先日、内部告発サイト「ウィキリークス」の共同創設者ジュリアン・アサンジ容疑者が、英ロンドンにあるエクアドル大使館で逮捕されました。アサンジ容疑者の逮捕で、内部告発サイトはどうなっていくのか。ウィキリークス研究の第一人者である拓殖大学非常勤講師の塚越健司さんを迎え、その背景を訊きました。
【4月22日(月)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/月曜担当ニュースアドバイザー:津田大介)
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190422201850
■不正の抑止力を持つ非常に評価が高い存在だった
まずはウィキリークスの歴史について、塚越さんがあらためて解説しました。
塚越:ウィキリークスは、アサンジ容疑者を中心として2006年にスタートしたインターネットのホームページです。内部告発する場合、身元が明かされることは非常に危険です。ウィキリークスはインターネットの匿名化技術を利用して、発信者が誰かわからないように告発文を送ることができる仕組みになっています。ウィキリークスは代理で、その内容を告発してきました。
最も注目されたのが、2010年にイラク戦争やアフガン戦争でアメリカ軍が起こした残忍な行動を、機密文書の公開で暴いたこと。その他にも、ケニア大統領の汚職暴露や、日本の高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れを起こした際の非公開ビデオが2008年頃に公開されるなど、多くの事例があります。
2010年はじめまでは硬派なジャーナリズム組織だったウィキリークスでしたが、2012年にアサンジ容疑者が性的暴行容疑をかけられます。それが発端で、アサンジ容疑者はイギリスのエクアドル大使館に立てこもることになります。
塚越:ウィキリークスは、少人数でも内部告発を手に入れ暴露することで、国際社会で非常に大きな影響力を与えることができました。そのため、国家と対等とは言わないまでも、内部告発を武器に戦うことができました。そういった意味では国際社会で活躍し、この活動によって不正の抑止力を持つものとして、非常に評価が高い存在でした。
津田:活動が停滞する前の2010年頃までのウィリークスは、単に匿名の内部告発サイトという役割ではなくて、ガーディアンやニューヨーク・タイムズ、日本では朝日新聞などのジャーナリズム機関と手を組んでいたことも大きかったですよね。裏付けをジャーナリズムにとってもらう。
塚越:そうですね。私もその頃までは評価していました。しかし、アサンジ容疑者は情報をとにかく公開すべきだと考えていました。そのため、ジャーナリズムと手を組んだものの、公開してはいけない人の名前を公表してしまうなど、本来はジャーナリズムがやらなければいけない修正作業をよくは思わず、その関係が悪化してしまいました。
水面下でそのような価値観の違いが生まれ、アサンジ容疑者がエクアドルに亡命した頃から、さまざまな政治的要素が絡まってきたと塚越さんは続けます。
塚越:アサンジ容疑者が2012年にエクアドルに亡命したときは、反米路線でロシア寄りと言われるコレア前大統領だったので、アメリカと戦うアサンジ容疑者はエクアドルと仲がよかった。しかし、2017年に親米派のモレノ大統領に変わり、それでもアサンジ容疑者は政治的な発言をしてしまうなど問題も多かったため、モレノ大統領は我慢の限界だとしてアサンジ容疑者の身柄の保護をやめたんです。それでイギリスが介入してきたわけです。
■ロシアとアメリカとの政治的な駆け引きに巻き込まれた
ジャーナリズムの立場からアメリカに反対することは問題ありません。しかし、アサンジ容疑者は、明らかにロシアにとって都合のいいことばかり言うようになった、と指摘されていました。
塚越:2016年のアメリカ大統領選挙の際には、トランプさんのことは何も言及しないのに、ヒラリ-・クリントンに関しては暴露もしているし、同時にウィキリークスのツイッターで「ヒラリーは最低だ」とずっと言い続けていたんです。ヒラリーだけの悪口を言うことは偏りがあるとして、この頃から欧米メディアからもかなり言われはじめました。
今はイギリスに身柄を捕らえられているアサンジ容疑者。アメリカの身柄引き渡し要請に関する審理が、5月2日に行われます。
津田:実際にアメリカに引き渡されるのでしょうか?
塚越:今回アメリカは、アサンジ容疑者を機密情報を流したことではなく、機密情報のハッキングを手助けしたことで起訴しています。その場合、アメリカに送還されても5年の禁錮刑で済んでしまう。しかし、アサンジ容疑者がアメリカに移送されてしまうと、その容疑に加えてスパイ罪などが後付けされ、もしかすると死刑になってしまうかもしれない。そのため、イギリス政府やエクアドル大統領も「死刑になるような場所へは移送はさせない」と宣誓していると言われています。そのため、アサンジ容疑者はアメリカへは行かないという説もあります。5月の審理によってどのような決定がくだされ、どこへ行くのかはわからず、さまざまな可能性が残っています。
この先、ウィキリークスとアサンジ容疑者はどうなっていくのでしょうか。
塚越:アサンジ容疑者が収監されてしまうと、アサンジ容疑者の声としてウィキリークスが発言できるものはほぼなくなってしまうため、ウィキリークスの影響力が下がるのは間違いありません。政治権力を批判して頭角を現したウィキリークスが、政治権力におそらく頼ったと見られているので、ここをいかに再構築できるかが重要になると思います。
5月2日にどのような審理が行われるのか。今後の動向に注目です。
【この記事の放送回をradikoで聴く】
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
【4月22日(月)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/月曜担当ニュースアドバイザー:津田大介)
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■不正の抑止力を持つ非常に評価が高い存在だった
まずはウィキリークスの歴史について、塚越さんがあらためて解説しました。
塚越:ウィキリークスは、アサンジ容疑者を中心として2006年にスタートしたインターネットのホームページです。内部告発する場合、身元が明かされることは非常に危険です。ウィキリークスはインターネットの匿名化技術を利用して、発信者が誰かわからないように告発文を送ることができる仕組みになっています。ウィキリークスは代理で、その内容を告発してきました。
最も注目されたのが、2010年にイラク戦争やアフガン戦争でアメリカ軍が起こした残忍な行動を、機密文書の公開で暴いたこと。その他にも、ケニア大統領の汚職暴露や、日本の高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れを起こした際の非公開ビデオが2008年頃に公開されるなど、多くの事例があります。
2010年はじめまでは硬派なジャーナリズム組織だったウィキリークスでしたが、2012年にアサンジ容疑者が性的暴行容疑をかけられます。それが発端で、アサンジ容疑者はイギリスのエクアドル大使館に立てこもることになります。
塚越:ウィキリークスは、少人数でも内部告発を手に入れ暴露することで、国際社会で非常に大きな影響力を与えることができました。そのため、国家と対等とは言わないまでも、内部告発を武器に戦うことができました。そういった意味では国際社会で活躍し、この活動によって不正の抑止力を持つものとして、非常に評価が高い存在でした。
津田:活動が停滞する前の2010年頃までのウィリークスは、単に匿名の内部告発サイトという役割ではなくて、ガーディアンやニューヨーク・タイムズ、日本では朝日新聞などのジャーナリズム機関と手を組んでいたことも大きかったですよね。裏付けをジャーナリズムにとってもらう。
塚越:そうですね。私もその頃までは評価していました。しかし、アサンジ容疑者は情報をとにかく公開すべきだと考えていました。そのため、ジャーナリズムと手を組んだものの、公開してはいけない人の名前を公表してしまうなど、本来はジャーナリズムがやらなければいけない修正作業をよくは思わず、その関係が悪化してしまいました。
水面下でそのような価値観の違いが生まれ、アサンジ容疑者がエクアドルに亡命した頃から、さまざまな政治的要素が絡まってきたと塚越さんは続けます。
塚越:アサンジ容疑者が2012年にエクアドルに亡命したときは、反米路線でロシア寄りと言われるコレア前大統領だったので、アメリカと戦うアサンジ容疑者はエクアドルと仲がよかった。しかし、2017年に親米派のモレノ大統領に変わり、それでもアサンジ容疑者は政治的な発言をしてしまうなど問題も多かったため、モレノ大統領は我慢の限界だとしてアサンジ容疑者の身柄の保護をやめたんです。それでイギリスが介入してきたわけです。
■ロシアとアメリカとの政治的な駆け引きに巻き込まれた
ジャーナリズムの立場からアメリカに反対することは問題ありません。しかし、アサンジ容疑者は、明らかにロシアにとって都合のいいことばかり言うようになった、と指摘されていました。
塚越:2016年のアメリカ大統領選挙の際には、トランプさんのことは何も言及しないのに、ヒラリ-・クリントンに関しては暴露もしているし、同時にウィキリークスのツイッターで「ヒラリーは最低だ」とずっと言い続けていたんです。ヒラリーだけの悪口を言うことは偏りがあるとして、この頃から欧米メディアからもかなり言われはじめました。
今はイギリスに身柄を捕らえられているアサンジ容疑者。アメリカの身柄引き渡し要請に関する審理が、5月2日に行われます。
津田:実際にアメリカに引き渡されるのでしょうか?
塚越:今回アメリカは、アサンジ容疑者を機密情報を流したことではなく、機密情報のハッキングを手助けしたことで起訴しています。その場合、アメリカに送還されても5年の禁錮刑で済んでしまう。しかし、アサンジ容疑者がアメリカに移送されてしまうと、その容疑に加えてスパイ罪などが後付けされ、もしかすると死刑になってしまうかもしれない。そのため、イギリス政府やエクアドル大統領も「死刑になるような場所へは移送はさせない」と宣誓していると言われています。そのため、アサンジ容疑者はアメリカへは行かないという説もあります。5月の審理によってどのような決定がくだされ、どこへ行くのかはわからず、さまざまな可能性が残っています。
この先、ウィキリークスとアサンジ容疑者はどうなっていくのでしょうか。
塚越:アサンジ容疑者が収監されてしまうと、アサンジ容疑者の声としてウィキリークスが発言できるものはほぼなくなってしまうため、ウィキリークスの影響力が下がるのは間違いありません。政治権力を批判して頭角を現したウィキリークスが、政治権力におそらく頼ったと見られているので、ここをいかに再構築できるかが重要になると思います。
5月2日にどのような審理が行われるのか。今後の動向に注目です。
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