J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」。12月27日(木)のオンエアでは、木曜日のニュース・スーパーバイザー、堀 潤が選んだ「2018年重大ニュース」を発表。グローバーがお休みのため、ナビゲーター・津田大介とお届けしました。
第5位:地震と台風と豪雪。国内で災害相次ぐ
2月に福井県で記録的な豪雪、6月に震度6を記録した大阪北部地震、7月に西日本豪雨、9月に震度7を記録した北海道胆振東部地震が発生しました。緊急報道があった際、堀はこんな取り組みをしています。
掘:僕は緊急報道のときには、自分のLINEのIDを解放して、「オーダーメイド型の取材」をやってるんです。災害が起きるとSNSのタイムラインに一斉にSOS、もしくは伝聞情報、さらに悪質なデマから、悪質じゃないけど間違った情報が飛びかうじゃないですか。玉石混交になっていて、メディアリテラシーもだんだん上がっていく中で、見る側も「このSOSって本当?」って、若干二の足を踏むようになってきてます。これはいいことだと思うんですけど、本当に緊急で支援が必要な人のところへの情報サポートができないかなと思うようになりました。だから、そういう方々は直接、僕に連絡をください、と。
津田:東日本大震災のときにTwitterが注目されました。僕も東北に行ったときに、Twitterで情報を募集して取材先を決めたりしたんです。堀さんが災害のたびに、LINEでああいうことをしているのを見て、「うまいこと考えたな」と思いました。LINEのほうがよりプライベートで、かつ携帯と紐付いてるから、きちんとした信頼情報にアクセスできるし、プライベートな情報だからいろんなことも訊ける。今年は災害そのものが多く、堀さんがそういうのを何度もやってる中で、堀さんの中でその方法論がどんどん洗練されていった感じがします。
掘:毎回「どうしてテレビの報道はいつも同じ場所からなんですか」、「どうしてうちの地域はやってくれないんですか」っていう現象が起きるんです。
津田:いわゆる「象徴するところ」ですよね。
掘:災害が発生すると、どうしても涙があるところ、映像として非常に撮れ高があるといわれる地域ですよね。そういうところも大事だけど、今を生きている方々の日常の中での、さまざまな課題を丁寧に伝えて、それを次の教訓に活かしていくことができればいいなと思ってるんです。
山口県の周防大島も訪れました。大島大橋に貨物船が衝突し、送水管が破断した事故で、島内のほぼ全域、約9000世帯で1カ月以上にわたり断水が発生していたのです。
掘:「周防大島は水が復活して橋も通れるようになったけど、どうしても伝えてほしいことがあるので来てください」と現地の方に言われて、1週間半前に取材に行きました。正直に言うと、地元のテレビ局も全国紙も報道している中で、僕が何を伝えられるんだろうと思って行ったんです。病院関係者に接触すると「骨折が増えてるんです」と。40日間にわたって水が止まって、町は「自分たちでできます」といって、自衛隊に帰ってもらいました。そこまではよしとしましょう。ところが、自治体が用意した給水車から各自宅までは、住民が給水タンクを持って運ぶわけです。お年寄りが多い地域で、腰を痛めていて、圧迫骨折や疲労骨折。「おじいちゃん、おばあちゃん、俺がやるから」と言った40〜50代の担い手たちが手伝って、中腰のままお風呂とかトイレに水を流すと、今度はヘルニアになるんです。そういう形で、現地の病院には次々と診療する患者が増えていったんですけど、この問題についてはあまり報道されなかったんです。それを「ぜひ発信してほしいんです」という話でした。伝えられてないけど、伝えるべき現場がいっぱいあるんです。
津田:ITツールやソーシャルメディアが普及したから、細やかな報道を大手メディアができないんだったら、インターネットメディアが一緒になってやっていくということなんでしょうね。
堀:動画も早く送れるようになりましたしね。
第4位:南北首脳会談と米朝首脳会談…動く北朝鮮情勢
堀は今年の8月のおわり、平壌(ピョンヤン)に足を運びました。 掘:日本のNGO「JVC(日本国際ボランティアセンター)」などが中心になって、10年近く現地の学生と日本の学生を交流させる授業をやってきたんです。ところが、昨年は緊張の高まりでそれが中止になりました。今年に入って、一転して融和ムードが出たということで復活しました。その交流事業に僕も同行しました。
津田:どうでした?
掘:街の発展ぶりとか、見るもの聞くものが、想像していたものと違いました。女学生に「国連の経済制裁はどう?」と訊いたら、「とにかく辛いです」と。何が辛いのか訊いたら「私は休みの日に雑貨店に行って、食器やフライパンを見るのが楽しみだったんです。特に外国からきたもの。ところが一切入ってこなくなって、全て国産に切り替わって、それがダサイんです」と。一方、いろいろな現場を見ていく中で実感したのは、経済発展を心の底から求めているということ。最新の医療機関を見に行ったときに、よく見ると日本製、ドイツ製、アメリカ製だったんです。「ん?」と思って「制裁下でよく入りましたね」って訊いたら、「正直な話、こういうものに関しては、まだ自国の技術ではまかなえないんです。ですから、我々は早く国際社会との接続を強めて、みなさんの国の技術が必要です。掘さん、私は日本担当なんですけど、正直、自分の人生が正解だったか悩んでます。同期がみんな出世してるんです」と言っていました。理由を訊いたら「他の言語を選んだ同期たちはビジネスの話をまとめてくるんです。私たちは拉致と核とミサイルの話、歴史を20年間ずっとやってきました。そろそろビジネスの話をしたいんです」という話を聞きました。北朝鮮と関わるときには、何をゴールに設定するのか、今の状況をある程度見据えた上で、拉致問題を解決するためにも、連絡系統を密に作って、経済発展の中から、あの国の状況が国際社会に連なるようになっていくのがいいのか、いろいろと考えさせられましたね。
津田:それはすごく必要な訴えだと思う一方で、それで本当に進めましょうといって、国民感情が許すかどうかっていう話もありますから、なかなか深刻な問題ですよね。
掘:総裁選で安倍さんと石破さんが議論する中で、平壌に連絡事務所を置いたらどうかっていう話が、石破さんから出てました。僕は、あれは総裁選の争点ではなく、継続的にやったらいいと思うんです。
第3位:安田純平さん、3年4カ月の拘束から解放される
堀は、安田さんに日本記者クラブの会見で質問をしました。 掘:残念だったのは、テレビ各局は「拘束されているときに、くじけそうになったことはありませんでしたか?」といった気持ちを訊くんです。新聞社は「拘束されている状況で、どのような部屋だったのか、見取り図をもう少し教えてください」とか「何人ぐらいの人が周りにいたんですか」と、ある程度の情報を訊いてました。外国メディアは、取材手法について「なぜ、あのコーディネーターを信頼したのか」「どういう手順で安田さんは手続きをとったのか教えてほしい」「行方不明になっているジャーナリストの情報はないか」とかだったんですけど、「安田さんは3年4カ月の中で、何か見聞きしたことはありませんか」という、シリアの情勢についての質問がなかったんです。僕はしたんです。というのも、安田さんが拘束されていたイドリブ県は、世界中が注目した場所なんです。まさに「反政府勢力の最後の拠点」と言われていて、化学兵器の導入もあるかもしれないという現場だったんです。
ところが、それに関しては一切、話題になりませんでした。
津田:安田さん自身も、そのことに関して「ほとんど部屋の中にいるから情報を得ようがない」ということで言葉を濁していましたけども。
掘:でもそのとき、30秒黙ったあとに、実を言うと子どもが拘束されていて、尋問を受けていたとか、近所で空爆の音が続いていたとか、話しました。さらに、この会見の一番の焦点だと思うんですけど、武装勢力がウイグル人勢力だったということも明かしたんです。トルキスタン勢力、いわゆる中国政府と対立しているウイグル人勢力が、シリアの北西部に展開していて、安田さんは彼らに匿われていたことが、運ばれてきた食事からわかったんです。「あれ? このパンの焼き方はウイグル人じゃないか」と、聞き込んでみるとそうだった。中国域内では謳歌できないイスラムの生活をここで楽しんでるとか、いろいろな情報が出てきました。それで、「安田さんの自己責任論はいいけど、肝心要のシリア情勢について今、誰が語ってるんだっけ?」っていうのが一番悲しかった。なぜなら、イドリブ県にはたくさんの市民がいる中で、Twitterなどを使って日本に向けて市民がメッセージを発信してきたんです。「ここは武装勢力がいるだけじゃない。我々市民がいるんだ。国際社会は見てほしい。攻撃をやめさせてほしい」というのを、拙い日本語でプラカードを作って、SNSで発信しているということに対して、無頓着でいいのかな、というのをすごく感じました。
津田:安田さんもその責任を感じているのか、帰ってからも精力的に取材に応じていますね。
掘:安田さんが3年4カ月の間に、いろいろな情報を見聞きしていて、これが価値のある情報だと日本政府も判断したんでしょう。外務省を含めて、安田さんの情報は大変貴重だといって、情報についての詳しい聞き取りを行ったと言われています。やはり、メディアのあり方が気になりました。「シリア」とか、大きな主語ではなく、日本として何をすべきなのかということは、もっと議論すべきだと思います。
第2位:国連で「小農の権利宣言(小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言)」が採択される
掘:これは、ほとんど報道されていません。日本農業新聞と中国新聞だったと思うんですけども、そこは記事にしてました。ところが、全く注目されてなかったんです。今、世界中の農地で過剰な開発が、特に先進国が関わって行われています。アフリカ、南米、カンボジアなどもそうです。そういった中で、土地を強制的に収奪されたり、非常に安い労働力としてこき使われたり、本来はその地域のコミュニティの中で育まれてきた、適正な範囲での農業というものが、過剰な開発によって根こそぎ奪われていくような状況が、各地で続いてるんです。
津田:なるほど。
掘:特にアフリカやアジアや南米、それらの国々が中心になって、小規模農家の権利を守りましょうということが定義されました。ところが、それに反対したのがアメリカや中国であって、たくさんの小規模農家がある日本はどうしてるのかというと、今年は出資法の廃止も話題になりましたが、日本は棄権しました。小農家に対しての権利は、国際社会ではまだ議論が未成熟なので、新たな権利をここで作るよりも、今までにある法律内で対応したほうがいいという判断から棄権したと、外務省が言ってるんですけど、果たしてそれでいいのかと。
堀が注目した理由は、モザンビークで、非常に大規模な農業開発事業を、日本の税金も使って進めようとしていることにあります。
掘:日本国内の食料安全保障の観点から、大豆だったり小麦といったものを、安定供給させてもらう先を、南米、アフリカなどのいろいろな地域に作っておく。その中で、現地で雇用を生み出して、付加価値のある近代的な農業を、というのが名目なんです。実際には、そこに日本だけではなく、いろいろな企業が投資をする中で、土地の強制収奪であったり、説明がしっかりされていないまま、開発だけが先行してしまう状況もあります。日本のNGOなどもそこに入って、日本政府はこの状況に耳を傾けてほしいと訴え続けています。さらに、東南アジアに目を移すと、カンボジアでは中国政府との結びつきが、現地のフン・セン政権が強くなって「我々は中国の資金で開発ができる。欧米の支援は必要ない」といって、民主主義的な手続きが重んじられない中での開発で、同じく土地の強制収奪が行われています。それに対して反対の意を唱えた民衆を取材しているメディアが潰され、そうした彼らの声を受けて台頭した野党が今年解体され、フン・セン政権はまさに総選挙で独裁的な基盤を固めたんです。
津田:今、アジアの権威主義的な国が、ほぼ独裁状態というか、民主主義的な手続きをほぼ捨て去っているという状況ですもんね。
掘:そういう中で、やはり日本がいろいろな国々との関係を築いていく上で、まさにひとりひとりの権利、人権であり環境であり、そうしたものに重きを置いた関係を作ることが、日本の信頼や信用であり、日本の安全保障政策の一番重要だと思うんですね。
津田:本来、外務省がそれを率先して、その価値を輸出していくべきなんですけどね。
第1位:民意はどこへ?着々と進む沖縄・辺野古新基地建設
堀は「土地に根ざしたひとりひとりのさまざまな思いは、大きな権力によって奪われてはならない」と語ります。
掘:独裁的な国家や経済合理性を優先する巨大な企業グループなどが、農地の強制収奪を行っているという話をしましたけど、沖縄の問題に関しては、日本国政府が行ってますよね。
津田:それ対して国連から「ちゃんとしなさい。人権上問題がある」という勧告まで出てますから。
掘:しかも、民主主義的な手続きを経て、選挙で民意を示したにも関わらず。
津田:土砂投入は適法性も問われている状況です。しかし、適法性を問うと行政訴訟になってしまう。行政は三権分立がきちんとしていないので、行政訴訟は国にとって都合のいい判決ばかりが出てしまうという状況がある。沖縄は堀さんも精力的に活動をしていて、昨年から今年にかけて、大田昌秀知事と翁長雄志知事が亡くなりましたが、太田さんにはインタビューをしていましたね。いかがでしたか? 沖縄の政治家の思いは、本土とは違うところがあると思うんですけど。
掘:太田さんが、戦前、戦中、戦後を見てこられた中で、一番強く訴えたかったのは、おそらくアメリカの存在ではなくて、本土の人々からの差別、偏見。実際に経済的な優位性を利用して、補助金などを使って札束で頬をなでるような支配をしてきた構図に対して、なぜみなさんは沈黙をするのか、ということを伝えてきたと思うんです。なぜ70パーセント以上の米軍専用施設が沖縄に集中しているのか。もともとは本土にあったものをアメリカ政治下にある沖縄に移したのに、本土に基地が少なくなった途端に、自分たちの経済発展を謳歌して、そのあとは沈黙。「学生運動なんて過去の話だよ」なんて言って、それはおかしいんじゃないですか。
津田:翁長さんからは「沖縄が本土に甘えているのか、本土が沖縄に甘えてるのか」という強い言葉もありました。太田さんが選挙で稲嶺惠一さんに負けたときに、沖縄県の人たちが経済をとるというキャッチフレーズが「県政不況」という言葉だったんですよね。革新の知事が知事をやっていたら、経済は発展しない。県政によって不況になってるんだという強力な「県政不況」というキャッチフレーズ。太田さんが落ちるきっかけになったんですけど、それを作ったのがまさに翁長さんがだったんです。翁長さんが2014年に知事になってから、ほとんど太田さんと同じようなことを言うようになり、太田さんの葬式でもシンパシーを述べられました。そこまで平和と経済の中で揺れ動いた沖縄の人たちが、「これは本土との戦い」というところまで追い込んでいる状況もあって、ひとつの帰結として県知事選での玉城デニー知事の勝利とともに、土砂投入があると思ってます。でも「出口がないな」というのが僕の所感です。
■他人事と思わないこと
津田:2019年はどこに注目したいですか?
掘:今回、なぜこのラインナップにしたのかというと、これは誰かの問題じゃなくて「私の問題です」と語れるような年にしないと、みんなで沈没すると思うんです。
津田:なるほど。
掘:みなさん「沖縄の話でしょ」とか「被災地は大変だよね」とか、海外の情勢に対しても他人事。戦争経験者が「なんだかんだ言って、自分の夢をどう叶えるかとか、明日の生活をどうするのかを考えるので手一杯で、政治の話といっても『そんなに悪いことはしないだろう』とか『それって私の人生とどう関わるんだろう』とか思ってました。でも気づいたら爆弾が落ちていたり、家族が失われていたり、土地に帰れなくなる状況に追いまれていました」と言っていたのを聞きました。有事は始まってるし、僕らは常に渦中にいるんです。僕らが無関心だったら、それは最悪の事態を招くしかないので、ぜひ一緒になって考えて、ひとりひとりがどんどん発信していく時代を迎えたいです。
堀の選んだニュース以外にも、多くの出来事があった2018年。2019年はどう過ごすべきか、この機会にぜひ考える時間を持ってみてください。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
第5位:地震と台風と豪雪。国内で災害相次ぐ
2月に福井県で記録的な豪雪、6月に震度6を記録した大阪北部地震、7月に西日本豪雨、9月に震度7を記録した北海道胆振東部地震が発生しました。緊急報道があった際、堀はこんな取り組みをしています。
掘:僕は緊急報道のときには、自分のLINEのIDを解放して、「オーダーメイド型の取材」をやってるんです。災害が起きるとSNSのタイムラインに一斉にSOS、もしくは伝聞情報、さらに悪質なデマから、悪質じゃないけど間違った情報が飛びかうじゃないですか。玉石混交になっていて、メディアリテラシーもだんだん上がっていく中で、見る側も「このSOSって本当?」って、若干二の足を踏むようになってきてます。これはいいことだと思うんですけど、本当に緊急で支援が必要な人のところへの情報サポートができないかなと思うようになりました。だから、そういう方々は直接、僕に連絡をください、と。
津田:東日本大震災のときにTwitterが注目されました。僕も東北に行ったときに、Twitterで情報を募集して取材先を決めたりしたんです。堀さんが災害のたびに、LINEでああいうことをしているのを見て、「うまいこと考えたな」と思いました。LINEのほうがよりプライベートで、かつ携帯と紐付いてるから、きちんとした信頼情報にアクセスできるし、プライベートな情報だからいろんなことも訊ける。今年は災害そのものが多く、堀さんがそういうのを何度もやってる中で、堀さんの中でその方法論がどんどん洗練されていった感じがします。
掘:毎回「どうしてテレビの報道はいつも同じ場所からなんですか」、「どうしてうちの地域はやってくれないんですか」っていう現象が起きるんです。
津田:いわゆる「象徴するところ」ですよね。
掘:災害が発生すると、どうしても涙があるところ、映像として非常に撮れ高があるといわれる地域ですよね。そういうところも大事だけど、今を生きている方々の日常の中での、さまざまな課題を丁寧に伝えて、それを次の教訓に活かしていくことができればいいなと思ってるんです。
山口県の周防大島も訪れました。大島大橋に貨物船が衝突し、送水管が破断した事故で、島内のほぼ全域、約9000世帯で1カ月以上にわたり断水が発生していたのです。
掘:「周防大島は水が復活して橋も通れるようになったけど、どうしても伝えてほしいことがあるので来てください」と現地の方に言われて、1週間半前に取材に行きました。正直に言うと、地元のテレビ局も全国紙も報道している中で、僕が何を伝えられるんだろうと思って行ったんです。病院関係者に接触すると「骨折が増えてるんです」と。40日間にわたって水が止まって、町は「自分たちでできます」といって、自衛隊に帰ってもらいました。そこまではよしとしましょう。ところが、自治体が用意した給水車から各自宅までは、住民が給水タンクを持って運ぶわけです。お年寄りが多い地域で、腰を痛めていて、圧迫骨折や疲労骨折。「おじいちゃん、おばあちゃん、俺がやるから」と言った40〜50代の担い手たちが手伝って、中腰のままお風呂とかトイレに水を流すと、今度はヘルニアになるんです。そういう形で、現地の病院には次々と診療する患者が増えていったんですけど、この問題についてはあまり報道されなかったんです。それを「ぜひ発信してほしいんです」という話でした。伝えられてないけど、伝えるべき現場がいっぱいあるんです。
津田:ITツールやソーシャルメディアが普及したから、細やかな報道を大手メディアができないんだったら、インターネットメディアが一緒になってやっていくということなんでしょうね。
堀:動画も早く送れるようになりましたしね。
第4位:南北首脳会談と米朝首脳会談…動く北朝鮮情勢
堀は今年の8月のおわり、平壌(ピョンヤン)に足を運びました。 掘:日本のNGO「JVC(日本国際ボランティアセンター)」などが中心になって、10年近く現地の学生と日本の学生を交流させる授業をやってきたんです。ところが、昨年は緊張の高まりでそれが中止になりました。今年に入って、一転して融和ムードが出たということで復活しました。その交流事業に僕も同行しました。
津田:どうでした?
掘:街の発展ぶりとか、見るもの聞くものが、想像していたものと違いました。女学生に「国連の経済制裁はどう?」と訊いたら、「とにかく辛いです」と。何が辛いのか訊いたら「私は休みの日に雑貨店に行って、食器やフライパンを見るのが楽しみだったんです。特に外国からきたもの。ところが一切入ってこなくなって、全て国産に切り替わって、それがダサイんです」と。一方、いろいろな現場を見ていく中で実感したのは、経済発展を心の底から求めているということ。最新の医療機関を見に行ったときに、よく見ると日本製、ドイツ製、アメリカ製だったんです。「ん?」と思って「制裁下でよく入りましたね」って訊いたら、「正直な話、こういうものに関しては、まだ自国の技術ではまかなえないんです。ですから、我々は早く国際社会との接続を強めて、みなさんの国の技術が必要です。掘さん、私は日本担当なんですけど、正直、自分の人生が正解だったか悩んでます。同期がみんな出世してるんです」と言っていました。理由を訊いたら「他の言語を選んだ同期たちはビジネスの話をまとめてくるんです。私たちは拉致と核とミサイルの話、歴史を20年間ずっとやってきました。そろそろビジネスの話をしたいんです」という話を聞きました。北朝鮮と関わるときには、何をゴールに設定するのか、今の状況をある程度見据えた上で、拉致問題を解決するためにも、連絡系統を密に作って、経済発展の中から、あの国の状況が国際社会に連なるようになっていくのがいいのか、いろいろと考えさせられましたね。
津田:それはすごく必要な訴えだと思う一方で、それで本当に進めましょうといって、国民感情が許すかどうかっていう話もありますから、なかなか深刻な問題ですよね。
掘:総裁選で安倍さんと石破さんが議論する中で、平壌に連絡事務所を置いたらどうかっていう話が、石破さんから出てました。僕は、あれは総裁選の争点ではなく、継続的にやったらいいと思うんです。
第3位:安田純平さん、3年4カ月の拘束から解放される
堀は、安田さんに日本記者クラブの会見で質問をしました。 掘:残念だったのは、テレビ各局は「拘束されているときに、くじけそうになったことはありませんでしたか?」といった気持ちを訊くんです。新聞社は「拘束されている状況で、どのような部屋だったのか、見取り図をもう少し教えてください」とか「何人ぐらいの人が周りにいたんですか」と、ある程度の情報を訊いてました。外国メディアは、取材手法について「なぜ、あのコーディネーターを信頼したのか」「どういう手順で安田さんは手続きをとったのか教えてほしい」「行方不明になっているジャーナリストの情報はないか」とかだったんですけど、「安田さんは3年4カ月の中で、何か見聞きしたことはありませんか」という、シリアの情勢についての質問がなかったんです。僕はしたんです。というのも、安田さんが拘束されていたイドリブ県は、世界中が注目した場所なんです。まさに「反政府勢力の最後の拠点」と言われていて、化学兵器の導入もあるかもしれないという現場だったんです。
ところが、それに関しては一切、話題になりませんでした。
津田:安田さん自身も、そのことに関して「ほとんど部屋の中にいるから情報を得ようがない」ということで言葉を濁していましたけども。
掘:でもそのとき、30秒黙ったあとに、実を言うと子どもが拘束されていて、尋問を受けていたとか、近所で空爆の音が続いていたとか、話しました。さらに、この会見の一番の焦点だと思うんですけど、武装勢力がウイグル人勢力だったということも明かしたんです。トルキスタン勢力、いわゆる中国政府と対立しているウイグル人勢力が、シリアの北西部に展開していて、安田さんは彼らに匿われていたことが、運ばれてきた食事からわかったんです。「あれ? このパンの焼き方はウイグル人じゃないか」と、聞き込んでみるとそうだった。中国域内では謳歌できないイスラムの生活をここで楽しんでるとか、いろいろな情報が出てきました。それで、「安田さんの自己責任論はいいけど、肝心要のシリア情勢について今、誰が語ってるんだっけ?」っていうのが一番悲しかった。なぜなら、イドリブ県にはたくさんの市民がいる中で、Twitterなどを使って日本に向けて市民がメッセージを発信してきたんです。「ここは武装勢力がいるだけじゃない。我々市民がいるんだ。国際社会は見てほしい。攻撃をやめさせてほしい」というのを、拙い日本語でプラカードを作って、SNSで発信しているということに対して、無頓着でいいのかな、というのをすごく感じました。
津田:安田さんもその責任を感じているのか、帰ってからも精力的に取材に応じていますね。
掘:安田さんが3年4カ月の間に、いろいろな情報を見聞きしていて、これが価値のある情報だと日本政府も判断したんでしょう。外務省を含めて、安田さんの情報は大変貴重だといって、情報についての詳しい聞き取りを行ったと言われています。やはり、メディアのあり方が気になりました。「シリア」とか、大きな主語ではなく、日本として何をすべきなのかということは、もっと議論すべきだと思います。
第2位:国連で「小農の権利宣言(小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言)」が採択される
掘:これは、ほとんど報道されていません。日本農業新聞と中国新聞だったと思うんですけども、そこは記事にしてました。ところが、全く注目されてなかったんです。今、世界中の農地で過剰な開発が、特に先進国が関わって行われています。アフリカ、南米、カンボジアなどもそうです。そういった中で、土地を強制的に収奪されたり、非常に安い労働力としてこき使われたり、本来はその地域のコミュニティの中で育まれてきた、適正な範囲での農業というものが、過剰な開発によって根こそぎ奪われていくような状況が、各地で続いてるんです。
津田:なるほど。
掘:特にアフリカやアジアや南米、それらの国々が中心になって、小規模農家の権利を守りましょうということが定義されました。ところが、それに反対したのがアメリカや中国であって、たくさんの小規模農家がある日本はどうしてるのかというと、今年は出資法の廃止も話題になりましたが、日本は棄権しました。小農家に対しての権利は、国際社会ではまだ議論が未成熟なので、新たな権利をここで作るよりも、今までにある法律内で対応したほうがいいという判断から棄権したと、外務省が言ってるんですけど、果たしてそれでいいのかと。
堀が注目した理由は、モザンビークで、非常に大規模な農業開発事業を、日本の税金も使って進めようとしていることにあります。
掘:日本国内の食料安全保障の観点から、大豆だったり小麦といったものを、安定供給させてもらう先を、南米、アフリカなどのいろいろな地域に作っておく。その中で、現地で雇用を生み出して、付加価値のある近代的な農業を、というのが名目なんです。実際には、そこに日本だけではなく、いろいろな企業が投資をする中で、土地の強制収奪であったり、説明がしっかりされていないまま、開発だけが先行してしまう状況もあります。日本のNGOなどもそこに入って、日本政府はこの状況に耳を傾けてほしいと訴え続けています。さらに、東南アジアに目を移すと、カンボジアでは中国政府との結びつきが、現地のフン・セン政権が強くなって「我々は中国の資金で開発ができる。欧米の支援は必要ない」といって、民主主義的な手続きが重んじられない中での開発で、同じく土地の強制収奪が行われています。それに対して反対の意を唱えた民衆を取材しているメディアが潰され、そうした彼らの声を受けて台頭した野党が今年解体され、フン・セン政権はまさに総選挙で独裁的な基盤を固めたんです。
津田:今、アジアの権威主義的な国が、ほぼ独裁状態というか、民主主義的な手続きをほぼ捨て去っているという状況ですもんね。
掘:そういう中で、やはり日本がいろいろな国々との関係を築いていく上で、まさにひとりひとりの権利、人権であり環境であり、そうしたものに重きを置いた関係を作ることが、日本の信頼や信用であり、日本の安全保障政策の一番重要だと思うんですね。
津田:本来、外務省がそれを率先して、その価値を輸出していくべきなんですけどね。
第1位:民意はどこへ?着々と進む沖縄・辺野古新基地建設
堀は「土地に根ざしたひとりひとりのさまざまな思いは、大きな権力によって奪われてはならない」と語ります。
掘:独裁的な国家や経済合理性を優先する巨大な企業グループなどが、農地の強制収奪を行っているという話をしましたけど、沖縄の問題に関しては、日本国政府が行ってますよね。
津田:それ対して国連から「ちゃんとしなさい。人権上問題がある」という勧告まで出てますから。
掘:しかも、民主主義的な手続きを経て、選挙で民意を示したにも関わらず。
津田:土砂投入は適法性も問われている状況です。しかし、適法性を問うと行政訴訟になってしまう。行政は三権分立がきちんとしていないので、行政訴訟は国にとって都合のいい判決ばかりが出てしまうという状況がある。沖縄は堀さんも精力的に活動をしていて、昨年から今年にかけて、大田昌秀知事と翁長雄志知事が亡くなりましたが、太田さんにはインタビューをしていましたね。いかがでしたか? 沖縄の政治家の思いは、本土とは違うところがあると思うんですけど。
掘:太田さんが、戦前、戦中、戦後を見てこられた中で、一番強く訴えたかったのは、おそらくアメリカの存在ではなくて、本土の人々からの差別、偏見。実際に経済的な優位性を利用して、補助金などを使って札束で頬をなでるような支配をしてきた構図に対して、なぜみなさんは沈黙をするのか、ということを伝えてきたと思うんです。なぜ70パーセント以上の米軍専用施設が沖縄に集中しているのか。もともとは本土にあったものをアメリカ政治下にある沖縄に移したのに、本土に基地が少なくなった途端に、自分たちの経済発展を謳歌して、そのあとは沈黙。「学生運動なんて過去の話だよ」なんて言って、それはおかしいんじゃないですか。
津田:翁長さんからは「沖縄が本土に甘えているのか、本土が沖縄に甘えてるのか」という強い言葉もありました。太田さんが選挙で稲嶺惠一さんに負けたときに、沖縄県の人たちが経済をとるというキャッチフレーズが「県政不況」という言葉だったんですよね。革新の知事が知事をやっていたら、経済は発展しない。県政によって不況になってるんだという強力な「県政不況」というキャッチフレーズ。太田さんが落ちるきっかけになったんですけど、それを作ったのがまさに翁長さんがだったんです。翁長さんが2014年に知事になってから、ほとんど太田さんと同じようなことを言うようになり、太田さんの葬式でもシンパシーを述べられました。そこまで平和と経済の中で揺れ動いた沖縄の人たちが、「これは本土との戦い」というところまで追い込んでいる状況もあって、ひとつの帰結として県知事選での玉城デニー知事の勝利とともに、土砂投入があると思ってます。でも「出口がないな」というのが僕の所感です。
■他人事と思わないこと
津田:2019年はどこに注目したいですか?
掘:今回、なぜこのラインナップにしたのかというと、これは誰かの問題じゃなくて「私の問題です」と語れるような年にしないと、みんなで沈没すると思うんです。
津田:なるほど。
掘:みなさん「沖縄の話でしょ」とか「被災地は大変だよね」とか、海外の情勢に対しても他人事。戦争経験者が「なんだかんだ言って、自分の夢をどう叶えるかとか、明日の生活をどうするのかを考えるので手一杯で、政治の話といっても『そんなに悪いことはしないだろう』とか『それって私の人生とどう関わるんだろう』とか思ってました。でも気づいたら爆弾が落ちていたり、家族が失われていたり、土地に帰れなくなる状況に追いまれていました」と言っていたのを聞きました。有事は始まってるし、僕らは常に渦中にいるんです。僕らが無関心だったら、それは最悪の事態を招くしかないので、ぜひ一緒になって考えて、ひとりひとりがどんどん発信していく時代を迎えたいです。
堀の選んだニュース以外にも、多くの出来事があった2018年。2019年はどう過ごすべきか、この機会にぜひ考える時間を持ってみてください。
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番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/