J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。5月1日(火)のオンエアでは、火曜日のニュース・スーパーバイザー、青木 理が登場。ゲストに弁護士の寺田有美子さんをお迎えし、法廷通訳の現状と問題についてお話を伺いました。
■法廷通訳とは?
法廷通訳とは、言葉の通り裁判の法廷で通訳をする人のこと。残念ながら、日本では法廷通訳の不備が多いという現状があるようです。
はじめに、日本弁護士連合会で刑事弁護センターに所属し、法廷通訳や司法通訳に関する問題解決に取り組む寺田さんに、法廷通訳の具体的な仕事について伺いました。
寺田:みなさんがイメージされている通り、たとえば、法廷で当事者が外国人の方で日本語ができないときに、裁判官とその外国人のやりとり、あるいは尋問している人とのやりとりを訳したりすることが仕事のひとつです。その他にも、判決書などの証拠書類を翻訳するような仕事もあります。
法廷通訳は、裁判所が名簿の中から任命するそうです。ちなみに、2016年の資料において、日本の法廷通訳の言語は中国語が28.5パーセントと最も多く、次いでベトナム語が20.5パーセント、その次にポルトガル語、タガログ語と続きます。
■法廷通訳はなぜ足りないのか?
法廷通訳は、「そもそも人数は足りているのか?」と質問をする青木。
寺田:正直、質と人数ともに足りていないのが現状です。
青木:そうなると、通訳がきちんとされないことによって、被告人の権利などが守られないケースがたくさんあるってことですか?
寺田:私は弁護士なので弁護人という立場で関わることが多いのですが、そういう立場でいうと、残念ながら、そのようなケースが少なからずあるかなと思っています。
青木:なぜ“少なからず”なのですか?
寺田:やはり日本語ではない言語なので、私たちが明らかに誤訳だとか、これは不適切だなって気づけるケースは、おそらく氷山の一角じゃないかと思われます。英語だと我々もわかったりするのですが、アジアの言語になると、私はわからないので、そうすると誤訳に気づけていないケースがあり得えます。
質、量ともに法廷通訳が足りていない原因について寺田さんは、こう話しました。
寺田:通訳をなさる側にしてみても、きちんと資格がなかったり、報酬なんかも透明性があって担保されてないと、スキルを磨くインセンティブにはならないので、そういう意味では、通訳の方にとってもなかなか頑張りにくい環境になってしまっているところがあるかなと思います。
■「ジャカルタ事件」や「メルボルン事件」も
寺田さんは法廷通訳が誤訳を起こしてしまった例として、「ジャカルタ事件」をあげました。
寺田:この事件は2016年に裁判があったのですが、日本赤軍のメンバーが大使館を襲撃したとされる事件で、インドネシア語が必要になったんですよね。インドネシア語はなかなか日本で通訳できる方が少ないので、おそらくプロの通訳ではない方にお願いせざるを得なかったと思われる事件ですね。
青木:その事件は誤訳をしていたわけですか?
寺田:わかっているだけでも、たとえば警察官が「私服だった」と発言したのに、「警察官の服」と訳していたり、誰が聞いてもまちがっているというのが、このケースではいくつか取り上げられています。
青木:それだと全く裁判にならないですよね。
寺田:本来はそうなんですけど、その場で訳語が日本語であれば、「(通訳に)日本語で言われたことが、発言した人の言葉かな」と聞く側は思ってしまうので、すぐに間違いに気づけるとは限らないですね。
法廷通訳の問題は、日本にいる外国人の問題だけではなく、日本人が外国に行った場合にも起こりうることだと青木。その例として寺田さんは1992年に起きた「メルボルン事件」をあげました。
寺田:この事件は、日本人の方がオーストラリアに渡航するときに、途中でスーツケースがなくなってしまったんですね。あとでスーツケースは戻ってきたけど壊れていたので、新しいスーツケースをもらったらしいんです。ところが新しいものが二重底になっていて、なかに違法な薬物が隠されていたので現地・オーストラリアで捕まってしまった。
青木:オーストラリアなので基本的には英語ですよね。その日本人は言葉がわからなかった?
寺田:きちんとした通訳をしてもらえなかったという風に日本人の弁護人などは主張しましたね。
この事件を踏まえて、「自分の身に置き換えて考えると、この問題を放置してはいけない」と寺田さんは指摘します。
■これからどうするべきか
さまざまな問題を抱える法廷通訳。この先はどのように改善すればよいのでしょうか。
寺田:法廷通訳に関する問題は長らく検討されてきているんですけど、なかなか大きな改善がないところがあります。私は法廷通訳だけというよりは、コミュニティー通訳という言葉があるんですけど、社会に外国人の方が増えていくなかで、たとえば行政の窓口でご相談をされる外国人にちゃんと通訳を付けたりとか、医療通訳とか、道の通訳とか、そういう広い分野で活躍できる人材を広く育てていく。いまは技術が発展していますので、場合によっては地域にまたがってもいいですよね。やはり最終的にはきちんと試験や研修を義務化して、ある程度「こういうスキルを持っていたら、ここまでできるよ」っていうのが外からわかるようにしていくことが必要だと思います。
今後、さらに外国人が増えるとされている日本において、法廷通訳の改善は必須なのではないでしょうか。これからの動向に注目です。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
■法廷通訳とは?
法廷通訳とは、言葉の通り裁判の法廷で通訳をする人のこと。残念ながら、日本では法廷通訳の不備が多いという現状があるようです。
はじめに、日本弁護士連合会で刑事弁護センターに所属し、法廷通訳や司法通訳に関する問題解決に取り組む寺田さんに、法廷通訳の具体的な仕事について伺いました。
寺田:みなさんがイメージされている通り、たとえば、法廷で当事者が外国人の方で日本語ができないときに、裁判官とその外国人のやりとり、あるいは尋問している人とのやりとりを訳したりすることが仕事のひとつです。その他にも、判決書などの証拠書類を翻訳するような仕事もあります。
法廷通訳は、裁判所が名簿の中から任命するそうです。ちなみに、2016年の資料において、日本の法廷通訳の言語は中国語が28.5パーセントと最も多く、次いでベトナム語が20.5パーセント、その次にポルトガル語、タガログ語と続きます。
■法廷通訳はなぜ足りないのか?
法廷通訳は、「そもそも人数は足りているのか?」と質問をする青木。
寺田:正直、質と人数ともに足りていないのが現状です。
青木:そうなると、通訳がきちんとされないことによって、被告人の権利などが守られないケースがたくさんあるってことですか?
寺田:私は弁護士なので弁護人という立場で関わることが多いのですが、そういう立場でいうと、残念ながら、そのようなケースが少なからずあるかなと思っています。
青木:なぜ“少なからず”なのですか?
寺田:やはり日本語ではない言語なので、私たちが明らかに誤訳だとか、これは不適切だなって気づけるケースは、おそらく氷山の一角じゃないかと思われます。英語だと我々もわかったりするのですが、アジアの言語になると、私はわからないので、そうすると誤訳に気づけていないケースがあり得えます。
質、量ともに法廷通訳が足りていない原因について寺田さんは、こう話しました。
寺田:通訳をなさる側にしてみても、きちんと資格がなかったり、報酬なんかも透明性があって担保されてないと、スキルを磨くインセンティブにはならないので、そういう意味では、通訳の方にとってもなかなか頑張りにくい環境になってしまっているところがあるかなと思います。
■「ジャカルタ事件」や「メルボルン事件」も
寺田さんは法廷通訳が誤訳を起こしてしまった例として、「ジャカルタ事件」をあげました。
寺田:この事件は2016年に裁判があったのですが、日本赤軍のメンバーが大使館を襲撃したとされる事件で、インドネシア語が必要になったんですよね。インドネシア語はなかなか日本で通訳できる方が少ないので、おそらくプロの通訳ではない方にお願いせざるを得なかったと思われる事件ですね。
青木:その事件は誤訳をしていたわけですか?
寺田:わかっているだけでも、たとえば警察官が「私服だった」と発言したのに、「警察官の服」と訳していたり、誰が聞いてもまちがっているというのが、このケースではいくつか取り上げられています。
青木:それだと全く裁判にならないですよね。
寺田:本来はそうなんですけど、その場で訳語が日本語であれば、「(通訳に)日本語で言われたことが、発言した人の言葉かな」と聞く側は思ってしまうので、すぐに間違いに気づけるとは限らないですね。
法廷通訳の問題は、日本にいる外国人の問題だけではなく、日本人が外国に行った場合にも起こりうることだと青木。その例として寺田さんは1992年に起きた「メルボルン事件」をあげました。
寺田:この事件は、日本人の方がオーストラリアに渡航するときに、途中でスーツケースがなくなってしまったんですね。あとでスーツケースは戻ってきたけど壊れていたので、新しいスーツケースをもらったらしいんです。ところが新しいものが二重底になっていて、なかに違法な薬物が隠されていたので現地・オーストラリアで捕まってしまった。
青木:オーストラリアなので基本的には英語ですよね。その日本人は言葉がわからなかった?
寺田:きちんとした通訳をしてもらえなかったという風に日本人の弁護人などは主張しましたね。
この事件を踏まえて、「自分の身に置き換えて考えると、この問題を放置してはいけない」と寺田さんは指摘します。
■これからどうするべきか
さまざまな問題を抱える法廷通訳。この先はどのように改善すればよいのでしょうか。
寺田:法廷通訳に関する問題は長らく検討されてきているんですけど、なかなか大きな改善がないところがあります。私は法廷通訳だけというよりは、コミュニティー通訳という言葉があるんですけど、社会に外国人の方が増えていくなかで、たとえば行政の窓口でご相談をされる外国人にちゃんと通訳を付けたりとか、医療通訳とか、道の通訳とか、そういう広い分野で活躍できる人材を広く育てていく。いまは技術が発展していますので、場合によっては地域にまたがってもいいですよね。やはり最終的にはきちんと試験や研修を義務化して、ある程度「こういうスキルを持っていたら、ここまでできるよ」っていうのが外からわかるようにしていくことが必要だと思います。
今後、さらに外国人が増えるとされている日本において、法廷通訳の改善は必須なのではないでしょうか。これからの動向に注目です。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/