J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。5月21日(月)のオンエアでは、月曜日のニュース・スーパーバイザー、津田大介が登場。作家・思想家の東 浩紀さんをお迎えし、現在ネット上の、特にアート業界関係者を騒がせている「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」問題について話しました。
■「リーディング・ミュージアム」の目的と問題点
先日、政府が国内の美術館や博物館の一部を、アート市場活性化に先進的な役割を果たす「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」として指定する制度を創設する検討に入ったと読売新聞が報じました。政府が6月に策定する成長戦略にも反映させ、来年度にも実現することを目指しているそうです。
「リーディング・ミュージアム」に指定された美術館や博物館には国から補助金が交付され、学芸員の体制を強化。そのうえで所蔵する美術品などを価値付けし、残すべき作品を判断しながら、投資を呼び込むために市場に売却する作品を増やす。これによりコレクターの購買意欲を高め、アート市場の活性化を促す狙いがあるとのこと。
これに対し東さんは、「美術館や博物館は、作品を格付けし、作品を安く買い取って高く売ることによって運営費用を捻出するようなものではない」と指摘します。
東:「リーディング・ミュージアム」はそもそもの博物館や美術館についての法的な定義から逸脱しています。いまの文化行政の裁量のなかでできることではないと思います。
津田:最近は現代アートって価値が上がっていますので、それが投機対象になり、海外のアートフェアだと「かつて30万円で買った作家がいまは300万円になってる!」みたいなことが起きるわけですが、でもそれは民間のギャラリーがやっていることですよね。民間のギャラリーはこれから高くなりそうな作家に作品を作ってもらい、それをギャラリーに置いてどんどん価値を高くし、その損益で商売をしていますが、それと同じようなある種の市場原理手法を美術館や博物館に導入していこうという話ですよね。
■現代美術はバブル
文化庁が出している資料では、世界のアート市場規模は7兆円に近いですが、日本のアート市場規模はわずか2500億円弱でレベルが違う。GDPが世界第3位の日本はもっとアート市場も伸びるはずだ、と記されているそうです。
この資料内容について、東さんは以下のように話します。
東:世界のアート市場はそもそもバブルが起きています。21世紀に入って世界のアート市場は以前の何倍にも急速に膨れあがっているはずで、その背景には中国やアラブ諸国など新興諸国の投機マネーの流入があります。そのなかで成功した日本人アーティストとして、村上 隆さんがいるわけです。現代美術は1980年代くらいまではあまり儲かるものではなかったわけで、これがなぜか冷戦崩壊後は急速に儲かるものになりました。昔でもゴッホの『ひまわり』とか高い金額で取引されてたじゃないかと言うかもしれませんが、いまのマーケットの状況はその頃とは違っていて、一般にはあまり知られていなくて歴史的な評価も定まっていない新人作家の作品が、投機的な理由だけでどんどん高額がついていく状況にあるんです。
津田:物故者ではなくて、存命作家の作品の価格がどんどん上がっていくわけですよね。
東:そうです。あるニュースサイトで見つけたのですが、(アート市場は)2017年下半期だけでアメリカとフランスで50パーセント、イギリスで25パーセント、中国で20パーセントの売上が伸びているとあります。つまり、ここ1、2年で急速に伸びていて、絵画作品に1000億円以上の値段が付くのも時間の問題なんじゃないかといわれているわけです。現代美術がバブルという点では、仮想通貨のようなおかしい状態にあります。
さらに、「いま世界の金持ちにとってアートを高額で落札することは、美術的価値とは全く別に自分たちの力を示す格好の材料となっているんです」と東さんはいいます。
東:そのような状況になりふり構わずついていこうとして、政府がかなり拙速に出してきた案がこの「リーディング・ミュージアム」プランなのかなという感じがしますね。だから、もう少し落ち着いた形で、「美術というものが私たちの社会にとってどのような意味があるのか」に立ち返って政策を考えないといけないと思います。日本の現代美術ってそんなに悪いものではなくて、いろいろな蓄積があるわけです。その日本の美術館や博物館が持ってきた蓄積を破壊しかねないような提案になっていると思うので、かなり慎重になるべきなのかなと思います。
トーク後半では、「日本独特の地域芸術祭に対する政府の評価が低いことへの懸念」、「文化競争を税金でおこなう意味」などについても話が及びました。
最後に東さんは「公共性について考えてもらいたい」と話します。
東:「リーディング・ミュージアム」は儲かるかもしれないけど、どんな公共性があるの? 「金儲け=公共性」みたいになってますよね。でも、この案にはたくさん批判も出てきているので、さすがにこのままいかないんじゃないですか? 反発が多くて、この案がツブれる、それがいいと思いますよ。
東さんが厳しく指摘した「リーディング・ミュージアム」構想。今後どのような展開を迎えるのでしょうか。目が離せません。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
■「リーディング・ミュージアム」の目的と問題点
先日、政府が国内の美術館や博物館の一部を、アート市場活性化に先進的な役割を果たす「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」として指定する制度を創設する検討に入ったと読売新聞が報じました。政府が6月に策定する成長戦略にも反映させ、来年度にも実現することを目指しているそうです。
「リーディング・ミュージアム」に指定された美術館や博物館には国から補助金が交付され、学芸員の体制を強化。そのうえで所蔵する美術品などを価値付けし、残すべき作品を判断しながら、投資を呼び込むために市場に売却する作品を増やす。これによりコレクターの購買意欲を高め、アート市場の活性化を促す狙いがあるとのこと。
これに対し東さんは、「美術館や博物館は、作品を格付けし、作品を安く買い取って高く売ることによって運営費用を捻出するようなものではない」と指摘します。
東:「リーディング・ミュージアム」はそもそもの博物館や美術館についての法的な定義から逸脱しています。いまの文化行政の裁量のなかでできることではないと思います。
津田:最近は現代アートって価値が上がっていますので、それが投機対象になり、海外のアートフェアだと「かつて30万円で買った作家がいまは300万円になってる!」みたいなことが起きるわけですが、でもそれは民間のギャラリーがやっていることですよね。民間のギャラリーはこれから高くなりそうな作家に作品を作ってもらい、それをギャラリーに置いてどんどん価値を高くし、その損益で商売をしていますが、それと同じようなある種の市場原理手法を美術館や博物館に導入していこうという話ですよね。
■現代美術はバブル
文化庁が出している資料では、世界のアート市場規模は7兆円に近いですが、日本のアート市場規模はわずか2500億円弱でレベルが違う。GDPが世界第3位の日本はもっとアート市場も伸びるはずだ、と記されているそうです。
この資料内容について、東さんは以下のように話します。
東:世界のアート市場はそもそもバブルが起きています。21世紀に入って世界のアート市場は以前の何倍にも急速に膨れあがっているはずで、その背景には中国やアラブ諸国など新興諸国の投機マネーの流入があります。そのなかで成功した日本人アーティストとして、村上 隆さんがいるわけです。現代美術は1980年代くらいまではあまり儲かるものではなかったわけで、これがなぜか冷戦崩壊後は急速に儲かるものになりました。昔でもゴッホの『ひまわり』とか高い金額で取引されてたじゃないかと言うかもしれませんが、いまのマーケットの状況はその頃とは違っていて、一般にはあまり知られていなくて歴史的な評価も定まっていない新人作家の作品が、投機的な理由だけでどんどん高額がついていく状況にあるんです。
津田:物故者ではなくて、存命作家の作品の価格がどんどん上がっていくわけですよね。
東:そうです。あるニュースサイトで見つけたのですが、(アート市場は)2017年下半期だけでアメリカとフランスで50パーセント、イギリスで25パーセント、中国で20パーセントの売上が伸びているとあります。つまり、ここ1、2年で急速に伸びていて、絵画作品に1000億円以上の値段が付くのも時間の問題なんじゃないかといわれているわけです。現代美術がバブルという点では、仮想通貨のようなおかしい状態にあります。
さらに、「いま世界の金持ちにとってアートを高額で落札することは、美術的価値とは全く別に自分たちの力を示す格好の材料となっているんです」と東さんはいいます。
東:そのような状況になりふり構わずついていこうとして、政府がかなり拙速に出してきた案がこの「リーディング・ミュージアム」プランなのかなという感じがしますね。だから、もう少し落ち着いた形で、「美術というものが私たちの社会にとってどのような意味があるのか」に立ち返って政策を考えないといけないと思います。日本の現代美術ってそんなに悪いものではなくて、いろいろな蓄積があるわけです。その日本の美術館や博物館が持ってきた蓄積を破壊しかねないような提案になっていると思うので、かなり慎重になるべきなのかなと思います。
トーク後半では、「日本独特の地域芸術祭に対する政府の評価が低いことへの懸念」、「文化競争を税金でおこなう意味」などについても話が及びました。
最後に東さんは「公共性について考えてもらいたい」と話します。
東:「リーディング・ミュージアム」は儲かるかもしれないけど、どんな公共性があるの? 「金儲け=公共性」みたいになってますよね。でも、この案にはたくさん批判も出てきているので、さすがにこのままいかないんじゃないですか? 反発が多くて、この案がツブれる、それがいいと思いますよ。
東さんが厳しく指摘した「リーディング・ミュージアム」構想。今後どのような展開を迎えるのでしょうか。目が離せません。
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番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
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