相次ぐ性犯罪の無罪判決、「加害者に故意がなければ無罪」はおかしい…刑法改正に向けて私たちができること

性犯罪に関する事件に、無罪判決が言い渡されるケースが相次いでいます。なぜ無罪判決が相次ぐのか。私たちはこの問題に対して、どうこうどうすればいいのか。性犯罪に関する刑法に詳しく、性犯罪被害者の支援にも取り組んでいる、弁護士の村田智子さんと考えました。

【4月24日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
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■無罪の理由は「抵抗が全くできなかった状態とは言えないから」

3月26日、名古屋地裁岡崎支部は、抵抗できない状態の当時19歳の実の娘と性交し、準強制性交等罪に問われた父親に対して、無罪を言い渡しました。被告の父親は、娘が中学2年の頃から性交を繰り返し、裁判所は起訴されたケースを含め、いずれも娘の意に反するものと認めたものの、判決は無罪となりました。

被告の父親は娘が中学2年生の冬頃から性行為に及ぶようになり、高校を卒業するまで週2回の頻度で繰り返されました。性行は娘が専門学校に入学する前から週3、4回のペースに増加しました。

起訴された事案は、2017年の8月と9月にいずれも被告の父親が娘を車に乗せて、閉鎖的な空間に連れて行き性交。抵抗した娘のこめかみあたりを数回拳で殴り、太ももやふくらはぎを蹴り、背中を足で踏みつけることにも及びました。娘は生活費や専門学校の学費を父親から借り入れというかたちで負わされていたことで、その返済を求められ、専門学校に入学したあとは支配状態が強まっていたことが指摘されています。

安田:なぜこういったケースが無罪判決となったのでしょうか?
村田:簡潔に言うと、被害者の意に反した性行為であることは認められるが、刑法の準強制性交等罪が定めている抗拒不能の状態、つまり抵抗が全くできなかった状態にはなかったために無罪判決となりました。

今回のケースでは、精神鑑定の結果で被害者は「抗拒不能の状態だった」と出ていました。その結果が十分に考慮されなかったのでしょうか。

村田:この判決では、鑑定結果で被害者が乖離状態にあったことは認めています。それにもかかわらず、被害者は被害を受けたときの記憶が比較的よく保たれているなどの理由から「抗拒不能の状態とまでは言えない」と、無罪になってしまいました。


■「被告人の故意」が無罪と大きく関係

他には、このようなケースがあります。福岡地裁久留米支部は3月12日、準強姦罪に問われた男性に無罪判決をしました。被害女性は、テキーラを何杯も飲まされ泥酔しており、抵抗できない状態でした。

3月19日には静岡地裁浜松支部が、女性に対する強制性交等致傷罪で起訴したメキシコ人の男性に、身体的暴行があったことを認めながらも無罪を言い渡しました。3月28日には静岡地裁が、12歳だった長女に対する父親の性的暴行を問う裁判で、無罪判決を言い渡しました。

これらのケースを挙げ、「被害者として何を立証していけばいいのか」と安田は疑問を呈します。

村田:それぞれの判決に重大な問題があります。たとえば、福岡地裁久留米支部の事案については、被害者が抗拒不能の状態にあったと認めています。また、静岡地裁浜松支部の事案についても、強制性交等罪の定義である暴行や脅迫はあったと認めています。しかし、「被告人に故意がないから」という理屈により無罪判決になっています。
安田:被害者側の女性は性暴力であると思っているが、加害側の男性は「性暴力だとは思っていない」「嫌だと思っていなかった」ということで無罪に至っている。そうすると「性暴力だと気がつかなかった」となれば無罪になってしまうのではないかと理不尽に感じてしまいます。
村田:その通りだと思います。性犯罪における故意は、被害者が暴行・脅迫を加えられた結果、性行為に応じるしかなかった。それを加害者側が認識して、それでもいいと考え性行為に及んでしまうことです。たとえば、被害者の心理や人権に全く関心がないような加害者であれば、そういう認識がなかなかできないため、鈍感な人ほど故意がないということで無罪になりやすい。それは非常に理不尽だと思います。しかし、そういった判決が相次いでいます。

このような事例だけではなく、そもそも不起訴になるケースも少なくありません。

村田:どうしてこの事案が不起訴になってしまうのか、というケースが残念ながら多いです。検事から不起訴になると言われ泣く泣く示談に応じざるを得ないケースも多々あります。
安田:そもそも被害に遭っても声をあげない方がいいのではないか、このまま泣き寝入りした方がこれ以上傷つかないで済むのではないか、という人が増えてしまうことにもつながりますよね?
村田:被害を警察に届けるだけでも、すごくストレスがかかると思います。頑張ってそのストレスに耐えたところで、結局は起訴されない、または無罪判決が出てしまうと被害者側の気力が萎えてしまいますよね。


■日本の刑法の性犯罪規定の見直しが必要

名古屋地裁岡崎支部の無罪判決により、検察側は控訴しました。現在の刑法では再び無罪が言い渡される可能性が高いのでしょうか。

村田:私は有罪になる可能性が高いと考えています。この名古屋地裁岡崎支部の無罪判決はあまりにひどいので、現在の不十分な日本の刑法でも、十分に有罪にできる事案です。それがあるからこそ検察庁も控訴したのだと思いますので、有罪になってほしいと私は強く願っています。
安田:これから刑法の改正がますます必要ではないかという声が高まってほしいと思います。そのために、これからどういう議論や見直しが必要なのでしょうか?
村田:まだまだ日本の刑法の性犯罪規定は直さなければならないのだと、みなさんに知ってもらうことだと思います。名古屋地裁岡崎支部の無罪判決によって、「この判決はおかしい」とツイッターなどで多くの一般の方が声を上げていることを心強く感じています。そういった声がさらなる刑法改正に向けて大きな力になるのではないでしょうか。

この村田さんの話を受け安田は、「法律や性犯罪の知識に詳しくないから声をあげづらいと考えている人であっても、一般の感覚から『やっぱりおかしい』と声が集まることによって社会の仕組みは変わっていく」と述べました。

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