J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。2月18日(月)のオンエアでは、月曜日のニュース・スーパーバイザーを務める津田大介が登場。作家・思想家の東 浩紀さんをお迎えして、大幅な再編を行ったカドカワにおける、ドワンゴ・ニコニコ動画の不振について取り上げました。
■「発信者としても使いにくかった」ユーザーからの要望も後手後手に?
カドカワは先日、業績の大幅な下方修正に加え、代表取締役社長の川上量生社長が辞任し、代表権のない取締役になったと発表しました。後任の社長には、出版子会社KADOKAWA社長の松原眞樹さんが就任。また、ドワンゴの荒木隆司社長が辞任し、後任にはドワンゴ取締役だった夏野 剛さんが就任します。
さらに組織再編も発表。これまでは、カドカワの傘下にKADOKAWAとドワンゴが並列していましたが、今後はKADOKAWAの下に子会社化したドワンゴが入ることになります。
この一報が入ったとき、東さんは「ビックリしたと同時に、こういう結末になったのかと感じました」といいます。
東:まさかカドカワグループの中での組織再編まであるとは思わなかったので、それは率直に驚きました。ただ、僕のような外から見ている人間でも、ドワンゴがうまくいっているとはあまり思えなかったです。
もともとKADOKAWAとドワンゴが合併してカドカワになった理由は、ドワンゴの動画サービス「ニコニコ動画」の有料会員が手堅くネットで収益を大きくあげているため、それをベースにKADOKAWAもコンテンツ事業を盛り上げられると期待したことによります。しかし、ある時期からニコニコ動画の有料会員はどんどん減っていき、業績が悪化していきました。
東:僕も津田さんもニコニコ動画のユーザーであり、チャンネルの発信側でもありますが、発信側としてもかなり使いにくく、ユーザーとしていろいろと要望を出してもなかなか応えてくれなかった。これは担当者がどうだということではなく、会社としてリソースがまわっていないのかなとユーザーとして感じていました。
津田:ある時期から開発が止まっていた印象がありましたよね。
東:今回の発表を見てすごく驚いたのは、ドワンゴのスマートフォン向けゲームアプリ「テクテクテクテク」ですね。面白いゲームの試みだとは思っていたけど、まさかあそこまで社運をかけているとは思っていませんでした。
津田:社運をかけた結果、うまくいきませんでしたよね。
東:ニコニコ動画の新バージョンとなった「niconico(く)」にしても、ギフトと呼ばれる投げ銭の収益をかなり見込んでいたけど、それがついてきていない。そういった意味で、ウェブ事業もゲーム事業もかなり失敗しているので、これからの立て直しは大変だと思います。
津田:すべて後手後手にまわった印象がありますよね。
■競合サービスを意識しすぎて、自分のカルチャーを壊してしまった
ニコニコ動画が足踏みしている間に、競合である他のビデオプラットフォームがどんどん先を行ってしまったことがドワンゴ不振につながったのでは、と津田がコメントすると……。
東:いや、僕の考えでは、ドワンゴはドワンゴでよかったはずなんです。ドワンゴは独自のカルチャーをつくっていたし、その独自のカルチャーを育てればよかっただけなんです。
津田:なるほど。つまり競合を意識する必要もなかったと。
東:そう、競合を意識しすぎて自分で自分のカルチャーを壊していた気がします。たとえば川上さんのブロッキング問題における政治的な動きもそうだし、ニコニコ動画のサービス変更も僕はそうだったと思います。でも、ドワンゴはまだ引き返せると思います。ニコニコ動画とドワンゴがつくった文化は大きいし、まだそれを支持している人たちも多いので。そこにドワンゴが目を向けるかですよね。
今回の発表でひとつの時代が終わったと同時に、これまでドワンゴがどういった文化を育てたかをもう一度考える必要がある、と東さん。
東:自分たちの強みはどこにあったのか。たとえば、生主はユーチューバーとは違ったわけだけど、でもそれはどうして違ったのか。生主の良さはどこにあったのかなど考えなくてはいけない。「生主は所詮、視聴数が少ないんだ。ユーチューバーの方が何千万、何億と稼ぐんだ。だからユーチューブに目が向くんだ」ではなくて、生主はユーチューバーとは全然違うものだった。その、違うってことをちゃんと考えてほしいですよね。
最近のドワンゴのプレスリリースを見る度に「また迷走か」と思っていた東さんは、今回の組織変更が大きなショックになって、ドワンゴがもう一度自分の強みに目を向けてほしいと言います。
東:僕はもう古い世代の人間だから、今の若い人たちからしたらどうでもいいことかもしれないけど、僕たちの世代にとってニコニコ動画はひとつの大きな達成であって、川上さんもヒーローだったし、これで川上さんが「もう実業はいいや。これからは政治だ」とか言って、潤沢な個人資産を背景に自民党から出馬とかになると僕たちもガクッくるじゃないですか。
津田:そうですね(笑)。
東:そういうことではなく、川上さんはヒーローだったわけだから、もう一度ドワンゴで何をつくったのかを思い出してほしいですよね。
ニコニコ動画は日本のオタク的なコミュニケーションを増幅するプラットフォームだった。東さんは、そう話します。
東:直感的に言えば、ユーチューブはリア充のもので、ニコニコ動画はオタクのもの。これはけっこう本質を突いていると思います。それはコメントの仕方など設計としても反映されていました。ニコニコ動画はエンジニアの無意識の改良がオタク的な人格みたいなものと共振を起こしてたんだと思います。
津田:そうですよね。
東:だからオタク的なコンテンツに最適化されたインターフェースになっていた。でも、それは無意識にやっているから、会社がどんどん大きくなって社会的な注目を浴びると「ユーチューブはこういうことをやっているんだ」とか「おれらも投げ銭やるか」「パーティープラグインみたいなものを充実させるか」みたいな方向に行っちゃうわけですよ。でも、ニコニコ動画で誰もサプライズパーティーとかやらないですよ。クイズもやらない。
津田:少なからずやってますよ(笑)。
東:やっているかもしれないけど、やっぱりそっち側じゃないんだってことなんですよね。そういう意味で無意識に拡大していた自分たちの強みを意識化して、次に進むときに、まわりに台頭してきたさまざまなモデルに目を奪われてしまい、たとえばインスタグラムのライブ機能とかショールームと拮抗しないといけないと考えたわけです。でも、ニコニコ動画にその拮抗は求めてないわけです。ドワンゴ発、ニコニコ動画発のものもすごく多いのに、いつの間にかオリジナルのアイデンティティを失っていたように見えます。
■ドワンゴの遺伝子を絶やさず発展してほしい
今回の不振の要因は、川上さんの立場が急速に変わり力を持ったことも大きいとしながらも、「川上さんはドワンゴから手を引くという報道があるがそれは残念」と東さんは言及します。
東:ここでドワンゴから川上さんが手を引くのはさみしいので、ぜひこれからも関わってほしいなと思います。一方で、新社長となる夏野さんがどれだけニコニコ動画を愛しているかはよくわからないし、夏野さんのカルチャーはドワンゴ的なカルチャーとちょっと違うとおもうんですよ。そういう点でも少し不安なところがあるけど、夏野さんはすごく優秀ですばらしい方なので、ぜひドワンゴの遺伝子を絶やさず発展させてもらいたいですね。
新体制を発表したカドカワ。夏野さん率いるニコニコ動画が私たちにどのようなサービスを提供してくれるのか。これからの動向も注目です。
東さんは、石田英敬さんの共著『新記号論 脳とメディアが出会うとき』(ゲンロン)を3月3日(日)に発売します。こちらもぜひチェックしてみてください!
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
■「発信者としても使いにくかった」ユーザーからの要望も後手後手に?
カドカワは先日、業績の大幅な下方修正に加え、代表取締役社長の川上量生社長が辞任し、代表権のない取締役になったと発表しました。後任の社長には、出版子会社KADOKAWA社長の松原眞樹さんが就任。また、ドワンゴの荒木隆司社長が辞任し、後任にはドワンゴ取締役だった夏野 剛さんが就任します。
さらに組織再編も発表。これまでは、カドカワの傘下にKADOKAWAとドワンゴが並列していましたが、今後はKADOKAWAの下に子会社化したドワンゴが入ることになります。
この一報が入ったとき、東さんは「ビックリしたと同時に、こういう結末になったのかと感じました」といいます。
東:まさかカドカワグループの中での組織再編まであるとは思わなかったので、それは率直に驚きました。ただ、僕のような外から見ている人間でも、ドワンゴがうまくいっているとはあまり思えなかったです。
もともとKADOKAWAとドワンゴが合併してカドカワになった理由は、ドワンゴの動画サービス「ニコニコ動画」の有料会員が手堅くネットで収益を大きくあげているため、それをベースにKADOKAWAもコンテンツ事業を盛り上げられると期待したことによります。しかし、ある時期からニコニコ動画の有料会員はどんどん減っていき、業績が悪化していきました。
東:僕も津田さんもニコニコ動画のユーザーであり、チャンネルの発信側でもありますが、発信側としてもかなり使いにくく、ユーザーとしていろいろと要望を出してもなかなか応えてくれなかった。これは担当者がどうだということではなく、会社としてリソースがまわっていないのかなとユーザーとして感じていました。
津田:ある時期から開発が止まっていた印象がありましたよね。
東:今回の発表を見てすごく驚いたのは、ドワンゴのスマートフォン向けゲームアプリ「テクテクテクテク」ですね。面白いゲームの試みだとは思っていたけど、まさかあそこまで社運をかけているとは思っていませんでした。
津田:社運をかけた結果、うまくいきませんでしたよね。
東:ニコニコ動画の新バージョンとなった「niconico(く)」にしても、ギフトと呼ばれる投げ銭の収益をかなり見込んでいたけど、それがついてきていない。そういった意味で、ウェブ事業もゲーム事業もかなり失敗しているので、これからの立て直しは大変だと思います。
津田:すべて後手後手にまわった印象がありますよね。
■競合サービスを意識しすぎて、自分のカルチャーを壊してしまった
ニコニコ動画が足踏みしている間に、競合である他のビデオプラットフォームがどんどん先を行ってしまったことがドワンゴ不振につながったのでは、と津田がコメントすると……。
東:いや、僕の考えでは、ドワンゴはドワンゴでよかったはずなんです。ドワンゴは独自のカルチャーをつくっていたし、その独自のカルチャーを育てればよかっただけなんです。
津田:なるほど。つまり競合を意識する必要もなかったと。
東:そう、競合を意識しすぎて自分で自分のカルチャーを壊していた気がします。たとえば川上さんのブロッキング問題における政治的な動きもそうだし、ニコニコ動画のサービス変更も僕はそうだったと思います。でも、ドワンゴはまだ引き返せると思います。ニコニコ動画とドワンゴがつくった文化は大きいし、まだそれを支持している人たちも多いので。そこにドワンゴが目を向けるかですよね。
今回の発表でひとつの時代が終わったと同時に、これまでドワンゴがどういった文化を育てたかをもう一度考える必要がある、と東さん。
東:自分たちの強みはどこにあったのか。たとえば、生主はユーチューバーとは違ったわけだけど、でもそれはどうして違ったのか。生主の良さはどこにあったのかなど考えなくてはいけない。「生主は所詮、視聴数が少ないんだ。ユーチューバーの方が何千万、何億と稼ぐんだ。だからユーチューブに目が向くんだ」ではなくて、生主はユーチューバーとは全然違うものだった。その、違うってことをちゃんと考えてほしいですよね。
最近のドワンゴのプレスリリースを見る度に「また迷走か」と思っていた東さんは、今回の組織変更が大きなショックになって、ドワンゴがもう一度自分の強みに目を向けてほしいと言います。
東:僕はもう古い世代の人間だから、今の若い人たちからしたらどうでもいいことかもしれないけど、僕たちの世代にとってニコニコ動画はひとつの大きな達成であって、川上さんもヒーローだったし、これで川上さんが「もう実業はいいや。これからは政治だ」とか言って、潤沢な個人資産を背景に自民党から出馬とかになると僕たちもガクッくるじゃないですか。
津田:そうですね(笑)。
東:そういうことではなく、川上さんはヒーローだったわけだから、もう一度ドワンゴで何をつくったのかを思い出してほしいですよね。
ニコニコ動画は日本のオタク的なコミュニケーションを増幅するプラットフォームだった。東さんは、そう話します。
東:直感的に言えば、ユーチューブはリア充のもので、ニコニコ動画はオタクのもの。これはけっこう本質を突いていると思います。それはコメントの仕方など設計としても反映されていました。ニコニコ動画はエンジニアの無意識の改良がオタク的な人格みたいなものと共振を起こしてたんだと思います。
津田:そうですよね。
東:だからオタク的なコンテンツに最適化されたインターフェースになっていた。でも、それは無意識にやっているから、会社がどんどん大きくなって社会的な注目を浴びると「ユーチューブはこういうことをやっているんだ」とか「おれらも投げ銭やるか」「パーティープラグインみたいなものを充実させるか」みたいな方向に行っちゃうわけですよ。でも、ニコニコ動画で誰もサプライズパーティーとかやらないですよ。クイズもやらない。
津田:少なからずやってますよ(笑)。
東:やっているかもしれないけど、やっぱりそっち側じゃないんだってことなんですよね。そういう意味で無意識に拡大していた自分たちの強みを意識化して、次に進むときに、まわりに台頭してきたさまざまなモデルに目を奪われてしまい、たとえばインスタグラムのライブ機能とかショールームと拮抗しないといけないと考えたわけです。でも、ニコニコ動画にその拮抗は求めてないわけです。ドワンゴ発、ニコニコ動画発のものもすごく多いのに、いつの間にかオリジナルのアイデンティティを失っていたように見えます。
■ドワンゴの遺伝子を絶やさず発展してほしい
今回の不振の要因は、川上さんの立場が急速に変わり力を持ったことも大きいとしながらも、「川上さんはドワンゴから手を引くという報道があるがそれは残念」と東さんは言及します。
東:ここでドワンゴから川上さんが手を引くのはさみしいので、ぜひこれからも関わってほしいなと思います。一方で、新社長となる夏野さんがどれだけニコニコ動画を愛しているかはよくわからないし、夏野さんのカルチャーはドワンゴ的なカルチャーとちょっと違うとおもうんですよ。そういう点でも少し不安なところがあるけど、夏野さんはすごく優秀ですばらしい方なので、ぜひドワンゴの遺伝子を絶やさず発展させてもらいたいですね。
新体制を発表したカドカワ。夏野さん率いるニコニコ動画が私たちにどのようなサービスを提供してくれるのか。これからの動向も注目です。
東さんは、石田英敬さんの共著『新記号論 脳とメディアが出会うとき』(ゲンロン)を3月3日(日)に発売します。こちらもぜひチェックしてみてください!
【待望の書、ついに予約開始!】
— ゲンロン友の会@『新記号論』予約受付中! (@genroninfo) 2019年2月1日
石田英敬+東浩紀『新記号論 脳とメディアが出会うとき』(ゲンロン叢書)予約を開始しました!!(3月3日発売予定)
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/