「自己責任論」は正しいのか? シリア拘束・安田純平さんの事件で考える

J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。7月9日(月)のオンエアでは、月曜日のニュース・スーパーバイザー・津田大介が休みのため、堀 潤が登場。朝日新聞記者の石川智也さんをスタジオにお迎えし、シリアで拘束されている安田純平さんの問題について考えました。

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■安田純平さんの足どりを振り返る

シリアに入国してから行方不明となっている、フリージャーナリストの安田純平さんとみられる男性の新たな写真が、先日フェイスブックに公開されました。安田さんがシリアで消息を絶ってから、3年が経ちます。

安田さんは大学卒業後に信濃毎日新聞入社。その後、休暇を取る中で中東への取材を始め、そこからフリーランスになり、特に日本側からは入国するなと言われるような、熾烈な戦地などへ自ら入っていき情報を発信し続けてきました。

安田さんとジャーナリスト仲間で、高校が1学年下の同窓生でもある石川さんに、この事件について伺いました。

:いつ頃から石川さんは安田さんと交流を深めるようになったのですか。
石川:安田さんが2004年にイラクで拘束され、3日間ほどで解放されたことがありました。そのニュースの中で、安田さんの行動に対していろいろな批判が起こりました。
:2000年代初めから「自己責任」と言われるようになりました。ときの官房長官がそういうような発言をするようになってからですよね。
石川:そうですね。いわゆる「自己責任論」にも衝撃を受けたのですが、私はその対象となった安田さんに非常に興味を持ち、偶然同じ高校と知りました。こちらが取材者として安田さんと会う機会もあり、また同じ高校だということで、交流を深めるようになりました。プライベートでお酒を飲むような仲になってから15年ほどですかね。
:安田さんがシリアで消息が途絶える前に会ったのはいつですか。
石川:安田さんは拘束されたとされる2015年6月の1ヶ月ほど前に、北欧経由でトルコに入り、シリア国境を超えたと言われています。その北欧にいる間にフェイスブックのメッセンジャーでやりとりをしていました。それ以前だと、安田さんが日本を経つ前の5月くらいに一緒に谷中でウナギを食べて、その後、下北沢に移動して行った2軒目で「シリアに行く」と聞いていたので、「いってらっしゃい」と送り出したことを覚えています。

ここで、今回の報道の経緯を詳しく振り返ります。安田さんは2015年6月に、取材のため内戦下のシリアに入国。友人にシリアへ入国したことを知らせるメッセージを送ったのを最後に音信が途絶えます。安田さんは過激組織に拘束されたとみられ、2016年5月、「助けてください、これが最後のチャンスです」と書かれた紙を掲げた安田さんと見られる男性の画像がインターネットに公開されます。それ以降、安否に関する情報はありませんでしたが、今年7月に入り、2017年10月に撮影されたという安田さんと見られる男性の新たな画像などが公開されました。安田さんがシリアで消息を絶ってから3年。これは邦人の誘拐拘束期間としては(北朝鮮の拉致被害者を除いて)過去最長になると言われています。

:安田さんの消息が途絶えたあと、石川さんに連絡が入ることはありましたか?
石川:全くなかったですね。フェイスブック等で連絡を取ろうとしても全く返信がない状態が続いていました。
:今回、安田さんの新たな画像やメッセージが公開されました。これをどのように受けとめましたか。
石川:消息が途絶えてから、非常に焦りを感じていました。2016年5月に安田さんの画像が公開されてから2年以上も動きがなかったので。シリア内戦の取材に彼は行ったわけですけども、「その目的や長期間拘束されていること自体を世の多くの人に忘れられているんじゃないか」というやるせなさも感じていました。そのような状態で、先週報道があり、一目見て憔悴している表情だなとショックを受けました。武装側が日本政府や安田さんの家族に関して交渉を有利に進めるための偽装の可能性もあるので、予断をもってはいけないなと思いながらも、やっぱり心配ですよね。

■自己責任論は、日本特有の考え方

2015年、ISの勢力によって殺害されたジャーナリストの後藤健二さんや湯川遥菜さんの事件後に、自己責任論が噴出するなか、あるシンポジウムで安田さんは「自分の責任で行き、それで伝えるんです」と話し、それが非常に印象的だったと堀は言います。

石川:自己責任論は極めて日本特有な考えだなと思います。批判の仕方が外交や中東政策に影響を及ぼすのではなくて、「迷惑をかけた」とか「税金泥棒」とか世間を騒がせたというバッシングの仕方ですよね。これは自己責任というよりも、集団責任論に近いんじゃないかと思います。班行動の責任の取り方のように、誰かのミスが全体に迷惑をかけるみたいな考えに近いのかなと感じています。

石川さんは「バッシングがジャーナリストに向けられる日本は特異だ」と続けます。

石川:アメリカやイギリスのジャーナリストに聞いても、安田さんのような行動を称賛する声はあっても、迷惑をかけたなんて声が大勢を占めることはないと言うんですよね。後藤健二さんがISに殺害された当時、アメリカのオバマ大統領(当時)は「勇敢に取材してシリアの人々の苦境を外の世界に伝えようとした」と声明で称えました。一方で、日本は自民党の副総裁が「どんな使命感があっても蛮勇だ」と言ったり、2004年にイラクで高遠菜穂子さんたち3人が拘束された際にも、現都知事が「危ないところにあえて行ったのは、自分自身の責任だ」と言っています。政治家がこういう言葉を流布させてメディアが乗ってしまい、拘束された本人ばかりか家族や関係者に批判が行くことは極めて日本的だなと思います。

安田さんの局面を打開するためには、どのようなことが必要なのでしょうか。

石川:政府は今回の拘束に関して身代金を払わないという立場ですけども、その立場を相手に伝えながらも、民間人への医療支援など人道支援と引き換えに安田さんの解放を求めるなどいろいろな手はあると思います。そのような可能性や手段を検討して、邦人保護の道を探って欲しいです。また、日本国民に対しては、ジャーナリズムの仕事は国民の知る権利に奉仕するためにあるので、民主社会に対して不可欠なものだと、わかってもらいたい。そのうえで個々の行動に関して批判すべき点があれば批判も必要だと思いますが、よくよく考えた上で行ってほしいと思います。

ニュースを見て、「自己責任だ」と批判したい気持ちが湧いたとき……一度、立ち止まって考えてみてください。

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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