J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。9月4日(火)のオンエアでは、火曜日のニュース・スーパーバイザーを務める青木 理が登場。スポーツ社会学が専門の一橋大学教授、鈴木直文さんをゲストに迎え、東京オリンピックの経済効果についてお話を伺いました。
■3兆円から32兆円…経済効果の試算が大きく増えた理由
開催まであと2年をきった2020年東京オリンピック・パラリンピック。最近では暑さ対策やボランティアの問題が話題になっています。東京都はオリンピック招致前の2012年に、オリンピックの経済(波及)効果を3兆円と試算していましたが、2017年3月にそれを32兆円と発表しました。大幅に増えたことについて、「理由は想像するしかない」としながらも、鈴木さんは以下のよう説明します。
鈴木:2016年の秋ごろに7000億円と考えていたオリンピックの開催費用が、下手をすると3兆円に迫ると分かりました。そうすると経済効果の3兆円と同額になってしまうため、少し慌てて、その半年後に32兆円と試算し直したのではないのでしょうか。
青木:どうして3兆円を32兆円にできたのですか?
鈴木:経済効果が3兆円と言っていた時よりも、オリンピック関連で使われるだろうお金の数え方を大きく増やしています。ひとつは試算の時期を当初の「2020年まで」から「2030年まで」と10年分伸ばしたこと。
青木:え、10年も!?
鈴木:はい。もうひとつは、資産項目を増やしています。試算期間を10年伸ばしたことで、「レガシー効果」と話していますけど、オリンピック後も投資が続いてさらにお金を使うので、それが効果を生むという計算です。
現在、建て替え中の国立競技場の経済効果にも問題があると鈴木さんは指摘します。
鈴木:国立競技場の経済効果は1500億円くらいとみられています。ただ、それが全部オリンピックの経済効果だと言ってしまうと問題があります。本来、東京都の税金で何かをする場合、オリンピックに使ったら他の物には使えなくなります。しかし、今回の経済効果と言って数えている中には、オリンピックがなくても使った金額を付け替えて試算しているんです。なので、この32兆円というのは、オリンピックがなくても使っていただろうお金じゃないかというわけです。
■オリンピックで観光客は増えない?
とはいえ、オリンピックを開催すれば世界各国から観光客が増えるため、大きな経済効果が生まれるのではないか、と青木が質問すると……。
鈴木:過去の開催都市の経験を踏まえると、オリンピックによって観光客が増えることはあまり期待しない方がいいです。開催都市によって観光客が増える場合もあれば、あまり変わらない場合もあります。減る場合もあり、ならすとあまりその影響がないようです。
青木:オリンピックを開催したのに、観光客が減ってしまった場合もあるんですか?
鈴木:近年ではそういう例があるみたいです。オリンピックを開催すると、その時に通常の観光客は来たくないんです。
青木:たしかに、その時期は飛行機は混むだろうし、ホテル代も高くなったり取りづらくなったりするだろうから。
鈴木:それを恐れて観光客は来なくなります。あと、オリンピック開催月に観光客が増えたとしても、その前後の月にかなり減ることが起きたりするため、開催年でならすと、減ってしまうこともあります。そうやって観光客が訪れる季節をずらしたり、混雑を敬遠して他国に行ったりすることも起きているようです。
■オリンピックの経済効果はない?
欧米の経済学者の研究では、オリンピックによる経済効果は否定されていると鈴木さん。ではなぜ経済効果に懐疑的な考えが日本では広がらないのでしょうか。
鈴木:経済効果は難解なので、内訳を考えたり、本当は参入してはいけないものが入っているなどと考えたりする人は少ないし、わざわざそれを言う研究者も少ないという現状があります。経済学者もあまり興味を持っていないので、私のような専門外の人たちが頑張って考えを広めないといけないと思います。
青木:メディアの影響もありますよね。「オリンピックは良いものだ、経済効果もある」と発表されると、メディアも否定的なことは言わないものだから、懐疑的な考えが生まれないのではないのでしょうか。
鈴木:メディアも(経済効果の)中身が分からないうちは、否定的なことは言えないでしょうね。「経済効果はない」と伝えて実際あった場合は困るので、まあ難しいかなとは思ってますけど(笑)。
では、私たちはどのようにオリンピックを捉えればよいのでしょうか。
鈴木:いま東京は「レガシーだから」と、セキュリティのアップグレードなどいろいろなことにお金を使っています。本当に莫大な金額が使われているので、「これはいらないんじゃないか」というものがあれば、ひとつひとつ声をあげていくことが大切です。また、新潟と札幌が冬季オリンピックの招致をしようとしているので、それに向けて「現実的な期待はどこなのか」という意識が広がっていけばいいなと思っています。
あと2年に迫った2020年東京オリンピック・パラリンピック。期待感が高まる一方で、経済効果の本質をしっかり見極めることが必要ではないでしょうか。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld
■3兆円から32兆円…経済効果の試算が大きく増えた理由
開催まであと2年をきった2020年東京オリンピック・パラリンピック。最近では暑さ対策やボランティアの問題が話題になっています。東京都はオリンピック招致前の2012年に、オリンピックの経済(波及)効果を3兆円と試算していましたが、2017年3月にそれを32兆円と発表しました。大幅に増えたことについて、「理由は想像するしかない」としながらも、鈴木さんは以下のよう説明します。
鈴木:2016年の秋ごろに7000億円と考えていたオリンピックの開催費用が、下手をすると3兆円に迫ると分かりました。そうすると経済効果の3兆円と同額になってしまうため、少し慌てて、その半年後に32兆円と試算し直したのではないのでしょうか。
青木:どうして3兆円を32兆円にできたのですか?
鈴木:経済効果が3兆円と言っていた時よりも、オリンピック関連で使われるだろうお金の数え方を大きく増やしています。ひとつは試算の時期を当初の「2020年まで」から「2030年まで」と10年分伸ばしたこと。
青木:え、10年も!?
鈴木:はい。もうひとつは、資産項目を増やしています。試算期間を10年伸ばしたことで、「レガシー効果」と話していますけど、オリンピック後も投資が続いてさらにお金を使うので、それが効果を生むという計算です。
現在、建て替え中の国立競技場の経済効果にも問題があると鈴木さんは指摘します。
鈴木:国立競技場の経済効果は1500億円くらいとみられています。ただ、それが全部オリンピックの経済効果だと言ってしまうと問題があります。本来、東京都の税金で何かをする場合、オリンピックに使ったら他の物には使えなくなります。しかし、今回の経済効果と言って数えている中には、オリンピックがなくても使った金額を付け替えて試算しているんです。なので、この32兆円というのは、オリンピックがなくても使っていただろうお金じゃないかというわけです。
■オリンピックで観光客は増えない?
とはいえ、オリンピックを開催すれば世界各国から観光客が増えるため、大きな経済効果が生まれるのではないか、と青木が質問すると……。
鈴木:過去の開催都市の経験を踏まえると、オリンピックによって観光客が増えることはあまり期待しない方がいいです。開催都市によって観光客が増える場合もあれば、あまり変わらない場合もあります。減る場合もあり、ならすとあまりその影響がないようです。
青木:オリンピックを開催したのに、観光客が減ってしまった場合もあるんですか?
鈴木:近年ではそういう例があるみたいです。オリンピックを開催すると、その時に通常の観光客は来たくないんです。
青木:たしかに、その時期は飛行機は混むだろうし、ホテル代も高くなったり取りづらくなったりするだろうから。
鈴木:それを恐れて観光客は来なくなります。あと、オリンピック開催月に観光客が増えたとしても、その前後の月にかなり減ることが起きたりするため、開催年でならすと、減ってしまうこともあります。そうやって観光客が訪れる季節をずらしたり、混雑を敬遠して他国に行ったりすることも起きているようです。
■オリンピックの経済効果はない?
欧米の経済学者の研究では、オリンピックによる経済効果は否定されていると鈴木さん。ではなぜ経済効果に懐疑的な考えが日本では広がらないのでしょうか。
鈴木:経済効果は難解なので、内訳を考えたり、本当は参入してはいけないものが入っているなどと考えたりする人は少ないし、わざわざそれを言う研究者も少ないという現状があります。経済学者もあまり興味を持っていないので、私のような専門外の人たちが頑張って考えを広めないといけないと思います。
青木:メディアの影響もありますよね。「オリンピックは良いものだ、経済効果もある」と発表されると、メディアも否定的なことは言わないものだから、懐疑的な考えが生まれないのではないのでしょうか。
鈴木:メディアも(経済効果の)中身が分からないうちは、否定的なことは言えないでしょうね。「経済効果はない」と伝えて実際あった場合は困るので、まあ難しいかなとは思ってますけど(笑)。
では、私たちはどのようにオリンピックを捉えればよいのでしょうか。
鈴木:いま東京は「レガシーだから」と、セキュリティのアップグレードなどいろいろなことにお金を使っています。本当に莫大な金額が使われているので、「これはいらないんじゃないか」というものがあれば、ひとつひとつ声をあげていくことが大切です。また、新潟と札幌が冬季オリンピックの招致をしようとしているので、それに向けて「現実的な期待はどこなのか」という意識が広がっていけばいいなと思っています。
あと2年に迫った2020年東京オリンピック・パラリンピック。期待感が高まる一方で、経済効果の本質をしっかり見極めることが必要ではないでしょうか。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld