの国とでは、道路設計や交通設計自体が違うのでしょうか?
稲垣:それはひとつの要因として考えられます。日本の生活道路になると、空間が非常に限られています。日本は昔からの街があるので、常に限られた道路の幅のなかで歩行者と車が共存しなければならない状況です。
安田:日本は車の優先度を高くして道路を設計しているような気もします。
稲垣:日本は戦争後に急激な経済成長が起きるなかで、車の需要が一気に拡大していきました。みんな車で移動したがるので、その受け皿となる道路はどうしても車をスムーズに通す発想にせざるを得ない。そのため、道路作りがどんどん進められました。はじめに高速道路が開通する一方で、一般道路も車を中心に設計せざるを得なかった背景が日本の歴史にはあるように思います。
■身近な道路でも交通事故が起きやすい
歩行者が交通事故に巻き込まれる場所として、「交差点なのか」「単路(交差点以外の道路)なのか」という視点だと、交差点の事故は約52パーセント、単路が約41パーセントという統計があります。事故が起こるのは交差点ばかり、というわけではないのです。
また、東京都内の小学生の人身事故は約73パーセントが国道や都道ではなく、区市町村道で起きているというデータもあります。
安田:身近な場にある道路で交通事故が起こっているんですね?
稲垣:そうですね。子どもの典型的な事故となる飛び出しは、交差点だけではなく単路でもあり得ます。
安田:事故が起こる時間帯の特徴はありますか?
稲垣:夕暮れどきになると、車は歩行者を見落としやすくなります。また、その時間帯は子どもが下校したあとに自由な時間を与えられられるタイミングです。登下校中で決められた道路を歩いていないような時間帯でも、事故が起こりやすいと指摘されています。
■事故を繰り返さないための対策
滋賀県大津市の交差点での事故において「縁石はあったにせよ、ガードレールやポールがあれば事故が防げたのではないか」という声もあります。これについて稲垣さんは、以下のように話します。
稲垣:確かに、あの交差点にガードレールやポールなど、歩行者を守りうる構造物があれば被害がなかった、または軽減されていた可能性はあると思います。ただし、日本の全ての交差点に即座にそういった構造物を設置することは難しいと考えています。
一方で、平成24年に京都府亀岡市で起きた、登校中の児童と保護者の列に自動が突っ込んだ事故を受けて、通学路に限定して全国的に緊急合同点検が行われるなど、そこから通学路を守る意識は高まっているそうです。
稲垣:これと同じ視点で考える場合、滋賀県大津市の事故で被害を受けたのは園児です。そのため園児の散歩や通園のコースの状況を調査し、それを重ね合わせたときに、重要だと思われる交差点が出てくると思います。そういった場所から積極的に、そして計画的に対策経費を投入していく優先順位の考え方はあり得るのではないかと思います。
■「自分が正しいから事故が起こらない」という考えは捨てるべき
車と歩行者の事故が起きたときに「歩行者は悪くない」「歩行者は弱い立場だから歩行者に責任がない」と言われがちですが、例えば、子どもの飛び出しは道路交通法違反となります。「今回例として挙げた交通事故は当てはまらない」と前置きしたうえで、歩行者側に気をつけさせるような啓発や教育を積極的に行う必要があると稲垣さんは言及します。
稲垣:特に日本は家庭での交通安全教育が薄いと指摘されています。ヨーロッパなどと比べ、日本は交通安全教育を学校側に任せてしまう風潮があるので、家庭や地域で子どもたちに対して「自分の身は自分で守る」といった考えを積極的に植えつけることも重要になってくると思います。
私たちが交通事故の加害者にも被害者にもならないために、何を意識するべきなのでしょうか。
稲垣:ルールを守って正しい行動をすることが基本中の基本です。車のハンドルを握ることが常に社会の中で責任を伴う行動なのだということを当たり前のように意識する必要があります。ただ、滋賀県大津市の事故で直進していた車のように、運転手が道路交通法に従い正しく運転したとしても事故に遭う確率がゼロではないことが、この事故で示されています。自分が正しい、優先だということではなく、常にまわりで動く人や車のエラーについて冷静に予測して対応する能力を高める必要があります。
「『自分は正しいから事故が起こらない』という考えは根本から間違っている」という考えを持つことが車の運転手に求められると、稲垣さんは注意を促しました。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
【5月22日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
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■交通事故による死者の約35パーセントが歩行者
先月19日、東京の池袋で暴走した車にはねられ、母と娘の親子が亡くなりました。先月21日には、神戸で市営バスが暴走し、巻き込まれた20代の男女が死亡。今月8日には、滋賀県大津市の交差点で車同士が衝突、その際、軽自動車が保育園児の列に突っ込み、2人の園児が亡くなるなど、痛ましい事故の報道が相次いでいます。このように、歩行者が命を落とすケースはどのくらいあるのでしょうか。
平成30年に起きた全国の交通事故による死者は3532人で、その内の約35パーセントが歩行者だそうです。一方で、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデンなどの先進国では、歩行者の交通事故死の割合は15、6パーセント程度と、日本に比べ半分以下の割合だそうです。
安田:日本とそれらの国とでは、道路設計や交通設計自体が違うのでしょうか?
稲垣:それはひとつの要因として考えられます。日本の生活道路になると、空間が非常に限られています。日本は昔からの街があるので、常に限られた道路の幅のなかで歩行者と車が共存しなければならない状況です。
安田:日本は車の優先度を高くして道路を設計しているような気もします。
稲垣:日本は戦争後に急激な経済成長が起きるなかで、車の需要が一気に拡大していきました。みんな車で移動したがるので、その受け皿となる道路はどうしても車をスムーズに通す発想にせざるを得ない。そのため、道路作りがどんどん進められました。はじめに高速道路が開通する一方で、一般道路も車を中心に設計せざるを得なかった背景が日本の歴史にはあるように思います。
■身近な道路でも交通事故が起きやすい
歩行者が交通事故に巻き込まれる場所として、「交差点なのか」「単路(交差点以外の道路)なのか」という視点だと、交差点の事故は約52パーセント、単路が約41パーセントという統計があります。事故が起こるのは交差点ばかり、というわけではないのです。
また、東京都内の小学生の人身事故は約73パーセントが国道や都道ではなく、区市町村道で起きているというデータもあります。
安田:身近な場にある道路で交通事故が起こっているんですね?
稲垣:そうですね。子どもの典型的な事故となる飛び出しは、交差点だけではなく単路でもあり得ます。
安田:事故が起こる時間帯の特徴はありますか?
稲垣:夕暮れどきになると、車は歩行者を見落としやすくなります。また、その時間帯は子どもが下校したあとに自由な時間を与えられられるタイミングです。登下校中で決められた道路を歩いていないような時間帯でも、事故が起こりやすいと指摘されています。
■事故を繰り返さないための対策
滋賀県大津市の交差点での事故において「縁石はあったにせよ、ガードレールやポールがあれば事故が防げたのではないか」という声もあります。これについて稲垣さんは、以下のように話します。
稲垣:確かに、あの交差点にガードレールやポールなど、歩行者を守りうる構造物があれば被害がなかった、または軽減されていた可能性はあると思います。ただし、日本の全ての交差点に即座にそういった構造物を設置することは難しいと考えています。
一方で、平成24年に京都府亀岡市で起きた、登校中の児童と保護者の列に自動が突っ込んだ事故を受けて、通学路に限定して全国的に緊急合同点検が行われるなど、そこから通学路を守る意識は高まっているそうです。
稲垣:これと同じ視点で考える場合、滋賀県大津市の事故で被害を受けたのは園児です。そのため園児の散歩や通園のコースの状況を調査し、それを重ね合わせたときに、重要だと思われる交差点が出てくると思います。そういった場所から積極的に、そして計画的に対策経費を投入していく優先順位の考え方はあり得るのではないかと思います。
■「自分が正しいから事故が起こらない」という考えは捨てるべき
車と歩行者の事故が起きたときに「歩行者は悪くない」「歩行者は弱い立場だから歩行者に責任がない」と言われがちですが、例えば、子どもの飛び出しは道路交通法違反となります。「今回例として挙げた交通事故は当てはまらない」と前置きしたうえで、歩行者側に気をつけさせるような啓発や教育を積極的に行う必要があると稲垣さんは言及します。
稲垣:特に日本は家庭での交通安全教育が薄いと指摘されています。ヨーロッパなどと比べ、日本は交通安全教育を学校側に任せてしまう風潮があるので、家庭や地域で子どもたちに対して「自分の身は自分で守る」といった考えを積極的に植えつけることも重要になってくると思います。
私たちが交通事故の加害者にも被害者にもならないために、何を意識するべきなのでしょうか。
稲垣:ルールを守って正しい行動をすることが基本中の基本です。車のハンドルを握ることが常に社会の中で責任を伴う行動なのだということを当たり前のように意識する必要があります。ただ、滋賀県大津市の事故で直進していた車のように、運転手が道路交通法に従い正しく運転したとしても事故に遭う確率がゼロではないことが、この事故で示されています。自分が正しい、優先だということではなく、常にまわりで動く人や車のエラーについて冷静に予測して対応する能力を高める必要があります。
「『自分は正しいから事故が起こらない』という考えは根本から間違っている」という考えを持つことが車の運転手に求められると、稲垣さんは注意を促しました。
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番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
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